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第2部

ぐっ

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 仲間と離れて孤立してしまった。

 「ラル、すまない」

 いつもは強気なウルリクだが、自分のせいでヴァレリラルドを巻き添えにしてしまったことを後悔していた。

 同時に、側近として護衛として、この状況で必ずヴァレリラルドを護ると覚悟もしていた。

 「謝ることじゃない。ウルにはいつも助けてもらっている。こんな時こそ護られるだけの王太子ではないことを見せなければな」

 笑顔さえ浮かべているヴァレリラルドに、ウルリクも、通信を聞いていた騎士たちも、胸が熱くなった。

 『殿下、私たちでカルバングの数を減らします。合流するまでは無理はしないで下さい』

 サミュエルの声が通信機から聞こえる。

 『ウル。今は攻撃はこらえて、全力で防御だぞ』

 ベルトルドの声に、ウルリクの眉間に皺が寄る。

 「俺はそんなに攻撃バカじゃないからな!」

 攻撃バカという自覚はあるが、そんなに、ではないと思っているのでウルリクは全力で否定する。

 ヴァレリラルドとウルリクの無事が通信機ごしに確認できたことで、統括騎士団、エンロート騎士団、シアンハウス騎士団の中の緊張がほぐれる。

 「一気にいくぞ!」

 クランツの掛け声で騎士たちが、さきほどのクランツの手段を真似てカルバングに向かっていく。

 だがカルバングの動きは巨体に似合わず俊敏で、必ずしもうまくいくわけではなかった。

 体に人間が駆け上るのを嫌ってカルバングが巨体を揺らす。

 群れの隊列が崩れ、ヴァレリラルドとウルリクのいるところにもカルバングが数頭迫ってきた。

 「ラル、頼む」

 防御だけとは言っていられない状況に、ウルリクはヴァレリラルドを見る。

 「無理するなよ」

 ヴァレリラルドは腰の高さで両手を組み合わせる。

 「すぐ戻る」

 言いながらウルリクはヴァレリラルドの組み合わせた手に片足をかけた。

 その体が跳躍のために軽く身を屈めたタイミングでヴァレリラルドもそれを補助する。

 細身で身軽なウルリクは高い跳躍でカルバングの背中に着地すると、弱点である頭部に向かう。 

 だがカルバングが体を大きく揺らし、ウルリクはその体にしがみついて振り落とされないように耐えた。

 「ウル!」

 ウルリクがカルバングに振り落とされないかと、ヴァレリラルドの意識がそちらに向く。

 『殿下、そちらにボスカルバングが移動しています!』

 叫んだのはサミュエルだった。

 身構えながら振り向くヴァレリラルドの視界にカルバングの牙があった。

 すぐに飛び退くヴァレリラルドだが、木の幹にぶつかり、体勢が一瞬崩れる。

 そこを狙ったように、カルバングの牙の切っ先がヴァレリラルドの肩を貫いた。

 「ぐっ」

 激痛を奥歯でかみ殺す。

 ボスカルバングは牙の先にヴァレリラルドを引っかけたまま走り出した。

 「ラルーッ!」

 まさかの光景に、カルバングに必死にしがみつきながらウルリクが絶叫する。

 『ウルリク! 殿下!』

 『何があった!』





 灯りを絞ってうす暗くしたホール。

 そこの長椅子に座るオリヴェルとパウラのあいだの絨毯の上に、アシェルナオは体を丸めて眠っていた。

 夜は更けており、オリヴェルもパウラも、目を閉じていた。

 テュコも少し離れた椅子に座って、アシェルナオを見ている。
 
 サリアンは時折室内を歩いて異常がないことを確認しているが、さっきのこともあり、あまりアシェルナオのそばから離れることはできなかった。

 サリアンだけではなく、目の前の空間にいきなり賊が現れるのを見たテュコもまた、どんなに警戒しても安心することはできなかった。

 「テュコも寝てていいよ」

 テュコのそばに来て、小声で囁くテュコ。

 「少し休んで明日もナオ様のそばについています、と言いたいところですが、神経が昂っているようです」

 「私も昂っているよ。あんなの反則だ。対応するにも限度があるよ。それに一度しか蹴りを入れられなかった」

 悔し気に口にするサリアン。

 「ええ、護りようがないです。ナオ様の寝室だけでも賊が侵入できないような仕掛けができないか、明日オリヴェル様に相談してみます」

 「それがいいね。できるならここ全部に仕掛けを施してほしい」

 サリアンも頷く。

 そうしてでも護る価値のあるアシェルナオなのだ。


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