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第2部

ムキムキマッチョ(ならない)

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 翌日、アシェルナオたちは公爵家の厩舎を訪れていた。

 「クラたん」

 アシェルナオは8歳の誕生日にオリヴェルにプレゼントされた真っ白の愛馬、クラレンティンに挨拶をする。

 「ヒンヒン」

 クラレンティンは柵ごしに頭を出して上下に振り、乗るか? 行くか? と言いたげにアシェルナオを見下ろす。

 「今日は乗りにきたんじゃないんだ。今日はお外で魔法の練習をするために来たんだよ。乗馬はまた今度ねぇ」

 「ヒィ」

 「ごめんね、クラたん。よかったらクラたんも応援してね。マルちゃんもまたねー」

 テュコの愛馬の黒馬のマルテンにも手を振って厩舎の奥の馬場に向かう。

 「公爵家の財力はんぱねー」

 結構な距離を歩いてきたのにまだ公爵家の敷地の中で、ルルは疲れ気味に言った。

 「すまない。ここまでなら馬車を使う距離でもないと思ったんだが。アシェルナオ、疲れてないかい?」

 シーグフリードは小さな歩幅で大人と一緒に歩いているアシェルナオに気遣う言葉をかける。

 アシェルナオが外で魔法の練習をすると聞いて、屋敷にいたシーグフリードも付き添っていた。

 「大丈夫です、兄さま。今日からまた、よく寝てよく動いてよく食べて、大きくなるようにがんばります」

 ルルに言われたことを腐らずに実践していくことにしたアシェルナオが元気に答える。

 「えらいね、アシェルナオ。でも兄さまは小さくて可愛いアシェルナオが大好きだよ?」

 本心を晒すシーグフリード。

 「ごめんなさい、兄さま。僕は16歳になる頃には前みたいに、脱いだら腹筋シックスパックのムキムキマッチョになっています」

 ペコリ、と頭を下げる。
 
 シーグフリードは16歳の梛央を知っているテュコ、アイナ、ドリーンを見る。3人は笑顔で首を振った。

 シーグフリードは頑張っている分夢を見ているアシェルナオをあたたかい目で見る。

 「ナオ様、ここでお茶の用意をしています。がんばってください」

 馬場の奥の小高い丘にシートをしいてお茶のはいったバスケットを見せるアイナ。

 「疲れたら休憩しましょうね」

 ドリーンもアシェルナオに手を振る。

 「はーい。アイナとドリーンも見ててねー」

 アシェルナオも2人に手を振る。精霊たちも一緒に手を振っている。

 「シーグフリード様の属性はなんでしょうか」

 そんなアシェルナオを見ながらエルが尋ねた。

 「風と水だ」

 「では得意な魔法を見せていただけますか?」

 エルに言われて、

 「アシェルナオの学びに繋がるのなら」

 と、頷く。

 「兄さまの魔法ですか? 初めてみます」

 アシェルナオはわくわくしながらシーグフリードを見上げる。

 「では、水魔法。生成」

 言いながらシーグフリードは胸の前で両手の指を少し丸め、空気の球を作るようにする。

 「今、シーグフリード様は体の中の魔力を巡らせながら指先にそれを集めている」

 アシェルナオの横でエルが解説する。

 「はい、エルるん」

 やがてシーグフリードの両手の間に水が生まれ、少しずつ増え、コップ一杯ほどの量になり、それが球形を作り出す。

 「水の玉ができました」

 初めて見る魔法にアシェルナオの顔が驚きの顔になる。

 「上昇」

 水の玉はシーグフリードの手の間から浮き上がり、ゆっくりと空中にのぼっていく。

 「これは風魔法を使って水の玉を持ち上げているんだ」

 「合わせ技!」

 「ああ。複数の魔法を使うものは魔法をコンビネーションで使うことができる。1つの属性しか持たない者でも、他者の持つ属性と連携することでより高度で強い魔法を使うことができる。魔獣討伐にも用いられる」

 「そうなんだ」

 アシェルナオは、小さい精霊たちが使う魔法のようなふわふわしたものや、生活を便利にする以外にも攻撃的な要素のある魔法があることを知った。

 「分裂」

 シーグフリードの言葉に水の玉が2つに分かれ、4つに分かれ、8つに分かれる。

 「水車」

 8つに分かれた水の玉が円を描くように回り始める。それはどんどんスピードをあげていき、水の玉が1つの水の流れになっていた。

 「すごい、兄さま。ぐるぐるです。ぐるぐる回ってバターになった虎の話みたいです」

 アシェルナオが歓声をあげる。

 やがて水の流れは弾けるように小さな粒になり、空中に消えていった。

 「兄さま、すごいです。魔法の天才です」

 きゃあ、と歓声をあげてシーグフリードに抱き着くアシェルナオ。

 エルも拍手でシーグフリードをたたえた。

 「立派な魔法です。よく練れているし、コントロールができていますね」

 「学園の歴代でも上位に入ると言われる者に褒められると恥ずかしいな。ではエルの魔法も見せてもらっても?」

 「はい」

 エルは一歩前に出ると、すっと右手を出す。その手のひらにはバスケットボールくらいの水の玉が現れており、それを空中に放り出す。

 アシェルナオがその起動を目で追っているうちにもう1つの水球ができて、それも宙に放り出す。

 2つの水球は追いかけっこをするように馬場の中をものすごい速さで動き回る。

 「魔力を練らずにあの量の水を作り、それを自由に操るのか」

 関心するシーグフリードに、

 「魔法の基本を壊したのはナオ様ですよ」

  ルルが言葉を向ける。

 「ん?」

 「今までの理論なら体の中に魔法の流れを作り、それを巡らせて魔力を練るんだけど、血の流れが2つなら、1つの流れで魔力を巡らせ、もう1つの巡りで魔力を溜める。つまり、魔法を使いながら同時に魔力を溜めているから、より長く魔法を使えるんじゃないか、巡る魔力の量も増えるんじゃないか。基本が両手の先に集まった魔力を練ることで魔法を発動することなら、2つの血の巡りを意識することで魔力の発動する時間は短縮され、練れる魔力の量も増える。エルはそう考えて、それを実践しています。まだ試している、という感じですが」

 「2つの巡り。魔力を使いながら溜める……恐ろしいな」
 
 何気ない言葉が常識を覆すほどの理論を生み出す。

 エルやルルにもまして、他国が欲しがるような存在になり得るアシェルナオ。シーグフリードは見かけだけなら綺麗で儚げなアシェルナオを見て表情を曇らせる。

 「こんなものかな」

 そう呟くとエルは指を鳴らす。

 それを合図に2つの水球は弾けて細かいミストになってアシェルナオたちに降り注いだ。

 「マイナスイオンー」

 両手を広げるアシェルナオ。

 「ナオ様、ナオ様も何か魔法を使ってみて」

 精霊たちと一緒に無邪気に喜んでいるアシェルナオにエルが声をかけた。

 はい?と、ナオは首を傾げる。

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