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第4部

俺のことを覚えていますか?

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 「気を付けるんですよ」

 「テュコ、アシェルナオを頼むよ」

 「アシェルナオ様、テュコ殿、ご武運を」

 婚約式から一夜明けて、充分に休息を取ったアシェルナオは、テュコ、アイナ、ドリーンと共に王城に向かうために馬車に乗り込み、それをオリヴェル、パウラ、使用人たち、公爵家の騎士たちが見送っていた。

 オリヴェルたちが大切に慈しんでいるものの、学園に通うまでは大切に秘匿してきたアシェルナオのことを、ただならぬお方だとは薄々感じていた使用人、騎士たちも、アシェルナオが愛し子だと公表されたことで、驚くと言うより、なるほどと腑に落ちる方が強かった。

 「愛し子様かぁ。どうりでアシェルナオ様の癒しがすごいはずだ」

 うん、うん、と騎士の列の中でキナクが頷いている。

 「はーい、行ってきます」

 アシェルナオは馬車の中から心配する見送りの人々に元気に手を振り、やがて馬車が走り出すと、にこやかな顔でテュコ、アイナ、ドリーンを見た。

 「ご機嫌ですね、ナオ様」

 「たっぷりお眠りになったからですね」

 アイナとドリーンも可愛らしい主人に笑顔を向ける。

 「だってね、こうして4人で馬車に乗ってると、前に王都まで旅していた時みたいだから。あの頃からずっと一緒だね」

 時が流れても一緒にいられることを喜ぶアシェルナオに、そう思ってくれることが嬉しいテュコたちは胸を熱くした。

  



 「よく撮れてるな」

 王太子の執務室では、中央のテーブルに広げられた新聞にウルリクがかぶりついていた。

 「うちのアシェルナオは可愛いだろう」

 少し離れたところでドヤ顔になっているシーグフリード。

 「私の婚約者だからな」

 同じくドヤ顔で宣言するヴァレリラルド。

 「本当にようございました」

 アシェルナオへの愛情を率直に口にするヴァレリラルドを見て、カロナは執務室の片隅で涙していた。

 「母さん、昨日から泣いてばかりじゃないか」

 その様子を見て苦笑するマロシュ。

 「マロシュはまだ子供だったから知らないだろうが、当時のナオ様を知る者にとって、ナオ様の消失がどれだけの失意、絶望だったか。それを踏まえての殿下との婚約だ。泣きたいほど嬉しいのはわかる。ナオ様が生まれ変わっておいでだと知っていた私でも感慨深い」

 近衛騎士団の副団長で、現在はヴァレリラルド付の筆頭護衛騎士であるイクセルも勿論当時を知る者の1人だった。

 「シーグフリードが可愛いとか綺麗とか弟自慢をしていたのは知っているが、想像していたよりすごかったなぁ」

 ヴァレリラルドたちと同級生の文官のスミットが後輩のナルスに同意を求める。

 「本当にめちゃめちゃ綺麗で可愛いくて、加えて愛し子様なんですよ。自慢にならないはずがないです」

 頷くナルスも、昨日は王城からお披露目を見ていた。

 「この文面にしたのは宰相だろうが、国民に愛し子への過分な期待を牽制している点はいいな」

 ウルリクと体を寄せ合って新聞を読んでいたベルトルドが言うと、

 「実際にバルコニーで倒れたんだ。それを大観衆が見ていたわけだから説得力がある。愛し子が万能なわけではなく、見かけ通りの儚い存在として公表されたのはありがたい」

 シーグフリードもローセボームの配慮に感謝した。

 意外にやんちゃで、行動力のあるアシェルナオだったが、心身は繊細なのだ。

 その時、執務室の扉がノックされた。

 ナルスは扉を開けたがすぐに扉を閉め、

 「いっいっいっ」

 表情を強張らせて扉を指さす。

 「なにやってるんだ、ナルス」

 スミットが呆れた顔でナルスをどかして扉を開ける。

 だがナルスと同じくすぐに扉を閉めて、

 「おっおっおっ」

 シーグフリードを指さした。

 「スミットまで何やってるんだ。イクセル、頼む」

 ヴァレリラルドに言われて、イクセルが扉を開ける。

 そこにはテュコ、アイナ、ドリーンを伴ったアシェルナオが立っていた。

 「ナオ様」

 「久しぶり、イクセル。取り込み中だった?」

 二度も扉を閉められたアシェルナオは首を傾げる。

 「いいえ。ナオ様が来られることを知らなかった庶民たちが失礼しました。どうぞ」

 イクセルは扉を大きく開けてアシェルナオたちを執務室に招き入れた。

 「ナオ!」

 アシェルナオに気づいたヴァレリラルドが駆け寄り、ハグする。

 「気分はどう? 大丈夫?」

 「うん。昨日たくさん寝たから大丈夫」
 
 「アシェルナオ、兄様もいるよ」

 抱き合う2人の横からシーグフリードが割り込む。

 「俺たちもいるよー」

 「王太子の執務室にようこそ」

 ウルリクとベルトルドも周りを取り囲む。

 「挨拶のハグもゆっくりさせてもらえないのか」

 うんざりするヴァレリラルド。

 「ここがヴァルの執務室なんだね。ええと」

 アシェルナオは周りを見回す。壁際に控える護衛騎士と、扉近くに席のある文官たち、ご婦人とその息子らしき者たちを見回す。

 見覚えのある顔もいたが、ない顔もいて、

 「エルランデル公爵家次男、アシェルナオ・エルランデルです。いつも兄様がお世話になっています。それと、みなさんヴァルへのお力添えをよろしくお願いします」

 アシェルナオはペコリと頭を下げる。

 「ナオ様、お顔をあげてください」

 「私めらごときにもったいないです」

 時の人である愛し子に頭を下げられてパニックになる者たち。

 「ナオ様、むやみに頭を下げると下々の者が困るんですよ」

 テュコが主に進言する。

 「そうなの? ごめんねぇ? でもよろしくね」

 そう言って笑顔を見せるアシェルナオに、その場にいた下々の者は、はいっ、と一斉に声をあげた。

 「アシェルナオ様、俺はマロシュと言います。俺のことを覚えていますか?」

 マロシュが遠慮がちにアシェルナオの前に進み出る。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 一週間の疲れが取れないうちに、また週が始まる(´;ω;`)ウゥゥ

 いつも、いいね、エール、ありがとうございます(。uωu))ペコリ
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