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第3部

握りつぶしています

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 王立学園。

 13歳から15歳が通う初等科では、教養と剣術、魔法の基礎を学ぶ。

 その内容は男子でも女子でも同じで、この世界では女子でも身長が高いことをアイナとドリーンで知っているアシェルナオに違和感などなかった。

 初等科の授業は午前中で終わり、初等科の制服に身を包んだアシェルナオは、ハルネス、クラース、トシュテン、スヴェンとともに初等科の校舎を音楽室に向けて移動していた。

 可愛らしい顔と人懐こい表情が人好きのする伯爵家次男のハルネス。侯爵家嫡男の容姿端麗なクラース。子爵家の嫡男だが、母はそこらの貴族よりも歴史のある、商業ギルドに強い影響を持つ裕福な商家の出身のトシュテン。

 美人のサリアンの血を引くだけあって整った顔立ちをしているが、上背があり眼光の鋭いスヴェン。

 公爵家次男という家柄の良さと、今は可愛いが先に立つが、将来はとんでもない美貌の持ち主になるだろうことが安易に想像できるアシェルナオ。

 校舎と校舎のあいだを結ぶ回廊を進むその集団は学年を超えて目立つもので、生徒たちの視線を集めていたが、アシェルナオはそれに気づかずにのほほんとした笑顔を見せていた。

 誰もいない音楽室に入ると、

 「アシェルナオ、新聞読んだ?」

 この話題を早く切り出したくて仕方なかったハルネスが言った。

 「ううん、読んでないよ?」

 アシェルナオはほわりと小首を傾げて見せる。

 「王太子の記事が載ってるんだよ、ほら」

 ハルネスが机に新聞を広げる。

 アシェルナオは『王太子妃選定について』という見出しを見て、奪うように新聞を手に取り読み始めた。

 読み進めるうちに、選定のための舞踏会の開催を進言されたヴァレリラルドが拒否したこと、自分が選んだ者が妃になると言ったことを知り、アシェルナオは少し安堵した。

 それにしても。

 一定の時期までに王太子妃候補が現れなければエンゲルブレクトが選んだ者と見合いをするという記事に、アシェルナオは一抹の不安を感じる。

 ヴァレリラルドがお見合いをするかもしれないこともだが、それ以上にエンゲルブレクトという名前が、意味も分からずアシェルナオを不安な気持ちにさせるのだ。

 「ハル、勝手に新聞を持ってきたら伯爵に怒られるんじゃないのか?」

 心配するトシュテンに、

 「大丈夫。うちは2部とってるから」

 ハルネスは笑いながら言った。

 「うちも複数とってるよ。新聞とはありがたいものができたものだと、父上も喜んでおられる」

 クラースも頷く。

 「そうなんだ。エルとルルの初仕事が順調でよかった」

 アシェルナオは小さく呟く。

 他国から狙われるほど魔法陣の知識と魔法の技量に長けるエルと、魔道具の制作は天才的なルルを保護するため、ベルンハルドは2年前に魔法省を新設していた。

 魔法の研究、魔法陣の研究、魔道具の制作、他国への交渉を目的としているが、エルとルルが研究と制作に専念するためのものと言っても過言ではなかった。

 だが魔法省内外の者に、まだ若い2人の存在意義を知らしめるためにも、最初に華々しい成果をあげるものを発表する必要があった。

 曲を作って譜面に起こしたいと思っても今の紙は固くて、くしゃくしゃに丸めて捨てるのに罪悪感を持っていたアシェルナオが、薄くて安価な紙の製造をエルとルルにリクエストし、そこから大量に印刷する技術があればいい、それなら正確な情報を国から国民に発信するのに使える、という話がトントン拍子に進んだ結果、新聞の普及につながっていた。 

 「そうじゃなくて、王太子殿下だよ! 美形で凛々しくあられるのに、スタンピードのボスまで倒しちゃう剣の達人なんだよ! 王太子妃選定の舞踏会がなくなったのが悲しいって、王国中の年頃の子女がそう思ってるよ! 僕もそうだよ! アシェルナオもそうだよね?!」

 すごい剣幕でハルネスに言われ、

 「う、うん・・・」

 アシェルナオは煮え切らない返事しかできなかった。

 「アシェルナオは王太子殿下に興味ない? 王太子はすごい人気なんだよ? 王太子の妃になりたいって思う人はたくさんいるんだよ?」

 「僕、まだ子供だから・・・」

 まだ小さいから、もし今王太子妃選定の舞踏会があったとしても参加させてもらえないだろう。けれどそれは当然なのだ。

 13歳になっても思うように大きくなっていない自分では、ふさわしくないのだ。

 しょんぼりするアシェルナオに、

 「今日はアシェルナオのお誕生日でしたね。おめでとう。知ってますか? アシェルナオ。私たちはこれからが一番の成長期なんですよ。たとえ今は小さくても、この数年で大きくなれるんです」

 励ますようにクラースが言った。

 「心配しすぎると、そのせいで身長が伸びないかもしれないぞ。もっとのびのびと生きていれば、身長だって伸びるさ」

 「心配しなくても生きていればいやでも大人になるんだから、今は小さくていいじゃないか」

 スヴェンもトシュテンも励ます。

 「一緒に大きくなろう、アシェルナオ。アシェルナオくらい綺麗なら、王太子でなくても結婚相手には不自由しないよ。今でも公爵家にはアシェルナオをお嫁にほしいっていう申し込みがたくさん来てるんじゃない?」

 ハルネスに言われて、アシェルナオは首を捻る。

 「あるのかな? そんな話、一度も聞いたことないんだけど?」

 あったとしても、ヴァレリラルド以外に興味はなかった。

 首を捻って考えているアシェルナオに、ハルネスたちは、きっとオリヴェルたちが握りつぶしていることを確信した。


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