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第3部

魔獣とステイ

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 「いやぁぁぁぁぁん。今日も最っ高に可愛いですぅぅ」

 アシェルナオの自室の1階のホールに、甲高い男の声が響く。

 「なんだなんだ」

 「魔獣か」

 自室にいたエルとルルが奇妙な雄たけびを耳にして、ダイニングの奥のドアを開けて飛びこんできた。

 2人の目に飛び込んできたのは、ホールでピチピチの紫のドレスシャツを着た大柄な筋肉質の男が、くるくる巻き毛の褐色の髪と同じように身をくねらせている姿だった。

 「誰だ……?」

 「魔獣……か?」

 大柄な男を前に立ちすくむエルとルル。

 「あら、なぁに? どこに魔獣が……まあ、双子」

 ホールに現れたエルとルルを見て、大柄な男ーアルテアンーが動きを止める。

 そしてエルとルルをじっくり上から下まで眺めたあと、

 「こんなに萌えない双子は初めてね」

 あからさまに肩を落として呟いた。

 「なんだよ、萌えないって!」

 自分たちに失望したことが悔しくてルルが反論する。

 アルテアンの印象があまりに強かったエルは、アルテアンとその助手の陰になっていたテュコとアイナ、ドリーンに初めて気づいた。

 「テュコ先輩、この人は?」

 「私はアルテアンよ。ずっと前からナオ様の専属の仕立て師をやっているの。今日はナオ様の16歳の誕生日だから、お祝い会で着る服を持ってきたのよ」

 テュコに言わせずに自分で自己紹介すると、アルテアンは自分の体の陰になっていたアシェルナオをエルとルルの目にさらす。

 「どう?」

 そう言ってくるりと回るアシェルナオは、エルとルルが見たことのない服を着ていた。

 上衣は前合わせの立襟で、アシェルナオの華奢な体の線がわかる脛までの長衣だった。薄くて光沢のある布地で、両脇に腰の位置まで深くスリットが入っている。色は精霊の泉とヴァレリラルドの瞳の色であるシアンブルーで、サネルマの花の刺繍が美しかった。

 下衣は白の光沢のある生地のストレートパンツで、やはりサネルマの花の刺繍が施されていた。

 黒髪は高い位置でツインテールにされ、くるくると綺麗なカールを描いていた。

 「見たことのない服だけど、似合ってるよ」

 素直に賞賛するエルと、

 「黙ってると絶世の美少女なんだけどなぁ」

 少しの失望を隠せないルル。
 
 「アルテアンに僕の住んでいたところの民族衣装を教えたんだけど、それをヒントに作ったんだって。きっとこれはアオザイだね? なんだかコスプレみたい」

 アシェルナオは深いスリットのある上衣を見て言った。

 「絶対ナオ様に似合うと思いました。もう、想像以上にかっわいいですぅ。って、コスプレってなんです?」

 聞きなれない言葉だが、何かがアルテアンの心に刺さった。

 「コスチュームプレイの略だよ。アニメとかゲーム……んー、説明するのは難しいけど、誰もが知っている架空の誰かに扮すること、かな? メイドじゃないのにメイドの格好をして楽しむとか」

 「仮装パーティーみたいなものかしら? よくわからないけどすっごく萌える言葉ね。私の仕立て師としての感性が刺激されて、なんだか興奮しちゃう。創作意欲がわくわぁ。いい服が作れそうよ。ナオ様、これからも私の作った服を着てね」

 感動のあまりアシェルナオに抱き着いてキスしようとするのをテュコが羽交い締めにして阻止する。
 
 「ああ……うん。ずっと前からの約束だからね」

 アルテアンの服は、本人の外見に反して突飛すぎず、洗練された上品なものが多い。だが興奮しているアルテアンを見ると、コスプレと言う言葉を教えたのは間違いだったかもしれないと少しだけ後悔するアシェルナオだった。

 「ええ。ずっと前から」
 
 ずっと前のことを思い出して、アルテアンはテュコの腕の中で再びアシェルナオを抱きしめようと暴れだす。

 「アルテアン、ステイ。ナオ様、そろそろサロンに行きましょう」

 そろそろ招待客が集まっている頃で、テュコがアシェルナオを促す。

 「はーい」

 「ではあらためまして、ナオ様。16歳のお誕生日おめでとうございます。その可愛い衣装でたくさんお祝いしてもらってね」

 ステイと言われて落ち着いたアルテアンが、目を細めて自信作の服と自慢のモデルであるアシェルナオを見る。

 「うん、ありがとう。アルテアン。またねぇ」

 アシェルナオはアルテアンに手を振って、テュコ、アイナ、ドリーンに囲まれながらサロンに向かって行った。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 風邪で服用している薬のせいで眠気が半端ないです。
 思うように書けなくてすみません。
          

 

 
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