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第4部
誘惑するな
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転移した先。デメトリアの領都ディーデにある商人ギルドの転移陣の間には、6名の騎士と1人の神官が待機していた。
「愛し子様、デメトリア領へ浄化にお越しいただいた喜び、慶賀に堪えません。領主、領民を代表して御礼を申し上げます。王城より愛し子様との政治的接触は禁じるとのお触れがございましたので、領主代理として私、領騎士団長ショルンスバリと、部下である領騎士エーベン、レアン、ビルト、ポレリス、エイゼルの5名、領都の精霊神殿の神官のクヴィストが同行し、護衛させていただきます」
身長が高く、隆々とした筋肉がついていることがわかる体つきをした深い緑色の短髪の男が膝をつき臣下の礼を執る。
その後ろで5人の騎士たちも同じく臣下の礼でアシェルナオたちを出迎えた。
「デメトリアの領都にございますディーデ精霊神殿で神官を務めますクヴィストと申します。精霊神殿を代表して、愛し子様の浄化に同行さえていただく光栄をいただきました」
中背で細身のクヴィストは、長い銀髪と金色の瞳をした中世的な容貌でアシェルナオを指を組み合わせる。
「エルランデル公爵家次男、アシェルナオ・エルランデルです。お出迎え感謝します」
アシェルナオは転移陣から出ると、ペコリと頭を下げた。
「これはふよりん。よろしくね?」
「キュゥ?」
ふよりんを両手で包み込むようにしてアシェルナオはショルンスバリたちに見せる。
「それは聖獣……」
「初めて見ました」
騎士たちは感動で声を震わせ、
「愛し子様と聖獣……なんという眼福……」
クヴィストは尊い光景を見て膝から頽れる。
「ふよりんの可愛さは最強だねぇ」
「キュゥキュゥ」
ナオの可愛さも最強だよ、と言いたげに、ふよりんはアシェルナオの肩に乗った。
『ふよりんとナオ、さいきょうー』
『どっちもかわいいねー』
『かわいいねー』
『ナオはてんねんー』
『そこがナオのいいところー』
きゃっきゃとはしゃぐ精霊たちを纏わせながら周囲を護衛騎士に囲まれて商人ギルドを出ると、そこにはエルランデル公爵家の馬車の前でアイナとドリーンが待ち構えていた。
「ナオ様、軽食を準備しています。馬車の中でお召し上がりください」
移動距離が長くなることを見越して早朝の集合になっていたため、アシェルナオは起きて仕度しただけで家を出発していた。
「リンちゃんも待機していますよ」
「ありがとう、アイナ、ドリーン。今日は至れり尽くせりで嬉しい」
「私たちも嬉しいです」
「私たちは後ろの馬車で参ります」
そう言うと2人はテュコに軽食と飲み物の入ったマジックバッグをテュコに渡して、追随する後方の馬車に向かう。
「ではナオ様、馬車へ」
「はーい」
アシェルナオは馬車に乗り込むと、
「スヴェン、疲れたら馬車に乗ってもいいよ? 学園のお話し、して?」
窓から、馬車に並走するために騎乗して待機しているスヴェンに話しかける。
「誘惑するな。俺はいま、護衛騎士になるための研修中なんだ」
久しぶりにアシェルナオとゆっくり話をする、という誘惑に心が揺らいでしまうスヴェン。
「でも半分は友達としての同行だからね?」
クスクス笑うアシェルナオに、誰のために頑張っているんだと、スヴェンは顔を顰める。
「クソ可愛いアシェルナオの護衛騎士になるって決めたんだから、邪魔しないでくれ」
「はーい、がんばってー」
アシェルナオは手を振って窓を閉めた。
途中で食事休憩を挟み、太陽が真上に上る頃に馬車が停車したのは、山あいの船着き場だった。
「船に乗るの? 川幅あんまりないけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
アシェルナオに笑顔を向けて、先にフォルシウスが馬車を降りる。
「テュコ、リンちゃんはお留守番?」
アシェルナオは隣に陣取るリングタールを名残惜しそうに見やる。
「山道を歩くようです。お留守番してもらいましょう」
「はぁい……ゴンドリエーレ!」
後ろ髪を引かれつつ、リングダールを置いて馬車を降りたアシェルナオは、船着き場に待機している面々を見て歓声をあげる。
そこにいたのは騎士服の姿でゴンドリエーレの象徴であるスカーフを巻いたマフダルと、同じくスカーフを巻いた2人の騎士たちがいた。
船着き場には3艘のゴンドラが係留されている。
「婚約式ぶりです、ナオ様」
左胸に手をあてて頭を下げるマフダル。
「どうして? マフダル、またゴンドリエーレ?」
船着き場まで小走りで向かうと、瞳を輝かせてマフダルを見あげる。
「デメトリアとエンロートは、実は隣り合っているんですよ。まあ、近くはありませんが」
「そうだったね。転移陣で移動すると地理感がわからなくなっちゃう」
「これからナオ様が浄化する木立の大門に向かうには川を遡るのが近いのですが、川幅が狭いのでゴンドラの出番なのです」
「ゴンドラをここまで運んで来てくれたの? すごい。だからマフダルはゴンドリエーレなんだね。テュコ、マフダルのゴンドリエーレ、なつかしいね」
アシェルナオはテュコを呼んだ。
「ええ。私もあれ以来乗っていませんよ」
「楽しみだねぇ。マフダル、よろしくねぇ。スヴェン、ゴンドリエーレだよ」
アシェルナオに呼ばれ、
「お世話になります」
スヴェンは馬を託して船着き場までやってくると、マフダルたちに頭を下げた。
「ケイレブの息子にしては行儀がいい」
過去にケイレブの上司だったマフダルは目を細める。
「マフダル、マフダル、もう乗っていい? スヴェン、隣に座る?」
「わかったから落ち着け、アシェルナオ。川に落ちるぞ」
スヴェンに窘められて、アシェルナオは、はぁいと返事をし、マフダルに手を取られてゴンドラに乗り込んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
今日は連休なので変則での更新になりました。
ようやく猛暑から解放されましたが、今度は一日の温度差が激しくて体がボロボロになりますね。みなさまもお気をつけくださいね。
「愛し子様、デメトリア領へ浄化にお越しいただいた喜び、慶賀に堪えません。領主、領民を代表して御礼を申し上げます。王城より愛し子様との政治的接触は禁じるとのお触れがございましたので、領主代理として私、領騎士団長ショルンスバリと、部下である領騎士エーベン、レアン、ビルト、ポレリス、エイゼルの5名、領都の精霊神殿の神官のクヴィストが同行し、護衛させていただきます」
身長が高く、隆々とした筋肉がついていることがわかる体つきをした深い緑色の短髪の男が膝をつき臣下の礼を執る。
その後ろで5人の騎士たちも同じく臣下の礼でアシェルナオたちを出迎えた。
「デメトリアの領都にございますディーデ精霊神殿で神官を務めますクヴィストと申します。精霊神殿を代表して、愛し子様の浄化に同行さえていただく光栄をいただきました」
中背で細身のクヴィストは、長い銀髪と金色の瞳をした中世的な容貌でアシェルナオを指を組み合わせる。
「エルランデル公爵家次男、アシェルナオ・エルランデルです。お出迎え感謝します」
アシェルナオは転移陣から出ると、ペコリと頭を下げた。
「これはふよりん。よろしくね?」
「キュゥ?」
ふよりんを両手で包み込むようにしてアシェルナオはショルンスバリたちに見せる。
「それは聖獣……」
「初めて見ました」
騎士たちは感動で声を震わせ、
「愛し子様と聖獣……なんという眼福……」
クヴィストは尊い光景を見て膝から頽れる。
「ふよりんの可愛さは最強だねぇ」
「キュゥキュゥ」
ナオの可愛さも最強だよ、と言いたげに、ふよりんはアシェルナオの肩に乗った。
『ふよりんとナオ、さいきょうー』
『どっちもかわいいねー』
『かわいいねー』
『ナオはてんねんー』
『そこがナオのいいところー』
きゃっきゃとはしゃぐ精霊たちを纏わせながら周囲を護衛騎士に囲まれて商人ギルドを出ると、そこにはエルランデル公爵家の馬車の前でアイナとドリーンが待ち構えていた。
「ナオ様、軽食を準備しています。馬車の中でお召し上がりください」
移動距離が長くなることを見越して早朝の集合になっていたため、アシェルナオは起きて仕度しただけで家を出発していた。
「リンちゃんも待機していますよ」
「ありがとう、アイナ、ドリーン。今日は至れり尽くせりで嬉しい」
「私たちも嬉しいです」
「私たちは後ろの馬車で参ります」
そう言うと2人はテュコに軽食と飲み物の入ったマジックバッグをテュコに渡して、追随する後方の馬車に向かう。
「ではナオ様、馬車へ」
「はーい」
アシェルナオは馬車に乗り込むと、
「スヴェン、疲れたら馬車に乗ってもいいよ? 学園のお話し、して?」
窓から、馬車に並走するために騎乗して待機しているスヴェンに話しかける。
「誘惑するな。俺はいま、護衛騎士になるための研修中なんだ」
久しぶりにアシェルナオとゆっくり話をする、という誘惑に心が揺らいでしまうスヴェン。
「でも半分は友達としての同行だからね?」
クスクス笑うアシェルナオに、誰のために頑張っているんだと、スヴェンは顔を顰める。
「クソ可愛いアシェルナオの護衛騎士になるって決めたんだから、邪魔しないでくれ」
「はーい、がんばってー」
アシェルナオは手を振って窓を閉めた。
途中で食事休憩を挟み、太陽が真上に上る頃に馬車が停車したのは、山あいの船着き場だった。
「船に乗るの? 川幅あんまりないけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
アシェルナオに笑顔を向けて、先にフォルシウスが馬車を降りる。
「テュコ、リンちゃんはお留守番?」
アシェルナオは隣に陣取るリングタールを名残惜しそうに見やる。
「山道を歩くようです。お留守番してもらいましょう」
「はぁい……ゴンドリエーレ!」
後ろ髪を引かれつつ、リングダールを置いて馬車を降りたアシェルナオは、船着き場に待機している面々を見て歓声をあげる。
そこにいたのは騎士服の姿でゴンドリエーレの象徴であるスカーフを巻いたマフダルと、同じくスカーフを巻いた2人の騎士たちがいた。
船着き場には3艘のゴンドラが係留されている。
「婚約式ぶりです、ナオ様」
左胸に手をあてて頭を下げるマフダル。
「どうして? マフダル、またゴンドリエーレ?」
船着き場まで小走りで向かうと、瞳を輝かせてマフダルを見あげる。
「デメトリアとエンロートは、実は隣り合っているんですよ。まあ、近くはありませんが」
「そうだったね。転移陣で移動すると地理感がわからなくなっちゃう」
「これからナオ様が浄化する木立の大門に向かうには川を遡るのが近いのですが、川幅が狭いのでゴンドラの出番なのです」
「ゴンドラをここまで運んで来てくれたの? すごい。だからマフダルはゴンドリエーレなんだね。テュコ、マフダルのゴンドリエーレ、なつかしいね」
アシェルナオはテュコを呼んだ。
「ええ。私もあれ以来乗っていませんよ」
「楽しみだねぇ。マフダル、よろしくねぇ。スヴェン、ゴンドリエーレだよ」
アシェルナオに呼ばれ、
「お世話になります」
スヴェンは馬を託して船着き場までやってくると、マフダルたちに頭を下げた。
「ケイレブの息子にしては行儀がいい」
過去にケイレブの上司だったマフダルは目を細める。
「マフダル、マフダル、もう乗っていい? スヴェン、隣に座る?」
「わかったから落ち着け、アシェルナオ。川に落ちるぞ」
スヴェンに窘められて、アシェルナオは、はぁいと返事をし、マフダルに手を取られてゴンドラに乗り込んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
今日は連休なので変則での更新になりました。
ようやく猛暑から解放されましたが、今度は一日の温度差が激しくて体がボロボロになりますね。みなさまもお気をつけくださいね。
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