176 / 395
第2部
エルはエス
しおりを挟む
「んんー」
エルによる魔法の授業で、アシェルナオは自分の体に魔力を巡らせる練習をしていた。
学園に通えば必ず魔法の初歩として授業に組み込まれているカリキュラムなので、今のうちからできるようになっておくように練習しているのだが、まだアシェルナオは成功したことがなかった。
『ナオ、りきんでもだめだよ』
『やさしくねー、こんな感じでー』
精霊たちがアシェルナオの右腕を駆け上がり、肩を通って左腕に駆け降りる。そこからUターンして左腕を駆け上がり、首の前を通って右腕を駆け降りる。
精霊たちなので重さはほとんどないが、通り過ぎたところがなんとなくこそばゆかった。
「邪魔しちゃだめ。集中できないよ」
『集中しなくてもいいのに』
『ナオ、自然体でいいよー』
『ナオはそんなことしなくていいのにー』
赤、青、緑、白、茶の精霊たちがアシェルナオの周りを飛び回る。
「だよねぇ? きっと僕の中には魔力はないんだよ。ある気がしないもん」
精霊たちに同意を求めるアシェルナオ。
「魔力はある。魔力を巡らせるのは感覚だから、コツがつかめるまでに時間がかかる子供も多いんだ。あきらめずにやる」
パンパン、と手を叩きながら注意するエル。
「みんながしなくてもいいって言うんだよ? 普通の勉強にしよ?」
以前は理数系が得意だった梛央は、アシェルナオでもそっちの勉強がしたかった。
魔法ではないのなら、シルヴマルク王国の地理や、文学でもよかった。
「そういうのは先輩の方が詳しいし、大方の勉強はもう済んでるって聞いてる。今は魔法の授業中。はい、もう1回集中」
エルは厳しく言いつける。
「テュコー、エルるんがエスー」
アシェルナオは側に控えているテュコに救いを求めた。
「わかるなぁ。うちのスヴェンも勉強が好きな方じゃないから、口実をつけて逃げたがるんだ。けどナオ様、エルがエスとは? エルのエルのサイズがエス?」
「なんですか、俺の俺のサイズって! それがエスって! テュコ先輩の前で何てことを!」
聞き捨てならない、とエルは立ち上がる。
「サリアン、下ネタ禁止って、後ろでアイナとドリーンが怒った顔をしてますよ」
テュコは苦笑しながら、サリアンの後ろで睨みをきかせているアイナとドリーンに目を向ける。
「ごめんごめん、エルのエスって言葉が面白くて」
笑うサリアンに、
「エスっていうのはSMの、人をいじめて快楽を得たり興奮する人のことだよ」
10歳のアシェルナオからまさかの性的指向発言が飛び出して、一瞬場が凍り付く。
アシェルナオは何も感じていないようで、エルに言われるままに体内に魔力を巡らせてみる。が、魔力が巡るというイメージが全くわかなかった。
「こういうところで科学の世界で生きてきたツケが……」
アシェルナオが呟いたところで、何事もなかったことにして周囲の時が動き始めた。
「ナオ様、アルテアン殿から服が届きました。シーグフリード様が発注していたもののようですよ」
アイナが手に持っている箱を見せる。
「兄さまからの? どんなんだろ?」
集中力が切れていたアシェルナオはソファから立ち上がってアイナのもとに行く。
授業を中断されてむっとするエルに、
「ナオ様は別の世界で16歳まで生きていたんだ。そこは文明の発達した科学の世界だったらしいから、魔法はともかく、魔力というものがまだどんなものか自分でつかめていないんだと思う。今は頭ごなしに体の中に魔力を巡らせろと言うよりも、違うやり方を考えたほうがいいのかもしれない」
テュコが助言する。
「確かに、一度もやったことのないものをやれというのは難しいのかもしれません。どうやったらナオ様にわかりやすく魔力というものをわかってもらえるだろう」
考え込むエルの耳に、
「マント?」
むむっ、と可愛い声が聞こえた。
「ナオ様、羽織ってみましょう?」
ドリーンがそれを羽織らせる。
それ。
白いフード付きのマントだが、頭の部分にふさふさの長い耳と、太ももまでの丈のお尻の部分にふさふさの尻尾がついていた。
「かわいい雪うさぎさんですよ、ナオ様」
「愛くるしいですぅ」
アイナとドリーンがきゃぁっ、と悲鳴をあげて喜んでいた。
「確かに可愛い服を着せたいって、兄さまは言ってたけど……本当に可愛いものを着せるなんて……兄さまは……兄さまは……なんて誠実な性格……。そんな兄さまが好きだけど……」
16歳まで生きていた記憶のあるアシェルナオは、可愛いマントを自分が着ることに身もだえていたが、
「ナオ様、そのマントにはリングダールのポシェットが映えると思いますよ」
テュコの一言がアシェルナオを浮上させる。
アイナがマントの上からリングダール型ポシェットをかけると、
「どう? 似合う? 可愛い? 僕もリングダールみたい?」
くるくるっとターンして雪うさぎマントとリングダールポシェットのコラボを披露した。
『ナオかわいいー』
『ナオ、ゆきうさぎの精霊みたい』
『ナオも精霊になるー?』
「それは遠慮しときます」
浮かれていてもヒトとしての一線は超えないアシェルナオだった。
エルによる魔法の授業で、アシェルナオは自分の体に魔力を巡らせる練習をしていた。
学園に通えば必ず魔法の初歩として授業に組み込まれているカリキュラムなので、今のうちからできるようになっておくように練習しているのだが、まだアシェルナオは成功したことがなかった。
『ナオ、りきんでもだめだよ』
『やさしくねー、こんな感じでー』
精霊たちがアシェルナオの右腕を駆け上がり、肩を通って左腕に駆け降りる。そこからUターンして左腕を駆け上がり、首の前を通って右腕を駆け降りる。
精霊たちなので重さはほとんどないが、通り過ぎたところがなんとなくこそばゆかった。
「邪魔しちゃだめ。集中できないよ」
『集中しなくてもいいのに』
『ナオ、自然体でいいよー』
『ナオはそんなことしなくていいのにー』
赤、青、緑、白、茶の精霊たちがアシェルナオの周りを飛び回る。
「だよねぇ? きっと僕の中には魔力はないんだよ。ある気がしないもん」
精霊たちに同意を求めるアシェルナオ。
「魔力はある。魔力を巡らせるのは感覚だから、コツがつかめるまでに時間がかかる子供も多いんだ。あきらめずにやる」
パンパン、と手を叩きながら注意するエル。
「みんながしなくてもいいって言うんだよ? 普通の勉強にしよ?」
以前は理数系が得意だった梛央は、アシェルナオでもそっちの勉強がしたかった。
魔法ではないのなら、シルヴマルク王国の地理や、文学でもよかった。
「そういうのは先輩の方が詳しいし、大方の勉強はもう済んでるって聞いてる。今は魔法の授業中。はい、もう1回集中」
エルは厳しく言いつける。
「テュコー、エルるんがエスー」
アシェルナオは側に控えているテュコに救いを求めた。
「わかるなぁ。うちのスヴェンも勉強が好きな方じゃないから、口実をつけて逃げたがるんだ。けどナオ様、エルがエスとは? エルのエルのサイズがエス?」
「なんですか、俺の俺のサイズって! それがエスって! テュコ先輩の前で何てことを!」
聞き捨てならない、とエルは立ち上がる。
「サリアン、下ネタ禁止って、後ろでアイナとドリーンが怒った顔をしてますよ」
テュコは苦笑しながら、サリアンの後ろで睨みをきかせているアイナとドリーンに目を向ける。
「ごめんごめん、エルのエスって言葉が面白くて」
笑うサリアンに、
「エスっていうのはSMの、人をいじめて快楽を得たり興奮する人のことだよ」
10歳のアシェルナオからまさかの性的指向発言が飛び出して、一瞬場が凍り付く。
アシェルナオは何も感じていないようで、エルに言われるままに体内に魔力を巡らせてみる。が、魔力が巡るというイメージが全くわかなかった。
「こういうところで科学の世界で生きてきたツケが……」
アシェルナオが呟いたところで、何事もなかったことにして周囲の時が動き始めた。
「ナオ様、アルテアン殿から服が届きました。シーグフリード様が発注していたもののようですよ」
アイナが手に持っている箱を見せる。
「兄さまからの? どんなんだろ?」
集中力が切れていたアシェルナオはソファから立ち上がってアイナのもとに行く。
授業を中断されてむっとするエルに、
「ナオ様は別の世界で16歳まで生きていたんだ。そこは文明の発達した科学の世界だったらしいから、魔法はともかく、魔力というものがまだどんなものか自分でつかめていないんだと思う。今は頭ごなしに体の中に魔力を巡らせろと言うよりも、違うやり方を考えたほうがいいのかもしれない」
テュコが助言する。
「確かに、一度もやったことのないものをやれというのは難しいのかもしれません。どうやったらナオ様にわかりやすく魔力というものをわかってもらえるだろう」
考え込むエルの耳に、
「マント?」
むむっ、と可愛い声が聞こえた。
「ナオ様、羽織ってみましょう?」
ドリーンがそれを羽織らせる。
それ。
白いフード付きのマントだが、頭の部分にふさふさの長い耳と、太ももまでの丈のお尻の部分にふさふさの尻尾がついていた。
「かわいい雪うさぎさんですよ、ナオ様」
「愛くるしいですぅ」
アイナとドリーンがきゃぁっ、と悲鳴をあげて喜んでいた。
「確かに可愛い服を着せたいって、兄さまは言ってたけど……本当に可愛いものを着せるなんて……兄さまは……兄さまは……なんて誠実な性格……。そんな兄さまが好きだけど……」
16歳まで生きていた記憶のあるアシェルナオは、可愛いマントを自分が着ることに身もだえていたが、
「ナオ様、そのマントにはリングダールのポシェットが映えると思いますよ」
テュコの一言がアシェルナオを浮上させる。
アイナがマントの上からリングダール型ポシェットをかけると、
「どう? 似合う? 可愛い? 僕もリングダールみたい?」
くるくるっとターンして雪うさぎマントとリングダールポシェットのコラボを披露した。
『ナオかわいいー』
『ナオ、ゆきうさぎの精霊みたい』
『ナオも精霊になるー?』
「それは遠慮しときます」
浮かれていてもヒトとしての一線は超えないアシェルナオだった。
70
お気に入りに追加
921
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話
真義あさひ
BL
尽くし男の永遠の片想い話。でも幸福。
ど田舎村出身の青年ユキレラは、結婚を翌月に控えた彼氏を義妹アデラに寝取られた。
確かにユキレラの物を何でも欲しがる妹だったが、まさかの婚約者まで奪われてはさすがに許せない。
絶縁状を叩きつけたその足でど田舎村を飛び出したユキレラは、王都を目指す。
そして夢いっぱいでやってきた王都に到着当日、酒場で安い酒を飲み過ぎて気づいたら翌朝、同じ寝台の中には裸の美少年が。
「えっ、嘘……これもしかして未成年じゃ……?」
冷や汗ダラダラでパニクっていたユキレラの前で、今まさに美少年が眠りから目覚めようとしていた。
※「王弟カズンの冒険前夜」の番外編、「家出少年ルシウスNEXT」の続編
「異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ」のメインキャラたちの子孫が主人公です
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる