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魔法が使えたって
リーゼロッテの魔法 3
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「イメージは、そうねぇ。水の中から石を拾い上げるような、すくうような? 伝わるかしら」
魔法を使うには何よりもそのイメージを正しく作り上げることが必要で、それが最も重要なこと。
誰かに見せてもらうのが一番なのだが、それをできる者はここにはいない。
リーゼロッテだけが、その魔法を使うことができるというのだから、やるしかない。
リーゼロッテは胸元で光る魔力石に視線を落とした。
ベルンハルトからもらった魔力石のネックレスは、あの日以来リーゼロッテの胸元で淡く光り、その光がその存在感を際立たせている。
魔法の使えないリーゼロッテが、初めて自分のものとして持った魔力石。ベルンハルトから貰った、何よりも大切なもの。
その石を拾い上げるイメージを頭の中で緻密に描く。そして、手のひらから魔力を放った。
「きゃっ」
リーゼロッテの手から一気に放たれた魔力は、一陣の風を巻き起こし、半月状の広場全体に行き渡り、その後、土の中から湧き出るように姿を現した大量の魔力石が、リーゼロッテの足元へと転がってきた。
「こ、こんな大きな力だなんて」
リーゼロッテが初めて使う魔法を身近に見たレティシアが、目を見張る。
これまで、幾人ものロイエンタール当主が使う魔法を見てきたであろうレティシアが驚くほどの力。
白く見えるほどの金髪を持ったリーゼロッテの、強大な魔力に息を呑んだ。
「レ、レティシア様。わたくし、どうすれば」
「どうすればって、良かったじゃない。魔法、使えたのよ」
「あ、そ、そうでした。わたくし、魔法が」
リーゼロッテは気が抜けたのか、そのまま地面へと座り込んでしまった。
その周りを取り囲むのは、大量の魔力石。大きさはどれも小ぶりで、リーゼロッテがイメージしたネックレスの魔力石と同等の大きさのものばかり。
ベルンハルトからもらった魔力石と同じ大きさのものばかりを作り出したことを、いじらしいととるべきだろうか。リーゼロッテの頭の中に思い描く魔力石は、それしかなかったのだ。
「まさかここまでうまくいくなんて思ってもいなかったわ。布袋を、持ってくるべきだったわね」
レティシアはため息混じりに息を吐くと、大きく息を吸ってどこからともなく音を出した。それはまるで口笛のような、レティシアの歌声のような、聞いたこともない音色。所々に聞こえない音は、人間の聞こえる音域を超えているのだろう。
レティシアがその音楽を奏で終わる頃には、一頭の龍がその場に姿を現した。
「クラウス。城へ飛んでベルンハルトを連れてきてちょうだい。それから、大きな袋を持ってくるように伝えて」
「かしこまりました」
クラウスと呼ばれた一頭の龍は、レティシアの言葉に素直に従い、すぐにその翼を広げる。
「ベルンハルトに迎えにきてもらいましょ。そして、この魔力石も持ち帰ると良いわ」
「べ、ベルンハルト様は、怒っていらっしゃるでしょうか」
城から飛び出してきたベルンハルトを放って、レティシアの背中に飛び乗ったのは自分だ。
それでも、ベルンハルトに責め立てられたら、仮面の下のあの顔が、憎々しさで歪んだらと、そんな恐怖が心を占める。
「怒りはしていないんじゃない? 心配はしてるだろうけど。それに、もし怒られるなら私ね。貴女じゃないわ」
「レティシア様が?」
「そうでしょう。勝手に貴女のことを連れ出したのだもの」
「そんな……」
「まぁ、どうってことないわ。そんなことよりも、それ、ベルンハルトから?」
座り込んでるリーゼロッテに視線を合わせるように屈んで、レティシアが胸元で光るネックレスを指差した。
「え、えぇ。お守りだそうです。わたくしは魔法が使えませんので、守護の魔法がかけてあると」
「あのベルンハルトが? こんな小さな魔力石に?」
「はい。そう仰ってました。何かありましたか?」
「ふふ。ううん。いいの。本当に貴女のことが好きなのね」
「どういうことですか?」
「うふふ。これは貴女には内緒なのかもしれないわ」
レティシアは一人わかったような口ぶりで話をするが、リーゼロッテには何のことだかさっぱりだ。
「教えてください!」
「そうねぇ。ベルンハルトには内緒よ。こんなことを伝えたなんて知られたら、本当に怒られちゃうわ」
「わかりました! 秘密は守ります!」
「その魔力石、小さいじゃない? その大きさの石に、ベルンハルトの魔力を注ぎ込んだら途端に割れてしまうわ」
「割れる?」
リーゼロッテは思わず自らの胸元で光る石を見つめる。割れてなど、ないはずだ。
「そう。だからね、その石を割らないように魔力を小さくして注いでいくのよ。でもね、小さな魔力で魔力石を染めるのって大変なの。相当時間がかかるはずだわ。魔力の大きさをコントロールしながら、どれだけ時間を費やしたのかしらね」
まさかベルンハルトがそんな苦労をしていただなんて思ってもみなかった。ただ、守護の魔法がかけてあると、それどころか気に入らなければ捨てれば良いと、少し赤く染まった顔で何事もなく言われた。
レティシアが言うような大変さを、微塵も感じさせずにリーゼロッテに贈られたもの。
(わたくし、ベルンハルト様にそんなに思われているの?)
ベルンハルトから向けられる情の深さを、改めて実感した。
魔法を使うには何よりもそのイメージを正しく作り上げることが必要で、それが最も重要なこと。
誰かに見せてもらうのが一番なのだが、それをできる者はここにはいない。
リーゼロッテだけが、その魔法を使うことができるというのだから、やるしかない。
リーゼロッテは胸元で光る魔力石に視線を落とした。
ベルンハルトからもらった魔力石のネックレスは、あの日以来リーゼロッテの胸元で淡く光り、その光がその存在感を際立たせている。
魔法の使えないリーゼロッテが、初めて自分のものとして持った魔力石。ベルンハルトから貰った、何よりも大切なもの。
その石を拾い上げるイメージを頭の中で緻密に描く。そして、手のひらから魔力を放った。
「きゃっ」
リーゼロッテの手から一気に放たれた魔力は、一陣の風を巻き起こし、半月状の広場全体に行き渡り、その後、土の中から湧き出るように姿を現した大量の魔力石が、リーゼロッテの足元へと転がってきた。
「こ、こんな大きな力だなんて」
リーゼロッテが初めて使う魔法を身近に見たレティシアが、目を見張る。
これまで、幾人ものロイエンタール当主が使う魔法を見てきたであろうレティシアが驚くほどの力。
白く見えるほどの金髪を持ったリーゼロッテの、強大な魔力に息を呑んだ。
「レ、レティシア様。わたくし、どうすれば」
「どうすればって、良かったじゃない。魔法、使えたのよ」
「あ、そ、そうでした。わたくし、魔法が」
リーゼロッテは気が抜けたのか、そのまま地面へと座り込んでしまった。
その周りを取り囲むのは、大量の魔力石。大きさはどれも小ぶりで、リーゼロッテがイメージしたネックレスの魔力石と同等の大きさのものばかり。
ベルンハルトからもらった魔力石と同じ大きさのものばかりを作り出したことを、いじらしいととるべきだろうか。リーゼロッテの頭の中に思い描く魔力石は、それしかなかったのだ。
「まさかここまでうまくいくなんて思ってもいなかったわ。布袋を、持ってくるべきだったわね」
レティシアはため息混じりに息を吐くと、大きく息を吸ってどこからともなく音を出した。それはまるで口笛のような、レティシアの歌声のような、聞いたこともない音色。所々に聞こえない音は、人間の聞こえる音域を超えているのだろう。
レティシアがその音楽を奏で終わる頃には、一頭の龍がその場に姿を現した。
「クラウス。城へ飛んでベルンハルトを連れてきてちょうだい。それから、大きな袋を持ってくるように伝えて」
「かしこまりました」
クラウスと呼ばれた一頭の龍は、レティシアの言葉に素直に従い、すぐにその翼を広げる。
「ベルンハルトに迎えにきてもらいましょ。そして、この魔力石も持ち帰ると良いわ」
「べ、ベルンハルト様は、怒っていらっしゃるでしょうか」
城から飛び出してきたベルンハルトを放って、レティシアの背中に飛び乗ったのは自分だ。
それでも、ベルンハルトに責め立てられたら、仮面の下のあの顔が、憎々しさで歪んだらと、そんな恐怖が心を占める。
「怒りはしていないんじゃない? 心配はしてるだろうけど。それに、もし怒られるなら私ね。貴女じゃないわ」
「レティシア様が?」
「そうでしょう。勝手に貴女のことを連れ出したのだもの」
「そんな……」
「まぁ、どうってことないわ。そんなことよりも、それ、ベルンハルトから?」
座り込んでるリーゼロッテに視線を合わせるように屈んで、レティシアが胸元で光るネックレスを指差した。
「え、えぇ。お守りだそうです。わたくしは魔法が使えませんので、守護の魔法がかけてあると」
「あのベルンハルトが? こんな小さな魔力石に?」
「はい。そう仰ってました。何かありましたか?」
「ふふ。ううん。いいの。本当に貴女のことが好きなのね」
「どういうことですか?」
「うふふ。これは貴女には内緒なのかもしれないわ」
レティシアは一人わかったような口ぶりで話をするが、リーゼロッテには何のことだかさっぱりだ。
「教えてください!」
「そうねぇ。ベルンハルトには内緒よ。こんなことを伝えたなんて知られたら、本当に怒られちゃうわ」
「わかりました! 秘密は守ります!」
「その魔力石、小さいじゃない? その大きさの石に、ベルンハルトの魔力を注ぎ込んだら途端に割れてしまうわ」
「割れる?」
リーゼロッテは思わず自らの胸元で光る石を見つめる。割れてなど、ないはずだ。
「そう。だからね、その石を割らないように魔力を小さくして注いでいくのよ。でもね、小さな魔力で魔力石を染めるのって大変なの。相当時間がかかるはずだわ。魔力の大きさをコントロールしながら、どれだけ時間を費やしたのかしらね」
まさかベルンハルトがそんな苦労をしていただなんて思ってもみなかった。ただ、守護の魔法がかけてあると、それどころか気に入らなければ捨てれば良いと、少し赤く染まった顔で何事もなく言われた。
レティシアが言うような大変さを、微塵も感じさせずにリーゼロッテに贈られたもの。
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