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第4部

出会った時からの友達だよね?

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 「チド殿。ジルという方は、もしかして隣のエクルンド公国の公子のウジェーヌ様では?」

 詰所の建物の陰にチドを連れて来たブレンドレルはいきなり核心を突く問いを投げかける。

 「まあ。会ってすぐにそこまで見破ってしまわれるとは。私が見込んだだけあって素晴らしい騎士様ですこと」

 チドは感心したようにブレンドレルを見つめる。

 「では、ジル殿は……」

 「ええ、そのように聞いております」

 「エクルンド公国の一件はすでにカタがついています。というか、エクルンド公国側は、公子のことは知らないと言っているようで……。なので、我々もジル殿が自分はウジェーヌ公子と名乗らぬ限りは身柄を確保しようとは思っていません」

 「私は、ジルがこれからどうしたいのかを自分の意志で決めるまでは、ジルの好きなようにさせたいと思っています。名乗りを上げるつもりは私にもジルにもありませんが、だからと言って窮屈な思いをさせたくないとも思っています」

 「……わかりました。ジル殿はあなたに匿われてよかったと思いますよ」

 ウジェーヌとともにこの国に入って来たエクルンド公国の騎士たちの顔を思い浮かべながらブレンドレルはそう思った。

 それに、子供の初恋をエルとルルの拉致に使おうとした大公の思惑を考えると、すぐにエクルンド公国に帰らなかったことはウジェーヌの心の安寧にはよかったことだと思えた。

 「ありがとうございます。それで、騎士様にお願いがありますの」

 チドは嬉しそうにブレンドレルを見上げる。

 「お礼だけのためにここまで訪ねてこられたのではないと思っていましたよ」

 何かを企んでいそうなチドの言葉に、だが悪意が感じられない人柄に、ブレンドレルは悪い気はしなかった。

 「ジルは、少しも偉ぶったところがなく、素直な子です。かの国ではどうだったか知りませんが、今は神官としての質素な生活を、物珍しく思うことこそあれ、忌避することなく楽しく過ごしています。そんなジルが、自分の息子か孫のように可愛いくて。騎士様、あの子にもっと世の中の楽しいことを教えてやっていただけませんか?」

 「それはどういう?」

 チドの真意がわからずにブレンドレルは首を傾げる。

 「デートですよ、デ・エ・ト」

 チドの目が好奇心で爛々と光った。

 「デ……どうして私に?」

 目を光らせるチドが一瞬魔獣のように見えて、ブレンドレルはたじろぐ。

 「それはもう、一目惚れしたからですよ、私が。き、し、さ、ま、に」

 そう言うとチドは、顔を強張らせるブレンドレルを見て、ほほほほほ、と高笑いをした。





 「いっ……いと……アシェルナオ様」

 詰所に入ると、入り口近くにいた従卒がアシェルナオとテュコの姿を見て直立不動になる。

 「アシェルナオ様?」

 周囲の第二騎士団の騎士たちがその声に気が付いて振り向く。

 アシェルナオ・エルランデルと言えば、先日王太子殿下と婚約式を行い、バルコニーでのお披露目の際に突然襲ってきた瘴気を浄化して精霊の愛し子だと公表された、ある意味国王よりも上の存在。

 居合わせた第二騎士団に所属する者は騎士や従卒は勿論、文官からお掃除のおばちゃんまで一斉に臣下の礼を執ったり跪いたりした。

 なんだか水戸黄門みたいだな。僕、印籠持ってたっけ?

 アシェルナオは困惑しながら自分の身の回りを確認すると、ふよりんが「キュ?」と心配そうな鳴き声をあげた。

 アシェルナオはふよりんを見て、これか、と閃く。そしてふよりんを両手の手のひらの上に乗せると、

 「エルランデル公爵家次男、アシェルナオ・エルランデルです」

 水戸黄門(の旅の仲間)が印籠を披露するように、アシェルナオも聖獣のふよりんを披露する。

 人々は平伏するのではなく、顔をあげ、聖獣と愛し子の神々しすぎる可愛さに、心を打ち抜かれていた。

 「あの、今日はエルとルルに会いに来ました」

 なんだか思ったような反応ではないことに戸惑いながらアシェルナオは用件を告げる。

 「第二騎士団団長のヤルナッハと申します。その2人でしたら、作業が大詰めだったそうで、さきほど帰って来たところです。今ならまだ起きているでしょう。部屋にご案内します」

 さあ、と清々しい笑顔で案内しようとするヤルナッハを、

 「団長」

 副団長のニカイが呼び止める。

 「いいんだ。ここは団長である私が案内する」

 ヤルナッハは、うむ、と頷いてアシェルナオとテュコを先導すべく宿舎に向かって歩き出した。



 
 
 アシェルナオは颯爽と前を歩くヤルナッハのあとを軽い足取りでついていく。

 「今日はゆっくりしておくようにとシーグフリード様に言われましたよね。午後からも浄化があるんですよ?」

 エルとルルを訪ねることに、そもそもエルとルルに会うことに、テュコは承服していなかった。

 「兄様には内緒だよ? テュコ。僕たち、出会った時からの友達だよね?」

 ド〇えもんに甘えるの〇太のように清々しい顔のアシェルナオに、

 「都合のいい時だけ友達は無しです」

 テュコは厳しかった。

 「でもね? 浄化がひと段落したら学園に戻るよね? そしたらダンジョン開きがあるんだよ? そしたらテントとか、いっぱい持っていきたいよね?」

 「ナオ様、ダンジョンはピクニックとは違いますよ」

 「うん。お泊りもするなら修学旅行に近いよね? テュコも一緒に行くよね?」

 アシェルナオは可愛く首を傾げる。

 「勿論です。ナオ様が危険な場所に行くときに私が同行しないわけがありません」

 能天気な発言で可愛さをふりまくアシェルナオから少しでも目を離したくないテュコは、きっぱりと言い切る。

 「じゃあマジックバッグいるよねぇ。兄様には内緒ね?」
 
 ふふふ、と小悪魔的に笑うアシェルナオに、どうしてこんなに脳天気でクソ可愛いんだと、テュコは歯噛みした。
 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 エール、いいね、ありがとうございます。

 ちょっと夏バテです。
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