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第3部
それが私の願いです
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テュコの憔悴した表情に、アシェルナオは激しく首を振る。
「テュコ、大好き。シアンハウスで助けてくれた時からずっと、大好きだよ」
迷いなく答えるアシェルナオに、テュコは、はぁぁぁ、と聞こえるくらい大きく息を吐き、そして愛しい主人を胸に抱く。
「あなたから嫌われたならどうしようと、ずっと不安だったんですよ」
「ごめんなさい……」
自分の身勝手な行動でテュコにもアイナ達にも心配と不安を与えてしまったことに、アシェルナオは申し訳なく思った。
「ナオ様。嫌いになったのではないのなら、なぜ私を置いて一人で離宮や学園に行ってしまったんです?」
テュコはアシェルナオの体を離し、その顔を覗き込む。
「テュコのことが好きだから……テュコを解放しないといけないけど、言えなかった。侍従を辞めて騎士になっていいよ、って言えなかった……」
悲し気に涙を零すアシェルナオに、テュコは首をひねる。
「解放? 騎士? どういうことです?」
「……テュコは、騎士の資質があるから……騎士科の最優秀生徒だったから……僕が贅沢で、テュコを支配してるから……解放しないと……うぅぅ」
こらえきれなくなって声を出して泣きじゃくるアシェルナオ。
「騎士科の最優秀生徒にはなりましたけど、他がふがいなかっただけです。それに、私はいつ騎士になりたいと言いました? ナオ様が贅沢だから私を支配しているって、どういうことです?」
「僕が、みんなに祝福されて婚約式をするから……」
「知っていますよ。一応私も祝福していますよ。ナオ様の幸せが私の幸せですからね。それが何か?」
仕方なさげに、だが根本では嘘偽りのない言葉をアシェルナオに向けるテュコ。
「だって、僕の侍従じゃなかったら、テュコ、今頃第一騎士団の団長候補になってたのに……」
「王立学園の頃は、他にすることがないから騎士科の授業に打ち込んでいただけですよ。アシェルナオになられたナオ様に会う前だったから、進路に第一騎士団を選んでいただけです。それに、私はナオ様に支配されて侍従をしているのではありません。私がナオ様の侍従になりたいと望んで側にいるんですよ。覚えていませんか? ナオ様の6歳の誕生日に、私が陛下と父上にナオ様の侍従にしてくださいと願ったことを」
「なんとなく……覚えてる……。テュコ、本当に騎士にならなくていいの?」
アシェルナオは目を見開いてテュコを見上げる。
「私は、ナオ様の侍従としてずっと側にいます。そう誓ったことも忘れていましたか?」
苦笑するテュコに、アシェルナオは首を振る。
「覚えてる。テュコとアイナとドリーンは、ずっと一緒。これからも? ずっと一緒? いいの? いいの?」
「いいですとも。それが私の願いです」
「うぅ……よかったぁ……」
ほっとして、気が緩んで、アシェルナオの瞳から新たな涙がこぼれ落ちる。
昨日から泣いてばかりのアシェルナオだが、その涙は嬉しい涙で、綺麗な顔を涙で濡らしながらもどこか嬉しそうで、見ている者を微笑ましくさせるものだった。
だが和んでばかりもいられず、
「アシェルナオは、自分がテュコを支配してるから解放しないといけないと思って、でもそれが辛くてテュコから逃げていたんだね?」
シーグフリードはアシェルナオが委縮しないように事情を確認する。
「はい」
アシェルナオは小さく頷いた。
「では、誰がアシェルナオを贅沢だと言ったんだい? テュコを解放するように言ったのは誰なんだい?」
シーグフリードに問われて、アシェルナオは首を振る。
「アシェルナオ、もう隠し事はなしだよ? 馬車が襲われて、キナクが背中を斬られる大怪我をしている」
「キナク、怪我をしているの?」
シーグフリードに言われて、アシェルナオは応援に来た騎士たちに囲まれているキナクを見る。
キナクはアシェルナオの視線に気づくと笑顔で手を振ってくれたが、その顔色は悪かった。
「ナオ様を護るために5人の男を相手にしていたんですよ」
テュコの言葉に、アシェルナオは改めて自分の軽率な行動を後悔した。
「……エルと、ルル。2人は……テュコが好きだから、テュコを解放して、自分たちとの仲をとりもってほしい、って……」
いろんな感情がないまぜになりながらアシェルナオが白状すると、テュコとシーグフリードは顔を見合わせた。
5人の男たちを捕縛していたエルランデル騎士団の者たちも、動きを止めて、涙の乾かないアシェルナオを見つめる。
「ほおぉぉぉぉぉっ」
テュコは言葉にならない低いうなり声をあげ、怒りに胸を震わせる。
「なるほど……」
シーグフリードは、アシェルナオが悲嘆にくれた原因を知り、静かな怒りをたたえた顔で頷いた。
「テュコ、大好き。シアンハウスで助けてくれた時からずっと、大好きだよ」
迷いなく答えるアシェルナオに、テュコは、はぁぁぁ、と聞こえるくらい大きく息を吐き、そして愛しい主人を胸に抱く。
「あなたから嫌われたならどうしようと、ずっと不安だったんですよ」
「ごめんなさい……」
自分の身勝手な行動でテュコにもアイナ達にも心配と不安を与えてしまったことに、アシェルナオは申し訳なく思った。
「ナオ様。嫌いになったのではないのなら、なぜ私を置いて一人で離宮や学園に行ってしまったんです?」
テュコはアシェルナオの体を離し、その顔を覗き込む。
「テュコのことが好きだから……テュコを解放しないといけないけど、言えなかった。侍従を辞めて騎士になっていいよ、って言えなかった……」
悲し気に涙を零すアシェルナオに、テュコは首をひねる。
「解放? 騎士? どういうことです?」
「……テュコは、騎士の資質があるから……騎士科の最優秀生徒だったから……僕が贅沢で、テュコを支配してるから……解放しないと……うぅぅ」
こらえきれなくなって声を出して泣きじゃくるアシェルナオ。
「騎士科の最優秀生徒にはなりましたけど、他がふがいなかっただけです。それに、私はいつ騎士になりたいと言いました? ナオ様が贅沢だから私を支配しているって、どういうことです?」
「僕が、みんなに祝福されて婚約式をするから……」
「知っていますよ。一応私も祝福していますよ。ナオ様の幸せが私の幸せですからね。それが何か?」
仕方なさげに、だが根本では嘘偽りのない言葉をアシェルナオに向けるテュコ。
「だって、僕の侍従じゃなかったら、テュコ、今頃第一騎士団の団長候補になってたのに……」
「王立学園の頃は、他にすることがないから騎士科の授業に打ち込んでいただけですよ。アシェルナオになられたナオ様に会う前だったから、進路に第一騎士団を選んでいただけです。それに、私はナオ様に支配されて侍従をしているのではありません。私がナオ様の侍従になりたいと望んで側にいるんですよ。覚えていませんか? ナオ様の6歳の誕生日に、私が陛下と父上にナオ様の侍従にしてくださいと願ったことを」
「なんとなく……覚えてる……。テュコ、本当に騎士にならなくていいの?」
アシェルナオは目を見開いてテュコを見上げる。
「私は、ナオ様の侍従としてずっと側にいます。そう誓ったことも忘れていましたか?」
苦笑するテュコに、アシェルナオは首を振る。
「覚えてる。テュコとアイナとドリーンは、ずっと一緒。これからも? ずっと一緒? いいの? いいの?」
「いいですとも。それが私の願いです」
「うぅ……よかったぁ……」
ほっとして、気が緩んで、アシェルナオの瞳から新たな涙がこぼれ落ちる。
昨日から泣いてばかりのアシェルナオだが、その涙は嬉しい涙で、綺麗な顔を涙で濡らしながらもどこか嬉しそうで、見ている者を微笑ましくさせるものだった。
だが和んでばかりもいられず、
「アシェルナオは、自分がテュコを支配してるから解放しないといけないと思って、でもそれが辛くてテュコから逃げていたんだね?」
シーグフリードはアシェルナオが委縮しないように事情を確認する。
「はい」
アシェルナオは小さく頷いた。
「では、誰がアシェルナオを贅沢だと言ったんだい? テュコを解放するように言ったのは誰なんだい?」
シーグフリードに問われて、アシェルナオは首を振る。
「アシェルナオ、もう隠し事はなしだよ? 馬車が襲われて、キナクが背中を斬られる大怪我をしている」
「キナク、怪我をしているの?」
シーグフリードに言われて、アシェルナオは応援に来た騎士たちに囲まれているキナクを見る。
キナクはアシェルナオの視線に気づくと笑顔で手を振ってくれたが、その顔色は悪かった。
「ナオ様を護るために5人の男を相手にしていたんですよ」
テュコの言葉に、アシェルナオは改めて自分の軽率な行動を後悔した。
「……エルと、ルル。2人は……テュコが好きだから、テュコを解放して、自分たちとの仲をとりもってほしい、って……」
いろんな感情がないまぜになりながらアシェルナオが白状すると、テュコとシーグフリードは顔を見合わせた。
5人の男たちを捕縛していたエルランデル騎士団の者たちも、動きを止めて、涙の乾かないアシェルナオを見つめる。
「ほおぉぉぉぉぉっ」
テュコは言葉にならない低いうなり声をあげ、怒りに胸を震わせる。
「なるほど……」
シーグフリードは、アシェルナオが悲嘆にくれた原因を知り、静かな怒りをたたえた顔で頷いた。
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