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冬の寒さに身も心も凍えてしまいます

ロイスナーの冬 3

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「ヘルムートさん!」

 翌日、リーゼロッテは再びヘルムートの下を訪れた。

「奥様。おはようございます。二日続けてというのは、珍しいですね」

 リーゼロッテがヘルムートの下を訪れるのは週に一日。その一日で一週間分のことを報告して相談して、そしてまた翌日へと繋げていく。
 約束なんてしてるわけじゃない。
 リーゼロッテの部屋の窓から庭を覗けば、ヘルムートが庭にいるのが見える。そうして押しかけて行くだけだ。
 ヘルムートは庭師のくせに庭にいないことも多く、それ以外の日に何をしてるかはわからない。以前尋ねたこともあったが、「色々ですよ」とかわされてしまった。
 リーゼロッテのことを御者として迎えに来てくれたこともあり、他にも様々な仕事を受け持っているのだろうと勝手に思ってる。
 だから、毛布を見つけた翌日、ヘルムートが庭にいたのは幸運だ。

「ちょっと聞きたいことがあるの」

「はい。何でしょうか。それは、その大荷物のことですか?」

 毛布の現物を見せて話をしなければ伝わらないのではないか。温室で手に入れた毛布が、間違いなくロイスナーのものであると確認もしたい。
 そんな思いで、リーゼロッテは庭まで毛布を抱えて持ってきた。

「えぇ。この毛布はロイスナーのもので合ってるかしら?」

 リーゼロッテが差し出した毛布にヘルムートが触る。
 ゆるゆるとその感触を確かめるように手を動かすと、すぐに首を縦に振った。

「はい。この手触りはロイスナーのものですね。我が領地では寒さをしのぐ為に他領よりも質の良い毛布を作っております。必要に迫られてのことではありますが、その技術は秀でたものなんですよ。こちらは間違いなくロイスナーで作られたものです」

 ヘルムートが自信をもって断言してくれたことに、リーゼロッテの顔に笑みが浮かぶ。
 毛布をかけてくれた人物に近づいている気がしていた。

「やっぱり。わたくし、これをシュレンタットで手に入れたの」

「まさか、シュレンタットで同様のものが作られていると?」

「いいえ。そういうことではなくて。わたくしが温室で眠っている時に、どなたかがかけて下さったの」

「温室で……眠る?」

「あ、そ、そこはお気になさらないで。うふふ」

 ヘルムートの発言を笑って誤魔化せば、その顔が不可解さに歪む。
 王女らしくないどころか、女性としても問題だとは思うが、あの時のリーゼロッテにはそんなことを気にする余地はなかった。

「は、はぁ。それで、温室でどなたかにいただいたと?」

「そうなのです! わたくし、その方を探していて……もしかしたら……」

「もしかしたら?」

「ベルンハルト様ではないかと」

「ほぅ。なぜ、そう思われるのですか?」

「だって、ベルンハルト様はお花がお好きでしょう? わたくし、温室でお会いしたのよ」

 ヘルムートの顔に驚きが広がる。
 アルベルトに話をした時もそうだったが、ベルンハルトの花好きはどうやら知られていないようだ。

「ベルンハルト様は花が好きでいらっしゃるんですね。存じ上げませんでした。今度、執務室にお届け致しておきます」

「えぇ。ぜひ、そうして下さいな。きっと喜びますわ」

「ご忠告、感謝いたします」

「それでね、このことをベルンハルト様にうかがったらどうかと思って。これをきっかけにもう少し仲良くなれないかしら」

「奥様。それは今しばらくお待ちください」

 ヘルムートは今にも雪の降り出しそうな空を見上げてそう言った。

「どうして? 何か訳でもあるの?」

「今はベルンハルト様も忙しいと思います。ゆっくりお話しされる時間をとるのであれば、冬が終わった頃が良いかと」

「冬が終わる? まだ始まったばかりよ? それ程までにお忙しいの?」

「今は準備に余念がない頃でしょう」

「準備? 何の?」

「それは、私の口から話すことではありませんね。ベルンハルト様がお話になるまでお待ちください。あの方が話されないのであれば、まだ言うべきではないというご判断でしょうから」

「む……話してもらえないのね」

「私は話すべきだと思うんですよ。奥様でいらっしゃるわけですし。ですが、ベルンハルト様にもお考えやお気持ちがありますから。それに、間もなくわかると思います」

 昨日といい今日といい、ヘルムートは口にすることのできない事情を抱えているようだが、ロイスナーに来て日の浅いリーゼロッテにはそれを知るよしもない。
 ヘルムートがこの様子ではベルンハルトから打ち明けてもらえる時を待つしかないのだが、今の様な関係でそんな日が来るのかと、見えない未来が更に黒く塗りつぶされていく。
 いつものテーブルに毛布を置いて、リーゼロッテはベルンハルトとの繋がりになるかもしれないと、さっきまで輝きを放っていた毛布に顔を埋める。
 また違う手を探さねばならない。
 そう思って見る毛布は、先程までの輝きは形を潜め、空を覆い尽くす雪雲のように濁って見えた。

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