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第4部
授業参観的な?
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王城の馬車寄せにエルランデル公爵家の馬車が到着したのは、翌日の午後だった。
今日は王城から転移陣で移動すると事前に連絡が入っており、アイナとドリーン、リングダールはエルランデル公爵家でお留守番となっている。
「アシェルナオ、待っていたよ」
キナク、フォルシウスに続いてテュコのエスコートで馬車を降りたアシェルナオに、待ち受けていたシーグフリードが歩み寄る。
「お待たせしました。兄様、今朝も早くにお出かけでしたが、お疲れではありませんか?」
昨夜は遅く帰ってきたと、執事のデュルフェルに聞いていたアシェルナオが心配げな顔をする。
「ラルたちはもっと過酷な状況だからね。少しの間でも屋敷に休息に帰れるのが申し訳ないくらいだ」
「でも……」
小さく呟くアシェルナオは、もっと過酷な状況だというヴァレリラルドを思うと心配でたまらなかった。
「今日の護衛騎士はこれだけでしょうか」
テュコは周囲を見回す。
王城の衛兵はいるが、護衛騎士はいなかった。
「今日はスヴェンには断りを入れたよ。他の護衛騎士はすでに待機している。今回は転移陣で行くから道中のことは考えなくてよいし、向こうにも護衛騎士はいるからね。転移陣の間に着いたら説明するよ。行こう、アシェルナオ」
シーグフリードは衛兵の後に続いて、アシェルナオの手を取って歩き出す。
王族専用の転移陣の間に着くと、金の装飾を施された美しい白壁の部屋にすでに数人が集まっていた。
「ベルっち、お見送りしてくれるの?」
その中心にいる人物、ベルンハルドを見てアシェルナオは首を傾げる。
その周囲にいるのはローセボーム、アダルベルト、ハヴェルだった。
「私も一緒に行くんだよ」
「陛下がどうしても同行するというので、私も行きます。本当に仕方のない陛下ですよ」
これみよがしに、ふぅ、とため息を吐くローセボームだが、可愛い末息子と同行できる嬉しさを隠しきれていなかった。
「えぇと、授業参観的な?」
なぜ国王と宰相が浄化に同行するのかと考えた時、将来の義理の父と侍従兼護衛騎士のテュコの父が子供(予定含む)の様子を見る授業参観のようなものなのかな、とアシェルナオは思った。
「それだ」
「いいですね」
ベルンハルドとローセボームはさも当初からそういうことだったのだと言いたげに頷く。
「お遊びで行くわけじゃないんですよ」
身長に勝るテュコが父親を冷めた目つきで上から見下ろす。
「陛下が将来の嫁を案じているのはわかりますが、周りを巻き込むのはおやめください」
各地の源泉の汚染や魔獣の発生でやることが目白押しのシーグフリードがイラついた声を出す。
「連日浄化に行かせてしまって申し訳ない。愛し子ばかりに頼るなと言って、私が一番頼っている。せめて行った先で余計な気を遣わなくていいようにと思ってな」
「どういうことですか?」
「これから行くバシュレ領の領主は私の学友だった者なんだ。王家の傍流でもあり、気の置けない間柄だ。メインデルト、領主の名前だが、奴らの相手は私が引き受けるから、ナオは浄化に専念するといい」
「私は陛下のお目付けです」
ベルンハルドとローセボームが自分のためを思って、忙しい執務の間に時間を作ってくれている。それがわかったアシェルナオは、
「大人の話を大人がしてくれるのはありがたいです。ベルっち、お願いね」
ペコリと頭を下げた。
将来の嫁から可愛くお願いされて、ベルンハルドの表情が緩む。
「話はわかりましたが、ナオ様が浄化に専念するためにも陛下の護衛騎士を最低3人は同行させて下さい。ナオ様もいるのですから、ご友人の家に遊びに行く感覚でついてこられても困ります」
ベルンハルドより父よりアシェルナオが大事なテュコは、厳しい口調になるのを禁じえなかった。
「うちの可愛い息子の言うことを利いてくださいよ、陛下。私がテュコに嫌われたらどうするんです。誰か、陛下の護衛騎士を3人連れて来い。大至急だ」
テュコに嫌われることを何より恐れているローセボームが近くにいる従者に捲し立てた。
トロースト、ビューレン、メーフェルの3人のベルンハルドの護衛騎士と、近衛騎士団団長が転移陣の間に集合したことで、一行は転移陣の上に移動した。
「行動に移す前に前もっておっしゃって下さいといつも言っていますでしょう。従者が知らせに来なければと思うと肝が冷えます」
ローセボームの次男でテュコのすぐ上の兄である近衛騎士団団長のティスが、転移陣の外から苦言を呈する。
「護衛騎士もつけずに勝手に転移陣で他領に向かうなど。父上も父上です。父上は真っ先に陛下を止める立場であり、どうしても行くと言われるなら護衛の配置を指示しなければならないんですよ」
「兄上、そこまでで。ナオ様の前です」
苦言が止まらないティスはテュコに制止されて渋々口を閉じる。
「兄様、テュコのお兄さん、行ってきまーす」
だが、アシェルナオに手を振られると、笑顔で手を振り返した。
「アシェルナオ、気を付けて。無理をしないように」
「アシェルナオ様、行ってらっしゃいませ。テュコ、よろしく頼む」
シーグフリードとティスが声をかけると、転移陣が発動される。
「アシェルナオ様は愛し子様という以上に、我々に必要な方ですね」
ティスが思わず呟く。
「精霊の愛し子である以上に、私たちには愛しい存在だ」
シーグフリードはアシェルナオの浄化の無事を祈った。
転移が終わると、そこはアシェルナオが今まで訪れた転移陣の間とは様子が違い、豪華で洗練された部屋だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
立秋を過ぎたのに週間天気予報にはずらっと35度以上の予想最高気温が並んでいます。
週間天気予報で途中に32度の数字があると、真夏のオアシスのように感じてその日が来るのを待ち遠しく感じますが、その予想日がいざ明日になるとあら不思議。予想最高気温が37度に。実際は38度。こんな現象を私は真夏の逃げ水と呼んでいます。
今週は、逃げ水すらないや(^-^)
今日は王城から転移陣で移動すると事前に連絡が入っており、アイナとドリーン、リングダールはエルランデル公爵家でお留守番となっている。
「アシェルナオ、待っていたよ」
キナク、フォルシウスに続いてテュコのエスコートで馬車を降りたアシェルナオに、待ち受けていたシーグフリードが歩み寄る。
「お待たせしました。兄様、今朝も早くにお出かけでしたが、お疲れではありませんか?」
昨夜は遅く帰ってきたと、執事のデュルフェルに聞いていたアシェルナオが心配げな顔をする。
「ラルたちはもっと過酷な状況だからね。少しの間でも屋敷に休息に帰れるのが申し訳ないくらいだ」
「でも……」
小さく呟くアシェルナオは、もっと過酷な状況だというヴァレリラルドを思うと心配でたまらなかった。
「今日の護衛騎士はこれだけでしょうか」
テュコは周囲を見回す。
王城の衛兵はいるが、護衛騎士はいなかった。
「今日はスヴェンには断りを入れたよ。他の護衛騎士はすでに待機している。今回は転移陣で行くから道中のことは考えなくてよいし、向こうにも護衛騎士はいるからね。転移陣の間に着いたら説明するよ。行こう、アシェルナオ」
シーグフリードは衛兵の後に続いて、アシェルナオの手を取って歩き出す。
王族専用の転移陣の間に着くと、金の装飾を施された美しい白壁の部屋にすでに数人が集まっていた。
「ベルっち、お見送りしてくれるの?」
その中心にいる人物、ベルンハルドを見てアシェルナオは首を傾げる。
その周囲にいるのはローセボーム、アダルベルト、ハヴェルだった。
「私も一緒に行くんだよ」
「陛下がどうしても同行するというので、私も行きます。本当に仕方のない陛下ですよ」
これみよがしに、ふぅ、とため息を吐くローセボームだが、可愛い末息子と同行できる嬉しさを隠しきれていなかった。
「えぇと、授業参観的な?」
なぜ国王と宰相が浄化に同行するのかと考えた時、将来の義理の父と侍従兼護衛騎士のテュコの父が子供(予定含む)の様子を見る授業参観のようなものなのかな、とアシェルナオは思った。
「それだ」
「いいですね」
ベルンハルドとローセボームはさも当初からそういうことだったのだと言いたげに頷く。
「お遊びで行くわけじゃないんですよ」
身長に勝るテュコが父親を冷めた目つきで上から見下ろす。
「陛下が将来の嫁を案じているのはわかりますが、周りを巻き込むのはおやめください」
各地の源泉の汚染や魔獣の発生でやることが目白押しのシーグフリードがイラついた声を出す。
「連日浄化に行かせてしまって申し訳ない。愛し子ばかりに頼るなと言って、私が一番頼っている。せめて行った先で余計な気を遣わなくていいようにと思ってな」
「どういうことですか?」
「これから行くバシュレ領の領主は私の学友だった者なんだ。王家の傍流でもあり、気の置けない間柄だ。メインデルト、領主の名前だが、奴らの相手は私が引き受けるから、ナオは浄化に専念するといい」
「私は陛下のお目付けです」
ベルンハルドとローセボームが自分のためを思って、忙しい執務の間に時間を作ってくれている。それがわかったアシェルナオは、
「大人の話を大人がしてくれるのはありがたいです。ベルっち、お願いね」
ペコリと頭を下げた。
将来の嫁から可愛くお願いされて、ベルンハルドの表情が緩む。
「話はわかりましたが、ナオ様が浄化に専念するためにも陛下の護衛騎士を最低3人は同行させて下さい。ナオ様もいるのですから、ご友人の家に遊びに行く感覚でついてこられても困ります」
ベルンハルドより父よりアシェルナオが大事なテュコは、厳しい口調になるのを禁じえなかった。
「うちの可愛い息子の言うことを利いてくださいよ、陛下。私がテュコに嫌われたらどうするんです。誰か、陛下の護衛騎士を3人連れて来い。大至急だ」
テュコに嫌われることを何より恐れているローセボームが近くにいる従者に捲し立てた。
トロースト、ビューレン、メーフェルの3人のベルンハルドの護衛騎士と、近衛騎士団団長が転移陣の間に集合したことで、一行は転移陣の上に移動した。
「行動に移す前に前もっておっしゃって下さいといつも言っていますでしょう。従者が知らせに来なければと思うと肝が冷えます」
ローセボームの次男でテュコのすぐ上の兄である近衛騎士団団長のティスが、転移陣の外から苦言を呈する。
「護衛騎士もつけずに勝手に転移陣で他領に向かうなど。父上も父上です。父上は真っ先に陛下を止める立場であり、どうしても行くと言われるなら護衛の配置を指示しなければならないんですよ」
「兄上、そこまでで。ナオ様の前です」
苦言が止まらないティスはテュコに制止されて渋々口を閉じる。
「兄様、テュコのお兄さん、行ってきまーす」
だが、アシェルナオに手を振られると、笑顔で手を振り返した。
「アシェルナオ、気を付けて。無理をしないように」
「アシェルナオ様、行ってらっしゃいませ。テュコ、よろしく頼む」
シーグフリードとティスが声をかけると、転移陣が発動される。
「アシェルナオ様は愛し子様という以上に、我々に必要な方ですね」
ティスが思わず呟く。
「精霊の愛し子である以上に、私たちには愛しい存在だ」
シーグフリードはアシェルナオの浄化の無事を祈った。
転移が終わると、そこはアシェルナオが今まで訪れた転移陣の間とは様子が違い、豪華で洗練された部屋だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
エール、いいね、ありがとうございます。
立秋を過ぎたのに週間天気予報にはずらっと35度以上の予想最高気温が並んでいます。
週間天気予報で途中に32度の数字があると、真夏のオアシスのように感じてその日が来るのを待ち遠しく感じますが、その予想日がいざ明日になるとあら不思議。予想最高気温が37度に。実際は38度。こんな現象を私は真夏の逃げ水と呼んでいます。
今週は、逃げ水すらないや(^-^)
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