4 / 104
魔法が使えなくたって仕方ないじゃない
温室での出会い 3
しおりを挟む
はぁっ! リーゼロッテは忘れていた息をようやく吐き出した。
二度目はベルンハルトと間違いなく目が合った。やはりリーゼロッテが茂みに隠れていることに気がついていた。
それならなんで、バルタザールにそれを報告しなかったのだろう。国王に隠しごとをしたなどと、後々バレたら大問題になるのに。
去り際に振り返ったベルンハルトの微笑みの意図が見出せなかった。
足音が聞こえなくなり、辺りがまた静寂に包まれると、リーゼロッテはさっきまでの木の根元にもう一度戻ることにした。
茂みの中の方が安心ではあるが、芝生の触り心地や、木の幹を背もたれにするとすっぽりと収まりの良い場所が、どうにも居心地が良い。
今夜の寝床と決めたその場所で心を落ち着けようと、闇に包まれた夜空にくっきりと浮かんだ丸い月を見上げた。
ベルンハルトはリーゼロッテを庇ってくれたのだろうか。会うのも初めてのはずの小娘を、庇う必要がどこにあるのだろうか。
それとも何か他に意味があるのだろうか。
月を見上げながらも、やはり思い起こすのはベルンハルトのこと。
仮面を付けた伯爵のことなど、一度でも会っていれば忘れるわけがない。リーゼロッテの記憶の中に、あの姿は存在しない。
ただ、以前お茶会で耳にした噂を思い出していた。
『ロイエンタール家の方はこの様な場にはなかなか出て来られないんですって』
『あぁ。あの仮面の伯爵ね。こうした社交の場はお嫌いな様よ』
そんな風に他の貴族の婦人達が話した噂話。あれが、噂の仮面の伯爵。ベルンハルト・ロイエンタール伯爵か。
他の貴族よりも一足早く城に来たと言っていたのはなぜだろうか。城に何か用があるのだろうか。
リーゼロッテのことを知っているのだろうか。
リーゼロッテの頭の中には、ベルンハルトについての疑問が次から次へと浮かんでは消え、堂々巡りする。そのうちにゆらゆらと心地良い揺らめきを感じ始め、リーゼロッテは今度こそ深い眠りに落ちていった。
瞑っているはずの瞼の上から、容赦なく降り注ぐ朝陽のシャワーの眩しさに、リーゼロッテはついに観念して目を開けた。
木の根元に座り込んで寝たことで、身体中が固まっていて、多少の痛みを感じる。思いっきり手を伸ばし、背筋を伸ばすと、体の上から何かが滑り落ちていったのがわかった。
(何? これ。)
滑り落ちたものを拾い上げると、それが柔らかくて温かい毛布だと気づく。間違いなくリーゼロッテがかけたものではないが、それをかけてくれる相手に心当たりもない。
城で日常的に使うものとは少し質が違う様で、普段リーゼロッテが使っているものより温かいように感じた。
温室の中だから心地よく感じていたが、今の季節にベッドの上でこれをかけていたら、少し熱いぐらいだろう。だけど、この温かさのお陰で、朝までぐっすり眠れたのかもしれない。
誰かもわからない犯人に感謝をしながら、毛布を綺麗に畳み、一晩お世話になった温室を抜け出した。
昇ったばかりの朝陽は目にはあまり優しくないが、その柔らかな温もりがリーゼロッテの体を包み込む。そんな穏やかな温もりを感じながら、早朝の静かな城の廊下を音を立てないように歩いた。
ようやく自室に辿り着き、部屋着へと着替え、お気に入りのソファに腰を下ろす。
木の根元の芝生の上も悪くない座り心地ではあったが、ソファの心地よさは別格だ。そんなソファに座りながら、手に取るのはさっき温室から持ち帰ってきた毛布。
柔らかな手触りを味わうように撫でながら、毛布の持ち主を考えようとする。温室を確認にきた使用人のものだろうか。
いや、もし使用人であればリーゼロッテを起こすだろう。それならば、誰?
リーゼロッテの頭の中には、人差し指を口元に添えて、わかりづらく微笑んだベルンハルトの顔が浮かび上がる。
それこそあり得ない話だ。ベルンハルトが毛布をかける理由がないし、温室からバルタザールと一緒に出て行って、もう一度戻ってくるなんて、意味がない。
リーゼロッテは頭を左右に振りながら、浮かび上がったベルンハルトの顔を追い出そうとする。
(ダメだ。わかるわけがない)
ふぅ。とひと息ため息を漏らすと、ソファから立ち上がり毛布を引き出しへとしまい込んだ。
二度目はベルンハルトと間違いなく目が合った。やはりリーゼロッテが茂みに隠れていることに気がついていた。
それならなんで、バルタザールにそれを報告しなかったのだろう。国王に隠しごとをしたなどと、後々バレたら大問題になるのに。
去り際に振り返ったベルンハルトの微笑みの意図が見出せなかった。
足音が聞こえなくなり、辺りがまた静寂に包まれると、リーゼロッテはさっきまでの木の根元にもう一度戻ることにした。
茂みの中の方が安心ではあるが、芝生の触り心地や、木の幹を背もたれにするとすっぽりと収まりの良い場所が、どうにも居心地が良い。
今夜の寝床と決めたその場所で心を落ち着けようと、闇に包まれた夜空にくっきりと浮かんだ丸い月を見上げた。
ベルンハルトはリーゼロッテを庇ってくれたのだろうか。会うのも初めてのはずの小娘を、庇う必要がどこにあるのだろうか。
それとも何か他に意味があるのだろうか。
月を見上げながらも、やはり思い起こすのはベルンハルトのこと。
仮面を付けた伯爵のことなど、一度でも会っていれば忘れるわけがない。リーゼロッテの記憶の中に、あの姿は存在しない。
ただ、以前お茶会で耳にした噂を思い出していた。
『ロイエンタール家の方はこの様な場にはなかなか出て来られないんですって』
『あぁ。あの仮面の伯爵ね。こうした社交の場はお嫌いな様よ』
そんな風に他の貴族の婦人達が話した噂話。あれが、噂の仮面の伯爵。ベルンハルト・ロイエンタール伯爵か。
他の貴族よりも一足早く城に来たと言っていたのはなぜだろうか。城に何か用があるのだろうか。
リーゼロッテのことを知っているのだろうか。
リーゼロッテの頭の中には、ベルンハルトについての疑問が次から次へと浮かんでは消え、堂々巡りする。そのうちにゆらゆらと心地良い揺らめきを感じ始め、リーゼロッテは今度こそ深い眠りに落ちていった。
瞑っているはずの瞼の上から、容赦なく降り注ぐ朝陽のシャワーの眩しさに、リーゼロッテはついに観念して目を開けた。
木の根元に座り込んで寝たことで、身体中が固まっていて、多少の痛みを感じる。思いっきり手を伸ばし、背筋を伸ばすと、体の上から何かが滑り落ちていったのがわかった。
(何? これ。)
滑り落ちたものを拾い上げると、それが柔らかくて温かい毛布だと気づく。間違いなくリーゼロッテがかけたものではないが、それをかけてくれる相手に心当たりもない。
城で日常的に使うものとは少し質が違う様で、普段リーゼロッテが使っているものより温かいように感じた。
温室の中だから心地よく感じていたが、今の季節にベッドの上でこれをかけていたら、少し熱いぐらいだろう。だけど、この温かさのお陰で、朝までぐっすり眠れたのかもしれない。
誰かもわからない犯人に感謝をしながら、毛布を綺麗に畳み、一晩お世話になった温室を抜け出した。
昇ったばかりの朝陽は目にはあまり優しくないが、その柔らかな温もりがリーゼロッテの体を包み込む。そんな穏やかな温もりを感じながら、早朝の静かな城の廊下を音を立てないように歩いた。
ようやく自室に辿り着き、部屋着へと着替え、お気に入りのソファに腰を下ろす。
木の根元の芝生の上も悪くない座り心地ではあったが、ソファの心地よさは別格だ。そんなソファに座りながら、手に取るのはさっき温室から持ち帰ってきた毛布。
柔らかな手触りを味わうように撫でながら、毛布の持ち主を考えようとする。温室を確認にきた使用人のものだろうか。
いや、もし使用人であればリーゼロッテを起こすだろう。それならば、誰?
リーゼロッテの頭の中には、人差し指を口元に添えて、わかりづらく微笑んだベルンハルトの顔が浮かび上がる。
それこそあり得ない話だ。ベルンハルトが毛布をかける理由がないし、温室からバルタザールと一緒に出て行って、もう一度戻ってくるなんて、意味がない。
リーゼロッテは頭を左右に振りながら、浮かび上がったベルンハルトの顔を追い出そうとする。
(ダメだ。わかるわけがない)
ふぅ。とひと息ため息を漏らすと、ソファから立ち上がり毛布を引き出しへとしまい込んだ。
0
お気に入りに追加
872
あなたにおすすめの小説
【一話完結】追放された偽聖女は、辺境の地で力を開花します!〜私を捨てるならもう知りません。王国の守護は切らせていただきます。さようなら〜
酒本 アズサ
恋愛
「ナディア! お前はこれまでこの国が平和だったのをいい事に、己を聖女だといつわっていただろう! こうして本物の聖女が現れた以上、このままにはしておけない! 偽聖女ナディア、お前を国外追放とする!」
そう私に告げたのは、この国の王太子であり、私の婚約者のレオナール様。
十八歳の生誕祭のお祝いに来たというのに、耳を疑うような事をパーティーの参加者の前で言われた。
ちなみにその隣にいるお色気たっぷりの女性はだれですか。
国のためにずっと神聖力を使ってきたのに、もう知らない!
神聖力を祈りを込める神像から切り離して森をさまよう、お腹が空いてもう動けない。
そんな私を救ってくれたのは、隣国の辺境伯。
幼いころに私の聖女としての力に助けられて以来、私を好きだった!?
私は隣国で幸せになります!
レオナール様は今さら私を探しにきても、もう遅いんですよ!
そんなレオナール様の末路とは……!?
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
辺境伯令嬢、婚約破棄されたから戦場を駆ける。そしてなぜか敵国の皇太子と結婚した。
うめまつ
恋愛
黄色みの強い金髪に赤みのかかった琥珀の瞳。目付きは鋭く狼を彷彿とさせる顔立ちと女性にしては背が高く、細くしなやかとは言えがっしりと鍛えた体つき。次期王妃に相応しくないと婚約破棄された。だけど大人しく泣く令嬢ではない。見かけ通りの肉食獣は火の粉を払うために牙をむく。
※設定は緩め、女の子の戦闘が書きたかったので行き当たりばったりです。
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる