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第2部

報告書とか、とか、とか

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 王太子の執務室は、国王の補佐と統括騎士団長の補佐を兼任するため、都合上その中間に新設された。

 人員は王太子以下、側近のシーグフリード、同じく側近ではあるが護衛としての役目が大きいベルトルドとウルリク。常駐の文官として長年ベルンハルド付の文官だったイヴァンが任命されていた。

 ヴァレリラルド付きの護衛騎士である近衛騎士団副団長のイクセルをはじめ、古株になったラル、カレヴィ、中堅のブロース、フリッツ、新人のリュークが常に行動を共にすることになっている。

 「本格的に仕事をしていくには、まだ人員が不足している。特に文官が足りない」

 シーグフリードは王太子の執務室の面々を見渡して不満顔になる。

 ベルトルドにしてもウルリクにしても脳筋の分類なので、報告書の作成にはシーグフリードとイヴァンでは全然不足だった。

 「人材不足は否めない。まだ何がやれると示したわけでも、成果をあげたわけでもないからな。人材はこれからの活動の中でスカウトしていけばいい」

 「俺もそれがいいと思う。今のところ、ゆくゆくは国王になるラルの執務の予行演習程度にしか見られていないのは事実だ。今人を集めても権力目当ての者しか集まらないと思う」

 ベルトルドが言うと、

 「信用のできない者を雇うの反対」

 ウルリクも賛成する。

 「ならば、報告書の類は自分できっちり作るんだろうな? 私はお前たちのしりぬぐいまではしないからな。私は我が家の天使との時間を是が非でも確保する」

 「シグの横暴反対。俺が報告書とか、とか、とか」

 わなわなと体を震わせるウルリク。

 「落ち着け、ウル。わかったよ、シグ。人員は文官を優先的に探そう。シグの家の天使というとアシェルか」

 ヴァレリラルドは卒業式に抱き上げた、10歳とは思えない小さい体を思い出した。

 「にたまの君か。さぞ可愛いのだろうな」

 「シグがデレデレになるくらいだからなぁ」

 ベルトルドもウルリクも興味津々にシーグフリードに詰め寄る。

 「うちの天使は本当に天使なんだ。可愛いではすまされない尊さがある。その天使が私との時間が減ると悲しむから、朝食か夕食のどちらかは家で食べる。これだけは譲らない」

 言い張るシーグフリード。

 シーグフリードを怒らせると後々、派手に仕返しをされてしばらく立ち直れなくなるか、地味な仕返しをされてしばらく落ち込むことになるかのどちらかで、ヴァレリラルドたちはとりあえず頷いた。



 扉が小さくノックされ、イヴァンの補佐であり執務室の中の雑事を担うミヒルが扉を少し開けて用件を聞く。

 ミヒルからイヴァンへ。イヴァンからヴァレリラルドに来訪者の名前が告げられる。

 ヴァレリラルドが頷くと、ミヒルが大きく扉を開けて来訪者を中に迎え入れた。

 「昼食はまだだろうと思いまして、陣中見舞いに来させてもらいました」

 ローセボームは従者が押してきたワゴンをヴァレリラルドたちに見せる。

 「いつもすまない、ローセボーム」

 「執務を始められてまだ慣れないことも多いかと思います。一つ進言させていただけますなら、よき世話焼きを雇われるとよいですよ」

 「よき世話焼き……誰かいるだろうか」

 首を捻るヴァレリラルド。

 「信頼のできる者はすぐには見つからないと思います。じっくり探されるとよいでしょう。さあ、仕事の話もしませんとな。これが今日までにあがってきた各省からの報告書の中でも目を引いたものです。魔獣の報告はケイレブにも渡っています。動く際はケイレブからの指示を受けてから、もしくは必ずケイレブに相談してからにしてください」

 ローセボームはヴァレリラルドに報告書の束を渡すと、シーグフリードにも別の報告書を渡した。

 それに目を走らせたシーグフリードはローセボームを凝視した。

 「各地で魔獣の被害の報告が上がっているのか」

 ヴァレリラルドの手にある報告書を見ながらウルリクが言った。

 「前から一定数の報告はあがっていましたが、先日より報告が目立つようになりました」

 ローセボームはシーグフリードの顔を見ながら言った。

 「そうか。実際に現地に行って調査、討伐したほうがいいと思ったものはケイレブに相談してから行くことにする」

 「くれぐれも相談してから、ですよ。では私はこれで」

 そう言ってローセボームは執務室を辞した。

 シーグフリードはしばらく考えていたが、

 「イクセル、相談がある」

 ヴァレリラルドやウルリクたちに気づかれないように、今では近衛騎士団の副騎士団長でもあるイクセルに話しかけた。
 

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