86 / 104
国のことは国王に任せておきましょう
王城で 3
しおりを挟む
「レティシアの力を借りながらですが、もうしばらくお役に立てるかと」
「レティシア……一緒になって魔獣を倒す龍か」
「えぇ。力を貸してくれているのです」
「その龍がいれば、魔獣など怖くもないのでは?」
(レティシアがどれだけその身を犠牲にしてくれているか、知りもせずによくも抜け抜けと)
「彼女は強いですから」
「ほぅ」
バルタザールが何を考えているのかはわからない。だが、レティシアはロイエンタールの当主の為に力を貸してくれているだけだ。それも、長でなくなれば終わってしまう。
先祖が何代にも渡って国王達には伝えてきたというのに、やはり何も伝わってはいない。
レティシアがいなくなれば、ロイエンタールが辺境伯でなくなれば、龍の協力など得られやしない。
ベルンハルトがいなくなれば、あの魔獣たちは一気に国内へ押し寄せるだろう。
「魔獣の動きは、そのレティシアからの報告です。例年よりも強い魔獣が結界を越えてきていることもあり、国の結界に何か起きているのではと」
「私の魔力に何か問題があると言いたいのか!」
ベルンハルトの言葉は、核心をついていたようだった。
「そのようなことは申しておりません。それとも何か、お心当たりがあるのですか?」
「そ、そういうわけではない」
「私が懸念しているのは、国王陛下の魔力ではなく魔力石そのものです」
「魔力石だと?」
「国の結界がどのような形で維持されているのかは私自身もわかってはおりません。ですが、ロイスナーと同様であれば、その維持には魔力石が使われているのではないでしょうか」
「……そうだ」
バルタザールが口ごもりつつも肯定したということは、やはりこれも隠すべき事実であったということ。国全体を覆うような結界であれば、その大きさはロイスナーにあるものの何倍もの大きさに違いない。
「魔力石というのは、本来何度も使用すればそのうちに砕けてしまうものです。それは結界のための魔力石でも変わりません。あの大きさですので、頻繁に代えるべきものではないそうですが」
「や、やはりそういうことなのか」
「お気づきでしたか」
「数年前から、魔力の吸われ方が変わっている」
観念したように話始めたバルタザールは、先程までの尊大な態度とは違って、どこか項垂れて見える。
「そうやって感じることができるんですね。私も伝え聞いた話だけですので、どのような違いがあるのかはわかっておりませんでした」
「実際に魔力石も確認した……亀裂が入っていた」
絶望感すら漂い出したバルタザールの顔色に、同じ上に立つ者として同情したくなる。
もちろんリーゼロッテにあのような態度をとることは理解できないし、許すことなんてもってのほかだ。
だが、ベルンハルトにも守るべき領民がいる。バルタザールの肩にのしかかる重圧は計り知れない。
「それで、今後どうするのですか?」
「国の賢者たちに対応策を調べてもらっているが、未だに策が見つからず、八方塞がりだ」
全て話終えてもバルタザールの顔色は晴れない。
手を貸したいと思いはするが、ここでリーゼロッテの土魔法の話をすれば、バルタザールがどのような手段をとるかわからない。何をせずともあのような態度に出る男だ。
罪なき人達を犠牲にするのは心が痛むが、ベルンハルトが一番に思うのはリーゼロッテのこと。リーゼロッテの許可なく話はできないし、嫌がれば何があってもその気持ちを優先させる。
(それで、誰が犠牲になろうとも関係ない)
「私もできる限り調べてみます。賢者達に敵うとは思いませんが、何か頼りなるものが残っているかもしれません」
「ロ、ロイスナーではそのような事態が起こったことがあるのか?」
「いえ。そういうわけではないようですが、魔力石が砕けてしまう可能性があるという話は、伝えられています」
ロイエンタールに伝わる話は、もしかしたら他家よりも多いのかもしれない。それは辺境伯という立場だからだろうか、レティシアの動きに合わせてその立場を追われる可能性があるからだろうか。
「そうか……其方にこのようなことを頼むのは筋違いなのだろうが、よろしく頼む」
国王であるバルタザールが、ただの伯爵のベルンハルトに頭を下げる。それはどう考えても異例のことで、人払いをしたこの場所でしかできないことだろう。
「そのような真似はお止めください。まだ何も力になれると決まったわけではありませんから」
「それも、そうだな」
国王に頼まれてしまえば、何に変えてもそれを遂行する義務ができてしまう。それはリーゼロッテをかばったままでは不可能で、気軽に受け入れられるものではない。
「それでは、私はこの辺で失礼します。国王陛下もお忙しいでしょうし、時を見て帰領させていただきます」
「あぁ。それで構わぬ」
挨拶もなく王城を後にすることに許可を得れば、後はリーゼロッテをつれてロイスナーへ戻るだけ。
ベルンハルトは失礼のないように笑顔を作り、その部屋を出た。
「レティシア……一緒になって魔獣を倒す龍か」
「えぇ。力を貸してくれているのです」
「その龍がいれば、魔獣など怖くもないのでは?」
(レティシアがどれだけその身を犠牲にしてくれているか、知りもせずによくも抜け抜けと)
「彼女は強いですから」
「ほぅ」
バルタザールが何を考えているのかはわからない。だが、レティシアはロイエンタールの当主の為に力を貸してくれているだけだ。それも、長でなくなれば終わってしまう。
先祖が何代にも渡って国王達には伝えてきたというのに、やはり何も伝わってはいない。
レティシアがいなくなれば、ロイエンタールが辺境伯でなくなれば、龍の協力など得られやしない。
ベルンハルトがいなくなれば、あの魔獣たちは一気に国内へ押し寄せるだろう。
「魔獣の動きは、そのレティシアからの報告です。例年よりも強い魔獣が結界を越えてきていることもあり、国の結界に何か起きているのではと」
「私の魔力に何か問題があると言いたいのか!」
ベルンハルトの言葉は、核心をついていたようだった。
「そのようなことは申しておりません。それとも何か、お心当たりがあるのですか?」
「そ、そういうわけではない」
「私が懸念しているのは、国王陛下の魔力ではなく魔力石そのものです」
「魔力石だと?」
「国の結界がどのような形で維持されているのかは私自身もわかってはおりません。ですが、ロイスナーと同様であれば、その維持には魔力石が使われているのではないでしょうか」
「……そうだ」
バルタザールが口ごもりつつも肯定したということは、やはりこれも隠すべき事実であったということ。国全体を覆うような結界であれば、その大きさはロイスナーにあるものの何倍もの大きさに違いない。
「魔力石というのは、本来何度も使用すればそのうちに砕けてしまうものです。それは結界のための魔力石でも変わりません。あの大きさですので、頻繁に代えるべきものではないそうですが」
「や、やはりそういうことなのか」
「お気づきでしたか」
「数年前から、魔力の吸われ方が変わっている」
観念したように話始めたバルタザールは、先程までの尊大な態度とは違って、どこか項垂れて見える。
「そうやって感じることができるんですね。私も伝え聞いた話だけですので、どのような違いがあるのかはわかっておりませんでした」
「実際に魔力石も確認した……亀裂が入っていた」
絶望感すら漂い出したバルタザールの顔色に、同じ上に立つ者として同情したくなる。
もちろんリーゼロッテにあのような態度をとることは理解できないし、許すことなんてもってのほかだ。
だが、ベルンハルトにも守るべき領民がいる。バルタザールの肩にのしかかる重圧は計り知れない。
「それで、今後どうするのですか?」
「国の賢者たちに対応策を調べてもらっているが、未だに策が見つからず、八方塞がりだ」
全て話終えてもバルタザールの顔色は晴れない。
手を貸したいと思いはするが、ここでリーゼロッテの土魔法の話をすれば、バルタザールがどのような手段をとるかわからない。何をせずともあのような態度に出る男だ。
罪なき人達を犠牲にするのは心が痛むが、ベルンハルトが一番に思うのはリーゼロッテのこと。リーゼロッテの許可なく話はできないし、嫌がれば何があってもその気持ちを優先させる。
(それで、誰が犠牲になろうとも関係ない)
「私もできる限り調べてみます。賢者達に敵うとは思いませんが、何か頼りなるものが残っているかもしれません」
「ロ、ロイスナーではそのような事態が起こったことがあるのか?」
「いえ。そういうわけではないようですが、魔力石が砕けてしまう可能性があるという話は、伝えられています」
ロイエンタールに伝わる話は、もしかしたら他家よりも多いのかもしれない。それは辺境伯という立場だからだろうか、レティシアの動きに合わせてその立場を追われる可能性があるからだろうか。
「そうか……其方にこのようなことを頼むのは筋違いなのだろうが、よろしく頼む」
国王であるバルタザールが、ただの伯爵のベルンハルトに頭を下げる。それはどう考えても異例のことで、人払いをしたこの場所でしかできないことだろう。
「そのような真似はお止めください。まだ何も力になれると決まったわけではありませんから」
「それも、そうだな」
国王に頼まれてしまえば、何に変えてもそれを遂行する義務ができてしまう。それはリーゼロッテをかばったままでは不可能で、気軽に受け入れられるものではない。
「それでは、私はこの辺で失礼します。国王陛下もお忙しいでしょうし、時を見て帰領させていただきます」
「あぁ。それで構わぬ」
挨拶もなく王城を後にすることに許可を得れば、後はリーゼロッテをつれてロイスナーへ戻るだけ。
ベルンハルトは失礼のないように笑顔を作り、その部屋を出た。
2
お気に入りに追加
869
あなたにおすすめの小説
憧れと結婚〜田舎令嬢エマの幸福な事情〜
帆々
恋愛
エマは牧歌的な地域で育った令嬢だ。
父を亡くし、館は経済的に恵まれない。姉のダイアナは家庭教師の仕事のため家を出ていた。
そんな事情を裕福な幼なじみにからかわれる日々。
「いつも同じドレスね」。「また自分で縫ったのね、偉いわ」。「わたしだったらとても我慢できないわ」————。
決まった嫌味を流すことにも慣れている。
彼女の楽しみは仲良しの姉から届く手紙だ。
穏やかで静かな暮らしを送る彼女は、ある時レオと知り合う。近くの邸に滞在する名門の紳士だった。ハンサムで素敵な彼にエマは思わず恋心を抱く。
レオも彼女のことを気に入ったようだった。二人は親しく時間を過ごすようになる。
「邸に招待するよ。ぜひ家族に紹介したい」
熱い言葉をもらう。レオは他の女性には冷たい。優しいのは彼女だけだ。周囲も認め、彼女は彼に深く恋するように。
しかし、思いがけない出来事が知らされる。
「どうして?」
エマには出来事が信じられなかった。信じたくない。
レオの心だけを信じようとするが、事態は変化していって————。
魔法も魔術も出て来ない異世界恋愛物語です。古風な恋愛ものをお好きな方にお読みいただけたら嬉しいです。
ハッピーエンドをお約束しております。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~
石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。
しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。
冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。
自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。
※小説家になろうにも掲載しています。
見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く
堂夏千聖
ファンタジー
年の差のある夫に嫁がされ、捨て置かれていたエレオノーラ。
ある日、夫を尾行したところ、馬車の事故にあい、記憶喪失に。
記憶喪失のまま、隣国の王宮に引き取られることになったものの、だんだんと記憶が戻り、夫がいたことを思い出す。
幼かった少女が成長し、見向きもしてくれなかった夫に復讐したいと近づくが・・・?
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる