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国のことは国王に任せておきましょう

王城で 3

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「レティシアの力を借りながらですが、もうしばらくお役に立てるかと」

「レティシア……一緒になって魔獣を倒す龍か」

「えぇ。力を貸してくれているのです」

「その龍がいれば、魔獣など怖くもないのでは?」

(レティシアがどれだけその身を犠牲にしてくれているか、知りもせずによくも抜け抜けと)

「彼女は強いですから」

「ほぅ」

 バルタザールが何を考えているのかはわからない。だが、レティシアはロイエンタールの当主の為に力を貸してくれているだけだ。それも、長でなくなれば終わってしまう。
 先祖が何代にも渡って国王達には伝えてきたというのに、やはり何も伝わってはいない。
 レティシアがいなくなれば、ロイエンタールが辺境伯でなくなれば、龍の協力など得られやしない。
 ベルンハルトがいなくなれば、あの魔獣たちは一気に国内へ押し寄せるだろう。

「魔獣の動きは、そのレティシアからの報告です。例年よりも強い魔獣が結界を越えてきていることもあり、国の結界に何か起きているのではと」

「私の魔力に何か問題があると言いたいのか!」

 ベルンハルトの言葉は、核心をついていたようだった。

「そのようなことは申しておりません。それとも何か、お心当たりがあるのですか?」

「そ、そういうわけではない」

「私が懸念しているのは、国王陛下の魔力ではなく魔力石そのものです」

「魔力石だと?」

「国の結界がどのような形で維持されているのかは私自身もわかってはおりません。ですが、ロイスナーと同様であれば、その維持には魔力石が使われているのではないでしょうか」

「……そうだ」

 バルタザールが口ごもりつつも肯定したということは、やはりこれも隠すべき事実であったということ。国全体を覆うような結界であれば、その大きさはロイスナーにあるものの何倍もの大きさに違いない。

「魔力石というのは、本来何度も使用すればそのうちに砕けてしまうものです。それは結界のための魔力石でも変わりません。あの大きさですので、頻繁に代えるべきものではないそうですが」

「や、やはりそういうことなのか」

「お気づきでしたか」

「数年前から、魔力の吸われ方が変わっている」

 観念したように話始めたバルタザールは、先程までの尊大な態度とは違って、どこか項垂れて見える。

「そうやって感じることができるんですね。私も伝え聞いた話だけですので、どのような違いがあるのかはわかっておりませんでした」

「実際に魔力石も確認した……亀裂が入っていた」

 絶望感すら漂い出したバルタザールの顔色に、同じ上に立つ者として同情したくなる。
 もちろんリーゼロッテにあのような態度をとることは理解できないし、許すことなんてもってのほかだ。
 だが、ベルンハルトにも守るべき領民がいる。バルタザールの肩にのしかかる重圧は計り知れない。

「それで、今後どうするのですか?」

「国の賢者たちに対応策を調べてもらっているが、未だに策が見つからず、八方塞がりだ」

 全て話終えてもバルタザールの顔色は晴れない。
 手を貸したいと思いはするが、ここでリーゼロッテの土魔法の話をすれば、バルタザールがどのような手段をとるかわからない。何をせずともあのような態度に出る男だ。
 罪なき人達を犠牲にするのは心が痛むが、ベルンハルトが一番に思うのはリーゼロッテのこと。リーゼロッテの許可なく話はできないし、嫌がれば何があってもその気持ちを優先させる。

(それで、誰が犠牲になろうとも関係ない)

「私もできる限り調べてみます。賢者達に敵うとは思いませんが、何か頼りなるものが残っているかもしれません」

「ロ、ロイスナーではそのような事態が起こったことがあるのか?」

「いえ。そういうわけではないようですが、魔力石が砕けてしまう可能性があるという話は、伝えられています」

 ロイエンタールに伝わる話は、もしかしたら他家よりも多いのかもしれない。それは辺境伯という立場だからだろうか、レティシアの動きに合わせてその立場を追われる可能性があるからだろうか。

「そうか……其方にこのようなことを頼むのは筋違いなのだろうが、よろしく頼む」

 国王であるバルタザールが、ただの伯爵のベルンハルトに頭を下げる。それはどう考えても異例のことで、人払いをしたこの場所でしかできないことだろう。

「そのような真似はお止めください。まだ何も力になれると決まったわけではありませんから」

「それも、そうだな」
 
 国王に頼まれてしまえば、何に変えてもそれを遂行する義務ができてしまう。それはリーゼロッテをかばったままでは不可能で、気軽に受け入れられるものではない。

「それでは、私はこの辺で失礼します。国王陛下もお忙しいでしょうし、時を見て帰領させていただきます」

「あぁ。それで構わぬ」

 挨拶もなく王城を後にすることに許可を得れば、後はリーゼロッテをつれてロイスナーへ戻るだけ。
 ベルンハルトは失礼のないように笑顔を作り、その部屋を出た。
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