166 / 395
第2部
これでいいよ、ケルるん
しおりを挟む
エルとルルがエルランデル公爵家に匿われて10日ほどが経った頃、アシェルナオの住む部屋のホールにはオリヴェル、パウラ、シーグフリードの姿があった。
3人はルルとアシェルナオに注目している。
ルルの手にはシルバーの細いサークレットが握られており、今まさにそれをアシェルナオの頭につけようとしていた。
ルルの手がアシェルナオの頭に伸び、黒い艶やかな髪にサークレットが装着されると、一瞬サークルが光るのと同時に背中まである髪の毛先までオリヴェルとシーグフリードと同じアッシュグレーに変わる。
その瞳も黒曜石から紺色に変わった。
「ほう」
「まあ」
オリヴェルとパウラが声をあげ、アシェルナオは自分の髪と瞳の色が見たくて、
「みっちー、ぴか、鏡を作って」
水の精霊と光の精霊に呼びかける。
目の前に現れた水鏡に自分の顔を映した。
「父さまと兄さまと同じ髪の色だ。……でも瞳は紺色……?」
戸惑うアシェルナオに、
「髪の毛の色はナオ様の髪の毛と似た系統だったからわりと楽だったけど、瞳の色はそれが限界だった」
すまない、と、ルルが頭を下げる。
「黒でないなら、人前に出るのには問題はないが……」
パウラと同じ瞳がいいと言ったアシェルナオの希望には届かない。
オリヴェルは言葉を切って、アシェルナオの顔をみた。
「母さまの色ではないです……」
その綺麗な顔は、やはり残念そうな表情を浮かべていた。
「アシェルナオ、おいでなさい」
パウラは自分の隣にアシェルナオを呼び寄せ、その顔を覗き込む。
「母さま?」
「その瞳の色は母さまの母さまと同じ色だわ。すごく綺麗な色。母さまは、ずっとこの瞳の色がよかったと思っていたの。アシェルナオがこの瞳の色になって、母さまは嬉しいわ」
懐かしそうに微笑むパウラに、アシェルナオの顔が嬉しそうに輝く。
「じゃあ、これでいいよ、ケルるん」
ルルの方を向いて言うアシェルナオに、
「じゃあってなんだよ。これでもすっごい大変だったんだぞ。この発明を公表したいくらいなんだぞ」
なんだか悔しいルルが怒鳴る。だが、
「その対価はお支払いしていますことよ?」
パウラに言われて何も言えず、口をつぐむルル。
「髪の色と瞳の色の問題が解決したな」
成果に満足したオリヴェルが言うと、
「アシェルナオ、おめでとう。これでお出かけも、学園に行くのも問題なくなったね」
アシェルナオの頭を撫でるシーグフリード。
「では早速お友達に招待状を送りましょうね」
「お友達!」
パウラの言葉にアシェルナオは側に控えるサリアンを見る。
「招待状お待ちしてますよ」
頷くサリアン。
「テュコ、僕にお友達ができるよ!」
アシェルナオは立ち上がり、後ろに立っていたテュコの胸にダイブした。
「ええ、よかったですね、ナオ様」
小さな体を抱きとめて、一緒に喜ぶテュコ。
「でもね、僕のこの世界の一番最初の友達はテュコだからね。それは変わらないからね。僕の大事な友達で、大事な侍従だよ」
本当なら4歳年上のはずのアシェルナオは、テュコに抱き着いたまま言った。
「……ありがとうございます」
最初から、自分に仕える者としてではなく、一番近しい者として扱ってくれていた梛央のことを思い出して、テュコの胸も熱くなった。
梛央としての記憶が戻り、精霊たちが常にそばにいるようになったアシェルナオは、ヴァレリラルドと少しだけ苦しい再会を果たしてからはエルとルルが加わった順調な日々を送っていた。
だが、この日ばかりは悲し気に朝食の席についていた。
学園を卒業し、年が明け、シーグフリードが王城に務めに行くことになったのだ。
「アシェルナオ、元気を出して」
シーグフリードは隣に座るアシェルナオに声をかける。
「兄さまが卒業されて、おうちにいらっしゃることが多くなって、今までが楽しすぎました」
しょんぼりと肩を落とすアシェルナオ。
「私は王城にお勤めにあがるだけで、毎日帰ってくるよ?」
「朝は一緒にご飯食べられますか? お夕食は食べられますか?」
学園に通うのとは違い、お勤めにあがるということがそんなに易しくはないことはわかっているが、10歳の心と体に引きずられているアシェルナオは、つい聞き分けのないことを口にした。
「アシェルナオ、兄さまは陛下の補佐と統括騎士団長の補佐をすることになった殿下の側近として王城に勤めにあがるんだ。兄さまが頑張らないと殿下も頑張れないから、わかってくれるかい?」
「はい……。僕の我儘です。ごめんなさい」
自分でもわかっているアシェルナオは、それでも悲しくて俯いた。
「なるべく朝と夜のどちらかは一緒に食事できるようにするよ。それに、兄さまがお勤めに慣れて来たら、アシェルナオも兄さまに会いに来てくれるかい?」
「会いに行ってもいいのですか?」
「ああ。殿下にも会えるよ」
「……髪と瞳の色が違っても、ヴァルにはお顔を見せられません」
「ベールの君でいいよ」
それでもまだ小さいうちはヴァレリラルドに会うことが躊躇われるアシェルナオだったが、仕事中のジーグフリードには会いたいと思った。
「ヴァルは置いておいても、兄さまのお仕事しているところに行きたいです」
「じゃあ、早く仕事に慣れるように頑張ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃいませ兄さま。頑張って来て下さい」
悲し気だったアシェルナオは、一転して笑顔でシーグフリードを送り出していた。
3人はルルとアシェルナオに注目している。
ルルの手にはシルバーの細いサークレットが握られており、今まさにそれをアシェルナオの頭につけようとしていた。
ルルの手がアシェルナオの頭に伸び、黒い艶やかな髪にサークレットが装着されると、一瞬サークルが光るのと同時に背中まである髪の毛先までオリヴェルとシーグフリードと同じアッシュグレーに変わる。
その瞳も黒曜石から紺色に変わった。
「ほう」
「まあ」
オリヴェルとパウラが声をあげ、アシェルナオは自分の髪と瞳の色が見たくて、
「みっちー、ぴか、鏡を作って」
水の精霊と光の精霊に呼びかける。
目の前に現れた水鏡に自分の顔を映した。
「父さまと兄さまと同じ髪の色だ。……でも瞳は紺色……?」
戸惑うアシェルナオに、
「髪の毛の色はナオ様の髪の毛と似た系統だったからわりと楽だったけど、瞳の色はそれが限界だった」
すまない、と、ルルが頭を下げる。
「黒でないなら、人前に出るのには問題はないが……」
パウラと同じ瞳がいいと言ったアシェルナオの希望には届かない。
オリヴェルは言葉を切って、アシェルナオの顔をみた。
「母さまの色ではないです……」
その綺麗な顔は、やはり残念そうな表情を浮かべていた。
「アシェルナオ、おいでなさい」
パウラは自分の隣にアシェルナオを呼び寄せ、その顔を覗き込む。
「母さま?」
「その瞳の色は母さまの母さまと同じ色だわ。すごく綺麗な色。母さまは、ずっとこの瞳の色がよかったと思っていたの。アシェルナオがこの瞳の色になって、母さまは嬉しいわ」
懐かしそうに微笑むパウラに、アシェルナオの顔が嬉しそうに輝く。
「じゃあ、これでいいよ、ケルるん」
ルルの方を向いて言うアシェルナオに、
「じゃあってなんだよ。これでもすっごい大変だったんだぞ。この発明を公表したいくらいなんだぞ」
なんだか悔しいルルが怒鳴る。だが、
「その対価はお支払いしていますことよ?」
パウラに言われて何も言えず、口をつぐむルル。
「髪の色と瞳の色の問題が解決したな」
成果に満足したオリヴェルが言うと、
「アシェルナオ、おめでとう。これでお出かけも、学園に行くのも問題なくなったね」
アシェルナオの頭を撫でるシーグフリード。
「では早速お友達に招待状を送りましょうね」
「お友達!」
パウラの言葉にアシェルナオは側に控えるサリアンを見る。
「招待状お待ちしてますよ」
頷くサリアン。
「テュコ、僕にお友達ができるよ!」
アシェルナオは立ち上がり、後ろに立っていたテュコの胸にダイブした。
「ええ、よかったですね、ナオ様」
小さな体を抱きとめて、一緒に喜ぶテュコ。
「でもね、僕のこの世界の一番最初の友達はテュコだからね。それは変わらないからね。僕の大事な友達で、大事な侍従だよ」
本当なら4歳年上のはずのアシェルナオは、テュコに抱き着いたまま言った。
「……ありがとうございます」
最初から、自分に仕える者としてではなく、一番近しい者として扱ってくれていた梛央のことを思い出して、テュコの胸も熱くなった。
梛央としての記憶が戻り、精霊たちが常にそばにいるようになったアシェルナオは、ヴァレリラルドと少しだけ苦しい再会を果たしてからはエルとルルが加わった順調な日々を送っていた。
だが、この日ばかりは悲し気に朝食の席についていた。
学園を卒業し、年が明け、シーグフリードが王城に務めに行くことになったのだ。
「アシェルナオ、元気を出して」
シーグフリードは隣に座るアシェルナオに声をかける。
「兄さまが卒業されて、おうちにいらっしゃることが多くなって、今までが楽しすぎました」
しょんぼりと肩を落とすアシェルナオ。
「私は王城にお勤めにあがるだけで、毎日帰ってくるよ?」
「朝は一緒にご飯食べられますか? お夕食は食べられますか?」
学園に通うのとは違い、お勤めにあがるということがそんなに易しくはないことはわかっているが、10歳の心と体に引きずられているアシェルナオは、つい聞き分けのないことを口にした。
「アシェルナオ、兄さまは陛下の補佐と統括騎士団長の補佐をすることになった殿下の側近として王城に勤めにあがるんだ。兄さまが頑張らないと殿下も頑張れないから、わかってくれるかい?」
「はい……。僕の我儘です。ごめんなさい」
自分でもわかっているアシェルナオは、それでも悲しくて俯いた。
「なるべく朝と夜のどちらかは一緒に食事できるようにするよ。それに、兄さまがお勤めに慣れて来たら、アシェルナオも兄さまに会いに来てくれるかい?」
「会いに行ってもいいのですか?」
「ああ。殿下にも会えるよ」
「……髪と瞳の色が違っても、ヴァルにはお顔を見せられません」
「ベールの君でいいよ」
それでもまだ小さいうちはヴァレリラルドに会うことが躊躇われるアシェルナオだったが、仕事中のジーグフリードには会いたいと思った。
「ヴァルは置いておいても、兄さまのお仕事しているところに行きたいです」
「じゃあ、早く仕事に慣れるように頑張ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃいませ兄さま。頑張って来て下さい」
悲し気だったアシェルナオは、一転して笑顔でシーグフリードを送り出していた。
55
お気に入りに追加
921
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
残念でした。悪役令嬢です【BL】
渡辺 佐倉
BL
転生ものBL
この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。
主人公の蒼士もその一人だ。
日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。
だけど……。
同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。
エブリスタにも同じ内容で掲載中です。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話
真義あさひ
BL
尽くし男の永遠の片想い話。でも幸福。
ど田舎村出身の青年ユキレラは、結婚を翌月に控えた彼氏を義妹アデラに寝取られた。
確かにユキレラの物を何でも欲しがる妹だったが、まさかの婚約者まで奪われてはさすがに許せない。
絶縁状を叩きつけたその足でど田舎村を飛び出したユキレラは、王都を目指す。
そして夢いっぱいでやってきた王都に到着当日、酒場で安い酒を飲み過ぎて気づいたら翌朝、同じ寝台の中には裸の美少年が。
「えっ、嘘……これもしかして未成年じゃ……?」
冷や汗ダラダラでパニクっていたユキレラの前で、今まさに美少年が眠りから目覚めようとしていた。
※「王弟カズンの冒険前夜」の番外編、「家出少年ルシウスNEXT」の続編
「異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ」のメインキャラたちの子孫が主人公です
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる