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第3部

スウェット

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 アルテアンが最初に作った生地はジャージー生地だった。

 伸縮性があり、軽くて動きやすい生地は機能的だが着心地も快適で、エルランデル公爵領では作業着や子供服として流通が始まっている。

 騎士や領兵たちのトレーニングウェアにも採用され、エルランデル公爵家の家紋がついたジャージの上下は、トップスが薄いグレーがかったブルーで、パンツは黒。どちらにも幾何学模様のようなラインが入っており、アシェルナオが見てもスタイリッシュでかっこいいジャージだった。

 騎士たちからも、動きやすい、汗がすぐ乾くと評判だったが、何より見た目のよさと楽さが好評だった。

 ジャージー生地が完成したあとで、アシェルナオ待望の汗を吸う生地のスウェットが完成していたのだが、今回アルテアンが作ってくれたのは、ビッグシルエットのグレーのスウェットパーカーに、濃紺のスウェットパンツだった。

 ナオのデザイン画をもとに作られたのだが、シンプルながら洗練されてもいて、着心地もよかった。

 アルテアンのおかげなのだが、また以前のようなスウェットが着れることが嬉しくて、

 「どう?」

 アシェルナオは腹部に対称に作られたポケットに手をいれて得意げにポーズを決める。

 「よくお似合いですよ。何を着ても可愛いですが、一段と可愛いです」

 常から、うちのナオ様が一番可愛いと思っているテュコだが、自分とお揃いのスウェットを着ているアシェルナオはこれ以上なく可愛くて、目を細める。

 「ありがとう。テュコもよく似合っているよ。今度アルテアンに『チーム ナオ』って刺繍してもらおうか」

 アシェルナオは、いい事を思いついた、とばかりにテュコに提案する。

 「いいですね」

 自分もアシェルナオのチームの一員だとお墨付きをもらったことに、テュコは笑顔になった。

 スニーカーはまだできないが、それに近い運動しやすい靴も作っており、アシェルナオとテュコはその靴に履き替えていた。

 「ナオ様。午前中は軽く体をほぐし、午後からランニングにしましょう」

 テュコに言われて、アシェルナオは頷く。

 「わかった。ストレッチは大事だからね。しっかりやると激しい運動をしても怪我しにくいし」

 「エルランデル騎士団の団長が、今度ナオ様に訓練前のウォーミングアップについてご高説を賜りたいと言っていましたよ」

 「知ってる範囲のストレッチとかウォーミングアップを教えることがご高説とか、恥ずかしすぎるからやめて。誰かにこっそり教えるから、その人が考えたことにして」

 ブンブンと首を振るアシェルナオ。

 ジャージもスウェットもストレッチも、自分が考案したものではなく、それを褒めたたえられることが、アシェルナオはおこがましくて申し訳なかった。

 「騎士たちは乗馬の訓練や剣の稽古、実践訓練はありますが、我々はあまり走らないのですよ。そのためのストレッチという概念もありませんでした。貴族は動かないことが美徳みたいなところもありますが、ナオ様が時折走られていることに感銘を受けているんですよ。どこの騎士団にもないような素晴らしいトレーニングを、トレーニングウェアという動きやすくて快適で、見た目にもスマートな服を配布してもらってできることを喜んでいましたからね。ますますナオ様を崇拝してるようです」

 「困る。あとでそっとデュルフェルに教えるから、デュルフェルから伝えてって言っておいて」

 さらにブンブンと首を振るアシェルナオ。

 「わかりました。デュルフェルは知っていると思いますが、騎士たちもナオ様が結婚してエルランデル公爵家を出て行く日が近いと察して、今のうちにたくさん繋がっていたいと思ってるのでしょう。ナオ様はエルランデル公爵家だけでなく、公爵家に仕える者たちすべての宝物ですからね」

 「僕なんか、部屋の中で過ごすことがほとんどだったから、会ったことのない人までそう思ってるの、よくわからない」

 アシェルナオは困惑げに呟く。

 「オリヴェル様を慕う者たちが、オリヴェル様が大事にされているナオ様を特別に思うのは当然だと思いますよ」

 「そうなんだ。でも僕、ヴァルと結婚しても、父様や母様に会いにしょっちゅう帰ってくると思うよ?」
 
 首をかしげるアシェルナオに、

 「それでも、他の家にとられてしまうのは寂しいんですよ」

 そう言って困ったように笑みを浮かべるテュコも、とても寂しそうに見えた。

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