203 / 416
第2部
愛してる!死ねっ!
しおりを挟む
オルドジフがグルンドライストの執務室で一日の執務を終えた時、階下で爆音が響いた。
「保管庫の扉の魔法陣に誰かが触れた音だ」
グルンドライストがオルドジフに性急に告げる。
「破られたのですか!?」
保管庫に侵入しようとした者がいる。その者の意図に思いあたるオルドジフは食いつくように尋ねた。
「あの扉の魔法陣は破れぬ。触れると同時に弾かれるようにしておる。オルドジフ、誰が破ろうとしたのかを見てくるのだ」
「はっ」
アシェルナオの記録が漏れてはいないことに安堵しながらオルドジフが駆け出すと、ハッセルバリもそれに続く。
聞きなれぬ爆音に、神官たちのほとんどがその正体を知ろうと廊下に出てきており、神殿騎士たちも神殿内をくまなく点検している。その中を縫うようにしてオルドジフとハッセルバリは地下へと向かった。
地下にも神殿騎士と神官が数名集まっていた。
「誰か不審な者を見かけなかったか?」
オルドジフの問いに、集まっていた者たちが一斉に振り向く。
「ここには誰もおりませんでした。上にいる騎士たちからも不審人物や不審物の情報はまだ入ってきていません。あの爆音は保管庫の扉を誰かが破ろうとしていたということでしょうか」
神殿騎士長のハルトルが言うと、オルドジフは頷く。
「グルンドライスト様によると、何者かが保管庫に侵入しようとしたが扉の魔法陣に触れると同時に弾かれたということだ。その者が誰かを見届けるように言われたのだが」
ハルトルはゆっくりと首を振る。
「その者が中央統括神殿内の者であるなら、すでに集団に紛れているでしょう。その者を特定しようにも、痕跡が残っておりません」
ハルトルも他の騎士たち、神官たちも、そのようなことをする者が内部にいるかもしれないと思うと、動揺を隠せなかった。
「そう言えば、オルドジフ殿」
サーブリーが進み出る。
「なんだ?」
「さきほど、ちょうど爆音が鳴り響いたすぐあとですが、オルドジフ殿を訪ねてきた者がおりました」
「私を? 誰だ?」
国内の精霊神殿を束ねる中央統括神殿の神殿長補佐であるオルドジフを訪ねてくる者は少なくはなく、オルドジフはサーブリーに尋ねる。
「バスロ精霊神殿の神官のネルダール殿です。大変な様子なのでまたの機会にすると言われて帰られましたが」
「ネルダール?」
「オルドジフ殿」
顔を見合わせるオルドジフとハッセルバリ。
「サーブリー、ネルダールは何か言っていなかったか? なんでもいい。話したことを言ってくれ」
「は、はい。その、グルンドライスト様は洗礼の儀式を今でもされているのか、と」
「それで?」
問い返しながらもオルドジフの背筋に冷たい汗が流れる。
「洗礼の儀式はオルドジフ殿がされておられて、他の神官がすることもあると。グルンドライスト様が儀式をされるのは王族で、懇意にされておられるエルランデル公爵家には時折でかけておられるので、もしかしたら出先で洗礼の儀式をしていらっしゃるのかもしれません、と」
「エルランデル公爵の名を出したのか!」
オルドジフが緊迫した形相でサーブリーに詰め寄る。
「も、申し訳ありません」
「それで、ネルダールはなんと言ったんだ!」
「確かエルランデル公爵家にはお子様が2人いらっしゃって、下のお子様はまだお小さかったはずで、下夜月3の風に出かけられたのでは、と……」
「そうだと言ったのか!」
ただでさえ厳めしい顔つきのオルドジフが食い殺さんばかりの形相で迫ってきて、サーブリーは慄きながら頷いた。
「行くぞ、ハッセルバリ!」
「はっ!」
オルドジフとハッセルバリはエルランデル公爵家に向かうべく配車場へと駆け出した。
馬車に乗り込むと、御者にエルランデル公爵家までできうる限り速く、と告げた。
ただならぬ事態だということはオルドジフの顔からもわかり、御者は猛スピードで馬車を走らせる。
車内でシーグフリードに連絡を入れ、状況を説明すると、エルランデル公爵家にはシーグフリードがしてくれるということで、オルドジフは窓の外を、速く速く、と願いながら見ていた。
「遅くなったな、マフダル」
サミュエルが騎士姿でシアンハウス騎士団35名を率いてソーメルスの砦に転移してきたのは日が落ちてからだった。
「お待ちしてました、サミュエル殿」
「状況は?」
「確認します。通信機にこれを装着してください」
討伐チーム用の共通の魔石をサミュエル以下、騎士たちに配布される。
それぞれが装着し終えると、マフダルが通信機に向けて話し始める。
「サミュエル殿たち、シアンハウス騎士団が到着した。それぞれの団に割り振りをしようと思うが、状況はどうだ? ケイレブ」
『こっちは街道に壁を作って魔獣の群れをこぼさずにこっちに流すことに成功した。魔獣の数は3、40。小型中型がほとんどだ。中型にカルバングは含めない! そのうち半数は倒した。こっちは順調だ』
通信機からケイレブの力強い声が響く。
「ではそっちに応援を5名を派遣する」
『おう!』
「イェールオース、エンロート騎士団の状況は?」
『中型が多め、大型もちらほらいます。総数は2、30。一頭一頭が大きくて手こずってます。癒し手がいたら派遣お願いします』
「わかった。癒し手を含めて10名派遣する」
『ありがとうございます!』
戦闘中らしく、安定しない声量でイェールオースが応える。
「殿下、そちらはどうです?」
『中型から大型が多い。カルバングの数が多い。この場所で食い止めるのが精いっぱいで押されている状況だ』
けれど口調は冷静なヴァレリラルドの報告に、
『カルバングは脳天が弱点です。頭上から攻撃を。フォル、愛してる!』
クランツの声が食い気味に聞こえてきた。
『死ねっ!』
フォルシウスの罵声も通信機から聞こえる。
「殿下、そちらにサミュエル殿をはじめ応援を15名派遣します。ケイレブ隊のクランツも殿下の隊に合流しろ。討伐中の通信を私用で使われたらかなわない」
『ありがとうございます!』
クランツの清々しい声が通信機から聞こえた。
「保管庫の扉の魔法陣に誰かが触れた音だ」
グルンドライストがオルドジフに性急に告げる。
「破られたのですか!?」
保管庫に侵入しようとした者がいる。その者の意図に思いあたるオルドジフは食いつくように尋ねた。
「あの扉の魔法陣は破れぬ。触れると同時に弾かれるようにしておる。オルドジフ、誰が破ろうとしたのかを見てくるのだ」
「はっ」
アシェルナオの記録が漏れてはいないことに安堵しながらオルドジフが駆け出すと、ハッセルバリもそれに続く。
聞きなれぬ爆音に、神官たちのほとんどがその正体を知ろうと廊下に出てきており、神殿騎士たちも神殿内をくまなく点検している。その中を縫うようにしてオルドジフとハッセルバリは地下へと向かった。
地下にも神殿騎士と神官が数名集まっていた。
「誰か不審な者を見かけなかったか?」
オルドジフの問いに、集まっていた者たちが一斉に振り向く。
「ここには誰もおりませんでした。上にいる騎士たちからも不審人物や不審物の情報はまだ入ってきていません。あの爆音は保管庫の扉を誰かが破ろうとしていたということでしょうか」
神殿騎士長のハルトルが言うと、オルドジフは頷く。
「グルンドライスト様によると、何者かが保管庫に侵入しようとしたが扉の魔法陣に触れると同時に弾かれたということだ。その者が誰かを見届けるように言われたのだが」
ハルトルはゆっくりと首を振る。
「その者が中央統括神殿内の者であるなら、すでに集団に紛れているでしょう。その者を特定しようにも、痕跡が残っておりません」
ハルトルも他の騎士たち、神官たちも、そのようなことをする者が内部にいるかもしれないと思うと、動揺を隠せなかった。
「そう言えば、オルドジフ殿」
サーブリーが進み出る。
「なんだ?」
「さきほど、ちょうど爆音が鳴り響いたすぐあとですが、オルドジフ殿を訪ねてきた者がおりました」
「私を? 誰だ?」
国内の精霊神殿を束ねる中央統括神殿の神殿長補佐であるオルドジフを訪ねてくる者は少なくはなく、オルドジフはサーブリーに尋ねる。
「バスロ精霊神殿の神官のネルダール殿です。大変な様子なのでまたの機会にすると言われて帰られましたが」
「ネルダール?」
「オルドジフ殿」
顔を見合わせるオルドジフとハッセルバリ。
「サーブリー、ネルダールは何か言っていなかったか? なんでもいい。話したことを言ってくれ」
「は、はい。その、グルンドライスト様は洗礼の儀式を今でもされているのか、と」
「それで?」
問い返しながらもオルドジフの背筋に冷たい汗が流れる。
「洗礼の儀式はオルドジフ殿がされておられて、他の神官がすることもあると。グルンドライスト様が儀式をされるのは王族で、懇意にされておられるエルランデル公爵家には時折でかけておられるので、もしかしたら出先で洗礼の儀式をしていらっしゃるのかもしれません、と」
「エルランデル公爵の名を出したのか!」
オルドジフが緊迫した形相でサーブリーに詰め寄る。
「も、申し訳ありません」
「それで、ネルダールはなんと言ったんだ!」
「確かエルランデル公爵家にはお子様が2人いらっしゃって、下のお子様はまだお小さかったはずで、下夜月3の風に出かけられたのでは、と……」
「そうだと言ったのか!」
ただでさえ厳めしい顔つきのオルドジフが食い殺さんばかりの形相で迫ってきて、サーブリーは慄きながら頷いた。
「行くぞ、ハッセルバリ!」
「はっ!」
オルドジフとハッセルバリはエルランデル公爵家に向かうべく配車場へと駆け出した。
馬車に乗り込むと、御者にエルランデル公爵家までできうる限り速く、と告げた。
ただならぬ事態だということはオルドジフの顔からもわかり、御者は猛スピードで馬車を走らせる。
車内でシーグフリードに連絡を入れ、状況を説明すると、エルランデル公爵家にはシーグフリードがしてくれるということで、オルドジフは窓の外を、速く速く、と願いながら見ていた。
「遅くなったな、マフダル」
サミュエルが騎士姿でシアンハウス騎士団35名を率いてソーメルスの砦に転移してきたのは日が落ちてからだった。
「お待ちしてました、サミュエル殿」
「状況は?」
「確認します。通信機にこれを装着してください」
討伐チーム用の共通の魔石をサミュエル以下、騎士たちに配布される。
それぞれが装着し終えると、マフダルが通信機に向けて話し始める。
「サミュエル殿たち、シアンハウス騎士団が到着した。それぞれの団に割り振りをしようと思うが、状況はどうだ? ケイレブ」
『こっちは街道に壁を作って魔獣の群れをこぼさずにこっちに流すことに成功した。魔獣の数は3、40。小型中型がほとんどだ。中型にカルバングは含めない! そのうち半数は倒した。こっちは順調だ』
通信機からケイレブの力強い声が響く。
「ではそっちに応援を5名を派遣する」
『おう!』
「イェールオース、エンロート騎士団の状況は?」
『中型が多め、大型もちらほらいます。総数は2、30。一頭一頭が大きくて手こずってます。癒し手がいたら派遣お願いします』
「わかった。癒し手を含めて10名派遣する」
『ありがとうございます!』
戦闘中らしく、安定しない声量でイェールオースが応える。
「殿下、そちらはどうです?」
『中型から大型が多い。カルバングの数が多い。この場所で食い止めるのが精いっぱいで押されている状況だ』
けれど口調は冷静なヴァレリラルドの報告に、
『カルバングは脳天が弱点です。頭上から攻撃を。フォル、愛してる!』
クランツの声が食い気味に聞こえてきた。
『死ねっ!』
フォルシウスの罵声も通信機から聞こえる。
「殿下、そちらにサミュエル殿をはじめ応援を15名派遣します。ケイレブ隊のクランツも殿下の隊に合流しろ。討伐中の通信を私用で使われたらかなわない」
『ありがとうございます!』
クランツの清々しい声が通信機から聞こえた。
47
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる