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第4部

成長したら、ヴァル、喜ぶ?

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 女の豊満な乳房に顔を埋めて身勝手な愛撫を続けていたレンッケリは、ふいに顔をあげる。

 我が領に愛し子がいらしているのに、なぜこんなところにいるんだ。愛し子との接触は実質禁じられているが、出迎えや案内をしなければよい。つまり顔を合わせなければよいのではないか。

 顔を合わせずに顔を見る……

 突然強い衝撃に駆られたレンッケリは勢いよく立ち上がる。そのまま女には見向きもせずにシャツの乱れを直しながら急ぎ足で部屋を出て行った。

 「なんなのよ!」

 中途半端に欲情させられたあげく放置された歯がゆさに、残された女は1人になった部屋で怒りにまかせて手当たり次第に物を投げ散らした。



 
 レンッケリはクアハウスの近くで馬車を降りると、そこから通りを逸れて人目を忍ぶようにクアハウスの裏手に回る。

 カスペルには泥湯を勧めるように前もって言付けていた。

 その時はラウフラージアの命とも言うべき源泉を浄化するために訪れた愛し子を、対面はできないが感謝している、ということを対外的にアピールするためのものだった。だが、あのことを思い出した今では、言付けた己を褒めたたえたかった。
 
 先代、つまりレンッケリの父がクアハウスの泥湯の浴場を改装させたのは、愛妾を喜ばせるため、愛妾と戯れるためだったが、密かな欲望を満たすためでもあった。

 だから人目を憚るための秘密の入り口も作られている。

 それは敷地のはずれにある、クアハウスの使用人たちにも立ち入りを禁じている領主専用の物置小屋にあった。そこには地下室が隠されており、地下からは泥湯温泉の隠し部屋につながる地下通路がのびている。

 二十年以上前に先代に案内されたことのある、さっきまで記憶に埋もれていた地下通路。

 その、常夜灯が等間隔に灯る地下通路の突き当りの階段を上り、レンッケリは隠し扉に魔力を流す。

 源泉の浄化が成されたとしたら、カスペルは愛し子に感謝をするだろう。先代領主が改装した特別な浴場を進めないわけがなかった。

 果たしてそこに愛し子はいるのか。息を詰めてレンッケリが扉を開けると、そこは泥湯の浴場の隣に設けられた隠し部屋だった。

 壁には透明なガラスがあり、そこからは隣の浴場の内部が見える。

 この隠し部屋を作ったのは先代の領主だが、レンッケリの領主は代々好色だった。先代は特にその傾向が強く、向こうからは鏡だが、こちらからはただの透明なガラスから、愛妾だけでなく訪れた湯治客の姿を覗いて楽しんでいた。

 若かい頃のレンッケリは、ただ見るだけの行為の何が楽しいのかと、先代の性癖が理解できなかった。以来、ここの記憶は封印されていたのだが、今は先代に感謝しながらガラスに近づく。

 ちょうど黒髪の美しい少年と、清楚だが成熟した色気も感じられる青年が湯浴み着姿で入ってきた。

 愛し子と思われる美貌の少年は2人のメイドに体を洗われ、青年はメイドの手伝いを丁重に断り1人で体を清めている。

 洗身が終わると愛し子は潔く湯浴み着を脱ぎ捨てた。

 16歳と聞いているが、手足の長い白い肢体はもう少し年若く見え、瑞々しい輝きがあった。

 無垢でいて、大人になりきれていない危うい色気のある裸体を、レンッケリは食い入るように見つめる。

 淡いピンクの 乳暈 が、今から膨らみ始める少女の乳房のようだった。細い腰、すらりとした足のあいだの、下生えのないつるりとした色素の薄い若茎。

 男女問わず行為に及んできたレンッケリは、成熟した肉体を好んでいた。だが、何も知らない清らかな体を蹂躙し、快楽を刻みたい欲望に駆られた。

 青年のほうは抱かれる悦びを知っている体だった。清楚な顔は与えられた快楽にどのような表情を浮かべるかを想像すると、こちらも味わってみたいと思った。

 愛し子が先に泥湯の浴槽に体を浸すと、それを見て青年も泥湯に体を浸す。


 

 フォルシウスは湯浴み着を脱ぐとアイナに渡して、わずかに躊躇いながら足先から泥湯に入る。

 アシェルナオはその様子を泥湯に浸りながら眺めた。

 温泉温泉と騒いでいたアシェルナオより、フォルシウスのしっとりしたしぐさの方が温泉情緒に溢れていて、何より筋肉がついていながら柔らかな体つきには色気があった。

 「フォルの体、綺麗だね。筋肉もあるけどゴツゴツしてないし、大人って感じがする」

 「ロザーリエを産んでいますからね。前より体質は変わりました。いい大人ですよ」

 アシェルナオに見つめられて気恥ずかしそうに微笑んだ。

 「僕もそういうふうになる?」

 自分の成長具合いに不満のあるアシェルナオは羨望の眼差しをフォルシウスに向ける。

 「ナオ様は私よりずっと綺麗な体をされていますが、これから成長されるでしょうし、ますます綺麗になりますね」

 「キュッキュー」

 「成長したら、ヴァル、喜ぶ?」

 冗談めかして、ではなく真顔で尋ねてくるアシェルナオに、フォルシウスは大らかな表情を見せる。

 「成長することは純粋に喜ぶべきことですが、成長しても小さいままでも、殿下はどんなナオ様でも愛していますよ」

 「うん……」

 「キューッ」

 一言鳴くと、ふよりんは泥湯の中に飛び込んだ。

 「ふよりん!」

 アシェルナオは泥湯に沈んだふよりんを助け出そうと、泥の中を両手でさぐる。

 「キュー」

 飛び込んだ時と同様に突然泥湯の中からふよりんが飛び出してきた。

 全身が泥だらけ、しかも一回り小さくなった姿にアシェルナオは目を丸くしたが、次の瞬間には声をあげて笑った。

 「ふよりん、泥団子みたい」

 「キュッキュー」

 泥だらけのふよりんがアシェルナオの頬にすり寄る。

 「ふよりん、やめて」

 顔が泥で汚れながらも楽しそうにふよりんと戯れるアシェルナオを視界に入れつつ、フォルシウスは泥湯の感覚を楽しんでいた。

 最初に足を踏み入れた時こそ、アシェルナオの言うとおり足の裏が「にゅるん」としたのだが、慣れてくるとその感覚が面白く、癖になった。

 それにあたたかな泥は肌に心地よく、心身をリラックスさせる。

 確かにこれは美容にきくかもしれない、とフォルシウスは泥湯から出ている鎖骨付近に手のひらで掬った泥を塗り広げた。
 



 レンッケリの潜んでいる隠し部屋には小さな浴槽があり、浴場にある泥湯と同じ泥湯が涌いていた。

 代々地の精霊の加護を持つ家系のレンッケリは、土と感覚を共有することができた。

 レンッケリは若い頃から、領主の息子というだけで求める相手と肌と肌を重ねる関係に持ち込むことができた。そんなレンッケリは、生身の体を貪るのではなく、わざわざ覗いたり、感覚だけを楽しむことの何が楽しいのかと先代の性癖を拒絶してきた。

 だが初老に足を踏み入れる年齢になったレンッケリは、隠れて覗いている今の状況にたまらなく興奮していた。美しい愛し子と妖艶な青年に、気づかれずに触れることができるかと思うだけで脳内で欲望が爆発しそうだった。

 先代がなぜこの隠し部屋を作ったのかを身をもって知りながら、レンッケリは上着を脱ぎ、シャツの袖を捲って泥湯に手を浸した。
 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 エール、いいね、ありがとうございます。

 8月にはいりました。この1ヶ月はまんべんなく毎日暑いのだろうなぁ。
 みなさま、日陰に逃げて! 超逃げて!

 ということで、次回、ナオ逃げて! 超逃げて!です。
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