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第4部

可愛いのは1人

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 アシェルナオの部屋のドアがノックされる。

 ノックの主が誰なのか、開ける前からテュコにはわかっていた。

 「ナオの容体は?」

 テュコがドアを開けると、やはりそこには花束を持ったヴァレリラルドが立っていた。

 あの後。

 自分の分まで怒ってくれたシーグフリードの胸に飛び込もうとしたアシェルナオは、数歩進んだところで崩れるように床に倒れてしまった。

 急ぎ王都に戻り、アシェルナオはシーグフリード、テュコたちによってエルランデル公爵家に運ばれたのだが、ヴァレリラルドはモンノルドルから戻ったばかりだったということで、まずは報告書を仕上げて身綺麗にして来いと、シーグフリードから同行を許されなかったのだ。

 ヴァレリラルドはしぶしぶウルリク、ベルトルドとともに王城に戻り、帰還の報告書を作成し、星の離宮で身ぎれいにしたところでようやく顔を出すことが出来たのだった。

 「熱が高いです。お医者様の見立てでは疲労と精神的なストレスが重なったことが原因だと。ナオ様はまだ眠ったままで、さきほどお医者様とオリヴェル様、パウラ様が本館に戻られたところです。フォルシウスは今までナオ様についていましたが、シーグフリード様が自分が見ているからと帰らせました」

 「そうか。ナオが連日の浄化で疲れていたことはわかっていたのに。その合間にモンノルドルにまで来てくれて、とどめがベアールだからな。……辛い思いをさせてしまった」

 ヴァレリラルドの後悔に、アシェルナオの寝台の横に座るジーグフリードも肩を落とす。

 「それを言われると私も辛い。フォルシウスからも叱られたよ。アシェルナオが大丈夫だと言っていたのを鵜呑みにしすぎだった、と。ベアールのことについても、不穏な様子だとわかった時に手を打つべきだった。まさか国家転覆を狙っていて、すでに勝者のつもりで愛し子すら目下に見ていたとは」

 目の前で可愛い弟に倒れられたジーグフリードは憔悴していた。

 「父上たちは以前からヴィンケル侯爵を危険分子だと見ていたらしいが、まさかそんな計画が進んでいたとは思ってもいなかったようで驚いていたよ。シグが導かなければわからなかったことだ。父上もローセボームも感謝していたよ」

 言いながらヴァレリラルドも寝台の側に行き、アシェルナオの寝顔を見た。

 熱が高いせいで顔を赤くして荒い呼吸をしているアシェルナオは重く瞼を閉じていて、気を揉まずにいられなかった。

 「花を活けてきます。ナオ様を静かに休ませて差し上げたいので長居はご遠慮ください。シーグフリード様もお部屋に戻られて大丈夫です」

 そう言いながらヴァレリラルドから花束を受け取ると、テュコは部屋を出た。

 「ナオのことになるとテュコは厳しいな」

 来たばかりで、まだアシェルナオに付き添っていたいヴァレリラルドは不満げに呟く。

 「テュコも、私とラルと同様に今日のことが堪えているんだろう。今思い出してもはらわたが煮えくりかえる。あの三男め、愛する私の弟に何てことをしてくれたんだ」

 「ナオを傷つけられた痛みは、我が胸を抉られるようだった。……すまなかった、ナオ。愛してるよ」

 ヴァレリラルドはナオの手を握ると、存外に熱いその手の甲に唇を押し付ける。が、すぐにその手をシーグフリードが奪い取る。

 「私の可愛い弟にまだ手は出させない」

 「私の愛する婚約者だぞ。手の甲のキスは手を出したうちに入らない」

 来たばかりで帰れと言われ、手の甲にキスしたくらいで手を出すなと言われ。ヴァレリラルドは苛立ちを隠せなかった。

 「私の中ではカウントの対象だ。いくらラルと言えど、アシェルナオは美人で可愛い私の自慢の弟なんだ」

 「美人で可愛らしいのは私の婚約者だ」

 向きになって言い合うヴァレリラルドとシーグフリードの間に、

 「……お2人とも、私のお美しくて愛すべき主人の前で何の騒ぎです。退場を願います」

 花瓶を手に戻ってきたテュコの冷たい声が割り込む。

 3人が3人とも、自分の思う相手がいかに大事で可愛いのかを火花を散らして競い合っていたが、可愛いのは1人だった。

 



 翌日。 

 ヴァレリラルドとウルリク、ベルトルドは討伐から戻ってすぐということで数日の休みが与えられ、執務室にその姿はなかった。

 王太子の執務室にはシーグフリードとイクセルのほかにイクセルの補佐官のモリゾ、さらに数人の騎士と文官たちがいた。

 シーグフリードのところにはヴィンケル関連の報告が逐一入るようになっており、執務机に座って報告書を見るたびにその眉間に皺が寄っていた。

 「昨日の今日では、まだ目立った報告はあがってきていないでしょう?」

 イクセルが尋ねると、シーグフリードは顔を顰める。

 「どうしてああいう小物がこんな大きなことを企んだのか、謎だ。器が小さいから謀反を起こすまでには至らなかったが。的確な指導者がいたら隙を突かれて大事になっていたかもしれない。今ばかりは奴の計画の杜撰さに感謝するよ」

 「先王の時代に宰相からヒラの大臣に格下げになったことを根に持っていたのでしょう。役職に集まる信頼度と名誉と金は大きいですからね」

 「ヴィンケルの先代から、宰相の時と同じような生活を送っていたようです。いくら領主だろうと資産は減衰していくばかりだったでしょう。それをひっくり返すために脱税と横領で資金を増やして国家転覆を図ろうとしたのではないでしょうか」

 イクセルとモリゾの見解に、文官たちも頷く。

 「ヴィンケルの取り調べが順調に行われていろいろなことが明白になるといいのですが。……先王や陛下への恨みはすさまじいものがあるようですから」

 懸念するイクセルに、

 「治安省の取り調べ次第だが、知ってるか? 治安省には拷問のプロがいるらしい。アシェルナオへの仕打ちもあるからな。手加減しろとは言わなかった」

 シーグフリードが笑みを浮かべる。

 「拷問のプロ……騎士には向かない役目です」

 イクセルは露骨にいやそうな顔をした。

 「イクセル殿に来客です」

 扉の近くにいた文官がイクセルに声をかけた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 エール、いいね、ありがとうございます。

 半年間の集大成である結果通知の封入作業。封入ミスは許されない大事な作業。4000人分。上司と2人で担当することが決まっていたので、しんどい体をおして出勤したら、上司が「私も体調不良なので帰ります。てへっ」と、すべてを私に丸投げして帰りやがりました。翌日も休みました。全ての作業を1人でやって、強風の吹く雨の中、台車を押して郵便局に搬入しました。前にもあったな、こんなこと(遠い目)。私も風邪を押して出勤してるんですが。てか、風邪がぶり返しました。てか、あなた上司ですよね? この作業の責任者ですよね? 泣く。辞めてやる(辞めるけど)。

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