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第2部

愛してる!死ねっ!

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 オルドジフがグルンドライストの執務室で一日の執務を終えた時、階下で爆音が響いた。

 「保管庫の扉の魔法陣に誰かが触れた音だ」

 グルンドライストがオルドジフに性急に告げる。

 「破られたのですか!?」

 保管庫に侵入しようとした者がいる。その者の意図に思いあたるオルドジフは食いつくように尋ねた。

 「あの扉の魔法陣は破れぬ。触れると同時に弾かれるようにしておる。オルドジフ、誰が破ろうとしたのかを見てくるのだ」

 「はっ」

 アシェルナオの記録が漏れてはいないことに安堵しながらオルドジフが駆け出すと、ハッセルバリもそれに続く。



 聞きなれぬ爆音に、神官たちのほとんどがその正体を知ろうと廊下に出てきており、神殿騎士たちも神殿内をくまなく点検している。その中を縫うようにしてオルドジフとハッセルバリは地下へと向かった。

 地下にも神殿騎士と神官が数名集まっていた。

 「誰か不審な者を見かけなかったか?」

 オルドジフの問いに、集まっていた者たちが一斉に振り向く。

 「ここには誰もおりませんでした。上にいる騎士たちからも不審人物や不審物の情報はまだ入ってきていません。あの爆音は保管庫の扉を誰かが破ろうとしていたということでしょうか」

 神殿騎士長のハルトルが言うと、オルドジフは頷く。

 「グルンドライスト様によると、何者かが保管庫に侵入しようとしたが扉の魔法陣に触れると同時に弾かれたということだ。その者が誰かを見届けるように言われたのだが」

 ハルトルはゆっくりと首を振る。

 「その者が中央統括神殿内の者であるなら、すでに集団に紛れているでしょう。その者を特定しようにも、痕跡が残っておりません」

 ハルトルも他の騎士たち、神官たちも、そのようなことをする者が内部にいるかもしれないと思うと、動揺を隠せなかった。

 「そう言えば、オルドジフ殿」

 サーブリーが進み出る。

 「なんだ?」

 「さきほど、ちょうど爆音が鳴り響いたすぐあとですが、オルドジフ殿を訪ねてきた者がおりました」

 「私を? 誰だ?」

 国内の精霊神殿を束ねる中央統括神殿の神殿長補佐であるオルドジフを訪ねてくる者は少なくはなく、オルドジフはサーブリーに尋ねる。

 「バスロ精霊神殿の神官のネルダール殿です。大変な様子なのでまたの機会にすると言われて帰られましたが」

 「ネルダール?」

 「オルドジフ殿」

 顔を見合わせるオルドジフとハッセルバリ。

 「サーブリー、ネルダールは何か言っていなかったか? なんでもいい。話したことを言ってくれ」

 「は、はい。その、グルンドライスト様は洗礼の儀式を今でもされているのか、と」

 「それで?」

 問い返しながらもオルドジフの背筋に冷たい汗が流れる。

 「洗礼の儀式はオルドジフ殿がされておられて、他の神官がすることもあると。グルンドライスト様が儀式をされるのは王族で、懇意にされておられるエルランデル公爵家には時折でかけておられるので、もしかしたら出先で洗礼の儀式をしていらっしゃるのかもしれません、と」

 「エルランデル公爵の名を出したのか!」

 オルドジフが緊迫した形相でサーブリーに詰め寄る。

 「も、申し訳ありません」

 「それで、ネルダールはなんと言ったんだ!」

 「確かエルランデル公爵家にはお子様が2人いらっしゃって、下のお子様はまだお小さかったはずで、下夜月3の風に出かけられたのでは、と……」

 「そうだと言ったのか!」

 ただでさえ厳めしい顔つきのオルドジフが食い殺さんばかりの形相で迫ってきて、サーブリーは慄きながら頷いた。

 「行くぞ、ハッセルバリ!」

 「はっ!」

 オルドジフとハッセルバリはエルランデル公爵家に向かうべく配車場へと駆け出した。

 馬車に乗り込むと、御者にエルランデル公爵家までできうる限り速く、と告げた。

 ただならぬ事態だということはオルドジフの顔からもわかり、御者は猛スピードで馬車を走らせる。

 車内でシーグフリードに連絡を入れ、状況を説明すると、エルランデル公爵家にはシーグフリードがしてくれるということで、オルドジフは窓の外を、速く速く、と願いながら見ていた。



 

 「遅くなったな、マフダル」

 サミュエルが騎士姿でシアンハウス騎士団35名を率いてソーメルスの砦に転移してきたのは日が落ちてからだった。

 「お待ちしてました、サミュエル殿」

 「状況は?」

 「確認します。通信機にこれを装着してください」

 討伐チーム用の共通の魔石をサミュエル以下、騎士たちに配布される。

 それぞれが装着し終えると、マフダルが通信機に向けて話し始める。

 「サミュエル殿たち、シアンハウス騎士団が到着した。それぞれの団に割り振りをしようと思うが、状況はどうだ? ケイレブ」

 『こっちは街道に壁を作って魔獣の群れをこぼさずにこっちに流すことに成功した。魔獣の数は3、40。小型中型がほとんどだ。中型にカルバングは含めない! そのうち半数は倒した。こっちは順調だ』

 通信機からケイレブの力強い声が響く。

 「ではそっちに応援を5名を派遣する」

 『おう!』

 「イェールオース、エンロート騎士団の状況は?」

 『中型が多め、大型もちらほらいます。総数は2、30。一頭一頭が大きくて手こずってます。癒し手がいたら派遣お願いします』

 「わかった。癒し手を含めて10名派遣する」

 『ありがとうございます!』

 戦闘中らしく、安定しない声量でイェールオースが応える。

 「殿下、そちらはどうです?」

 『中型から大型が多い。カルバングの数が多い。この場所で食い止めるのが精いっぱいで押されている状況だ』

 けれど口調は冷静なヴァレリラルドの報告に、

 『カルバングは脳天が弱点です。頭上から攻撃を。フォル、愛してる!』

 クランツの声が食い気味に聞こえてきた。

 『死ねっ!』

 フォルシウスの罵声も通信機から聞こえる。

 「殿下、そちらにサミュエル殿をはじめ応援を15名派遣します。ケイレブ隊のクランツも殿下の隊に合流しろ。討伐中の通信を私用で使われたらかなわない」

 『ありがとうございます!』

 クランツの清々しい声が通信機から聞こえた。 
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