245 / 416
第3部
よいとはいえない
しおりを挟む
「ナオ様、どうかしましたか?」
演奏を終えたブロームが動揺しているアシェルナオのもとに歩み寄る。
「箱に入れてもらってて、よかった」
ブロームに心情を吐露するアシェルナオ。
「なんの話です?」
アシェルナオの言ってる意味がわからないブロームだったが、
「アシェルナオは箱入り息子だって話ですよ、ブローム先生」
ハルネスに言われて納得した。
「ご両親と兄上に大事にされていますからね。ナオ様、今日はこれでおしまいでしたね? 帰りの馬車は私もご一緒させてもらいます」
「先生はもう授業はないの?」
「ええ。それにさきほどシーグフリード様から、今日は早く帰ってきてほしいと連絡が入ったんです」
「兄様が? じゃあ今日は兄様も早く帰ってくる?」
途端に綺麗な顔に喜色を浮かべるアシェルナオ。
ヴァレリラルドの側近であるシーグフリードは、なるべく朝食か夕食を一緒に摂るようにしてくれてはいるが、ゆっくりと話ができる機会は少なかった。
「ええ、おそらく」
「じゃあ、早く帰ろう? みんなも帰る?」
「ええ、帰りましょう」
家族から可愛がられているが、同じように家族が大好きなアシェルナオに、クラースたちは笑顔で同意した。
エルランデル公爵家の馬車寄せに着くと、先に降りたテュコに補助されてアシェルナオが馬車を降りる。その後に続いてブロームが降り立つと、出迎えた執事のデュルフェルが一礼する。
「おかえりなさいませ、アシェルナオ様、ブローム様。お部屋でシーグフリード様とお客人がお待ちです」
「お客人?」
部屋に通すくらいだから知り合いだろうが、誰だろうとアシェルナオはテュコとブロームを交互に見た。
「その方と会わせるために、私に早く帰ってくるように言われたのでしょう」
なんとなく事情を察してブロームが言うと、アシェルナオも納得して本館の最奥にある自分の部屋に向かった。
部屋といっても1階と2階に分かれた広い空間で、2階がアシェルナオの居住空間になっている。1階はホールやダイニング、その奥にゲストルームがあり、ブロームはそのゲストルームの一室を使っていた。
テュコが扉を開けると、いつものようにアイナとドリーンが出迎えていた。
「おかえりなさいませ、ナオ様。ブローム様」
「シーグフリード様たちがお待ちです」
2人に言われてアシェルナオはホールのソファセットに目を向ける。
「兄様!」
「おかえり、アシェルナオ」
シーグフリードは立ち上がるとアシェルナオが急ぎ足でやってくるのを待ってハグする。
「ただいま、兄様。お早いお帰りで嬉しいです。……エルるん、ケルるん?」
ハグを返すアシェルナオは長椅子に座っているエルとルルを見て目を見開く。
「お久しぶりだな、ナオ様……。何年か会ってないうちに成長して綺麗になったなぁ」
「中身はアレだが、すごい美人になってる……。お久しぶりです、テュコ先輩」
立ち上がって挨拶をするエルとルルを見て、
「どういうことです?」
テュコは訝し気にシーグフリードに説明を求める。
「帰って来たばかりですまないが、ここに座ってくれるかい、アシェルナオ。ブローム先生もおかけください」
シーグフリードはソファに座りながら、自分の横の席をアシェルナオに勧める。
「シーグフリード様、ご紹介いただけますか?」
促されて1人掛けの椅子に座りながらブロームがエルとルルを見つめる。
「ブローム先生、髪が跳ねてないのがエルことオーケリエルム・アレクサンデション。跳ねてるのがオーケルルンド・アレクサンデション。エルは魔法や魔法陣で、ルルは魔道具の制作で、魔法省でも重要な位置にいる天才です。6年前に1年ほどここに住んでいました。エル、ルル。ブローム先生はエルフの血を引く、王立学園の教師だ。縁あってここに滞在してもらっている」
「エルフ……初めて見た。俺はエルと呼んでください」
「っていうか、髪だけで判断してるんですか。……ルルです」
「ブロームです。純血のエルフから何代もたっているんですが、先祖返りのようで精霊を身近に感じることができますし、普通の人間では感じられないものも感じることができます。たとえば、エルとルルの纏う空気があまりよいとはいえない、とか」
エルとルルを見つめたままでブロームが言った。
「よくない? 悪い気なの?」
アシェルナオが呼びかけると精霊たちがアシェルナオの周りに集まった。
『悪い気とはいえないねー』
『だからといって、いい人間とはいえないねー』
『わかんないねー』
『わかんないねー』
ねーねーと言い合う精霊たち。
「精霊たちはなんと?」
精霊の言葉を聞いて首を捻るアシェルナオに、精霊の言葉は聞こえないブロームが尋ねる。
「悪い気とはいえないけど、いい人間とはいえない、わかんない、って」
「そうですか。私にはなんとなく災難の相が見えますが……」
「災難といえば災難なんだが」
アシェルナオとブロームの話を聞いて、シーグフリードが考え込む。
「だめです。帰れ」
考えるまでもない、と言いたげにテュコが断言した。
演奏を終えたブロームが動揺しているアシェルナオのもとに歩み寄る。
「箱に入れてもらってて、よかった」
ブロームに心情を吐露するアシェルナオ。
「なんの話です?」
アシェルナオの言ってる意味がわからないブロームだったが、
「アシェルナオは箱入り息子だって話ですよ、ブローム先生」
ハルネスに言われて納得した。
「ご両親と兄上に大事にされていますからね。ナオ様、今日はこれでおしまいでしたね? 帰りの馬車は私もご一緒させてもらいます」
「先生はもう授業はないの?」
「ええ。それにさきほどシーグフリード様から、今日は早く帰ってきてほしいと連絡が入ったんです」
「兄様が? じゃあ今日は兄様も早く帰ってくる?」
途端に綺麗な顔に喜色を浮かべるアシェルナオ。
ヴァレリラルドの側近であるシーグフリードは、なるべく朝食か夕食を一緒に摂るようにしてくれてはいるが、ゆっくりと話ができる機会は少なかった。
「ええ、おそらく」
「じゃあ、早く帰ろう? みんなも帰る?」
「ええ、帰りましょう」
家族から可愛がられているが、同じように家族が大好きなアシェルナオに、クラースたちは笑顔で同意した。
エルランデル公爵家の馬車寄せに着くと、先に降りたテュコに補助されてアシェルナオが馬車を降りる。その後に続いてブロームが降り立つと、出迎えた執事のデュルフェルが一礼する。
「おかえりなさいませ、アシェルナオ様、ブローム様。お部屋でシーグフリード様とお客人がお待ちです」
「お客人?」
部屋に通すくらいだから知り合いだろうが、誰だろうとアシェルナオはテュコとブロームを交互に見た。
「その方と会わせるために、私に早く帰ってくるように言われたのでしょう」
なんとなく事情を察してブロームが言うと、アシェルナオも納得して本館の最奥にある自分の部屋に向かった。
部屋といっても1階と2階に分かれた広い空間で、2階がアシェルナオの居住空間になっている。1階はホールやダイニング、その奥にゲストルームがあり、ブロームはそのゲストルームの一室を使っていた。
テュコが扉を開けると、いつものようにアイナとドリーンが出迎えていた。
「おかえりなさいませ、ナオ様。ブローム様」
「シーグフリード様たちがお待ちです」
2人に言われてアシェルナオはホールのソファセットに目を向ける。
「兄様!」
「おかえり、アシェルナオ」
シーグフリードは立ち上がるとアシェルナオが急ぎ足でやってくるのを待ってハグする。
「ただいま、兄様。お早いお帰りで嬉しいです。……エルるん、ケルるん?」
ハグを返すアシェルナオは長椅子に座っているエルとルルを見て目を見開く。
「お久しぶりだな、ナオ様……。何年か会ってないうちに成長して綺麗になったなぁ」
「中身はアレだが、すごい美人になってる……。お久しぶりです、テュコ先輩」
立ち上がって挨拶をするエルとルルを見て、
「どういうことです?」
テュコは訝し気にシーグフリードに説明を求める。
「帰って来たばかりですまないが、ここに座ってくれるかい、アシェルナオ。ブローム先生もおかけください」
シーグフリードはソファに座りながら、自分の横の席をアシェルナオに勧める。
「シーグフリード様、ご紹介いただけますか?」
促されて1人掛けの椅子に座りながらブロームがエルとルルを見つめる。
「ブローム先生、髪が跳ねてないのがエルことオーケリエルム・アレクサンデション。跳ねてるのがオーケルルンド・アレクサンデション。エルは魔法や魔法陣で、ルルは魔道具の制作で、魔法省でも重要な位置にいる天才です。6年前に1年ほどここに住んでいました。エル、ルル。ブローム先生はエルフの血を引く、王立学園の教師だ。縁あってここに滞在してもらっている」
「エルフ……初めて見た。俺はエルと呼んでください」
「っていうか、髪だけで判断してるんですか。……ルルです」
「ブロームです。純血のエルフから何代もたっているんですが、先祖返りのようで精霊を身近に感じることができますし、普通の人間では感じられないものも感じることができます。たとえば、エルとルルの纏う空気があまりよいとはいえない、とか」
エルとルルを見つめたままでブロームが言った。
「よくない? 悪い気なの?」
アシェルナオが呼びかけると精霊たちがアシェルナオの周りに集まった。
『悪い気とはいえないねー』
『だからといって、いい人間とはいえないねー』
『わかんないねー』
『わかんないねー』
ねーねーと言い合う精霊たち。
「精霊たちはなんと?」
精霊の言葉を聞いて首を捻るアシェルナオに、精霊の言葉は聞こえないブロームが尋ねる。
「悪い気とはいえないけど、いい人間とはいえない、わかんない、って」
「そうですか。私にはなんとなく災難の相が見えますが……」
「災難といえば災難なんだが」
アシェルナオとブロームの話を聞いて、シーグフリードが考え込む。
「だめです。帰れ」
考えるまでもない、と言いたげにテュコが断言した。
69
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる