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第2部
恋はつらい
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「僕のお友達、4人もいたんだ。クラくんは大人っぽくて、トシュは誠実そうで、ハルルは可愛くて、スヴェンはケイレブに似てたんだ。今度みんなで剣の稽古をすることになって、剣の先生はサミュエルがしてくれるんだって」
アシェルナオは寝間着にガウンを羽織った姿で、一階のダイニングテーブルにいたエルとルルに興奮気味に話していた。
「上位貴族は友達まで決められてるんだなぁ」
「仲良くなれてよかったな」
エルとルルに言われて、アシェルナオは、うん、と笑顔で頷く。
無邪気で天使のような笑顔だけを見ると、素晴らしく綺麗な少年だと思うのだが、とんでもない魔法や魔道具を作り出すモンスター的な無邪気さだということも知っているエルとルルは、アシェルナオが公爵家の次男だとか、綺麗な顔だちという感覚があまりなかった。
ぞんざいに扱われることに頓着しないアシェルナオだが、
「ナオ様、エルとルルであっても、そんな恰好で人前に出てはいけません。湯冷めしますから、もうおやすみください」
危機感のない主人にテュコが注意する。
「はーい。おやすみなさい」
機嫌よく二階の寝室に向かうアシェルナオに、エルとルルは顔を見合わせる。
「よっぽど友達に会えて嬉しかったんだな」
「俺たちが来るまではテュコ先輩とアイナとドリーンくらいしか周りにはいなかったからな」
「俺が髪の毛と瞳の色を変える魔道具を作らなかったら、友達にも会えなかったからな。まあ、上位貴族といえど、ナオ様はまた別格だからなぁ。可哀そうだとは思うけど」
「可哀そうさを感じさせないのはなぜだろうなぁ」
エルとルルは顔を見合わせて首を捻った。
「おやすみなさい、ナオ様」
寝台の中で、リングダールを抱きしめて寝る体勢を整えているアシェルナオに、テュコが声をかける。
「おやすみ、テュコ」
「お友達と会えて興奮していると思いますけど、ちゃんと寝るんですよ。もし眠れなかったらフォルシウスに声をかけるんですよ」
「はーい」
アシェルナオが返事をすると、テュコは天蓋カーテンを閉める。
天蓋カーテンの中の灯りはテュコが消したが、室内の灯りがうっすらと漏れているため、真っ暗ではなかった。
ほのかな明かりの中で、アシェルナオは花の妖精にもらった花弁をそっと耳に近づける。
『殿下、あまり長時間は控えてください。お身体が冷えます』
聞き覚えのある声がして、誰だろうとアシェルナオは考える。
『わかっているよ、ダリミル』
ヴァレリラルドの声がして、アシェルナオは胸が高鳴った。
そして、ダリミルが星の離宮の執事だったことを思い出した。
「ヴァルは星の離宮にいるの? 星見の塔にあがっている?」
微かに響く足音に、アシェルナオは耳を澄ませる。
『ナオ……』
しばらく無音のあと、ふいに名前を呼ばれて、その切ない呼び方にアシェルナオも胸が苦しくなる。
「ヴァル……」
ヴァレリラルドには聞こえないとわかっていても、アシェルナオは呼びかけずにいられなかった。
相手のことを思っているのはアシェルナオも同じなのだ。
『今日も地上の花と空の星が見えるよ。ナオがいたら、綺麗だと思えるだろうけど……』
一人で見る花も星も、心を動かさないんだ。
ヴァレリラルドの呟きに、自分のせいで辛い思いをさせていることが申し訳なくて、辛かった。
僕は生きてるから、もう自分を責めないで。綺麗なものは綺麗だと感じて。
今すぐ会いに行って、伝えたい。再会を喜び合いたい。
けれど、それができない状況に、アシェルナオの胸は押しつぶされそうだった。
アシェルナオは花弁を耳から離し、リングダールに顔を押し付けて声を殺して泣いていた。
アシェルナオは寝間着にガウンを羽織った姿で、一階のダイニングテーブルにいたエルとルルに興奮気味に話していた。
「上位貴族は友達まで決められてるんだなぁ」
「仲良くなれてよかったな」
エルとルルに言われて、アシェルナオは、うん、と笑顔で頷く。
無邪気で天使のような笑顔だけを見ると、素晴らしく綺麗な少年だと思うのだが、とんでもない魔法や魔道具を作り出すモンスター的な無邪気さだということも知っているエルとルルは、アシェルナオが公爵家の次男だとか、綺麗な顔だちという感覚があまりなかった。
ぞんざいに扱われることに頓着しないアシェルナオだが、
「ナオ様、エルとルルであっても、そんな恰好で人前に出てはいけません。湯冷めしますから、もうおやすみください」
危機感のない主人にテュコが注意する。
「はーい。おやすみなさい」
機嫌よく二階の寝室に向かうアシェルナオに、エルとルルは顔を見合わせる。
「よっぽど友達に会えて嬉しかったんだな」
「俺たちが来るまではテュコ先輩とアイナとドリーンくらいしか周りにはいなかったからな」
「俺が髪の毛と瞳の色を変える魔道具を作らなかったら、友達にも会えなかったからな。まあ、上位貴族といえど、ナオ様はまた別格だからなぁ。可哀そうだとは思うけど」
「可哀そうさを感じさせないのはなぜだろうなぁ」
エルとルルは顔を見合わせて首を捻った。
「おやすみなさい、ナオ様」
寝台の中で、リングダールを抱きしめて寝る体勢を整えているアシェルナオに、テュコが声をかける。
「おやすみ、テュコ」
「お友達と会えて興奮していると思いますけど、ちゃんと寝るんですよ。もし眠れなかったらフォルシウスに声をかけるんですよ」
「はーい」
アシェルナオが返事をすると、テュコは天蓋カーテンを閉める。
天蓋カーテンの中の灯りはテュコが消したが、室内の灯りがうっすらと漏れているため、真っ暗ではなかった。
ほのかな明かりの中で、アシェルナオは花の妖精にもらった花弁をそっと耳に近づける。
『殿下、あまり長時間は控えてください。お身体が冷えます』
聞き覚えのある声がして、誰だろうとアシェルナオは考える。
『わかっているよ、ダリミル』
ヴァレリラルドの声がして、アシェルナオは胸が高鳴った。
そして、ダリミルが星の離宮の執事だったことを思い出した。
「ヴァルは星の離宮にいるの? 星見の塔にあがっている?」
微かに響く足音に、アシェルナオは耳を澄ませる。
『ナオ……』
しばらく無音のあと、ふいに名前を呼ばれて、その切ない呼び方にアシェルナオも胸が苦しくなる。
「ヴァル……」
ヴァレリラルドには聞こえないとわかっていても、アシェルナオは呼びかけずにいられなかった。
相手のことを思っているのはアシェルナオも同じなのだ。
『今日も地上の花と空の星が見えるよ。ナオがいたら、綺麗だと思えるだろうけど……』
一人で見る花も星も、心を動かさないんだ。
ヴァレリラルドの呟きに、自分のせいで辛い思いをさせていることが申し訳なくて、辛かった。
僕は生きてるから、もう自分を責めないで。綺麗なものは綺麗だと感じて。
今すぐ会いに行って、伝えたい。再会を喜び合いたい。
けれど、それができない状況に、アシェルナオの胸は押しつぶされそうだった。
アシェルナオは花弁を耳から離し、リングダールに顔を押し付けて声を殺して泣いていた。
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