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第3部

ナオ、ナオナオに会いたい

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 「……というわけだ。お前にはずっと隠していて本当にすまないと思う」

 梛央が消えた日に女神がエルランデル公爵夫妻の夢に現れたこと。宿った子供は愛し子の証を持つ黒目黒髪の子供で、アシェルナオと命名したこと。6歳の誕生日にテュコやオルドジフたちにはお披露目されていたこと。10歳の誕生日に洗礼を受け、秋葉梛央の記憶が戻ったこと。などを説明すると、ベルンハルドは我が子に頭をさげた。

 「事情はわかりました。私にだけ伏せられていたのはまだ心が動揺していますが、それでも3年前のスタンピードの際に父上が何か言いたげにしておられたことは覚えています」

 3年前のことを思い出しているヴァレリラルドの膝の上にはアシェルナオがちょこんと座っていた。

 ようやく会うことができた梛央の生まれ変わりであるアシェルナオを、ヴァレリラルドはひと時も離していたくないとばかりに後ろから手をのばして抱きしめていた。

 何かあればオルドジフやオリヴェル、シーグフリードの膝に座っていたアシェルナオは、この体勢を自然に受け入れて馴染んでいる。

 『よかったねー、ナオ』
 
 『いちゃいちゃだねー』

 『あの時は泣いていたよねー』

 『おめでとー』

 『ちゅっちゅー』

 色つきの精霊たちがアシェルナオの周りでくるくると踊っている。

 思えば精霊たちはヴァレリラルドの卒業式で自分の小ささに泣いていたアシェルナオを慰め、応援してくれていた。

 あの時に泣いていたナオが、今は笑って、思う相手と仲睦まじくしているのは精霊たちにも嬉しいことだった。 

 ありがとうね、とアシェルナオが言うと、精霊たちはますますくるくると踊りだす。

 「あの時は、万が一お前に何かあった場合、アシェルナオのことを言わないままでいいのかと悩んだんだ。だが、私はお前は絶対に生きて還ってくると信じることにした。だから言わなかったんだ」

 ベルンハルドの言葉に、ヴァレリラルドも頷く。

 「ナオが来てくれなければ危うかったです。実際、死を覚悟しました。……私を助けてくれたのは雪うさぎだと思っていたのですが、10歳のアシェルナオがボスカルバングに立ち向かったのかと思うと、嬉しい以上に、今更ながらに心臓がとまるような思いになります。ナオが成長するまで私と会わせないと決めたエルランデル公爵の心情もわかります」

 ヴァレリラルドはオリヴェルにもここにいる者たちにも、自分のためにアシェルナオが危険に身を投じたことを申し訳なく思った。

 「おわかりいただけて嬉しいですよ。本当は16歳の成人まで大切に隠しておきたかったのですが、シーグフリードが招待したのであれば」

 仕方ありません、という言葉を飲み込むオリヴェルは、隣に座るベルンハルドに視線を向けて「コホン」と咳をする。

 あからさまに『うちの可愛い天使をお膝抱っこできる権利はまだ公爵家にあるんだが』と言いたげなオリヴェルに、

 「ヴァレリラルドは雪うさぎを捕まえるのがうまいんだ。ナオナオも一度で捕獲したからな」

 『13年ぶりの再会なんだ。これくらいは大目に見てやれ』の眼差しでオリヴェルを見ながらベルンハルドが口を滑らす。

 「父上!」

 ヴァレリラルドが咎めるようにベルンハルドを見た。
 
 「ナオナオ?」

 アシェルナオは膝の上からヴァレリラルドを見上げる。

 「3年前のスタンピードのあとで母上とアネシュカも一緒に冬の離宮に静養に行ったんだ。そこで雪うさぎを見つけて……無性に愛しくなって、捕獲して飼っているんだ。当時は助けてくれたのが雪うさぎだと思っていたから、身近に置きたくて」

 自分を見上げてくるアシェルナオの可愛さに、ヴァレリラルドは抱きしめる手に力をこめる。

 「置いてるの? ナオナオって名前なの?」

 「……ナオって呼びかけていたら、いつの間にか」

 照れ笑いをするヴァレリラルドに、

 「雪うさぎにナオナオと名付けたと? どれだけうちのアシェルナオが好きなんだ」

 「うちの」を強調するシーグフリード。

 ヴァレリラルドにアシェルナオの正体を明かしはしたが、だからといってそう簡単には可愛い弟を手放す気はなかった。

 「雪うさぎ、ナオナオって言うんだ。かわいいねぇ。僕、本物の雪うさぎ見たことないよ? 本当に目は蒼いの? 寒くなくても大丈夫なの?」

 「雪うさぎナオが一番可愛いけどね、蒼いよ。ナオ、私はいま星の離宮に住んでいるんだ。そこにナオナオの温室もあるよ。お泊りに来るかい?」

 「ナオ様!」

 本日二度目のテュコの制止は、

 「えーと、うーん、いいよ? 修学旅行としてお泊り会した時以来だね」

 またもやアシェルナオの笑顔に打ち砕かれた。

 「あらあら。あなた、よろしいの?」

 さすがにプロポーズの相手とのお泊りはどうかと躊躇うパウラがオリヴェルの様子をうかがう。

 「いくらアシェルナオがまだ子供でも、年頃の王太子殿下とお泊りするのは……」

 眉間に皺を寄せてしぶるオリヴェル。

 「だめですか? 父様。僕、ナオナオに会いたいです」

 「だめです」

 おねだりするアシェルナオが可愛いあまりにオリヴェルがつい許してしまう前に、テュコが断言した。



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