227 / 416
第3部
ナオ、ナオナオに会いたい
しおりを挟む
「……というわけだ。お前にはずっと隠していて本当にすまないと思う」
梛央が消えた日に女神がエルランデル公爵夫妻の夢に現れたこと。宿った子供は愛し子の証を持つ黒目黒髪の子供で、アシェルナオと命名したこと。6歳の誕生日にテュコやオルドジフたちにはお披露目されていたこと。10歳の誕生日に洗礼を受け、秋葉梛央の記憶が戻ったこと。などを説明すると、ベルンハルドは我が子に頭をさげた。
「事情はわかりました。私にだけ伏せられていたのはまだ心が動揺していますが、それでも3年前のスタンピードの際に父上が何か言いたげにしておられたことは覚えています」
3年前のことを思い出しているヴァレリラルドの膝の上にはアシェルナオがちょこんと座っていた。
ようやく会うことができた梛央の生まれ変わりであるアシェルナオを、ヴァレリラルドはひと時も離していたくないとばかりに後ろから手をのばして抱きしめていた。
何かあればオルドジフやオリヴェル、シーグフリードの膝に座っていたアシェルナオは、この体勢を自然に受け入れて馴染んでいる。
『よかったねー、ナオ』
『いちゃいちゃだねー』
『あの時は泣いていたよねー』
『おめでとー』
『ちゅっちゅー』
色つきの精霊たちがアシェルナオの周りでくるくると踊っている。
思えば精霊たちはヴァレリラルドの卒業式で自分の小ささに泣いていたアシェルナオを慰め、応援してくれていた。
あの時に泣いていたナオが、今は笑って、思う相手と仲睦まじくしているのは精霊たちにも嬉しいことだった。
ありがとうね、とアシェルナオが言うと、精霊たちはますますくるくると踊りだす。
「あの時は、万が一お前に何かあった場合、アシェルナオのことを言わないままでいいのかと悩んだんだ。だが、私はお前は絶対に生きて還ってくると信じることにした。だから言わなかったんだ」
ベルンハルドの言葉に、ヴァレリラルドも頷く。
「ナオが来てくれなければ危うかったです。実際、死を覚悟しました。……私を助けてくれたのは雪うさぎだと思っていたのですが、10歳のアシェルナオがボスカルバングに立ち向かったのかと思うと、嬉しい以上に、今更ながらに心臓がとまるような思いになります。ナオが成長するまで私と会わせないと決めたエルランデル公爵の心情もわかります」
ヴァレリラルドはオリヴェルにもここにいる者たちにも、自分のためにアシェルナオが危険に身を投じたことを申し訳なく思った。
「おわかりいただけて嬉しいですよ。本当は16歳の成人まで大切に隠しておきたかったのですが、シーグフリードが招待したのであれば」
仕方ありません、という言葉を飲み込むオリヴェルは、隣に座るベルンハルドに視線を向けて「コホン」と咳をする。
あからさまに『うちの可愛い天使をお膝抱っこできる権利はまだ公爵家にあるんだが』と言いたげなオリヴェルに、
「ヴァレリラルドは雪うさぎを捕まえるのがうまいんだ。ナオナオも一度で捕獲したからな」
『13年ぶりの再会なんだ。これくらいは大目に見てやれ』の眼差しでオリヴェルを見ながらベルンハルドが口を滑らす。
「父上!」
ヴァレリラルドが咎めるようにベルンハルドを見た。
「ナオナオ?」
アシェルナオは膝の上からヴァレリラルドを見上げる。
「3年前のスタンピードのあとで母上とアネシュカも一緒に冬の離宮に静養に行ったんだ。そこで雪うさぎを見つけて……無性に愛しくなって、捕獲して飼っているんだ。当時は助けてくれたのが雪うさぎだと思っていたから、身近に置きたくて」
自分を見上げてくるアシェルナオの可愛さに、ヴァレリラルドは抱きしめる手に力をこめる。
「置いてるの? ナオナオって名前なの?」
「……ナオって呼びかけていたら、いつの間にか」
照れ笑いをするヴァレリラルドに、
「雪うさぎにナオナオと名付けたと? どれだけうちのアシェルナオが好きなんだ」
「うちの」を強調するシーグフリード。
ヴァレリラルドにアシェルナオの正体を明かしはしたが、だからといってそう簡単には可愛い弟を手放す気はなかった。
「雪うさぎ、ナオナオって言うんだ。かわいいねぇ。僕、本物の雪うさぎ見たことないよ? 本当に目は蒼いの? 寒くなくても大丈夫なの?」
「雪うさぎナオが一番可愛いけどね、蒼いよ。ナオ、私はいま星の離宮に住んでいるんだ。そこにナオナオの温室もあるよ。お泊りに来るかい?」
「ナオ様!」
本日二度目のテュコの制止は、
「えーと、うーん、いいよ? 修学旅行としてお泊り会した時以来だね」
またもやアシェルナオの笑顔に打ち砕かれた。
「あらあら。あなた、よろしいの?」
さすがにプロポーズの相手とのお泊りはどうかと躊躇うパウラがオリヴェルの様子をうかがう。
「いくらアシェルナオがまだ子供でも、年頃の王太子殿下とお泊りするのは……」
眉間に皺を寄せてしぶるオリヴェル。
「だめですか? 父様。僕、ナオナオに会いたいです」
「だめです」
おねだりするアシェルナオが可愛いあまりにオリヴェルがつい許してしまう前に、テュコが断言した。
梛央が消えた日に女神がエルランデル公爵夫妻の夢に現れたこと。宿った子供は愛し子の証を持つ黒目黒髪の子供で、アシェルナオと命名したこと。6歳の誕生日にテュコやオルドジフたちにはお披露目されていたこと。10歳の誕生日に洗礼を受け、秋葉梛央の記憶が戻ったこと。などを説明すると、ベルンハルドは我が子に頭をさげた。
「事情はわかりました。私にだけ伏せられていたのはまだ心が動揺していますが、それでも3年前のスタンピードの際に父上が何か言いたげにしておられたことは覚えています」
3年前のことを思い出しているヴァレリラルドの膝の上にはアシェルナオがちょこんと座っていた。
ようやく会うことができた梛央の生まれ変わりであるアシェルナオを、ヴァレリラルドはひと時も離していたくないとばかりに後ろから手をのばして抱きしめていた。
何かあればオルドジフやオリヴェル、シーグフリードの膝に座っていたアシェルナオは、この体勢を自然に受け入れて馴染んでいる。
『よかったねー、ナオ』
『いちゃいちゃだねー』
『あの時は泣いていたよねー』
『おめでとー』
『ちゅっちゅー』
色つきの精霊たちがアシェルナオの周りでくるくると踊っている。
思えば精霊たちはヴァレリラルドの卒業式で自分の小ささに泣いていたアシェルナオを慰め、応援してくれていた。
あの時に泣いていたナオが、今は笑って、思う相手と仲睦まじくしているのは精霊たちにも嬉しいことだった。
ありがとうね、とアシェルナオが言うと、精霊たちはますますくるくると踊りだす。
「あの時は、万が一お前に何かあった場合、アシェルナオのことを言わないままでいいのかと悩んだんだ。だが、私はお前は絶対に生きて還ってくると信じることにした。だから言わなかったんだ」
ベルンハルドの言葉に、ヴァレリラルドも頷く。
「ナオが来てくれなければ危うかったです。実際、死を覚悟しました。……私を助けてくれたのは雪うさぎだと思っていたのですが、10歳のアシェルナオがボスカルバングに立ち向かったのかと思うと、嬉しい以上に、今更ながらに心臓がとまるような思いになります。ナオが成長するまで私と会わせないと決めたエルランデル公爵の心情もわかります」
ヴァレリラルドはオリヴェルにもここにいる者たちにも、自分のためにアシェルナオが危険に身を投じたことを申し訳なく思った。
「おわかりいただけて嬉しいですよ。本当は16歳の成人まで大切に隠しておきたかったのですが、シーグフリードが招待したのであれば」
仕方ありません、という言葉を飲み込むオリヴェルは、隣に座るベルンハルドに視線を向けて「コホン」と咳をする。
あからさまに『うちの可愛い天使をお膝抱っこできる権利はまだ公爵家にあるんだが』と言いたげなオリヴェルに、
「ヴァレリラルドは雪うさぎを捕まえるのがうまいんだ。ナオナオも一度で捕獲したからな」
『13年ぶりの再会なんだ。これくらいは大目に見てやれ』の眼差しでオリヴェルを見ながらベルンハルドが口を滑らす。
「父上!」
ヴァレリラルドが咎めるようにベルンハルドを見た。
「ナオナオ?」
アシェルナオは膝の上からヴァレリラルドを見上げる。
「3年前のスタンピードのあとで母上とアネシュカも一緒に冬の離宮に静養に行ったんだ。そこで雪うさぎを見つけて……無性に愛しくなって、捕獲して飼っているんだ。当時は助けてくれたのが雪うさぎだと思っていたから、身近に置きたくて」
自分を見上げてくるアシェルナオの可愛さに、ヴァレリラルドは抱きしめる手に力をこめる。
「置いてるの? ナオナオって名前なの?」
「……ナオって呼びかけていたら、いつの間にか」
照れ笑いをするヴァレリラルドに、
「雪うさぎにナオナオと名付けたと? どれだけうちのアシェルナオが好きなんだ」
「うちの」を強調するシーグフリード。
ヴァレリラルドにアシェルナオの正体を明かしはしたが、だからといってそう簡単には可愛い弟を手放す気はなかった。
「雪うさぎ、ナオナオって言うんだ。かわいいねぇ。僕、本物の雪うさぎ見たことないよ? 本当に目は蒼いの? 寒くなくても大丈夫なの?」
「雪うさぎナオが一番可愛いけどね、蒼いよ。ナオ、私はいま星の離宮に住んでいるんだ。そこにナオナオの温室もあるよ。お泊りに来るかい?」
「ナオ様!」
本日二度目のテュコの制止は、
「えーと、うーん、いいよ? 修学旅行としてお泊り会した時以来だね」
またもやアシェルナオの笑顔に打ち砕かれた。
「あらあら。あなた、よろしいの?」
さすがにプロポーズの相手とのお泊りはどうかと躊躇うパウラがオリヴェルの様子をうかがう。
「いくらアシェルナオがまだ子供でも、年頃の王太子殿下とお泊りするのは……」
眉間に皺を寄せてしぶるオリヴェル。
「だめですか? 父様。僕、ナオナオに会いたいです」
「だめです」
おねだりするアシェルナオが可愛いあまりにオリヴェルがつい許してしまう前に、テュコが断言した。
58
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる