そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

文字の大きさ
上 下
166 / 425
第2部

これでいいよ、ケルるん

しおりを挟む
 エルとルルがエルランデル公爵家に匿われて10日ほどが経った頃、アシェルナオの住む部屋のホールにはオリヴェル、パウラ、シーグフリードの姿があった。

 3人はルルとアシェルナオに注目している。

 ルルの手にはシルバーの細いサークレットが握られており、今まさにそれをアシェルナオの頭につけようとしていた。

 ルルの手がアシェルナオの頭に伸び、黒い艶やかな髪にサークレットが装着されると、一瞬サークルが光るのと同時に背中まである髪の毛先までオリヴェルとシーグフリードと同じアッシュグレーに変わる。

 その瞳も黒曜石から紺色に変わった。

 「ほう」

 「まあ」

 オリヴェルとパウラが声をあげ、アシェルナオは自分の髪と瞳の色が見たくて、

 「みっちー、ぴか、鏡を作って」

 水の精霊と光の精霊に呼びかける。

 目の前に現れた水鏡に自分の顔を映した。

 「父さまと兄さまと同じ髪の色だ。……でも瞳は紺色……?」

 戸惑うアシェルナオに、

 「髪の毛の色はナオ様の髪の毛と似た系統だったからわりと楽だったけど、瞳の色はそれが限界だった」

 すまない、と、ルルが頭を下げる。

 「黒でないなら、人前に出るのには問題はないが……」

 パウラと同じ瞳がいいと言ったアシェルナオの希望には届かない。

 オリヴェルは言葉を切って、アシェルナオの顔をみた。

 「母さまの色ではないです……」

 その綺麗な顔は、やはり残念そうな表情を浮かべていた。

 「アシェルナオ、おいでなさい」

 パウラは自分の隣にアシェルナオを呼び寄せ、その顔を覗き込む。

 「母さま?」

 「その瞳の色は母さまの母さまと同じ色だわ。すごく綺麗な色。母さまは、ずっとこの瞳の色がよかったと思っていたの。アシェルナオがこの瞳の色になって、母さまは嬉しいわ」

 懐かしそうに微笑むパウラに、アシェルナオの顔が嬉しそうに輝く。

 「じゃあ、これでいいよ、ケルるん」

 ルルの方を向いて言うアシェルナオに、

 「じゃあってなんだよ。これでもすっごい大変だったんだぞ。この発明を公表したいくらいなんだぞ」

 なんだか悔しいルルが怒鳴る。だが、

 「その対価はお支払いしていますことよ?」

 パウラに言われて何も言えず、口をつぐむルル。

 「髪の色と瞳の色の問題が解決したな」

 成果に満足したオリヴェルが言うと、

 「アシェルナオ、おめでとう。これでお出かけも、学園に行くのも問題なくなったね」

 アシェルナオの頭を撫でるシーグフリード。

 「では早速お友達に招待状を送りましょうね」

 「お友達!」

 パウラの言葉にアシェルナオは側に控えるサリアンを見る。

 「招待状お待ちしてますよ」

 頷くサリアン。

 「テュコ、僕にお友達ができるよ!」

 アシェルナオは立ち上がり、後ろに立っていたテュコの胸にダイブした。

 「ええ、よかったですね、ナオ様」

 小さな体を抱きとめて、一緒に喜ぶテュコ。

 「でもね、僕のこの世界の一番最初の友達はテュコだからね。それは変わらないからね。僕の大事な友達で、大事な侍従だよ」

 本当なら4歳年上のはずのアシェルナオは、テュコに抱き着いたまま言った。

 「……ありがとうございます」

 最初から、自分に仕える者としてではなく、一番近しい者として扱ってくれていた梛央のことを思い出して、テュコの胸も熱くなった。



 梛央としての記憶が戻り、精霊たちが常にそばにいるようになったアシェルナオは、ヴァレリラルドと少しだけ苦しい再会を果たしてからはエルとルルが加わった順調な日々を送っていた。

 だが、この日ばかりは悲し気に朝食の席についていた。

 学園を卒業し、年が明け、シーグフリードが王城に務めに行くことになったのだ。

 「アシェルナオ、元気を出して」

 シーグフリードは隣に座るアシェルナオに声をかける。

 「兄さまが卒業されて、おうちにいらっしゃることが多くなって、今までが楽しすぎました」

 しょんぼりと肩を落とすアシェルナオ。

 「私は王城にお勤めにあがるだけで、毎日帰ってくるよ?」

 「朝は一緒にご飯食べられますか? お夕食は食べられますか?」

 学園に通うのとは違い、お勤めにあがるということがそんなに易しくはないことはわかっているが、10歳の心と体に引きずられているアシェルナオは、つい聞き分けのないことを口にした。

 「アシェルナオ、兄さまは陛下の補佐と統括騎士団長の補佐をすることになった殿下の側近として王城に勤めにあがるんだ。兄さまが頑張らないと殿下も頑張れないから、わかってくれるかい?」

 「はい……。僕の我儘です。ごめんなさい」

 自分でもわかっているアシェルナオは、それでも悲しくて俯いた。

 「なるべく朝と夜のどちらかは一緒に食事できるようにするよ。それに、兄さまがお勤めに慣れて来たら、アシェルナオも兄さまに会いに来てくれるかい?」

 「会いに行ってもいいのですか?」

 「ああ。殿下にも会えるよ」

 「……髪と瞳の色が違っても、ヴァルにはお顔を見せられません」

 「ベールの君でいいよ」

 それでもまだ小さいうちはヴァレリラルドに会うことが躊躇われるアシェルナオだったが、仕事中のジーグフリードには会いたいと思った。

 「ヴァルは置いておいても、兄さまのお仕事しているところに行きたいです」

 「じゃあ、早く仕事に慣れるように頑張ってくるよ」

 「はい、行ってらっしゃいませ兄さま。頑張って来て下さい」

 悲し気だったアシェルナオは、一転して笑顔でシーグフリードを送り出していた。

しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...