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第2部

帰ったら、ご褒美セ

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 前日の夜にエンロート入りしたケイレブたちは、翌日の早朝からエンロート南部の郊外にあるサンテソンの出城に拠点を置いて魔獣の討伐を行っていた。

 ヨータ山から、遠くリネーア山まで連なる山々の麓に巨大な2本の牙があるカルバングの群れが報告され、その討伐のために統括騎士団が要請されたのだ。

 1頭でも難儀なものが5頭も出現したために、熟練騎士たちでもその討伐には困難を極めた。

 暗くなるまでにはすべてのカルバングの討伐を追え、一旦エンロートの古城に戻ってきたケイレブたちだったが、どの顔も疲労の色が濃く、負傷者も多数出ていた。

 「ご苦労だった。2,3日はかかるかと思ったが、1日で5頭を討伐するとは。さすが陛下肝入りの統括騎士団だ」

 エンロートの古城の家令であるが、有事にはエンロート騎士団の総帥ともなるマフダルが、普段の執事姿ではなく騎士服でケイレブたちを迎え入れる。

 「おかげで死ぬほどヘトヘトだ。癒し手が追いつかずに手当のできていないけが人がいる。そいつらのけがの手当てと、騎士たちに風呂と食事と寝る場所を頼む」

 「ああ、準備はできている。いつ新たな魔獣が出現するかもわからないから、休めるうちに休んでくれ。お前たち、案内を頼む」

 マフダルの指示に応えて、古城の使用人たちが手際よく騎士たちを案内していく。

 「ケイレブとクランツは他のメンツとの顔合わせに付き合ってくれ」

 マフダルは2人を討伐本部になっている別室に誘う。

 「手短に頼む。カルバングの血や毛を落としたいし、メシも食いたい、寝たい」

 「いくつになっても欲望むき出しな奴だな」

 ケイレブが新人の頃から先輩や上司として面倒を見てきたマフダルは、当時よりだいぶ優しい顔つきでケイレブの欲望を受け入れる。

 愛あるしごきを文句を言いながらもこなしてきたケイレブが、今では一角の将軍のような貫禄が出てきたことをマフダルは嬉しく思っていたが、

 「俺は子供もできて落ち着いたけど、クランツは新婚だからまだまだ欲望むき出しだぜ」

 ケイレブはニヤリと笑いながらクランツを指差す。

 「そういうことじゃない」

 やっぱりまだまだ頭が未熟者だった、と、呆れ顔になるマフダル。

 「帰ったら、ご褒美セ」

 「言わせないぞ!」

 真面目な顔で不穏なことを言おうとするクランツに、噛みつきそうな顔でマフダルが制した。

 おっさんたちはこうじゃないとなぁ、と、サミュエルやマフダルを怒らせることは楽しいと思っているケイレブは声をあげて笑った。
 




 今は討伐本部になっている、古城の旧要塞部分にある広間には、中央に大きなテーブルがあり、その上にエンロート周辺の地図が広げられていた。

 テーブルを囲む面々を見ながら、

 「改めて紹介しておく。統括騎士団団長のケイレブと、その部下のクランツだ。ケイレブ、クランツ。エンロート騎士団団長のイェールオースとエンロート冒険者ギルドのマスターのレーヴだ。こっちはエンロート自警団の若手のリーダーのメシュヴィツ」

 マフダルが互いを紹介する。

 「この度は要請に応じていただき、ありがとうございます。そちらでカルバングを引き受けていただいたおかげで担当地区の討伐に専念できました」

 ケイレブと同じくらいの年ごろの赤毛のイェールオースが頭を下げる。

 「与えられた仕事をしただけだ。先輩?副団長?団長?家令?めんどくさいからマフダル、会議なら手短に頼むって」

 堅苦しいのが苦手で、早く風呂に入って食事にありつきたいケイレブが少し苛立ちながら言った。

 「敬称が面倒くさいからと一切の役職を省くな。馬鹿者。これを見ろ」

 マフダルはテーブルの地図を指さす。

 「数日前までは魔獣が単体で出現をしていたが、ここ数日は数体まとまって出現している。統括騎士団という応援もあるから、以前の魔獣の襲撃のように古都内部まで魔獣が侵攻するのは是が非でも食い止めたい。エンロートの周囲を東西南北に分けて、北をエンロート騎士団、東西はギルドと自警団、明日からは統括騎士団に南部を任せて哨戒にあたってほしい。魔獣は明日からも出現してくるはずだ」

 「しかしなぜエンロートに集中して魔獣が出現してるんだ?」

 ケイレブの呟きのような問いに、

 「何か、因縁みたいなものを感じるなぁ」

 がっしりした体格のレーヴが顎を撫でる。

 「因縁か。因縁に魔獣が呼び寄せられているのか、因縁を持つ誰かが故意にエンロートを襲わせているのか」

 マフダルの中でも10年前の梛央の事件は鮮明に記憶にあった。

 「自警団としてもエンロートを守るために戦いますよ」

 自警団の若手のリーダーであるメシュヴィツが熱く宣言すると、

 「自警団は無茶するな。魔獣相手の戦いに慣れてない者も多いんだ。冒険者の支援と情報、物資の管理に徹してくれ。無理して無駄なケガ人を出さないようにな」

 マフダルが諌める。

 「心得てます!」

 右胸に手を当てて大きな声で返事をするメシュヴィツ。

 「熱いなぁ。じゃあ俺たちも熱い風呂に入らせてもらうぜ。鋭気を養わないと戦えないからな」

 そう言うとケイレブはクランツを伴って広間を出て行った。

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