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ロイスナーに来て、二度目の冬

再び雪が降り積もる 7

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「アルベルトさん。これをディース領のアマーリエ様へ送っていただけますか?」

 リーゼロッテが食糧をどうにかしようと動いたのは翌日。ベルンハルトはまだ目を覚まさないが、いつまでも隣で泣いているわけにもいかない。
 怪我も治され、苦しそうにする素振りもないベルンハルトの横でやれることなど限られている。それならば、リーゼロッテができることをと、動き始めた。

「ディースですか? それは構いませんが」

 ベルンハルトが倒れたままだというのに、友人への便りを託したリーゼロッテのことを理解できずに、アルベルトの顔に疑問が浮かぶ。それでもなお、リーゼロッテからの頼みを無下にしないところは、さすがである。

「この天候でも、無事に届くかしら?」

「昨日、しっかり休ませていただきました。これぐらいの吹雪でしたら、問題なく届きます」

 アルベルトは窓の外の様子を見ながら、自信あり気に答える。
 手紙を送り届けるには、宛先まで外を飛ばして行くしかない。雪や風がその邪魔になるため、天気が悪ければ、それなりに多くの魔力が必要になる。

「それでは、よろしくお願いしますね」

 リーゼロッテから預かった手紙を、その場で窓から飛ばしていく様子を見れば、アルベルトの魔力が戻っているのがわかる。

(後は、アマーリエからの返事を待つしかないわ)


 アマーリエからの手紙は、すぐに返ってきた。リーゼロッテが思っていた以上の速さに、断られたのかもしれないと、リーゼロッテの表情が曇る。
 それでもその表情は、手紙を読んでいくうちに笑顔へと変わっていき、読み終わってすぐに、リーゼロッテはヘルムートとアルベルトを部屋へと呼んだ。

「アルベルトさん。ディース領へ行きたいのです。レティシア様のところへ連れて行って下さい」

「レティシア様のところですか? ディース領ではなくて?」

「龍の翼で飛んでいくのが一番早いでしょう? 何かあれば呼んでと言っていただけたわ。ここは、甘えさせていただきます」

 龍のことを移動手段のように使うのは、無礼なことであると、リーゼロッテも理解はしている。
 ただし、今は何よりも早く行動しなければならない。レティシアにはきちんと説明すれば、わかってもらえるはずだ。

「あ、あの広場は、ロイエンタール家の当主しか入ることはなりません!」

 広場へはアルベルトが知っていると、レティシアはそう言っていたはずだ。それならば、アルベルトに案内してもらうしかない。

「急いでディース領に向かいたいのです。レティシア様に頼んで連れて行っていただきます」

「それは、できません」

 アルベルトが反対しているのは、その広場にリーゼロッテを連れていくことだろう。
 こうしている間にも、時間はどんどん過ぎていく。ベルンハルトが目を覚ました時には、何とかして体に良いものを食べさせなくては。
 龍の翼で飛んだところで、ディース領内は馬車で移動するしかないだろう。どれだけの時間を短縮できるかわからない。こんなところで足止めされるわけにはいかない。
 リーゼロッテは大きく息を吐いて、お腹に力を入れた。

「アルベルト、ベルンハルト様が、ロイエンタール家当主が倒れた今、その代理はわたくしです。この城の女主人のいうことを聞きなさい。レティシア様に会える広場へと、わたくしを連れて行って」

 誰かに命令したのはリーゼロッテの人生で初めてのこと。当主の代理だなんて、女主人だなんて、これまで一度だって考えたこともない。
 臆することなく声を出そうと、握り込んだ手が震える。こんな風に人を無理矢理動かすなんて、決して気持ちのいいものではない。
 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。

「奥様……かしこまりました」

 この城で、当主であるベルンハルトの言うことは絶対だ。そして今、その妻であるリーゼロッテの言葉に逆らうことなんてできない。
 その力を振りかざしたリーゼロッテに、アルベルトが従わないなんてことはなく、苦々しく思いながらも従ってくれたのだ。

「ありがとうございます。きつい言い方して、すみません」

「いえ。申し訳ありませんでした。広場へは、ご案内いたします。ところで、ディースでは何を?」

「食糧をね、手に入れようと思って」

 リーゼロッテがアマーリエに出した手紙に書いたのは食糧のこと。リーゼロッテの持っているものと交換してくれるように頼み込んだ。

「ディース領で手に入れるということですか? 申し上げにくいのですが、ディースブルク伯爵家が用意するものを買い取るだけの財が、ロイエンタールにはあるかどうか」

「うふふん。大丈夫。わたくしのものを使うわ」

 リーゼロッテの自信たっぷりの顔を、アルベルトが不思議そうに見つめる。王女であるリーゼロッテに、個人の資産があるとしてもおかしくはないが、リーゼロッテのこれまでの振る舞いから、そのようなものがあるとは到底想像がつかない。
 ロイスナーに来てからというもの、リーゼロッテは王女とは思えないほど慎ましく、贅沢というものとはほど遠い生活をしていた。ベルンハルトの暮らしぶりに合わせていたのかもしれないが、そんな態度が一年も続くだろうか。
 リーゼロッテ自身が元々贅というものに興味がなかったとしか考えられない。

「奥様のものですか?」

「えぇ。ヘルムートさん、預けたままにしていたもの、まだ残っているかしら?」

「もちろんです。私に使えと言っていただきましたが、あのように大量のもの、使い切れませんでした」

 リーゼロッテが自分のものと称したそれは、ヘルムートに預けたままの布袋。
 生み出した本人すら、その行方を気にしてもいなかったもの。
 レティシアに連れられて行った森で、リーゼロッテが初めて魔法を使った証拠。
 リーゼロッテの胸元で光るものと同じ大きさの、大量の魔力石だ。
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