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第2部
アシェルナオ、はじめて友達と会う
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その日。
公爵家の当主の執務室には、これからサロンでアシェルナオと対面する予定の4人の少年たちが集められていた。
「クラース、トシュテン、ハルネス、スヴェン。よく来たね」
オリヴェルは少年たちが緊張しないように穏やかな笑顔を浮かべ、柔らかい口調で話しかけた。
「アシェルナオ様の学友にお選びいただき、ありがとうございます。父と母もよろしくお伝えくださいと言っていました」
代表するようにクラースが言うと、他の少年たちも上品なお辞儀をした。
「かしこまることはないよ。君たちはアシェルナオの友達だ。子供たち同士で仲良くしてくれたらそれでいいんだ。だけど1つだけ、君たちにお願いがあってね。アシェルナオに会う前にこうして話をさせてもらっているんだ」
オリヴェルが言うと、
「エルランデル公爵、わかっております。私たちも貴族の子供です。同じ貴族であれど公爵家と我らの家の格式は違います。そこは弁えております」
クラースは侯爵家の嫡男ということもあり、大人びた口調で頭を下げる。
「なんだか、いろいろ気を使わせているようだが、そういうのはいらないよ。さっきも言ったように友達としてアシェルナオと接してほしい」
苦笑するオリヴェルを、クラースたちは不思議そうな顔で見る。
「では、お願いとはなんでしょうか」
「アシェルナオは、ずっと前に怖い思いをしたことがあるんだ。誰かが急にアシェルナオを捕まえようと手を出したら、アシェルナオはびっくりして動けなくなるかもしれない。もしそういうことになった時は周りの大人に知らせてほしいんだ。けれど、私がこんなお願いをしたことはアシェルナオには言わないでほしい。難しいかもしれないが、お願いできるかな?」
「難しくないです。アシェルナオ様に手を出さない。もし誰かが手を出してアシェルナオ様がびっくりして動けなくなったら周りの大人に知らせる」
スヴェンが言うと、オリヴェルは満足そうに頷いた。
「公爵様。私たちが今言われたことは当然するべきことなので、アシェルナオ様にわざわざ言うことはありません」
クラースの言葉に、他の少年たちも深く頷いた。
「ありがとう。君たちをアシェルナオの友達に選んでよかったよ。アシェルナオと楽しい時間を過ごしてくれたら私も嬉しい」
「はい」
少年たちは声を合わせて元気よく返事をした。
今日はお友達を呼んで初めてのお茶会。
そのためにアシェルナオはパウラに教わりながら初めて招待状を書き、パウラに誂えてもらった服を着て、アイナとドリーンに髪を編んでもらった。
リングダールのポシェットを斜めにかけて、仕上げにサークレットを装着して髪の毛の色と瞳の色を変える。
「お支度が済みましたよ、ナオ様」
「とてもお綺麗で凛々しいですよ」
アイナとドリーンに褒められても、アシェルナオはまだ心配そうに、
「これでいい? おかしくない? どうしようテュコ、楽しみ過ぎてすごくドキドキする」
テュコに救いを求める。
すでにできていた友達と初めて会うということで、アシェルナオは緊張のさなかにあった。
すでにできていた友達という言い方も変だが、上位貴族の交友関係は幼いうちに親によって決められているものらしい。
「大丈夫ですよ。とてもお可愛らしいです。気負わなくとも、今日は初めての顔合わせですので、好きにおしゃべりをしてお茶を楽しむだけでいいんですよ」
テュコが言うと、
「緊張するのはお呼ばれした子供たちの方だよ。公爵家の次男の学友に選ばれたのは貴族の誉の1つですからね」
サリアンも言った。
「スヴェンも緊張してた?」
「どちらかというと、うちの父が緊張していましたよ。うちの家系で公爵家の学友に選ばれたのなんて何十年ぶりのことですから」
苦笑するサリアン。
「そか。みんな緊張してるんだね。僕だけじゃないんだ」
気が楽になったアシェルナオは、やっと笑顔が出た。
公爵家の当主の執務室には、これからサロンでアシェルナオと対面する予定の4人の少年たちが集められていた。
「クラース、トシュテン、ハルネス、スヴェン。よく来たね」
オリヴェルは少年たちが緊張しないように穏やかな笑顔を浮かべ、柔らかい口調で話しかけた。
「アシェルナオ様の学友にお選びいただき、ありがとうございます。父と母もよろしくお伝えくださいと言っていました」
代表するようにクラースが言うと、他の少年たちも上品なお辞儀をした。
「かしこまることはないよ。君たちはアシェルナオの友達だ。子供たち同士で仲良くしてくれたらそれでいいんだ。だけど1つだけ、君たちにお願いがあってね。アシェルナオに会う前にこうして話をさせてもらっているんだ」
オリヴェルが言うと、
「エルランデル公爵、わかっております。私たちも貴族の子供です。同じ貴族であれど公爵家と我らの家の格式は違います。そこは弁えております」
クラースは侯爵家の嫡男ということもあり、大人びた口調で頭を下げる。
「なんだか、いろいろ気を使わせているようだが、そういうのはいらないよ。さっきも言ったように友達としてアシェルナオと接してほしい」
苦笑するオリヴェルを、クラースたちは不思議そうな顔で見る。
「では、お願いとはなんでしょうか」
「アシェルナオは、ずっと前に怖い思いをしたことがあるんだ。誰かが急にアシェルナオを捕まえようと手を出したら、アシェルナオはびっくりして動けなくなるかもしれない。もしそういうことになった時は周りの大人に知らせてほしいんだ。けれど、私がこんなお願いをしたことはアシェルナオには言わないでほしい。難しいかもしれないが、お願いできるかな?」
「難しくないです。アシェルナオ様に手を出さない。もし誰かが手を出してアシェルナオ様がびっくりして動けなくなったら周りの大人に知らせる」
スヴェンが言うと、オリヴェルは満足そうに頷いた。
「公爵様。私たちが今言われたことは当然するべきことなので、アシェルナオ様にわざわざ言うことはありません」
クラースの言葉に、他の少年たちも深く頷いた。
「ありがとう。君たちをアシェルナオの友達に選んでよかったよ。アシェルナオと楽しい時間を過ごしてくれたら私も嬉しい」
「はい」
少年たちは声を合わせて元気よく返事をした。
今日はお友達を呼んで初めてのお茶会。
そのためにアシェルナオはパウラに教わりながら初めて招待状を書き、パウラに誂えてもらった服を着て、アイナとドリーンに髪を編んでもらった。
リングダールのポシェットを斜めにかけて、仕上げにサークレットを装着して髪の毛の色と瞳の色を変える。
「お支度が済みましたよ、ナオ様」
「とてもお綺麗で凛々しいですよ」
アイナとドリーンに褒められても、アシェルナオはまだ心配そうに、
「これでいい? おかしくない? どうしようテュコ、楽しみ過ぎてすごくドキドキする」
テュコに救いを求める。
すでにできていた友達と初めて会うということで、アシェルナオは緊張のさなかにあった。
すでにできていた友達という言い方も変だが、上位貴族の交友関係は幼いうちに親によって決められているものらしい。
「大丈夫ですよ。とてもお可愛らしいです。気負わなくとも、今日は初めての顔合わせですので、好きにおしゃべりをしてお茶を楽しむだけでいいんですよ」
テュコが言うと、
「緊張するのはお呼ばれした子供たちの方だよ。公爵家の次男の学友に選ばれたのは貴族の誉の1つですからね」
サリアンも言った。
「スヴェンも緊張してた?」
「どちらかというと、うちの父が緊張していましたよ。うちの家系で公爵家の学友に選ばれたのなんて何十年ぶりのことですから」
苦笑するサリアン。
「そか。みんな緊張してるんだね。僕だけじゃないんだ」
気が楽になったアシェルナオは、やっと笑顔が出た。
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