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第2部
「双子!」 「黒目黒髪!」
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アシェルナオが身支度をして一階に降りていくと、すでにシーグフリードがサロンの椅子に座って待っていた。
「兄さま!」
アシェルナオは弾んだ声でシーグフリードのもとに急ぎ足で向かう。
「体調を崩したと聞いて心配していたけど、もう元気になったようだね」
「はい。ご心配をおかけしてごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるアシェルナオ。
「アシェルナオが元気なら何よりだ」
シーグフリードは身を屈めてアシェルナオをハグし、頬にキスする。
「お食事にしましょう。でも、夜は向こうで食べましょうね。でないとお父さまが拗ねてしまいます」
「はーい」
パウラとシーグフリードの後に続いてダイニングに行くと、テーブルに2人の若い男性が立ち上がって待っていた。
「双子!」
「双子?」
同じ顔をした2人に、アシェルナオは興奮して声をあげ、テュコは眉を顰める。
「黒目黒髪!」
「テュコ先輩?」
ルルとエルも負けずに驚いた声をあげる。
顔を見合わせる4人に、コホン、とパウラが咳をした。
「初めまして。エルランデル公爵家次男、アシェルナオ・エルランデルです。今日からよろしくお願いします」
ナオはエルとルルにペコリ、とお辞儀をした。
「アシェルナオ様の侍従のテュコと申します」
テュコもその後ろで礼を執る。
「兄のオーケリエルム・アレクサンデションです。エルとお呼びください。私はおもに精霊魔法についてお教えすることになっています」
エルがきっちりとお辞儀をして言った。
「弟のオーケルルンド・アレクサンデションです。ルルとお呼びください。私はおもに魔道具についてお教えすることになっています」
普段にはない丁寧な言葉遣いでルルもお辞儀をする。
「ご挨拶が終わったことだし、お食事にしましょう」
パウラの一言でみなが席につく。
アシェルナオはパウラとシーグフリードに挟まれた席が嬉しくて、時折二人の顔を見ながら出された食事を綺麗に片づけた。
エルとルルは豪華な食事は嬉しいものの、公爵夫人と公爵家の嫡男を前にすると食べた気がしなかった。
「普段はアシェルナオは私たちと一緒に向こうの食堂で食事をとります。あなたたちの食事はお部屋に準備しますね。お部屋はどうだったかしら」
食後のお茶を飲みながらパウラが言った。
今後の食事が公爵家とは別と聞いて、エルとルルはほっとしていた。
「2人一緒の部屋だけど、広いし、書斎部屋もついてて快適そうです」
エルが代表して答える。
「2人ともここに住み込むの? 勉強の時間だけじゃなくてずっといるの?」
目を丸くするアシェルナオ。
「そうですよ。いや?」
そういえば本人の意思を確認せずに事後報告にしてしまったことに、いまさら気づくパウラ。
「嫌なら嫌って言っていいんだよ。むしろ兄さまはアシェルナオの近くに年頃の男性がいるのは許せないな。身の程知らずって言いたいよ」
穏やかな口調だが目が笑っていないシーグフリード。
「ううん、大丈夫。びっくりしたけど、近くに人がいて賑やかになるのは嬉しい。テュコはさっき先輩って呼ばれてたけど、エルとルルを知ってたの?」
「ええ。王立学園では私の1学年下でしたが、当時からエルは魔法で、ルルは魔道具で一目も二目も置く存在でしたよ。実は子供の頃からの知り合いでもあります」
侍従としてアシェルナオの後ろに控えていたテュコが口を開いた。
「テュコ先輩に褒められるとこそばゆいですが、おかげで卒業後にエクルンド公国に招かれて1年間留学させてもらったんです」
「だけど、あんまり居心地よくなくて。1年の約束だったから我慢したけど1年経っても帰してもらえなくて、結局3年いて。それもすんなり帰してくれなかったから強引に帰ろうとしたら軟禁されそうになったんです」
「逃げるように、というか強引に逃げ帰ってきたんですが、シルヴマルク王国に戻ってからも怪しい奴らに追いかけられるようになって。あちこち点々としてた時にルルが魚が食べたいって言いだしてカルムに行ったら、そこでも追いかけられて。危ないところを助けてもらったのがリータ村のイザーク村長たちだったんです。村長に理由を話したら陛下に報告が行って保護されることになって、公爵家の家庭教師の仕事を紹介していただいたんです」
エルとルルの話にテュコとシーグフリードは怪訝な顔でパウラを見る。
「リータ村! 前に行ったことがある。村長さん、元気なんだね」
怪訝な2人とは対照的に懐かしそうに話すアシェルナオ。
「というか、テュコ先輩はこちらにいらしたんですね。第一騎士団に入団が決まっていたと聞いていたのに、卒業してから行方がわからなくなったという噂でもちきりでしたよ。騎士科の最優秀生徒で、俺たちも鼻が高かったのに」
エルとルルが自分たちにも行方を告げずに姿を消したテュコを拗ねるような目で見る。
「卒業式直前にナオ様と再会して、急遽進路を変更したんだ。私はもともとナオ様の侍従だったから」
「そうなんですね。先輩がやりたいことをやっているのなら、俺たちがとやかく言うことじゃないので。というか……聞いてもいいですか? アシェルナオ様のその髪と瞳のことを」
会ってからずっと気になっていた、綺麗な子供をさらに特別にしている理由を尋ねるエル。
「黒目黒髪って、この国では愛し子様でしかありえないのになぜ?」
素直に疑問を口にするルル。
「兄さま!」
アシェルナオは弾んだ声でシーグフリードのもとに急ぎ足で向かう。
「体調を崩したと聞いて心配していたけど、もう元気になったようだね」
「はい。ご心配をおかけしてごめんなさい」
ぺこりと頭を下げるアシェルナオ。
「アシェルナオが元気なら何よりだ」
シーグフリードは身を屈めてアシェルナオをハグし、頬にキスする。
「お食事にしましょう。でも、夜は向こうで食べましょうね。でないとお父さまが拗ねてしまいます」
「はーい」
パウラとシーグフリードの後に続いてダイニングに行くと、テーブルに2人の若い男性が立ち上がって待っていた。
「双子!」
「双子?」
同じ顔をした2人に、アシェルナオは興奮して声をあげ、テュコは眉を顰める。
「黒目黒髪!」
「テュコ先輩?」
ルルとエルも負けずに驚いた声をあげる。
顔を見合わせる4人に、コホン、とパウラが咳をした。
「初めまして。エルランデル公爵家次男、アシェルナオ・エルランデルです。今日からよろしくお願いします」
ナオはエルとルルにペコリ、とお辞儀をした。
「アシェルナオ様の侍従のテュコと申します」
テュコもその後ろで礼を執る。
「兄のオーケリエルム・アレクサンデションです。エルとお呼びください。私はおもに精霊魔法についてお教えすることになっています」
エルがきっちりとお辞儀をして言った。
「弟のオーケルルンド・アレクサンデションです。ルルとお呼びください。私はおもに魔道具についてお教えすることになっています」
普段にはない丁寧な言葉遣いでルルもお辞儀をする。
「ご挨拶が終わったことだし、お食事にしましょう」
パウラの一言でみなが席につく。
アシェルナオはパウラとシーグフリードに挟まれた席が嬉しくて、時折二人の顔を見ながら出された食事を綺麗に片づけた。
エルとルルは豪華な食事は嬉しいものの、公爵夫人と公爵家の嫡男を前にすると食べた気がしなかった。
「普段はアシェルナオは私たちと一緒に向こうの食堂で食事をとります。あなたたちの食事はお部屋に準備しますね。お部屋はどうだったかしら」
食後のお茶を飲みながらパウラが言った。
今後の食事が公爵家とは別と聞いて、エルとルルはほっとしていた。
「2人一緒の部屋だけど、広いし、書斎部屋もついてて快適そうです」
エルが代表して答える。
「2人ともここに住み込むの? 勉強の時間だけじゃなくてずっといるの?」
目を丸くするアシェルナオ。
「そうですよ。いや?」
そういえば本人の意思を確認せずに事後報告にしてしまったことに、いまさら気づくパウラ。
「嫌なら嫌って言っていいんだよ。むしろ兄さまはアシェルナオの近くに年頃の男性がいるのは許せないな。身の程知らずって言いたいよ」
穏やかな口調だが目が笑っていないシーグフリード。
「ううん、大丈夫。びっくりしたけど、近くに人がいて賑やかになるのは嬉しい。テュコはさっき先輩って呼ばれてたけど、エルとルルを知ってたの?」
「ええ。王立学園では私の1学年下でしたが、当時からエルは魔法で、ルルは魔道具で一目も二目も置く存在でしたよ。実は子供の頃からの知り合いでもあります」
侍従としてアシェルナオの後ろに控えていたテュコが口を開いた。
「テュコ先輩に褒められるとこそばゆいですが、おかげで卒業後にエクルンド公国に招かれて1年間留学させてもらったんです」
「だけど、あんまり居心地よくなくて。1年の約束だったから我慢したけど1年経っても帰してもらえなくて、結局3年いて。それもすんなり帰してくれなかったから強引に帰ろうとしたら軟禁されそうになったんです」
「逃げるように、というか強引に逃げ帰ってきたんですが、シルヴマルク王国に戻ってからも怪しい奴らに追いかけられるようになって。あちこち点々としてた時にルルが魚が食べたいって言いだしてカルムに行ったら、そこでも追いかけられて。危ないところを助けてもらったのがリータ村のイザーク村長たちだったんです。村長に理由を話したら陛下に報告が行って保護されることになって、公爵家の家庭教師の仕事を紹介していただいたんです」
エルとルルの話にテュコとシーグフリードは怪訝な顔でパウラを見る。
「リータ村! 前に行ったことがある。村長さん、元気なんだね」
怪訝な2人とは対照的に懐かしそうに話すアシェルナオ。
「というか、テュコ先輩はこちらにいらしたんですね。第一騎士団に入団が決まっていたと聞いていたのに、卒業してから行方がわからなくなったという噂でもちきりでしたよ。騎士科の最優秀生徒で、俺たちも鼻が高かったのに」
エルとルルが自分たちにも行方を告げずに姿を消したテュコを拗ねるような目で見る。
「卒業式直前にナオ様と再会して、急遽進路を変更したんだ。私はもともとナオ様の侍従だったから」
「そうなんですね。先輩がやりたいことをやっているのなら、俺たちがとやかく言うことじゃないので。というか……聞いてもいいですか? アシェルナオ様のその髪と瞳のことを」
会ってからずっと気になっていた、綺麗な子供をさらに特別にしている理由を尋ねるエル。
「黒目黒髪って、この国では愛し子様でしかありえないのになぜ?」
素直に疑問を口にするルル。
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