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第2部
子供たちのゆくえ
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「シーグフリード様!」
王太子の執務室の扉を開けるなり飛び込んできたマロシュに、
「ここをどこだとお思いだい」
大声ではないが竦みあがるような威圧的な声をあげたのはイロナだった。
「あっ、申し訳ありませんでした」
祖母に注意されたのだが、目はシーグフリードを見ながらマロシュが畏まる。
「その様子だと新しい情報が出てきたようだな」
苦笑しながらシーグフリードは入り口近くの椅子にマロシュを座らせた。
部屋にいたイクセルも興味を示してシーグフリードの後ろに移動してくる。
「はい。ノシュテット伯爵家のフィリップ様が昨夜帰ってきました」
「生きていたのか?」
マロシュと同様、おそらくもう生きてはいまいと思っていたシーグフリードとイクセルは思わぬ朗報に驚きを隠せなかった。
「はい」
「今までどこに? どうやって攫われたんだ?」
「それが、気が付いたら王都のはずれに裸で放置されていたらしいんです。さっきまで自分の部屋に使用人とともにいたはずなのに、真っ暗な森にいて、動転して闇雲に走ったらしくて。そのうちに道から外れてしまって、動けなくなって一晩森で過ごしたそうです。それから半日がかりで道に出て、たまたま通りかかった住民に助けられたそうですが、疲労と憔悴から熱を出して、近くの孤児院に保護されて寝込んでいたそうです。やっと熱がさがり話ができるようになって、院長から第二騎士団に通報が行き、伯爵家に送り届けられました」
「そうか、無事でよかった。しかし、なぜ裸にする必要があったんでしょう」
イクセルが首をひねる。
「貴族の服だから金目のものには違いないですよね。でも、それなら気づかれずに屋敷に忍び込んだときにもっとよいものが盗めたはず……。なにより身代金を要求すれば楽に金を手に入れることが出来たはずなのに?」
「身元を隠すため、にしては口封じをしたわけでもないしな」
マロシュとイクセルの推理に、シーグフリードは首を振った。
「いや、身体的特徴を確かめるためだと思う」
年の離れた弟が可愛くて、お世話の真似事をしたこともあるシーグフリードは、アシェルナオの足の付け根にある痣のことを知っていた。
これが愛し子の印なら、そのことを知っている者が攫った子供が愛し子かどうか確かめるために服を脱がしたと考えるのが納得がいく。
「何か体に特徴のある子供を探していると?」
「おそらく。もう1人の子供もどこかで保護されている可能性がある。イクセル、第二騎士団に知り合いはいるか? マロシュを紹介して協力させてほしい。マロシュ、まだ手がかりがあるはずだ。もう1人の子供を捜索しながら、両方の家にもまた聞き込みに行ってくれ」
「はい」
マロシュが元気よく返事をすると、王城のお仕着せ服をきたイロナとカロナは少し誇らしげに微笑んだ。
「第二騎士団は主に王都の治安を任されているところでしたね」
イクセルの愛馬で第二騎士団に案内してもらいながらマロシュが尋ねる。
「ああ。だから第二騎士団は王城ではなく王都の中に本部を置いて駐屯している。騎士もいるが、騎士の下で働く従士も多く、活気のある団だ」
やがて第二騎士団の駐屯地の門をくぐると、堅固な建物の前で愛馬から降りる。
「すまない。近衛騎士団のイクセルだが、ブレンドレルはいるか?」
近くを通りかかった騎士に言伝を頼むと、ほどなくして青緑色の髪と、それをさらに深くした緑色の瞳の騎士が現れた。
「イクセル、久しぶりだな」
人の良さそうな笑みを浮かべたブレンドレルは人好きのする青年で、マロシュは好印象を持った。
「久しぶり。みんな元気にしてるか?」
「ああ、おかげさまで。今日は何か用か?」
「殿下の執務室で扱っている案件があって、マロシュが情報を集めてくれているんだ。王都の案件だからブレンドレルに協力を頼みたい」
「へぇ」
ブレンドレルはイクセルの横にいるマロシュを頭から足の先まで眺める。
「マロシュです。王太子殿下の側近のシーグフリード様の指示でいろいろと情報を集めています。よろしくお願いします」
挨拶が基本だとイロナに言われているマロシュは大きな声で言うと、頭を下げる。
「イクセル、王太子の執務室から俺個人への要請ということで団長に文書で通達してくれよ。そしたら自由に動けるし、手当も出る」
憎めない笑顔で言うブレンドレルに、イクセルも笑顔で請け負う。
「よし、交渉成立だ。マロシュ、まずは何をしたらいい?」
「昨日、行方不明だった伯爵家の嫡男が無事に戻ってきたそうです」
「孤児院に保護されていた子だな。俺が伯爵家に送り届けたから知っているとも」
「もう1人、行方不明になっている貴族の子供がいて、もしかしたらその子もどこかに保護されているかもしれません。どうにかして見つけたいんです」
「行方不明になっている子のことも気になっていた。今もうちの連中が探しているはずだが、何か手がかりがあるのか?」
ブレンドレルの問いに、マロシュは子爵家に引き取られたが、義理の母とうまくいっていなかったこと、出ていきたいと言っていたことを話した。
「もしかしたら、以前その子が住んでいたところに戻って来ているかもしれません。でも、そうではないかもしれない。ブレンドレルさん、俺と一緒にその子の家に行ってもらえませんか。ブレンドレルさんなら俺では聞き出せなかったことが聞けるかもしれません」
「わかった。行ってみよう」
イクセルは2人が早速行動に移したのを見届けると、自分の役目に戻るべく王城に戻った。
王太子の執務室の扉を開けるなり飛び込んできたマロシュに、
「ここをどこだとお思いだい」
大声ではないが竦みあがるような威圧的な声をあげたのはイロナだった。
「あっ、申し訳ありませんでした」
祖母に注意されたのだが、目はシーグフリードを見ながらマロシュが畏まる。
「その様子だと新しい情報が出てきたようだな」
苦笑しながらシーグフリードは入り口近くの椅子にマロシュを座らせた。
部屋にいたイクセルも興味を示してシーグフリードの後ろに移動してくる。
「はい。ノシュテット伯爵家のフィリップ様が昨夜帰ってきました」
「生きていたのか?」
マロシュと同様、おそらくもう生きてはいまいと思っていたシーグフリードとイクセルは思わぬ朗報に驚きを隠せなかった。
「はい」
「今までどこに? どうやって攫われたんだ?」
「それが、気が付いたら王都のはずれに裸で放置されていたらしいんです。さっきまで自分の部屋に使用人とともにいたはずなのに、真っ暗な森にいて、動転して闇雲に走ったらしくて。そのうちに道から外れてしまって、動けなくなって一晩森で過ごしたそうです。それから半日がかりで道に出て、たまたま通りかかった住民に助けられたそうですが、疲労と憔悴から熱を出して、近くの孤児院に保護されて寝込んでいたそうです。やっと熱がさがり話ができるようになって、院長から第二騎士団に通報が行き、伯爵家に送り届けられました」
「そうか、無事でよかった。しかし、なぜ裸にする必要があったんでしょう」
イクセルが首をひねる。
「貴族の服だから金目のものには違いないですよね。でも、それなら気づかれずに屋敷に忍び込んだときにもっとよいものが盗めたはず……。なにより身代金を要求すれば楽に金を手に入れることが出来たはずなのに?」
「身元を隠すため、にしては口封じをしたわけでもないしな」
マロシュとイクセルの推理に、シーグフリードは首を振った。
「いや、身体的特徴を確かめるためだと思う」
年の離れた弟が可愛くて、お世話の真似事をしたこともあるシーグフリードは、アシェルナオの足の付け根にある痣のことを知っていた。
これが愛し子の印なら、そのことを知っている者が攫った子供が愛し子かどうか確かめるために服を脱がしたと考えるのが納得がいく。
「何か体に特徴のある子供を探していると?」
「おそらく。もう1人の子供もどこかで保護されている可能性がある。イクセル、第二騎士団に知り合いはいるか? マロシュを紹介して協力させてほしい。マロシュ、まだ手がかりがあるはずだ。もう1人の子供を捜索しながら、両方の家にもまた聞き込みに行ってくれ」
「はい」
マロシュが元気よく返事をすると、王城のお仕着せ服をきたイロナとカロナは少し誇らしげに微笑んだ。
「第二騎士団は主に王都の治安を任されているところでしたね」
イクセルの愛馬で第二騎士団に案内してもらいながらマロシュが尋ねる。
「ああ。だから第二騎士団は王城ではなく王都の中に本部を置いて駐屯している。騎士もいるが、騎士の下で働く従士も多く、活気のある団だ」
やがて第二騎士団の駐屯地の門をくぐると、堅固な建物の前で愛馬から降りる。
「すまない。近衛騎士団のイクセルだが、ブレンドレルはいるか?」
近くを通りかかった騎士に言伝を頼むと、ほどなくして青緑色の髪と、それをさらに深くした緑色の瞳の騎士が現れた。
「イクセル、久しぶりだな」
人の良さそうな笑みを浮かべたブレンドレルは人好きのする青年で、マロシュは好印象を持った。
「久しぶり。みんな元気にしてるか?」
「ああ、おかげさまで。今日は何か用か?」
「殿下の執務室で扱っている案件があって、マロシュが情報を集めてくれているんだ。王都の案件だからブレンドレルに協力を頼みたい」
「へぇ」
ブレンドレルはイクセルの横にいるマロシュを頭から足の先まで眺める。
「マロシュです。王太子殿下の側近のシーグフリード様の指示でいろいろと情報を集めています。よろしくお願いします」
挨拶が基本だとイロナに言われているマロシュは大きな声で言うと、頭を下げる。
「イクセル、王太子の執務室から俺個人への要請ということで団長に文書で通達してくれよ。そしたら自由に動けるし、手当も出る」
憎めない笑顔で言うブレンドレルに、イクセルも笑顔で請け負う。
「よし、交渉成立だ。マロシュ、まずは何をしたらいい?」
「昨日、行方不明だった伯爵家の嫡男が無事に戻ってきたそうです」
「孤児院に保護されていた子だな。俺が伯爵家に送り届けたから知っているとも」
「もう1人、行方不明になっている貴族の子供がいて、もしかしたらその子もどこかに保護されているかもしれません。どうにかして見つけたいんです」
「行方不明になっている子のことも気になっていた。今もうちの連中が探しているはずだが、何か手がかりがあるのか?」
ブレンドレルの問いに、マロシュは子爵家に引き取られたが、義理の母とうまくいっていなかったこと、出ていきたいと言っていたことを話した。
「もしかしたら、以前その子が住んでいたところに戻って来ているかもしれません。でも、そうではないかもしれない。ブレンドレルさん、俺と一緒にその子の家に行ってもらえませんか。ブレンドレルさんなら俺では聞き出せなかったことが聞けるかもしれません」
「わかった。行ってみよう」
イクセルは2人が早速行動に移したのを見届けると、自分の役目に戻るべく王城に戻った。
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