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第2部
ヴァルなの……?
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幻想的な光の中で、アシェルナオは次々と登場する卒業生の中からヴァレリラルドを探そうとするが、サネルマの光では口元がほんのり照らされる程度で顔の判別までは難しかった。
やがて卒業生全員が着席すると、ホールが明るくなる。
ファンファーレが鳴り、マントを羽織った、グルンドライストを彷彿とさせる白髪長髪の高齢男性を先頭に、ベルンハルド、テレーシアが続き、最後尾にストレートの金髪を頭の高い位置で1つに結んだ凛々しい美少女が登場する。
あの子がアネシュカ王女殿下なんだ、と、アシェルナオは興味深く見つめた。
「あれが学園長先生ですよ」
王族を案内してきた白髪の老人をこっそりと指さすテュコ。
「テュコの時も同じ学園長先生だった?」
アシェルナオが尋ねると、
「父さまや母さまのときからドレイシュ学園長だったよ。当時から全然お変わりない」
オリヴェルが当時を思い出しながら答える。
「そうなの? 学園長先生は精霊なの?」
アシェルナオの驚きに、オリヴェルとパウラは微笑ましい目で可愛い我が子を見やった。
だが、今日もアシェルナオの周りにいる小さな五色の精霊たちは、
『しーっ』
と言いたげに口に指をあてている。
「え? え?」
さらに驚くアシェルナオ。
「ナオ様、お静かに」
テュコに小声で注意され、アシェルナオは居住まいを正す。
ドレイシュはゆっくりと中央の壇上に進み、参列している保護者には背を向けて、卒業生たちには対面で、話を始めた。
「君たちは本日、6年間学んだこの王立ユラーシェク学園での最後の日を迎えた。君たちはみな、真剣によく学び、よく鍛えてきた。その中でも特に優秀な成績を修めた者をここで表彰したいと思う。文官科からシーグフリード・エルランデル。騎士科からヴァレリラルド・イルヴァ・シルヴマルク。精霊魔法科からラダ・コウデルカ。以上の者は前に出るように」
ドレイシュに呼ばれ、着席した生徒たちの中から3名が立ち上がる。
シーグフリードの名も呼ばれたのだが、アシェルナオの目は壇上に向かう金髪碧眼の青年に釘付けになっていた。
「ヴァルなの……?」
誰にでもなく、自分に問うように呟くアシェルナオ。
アシェルナオの知っている8歳のヴァレリラルドと同じなのは輝く金髪と澄んだ青い瞳だけだった。可愛さの残っていた面立ちは、すっきりとした顎のラインを持つ精悍な青年のものに変わっていた。
凛々しい目元や、すっと通った鼻筋がベルンハルドに似ているが、より凛々しく美しかった。
まるで金色のオーラを発しているような美丈夫な青年に、アシェルナオの胸がきゅっ、としまる。
センター付近に着席していたヴァレリラルドはアシェルナオの方へまっすぐに歩いてくる。
自分の方に来るのではないか、『ナオ』と呼んでくれるのではないか。
思わずそう思って食い入るようにヴァレリラルドを見つめるが、ヴァレリラルドはもちろんアシェルナオに気づくことはなく、ドレイシュの前で立ち止まる。
アシェルナオは思わず俯いた。
壇上では優秀な成績を修めた者にドレイシュがじきじきにメダルを授与し、祝いの言葉をかけていて、
「アシェルナオ、兄さまが表彰されていますよ。とても誇らしいですね」
パウラが嬉しそうに小声で囁く。
「はい、誇らしいです」
アシェルナオは俯いたまま、膝の上の自分の手を見つめていた。
その手は小さかった。
立派な大人に成長したヴァレリラルドに対して、自分はなんでこんなに小さいのだろう。こんなに小さくては、隣に立つのにふさわしくない。つりあいがとれない。
ヴァレリラルドを助けられたのなら、生まれ変わってしまったことは受け入れると決めたアシェルナオだったが、ヴァレリラルドとの差を見せつけられた今は、悲しみの方が強くなっていた。
ヴァレリラルドを見ただけでこんなに苦しくなるのなら、もう会わないままの方がいい。
そう思うとベールに隠されたアシェルナオの瞳からは、あとからあとから涙がこぼれていた。
膝の上の手に落ちてくる涙の雫に、精霊たちが心配そうにベールの中を覗き込む。
テュコには精霊たちは見えなかったが、涙を零すほどアシェルナオが悲しみに呑み込まれていることはわかった。
殿下を助けなければよかったのに。ずっと私のナオ様でいてくれたらよかったのに。この11年近くで何千回と思ったその言葉は胸にしまったまま、
「ナオ様、テュコがついていますよ」
黙って泣くアシェルナオにそっと慰めの言葉をかける。
アシェルナオが涙を流しているあいだも卒業式は進み、ステージ上ではドレイシュの祝辞が始まっていた。
「卒業生諸君、本日は君たちが6年間学んだこの王立ユラーシェク学園を旅立つ日だ。人によっては教壇に立つ者として残る者もいるだろう。人によっては子供の保護者として訪れる者もいるだろう。だが、この学園の生徒として戻ってくる者はいないだろう。君たちがこの学園で学んだ時間は今日を持って終わり、楽しかった日々も辛かった日々もすべてが各々の記憶の中にしまわれてしまう。だが、いつか苦難の時が来たら、助けてくれた仲間や教師の顔を思い出してほしい。必要な時は助けを求めてほしい。君たちはどんな時でも研鑽を忘れずにがんばってきた。卒業してからも、助けの手を差しのべる価値のある人間だ。そして、助けを求める者に手を貸せる人間になってほしい。私たちの愛する生徒たちよ、今までよく頑張った。卒業おめでとう」
そう言ってドレイシュは壇上から降りる。
「続いては在校生代表による卒業生へのはなむけです。在校生代表は5階席からの登場です」
進行役が式次第を読み上げると、再びホールが暗くなった。
やがて卒業生全員が着席すると、ホールが明るくなる。
ファンファーレが鳴り、マントを羽織った、グルンドライストを彷彿とさせる白髪長髪の高齢男性を先頭に、ベルンハルド、テレーシアが続き、最後尾にストレートの金髪を頭の高い位置で1つに結んだ凛々しい美少女が登場する。
あの子がアネシュカ王女殿下なんだ、と、アシェルナオは興味深く見つめた。
「あれが学園長先生ですよ」
王族を案内してきた白髪の老人をこっそりと指さすテュコ。
「テュコの時も同じ学園長先生だった?」
アシェルナオが尋ねると、
「父さまや母さまのときからドレイシュ学園長だったよ。当時から全然お変わりない」
オリヴェルが当時を思い出しながら答える。
「そうなの? 学園長先生は精霊なの?」
アシェルナオの驚きに、オリヴェルとパウラは微笑ましい目で可愛い我が子を見やった。
だが、今日もアシェルナオの周りにいる小さな五色の精霊たちは、
『しーっ』
と言いたげに口に指をあてている。
「え? え?」
さらに驚くアシェルナオ。
「ナオ様、お静かに」
テュコに小声で注意され、アシェルナオは居住まいを正す。
ドレイシュはゆっくりと中央の壇上に進み、参列している保護者には背を向けて、卒業生たちには対面で、話を始めた。
「君たちは本日、6年間学んだこの王立ユラーシェク学園での最後の日を迎えた。君たちはみな、真剣によく学び、よく鍛えてきた。その中でも特に優秀な成績を修めた者をここで表彰したいと思う。文官科からシーグフリード・エルランデル。騎士科からヴァレリラルド・イルヴァ・シルヴマルク。精霊魔法科からラダ・コウデルカ。以上の者は前に出るように」
ドレイシュに呼ばれ、着席した生徒たちの中から3名が立ち上がる。
シーグフリードの名も呼ばれたのだが、アシェルナオの目は壇上に向かう金髪碧眼の青年に釘付けになっていた。
「ヴァルなの……?」
誰にでもなく、自分に問うように呟くアシェルナオ。
アシェルナオの知っている8歳のヴァレリラルドと同じなのは輝く金髪と澄んだ青い瞳だけだった。可愛さの残っていた面立ちは、すっきりとした顎のラインを持つ精悍な青年のものに変わっていた。
凛々しい目元や、すっと通った鼻筋がベルンハルドに似ているが、より凛々しく美しかった。
まるで金色のオーラを発しているような美丈夫な青年に、アシェルナオの胸がきゅっ、としまる。
センター付近に着席していたヴァレリラルドはアシェルナオの方へまっすぐに歩いてくる。
自分の方に来るのではないか、『ナオ』と呼んでくれるのではないか。
思わずそう思って食い入るようにヴァレリラルドを見つめるが、ヴァレリラルドはもちろんアシェルナオに気づくことはなく、ドレイシュの前で立ち止まる。
アシェルナオは思わず俯いた。
壇上では優秀な成績を修めた者にドレイシュがじきじきにメダルを授与し、祝いの言葉をかけていて、
「アシェルナオ、兄さまが表彰されていますよ。とても誇らしいですね」
パウラが嬉しそうに小声で囁く。
「はい、誇らしいです」
アシェルナオは俯いたまま、膝の上の自分の手を見つめていた。
その手は小さかった。
立派な大人に成長したヴァレリラルドに対して、自分はなんでこんなに小さいのだろう。こんなに小さくては、隣に立つのにふさわしくない。つりあいがとれない。
ヴァレリラルドを助けられたのなら、生まれ変わってしまったことは受け入れると決めたアシェルナオだったが、ヴァレリラルドとの差を見せつけられた今は、悲しみの方が強くなっていた。
ヴァレリラルドを見ただけでこんなに苦しくなるのなら、もう会わないままの方がいい。
そう思うとベールに隠されたアシェルナオの瞳からは、あとからあとから涙がこぼれていた。
膝の上の手に落ちてくる涙の雫に、精霊たちが心配そうにベールの中を覗き込む。
テュコには精霊たちは見えなかったが、涙を零すほどアシェルナオが悲しみに呑み込まれていることはわかった。
殿下を助けなければよかったのに。ずっと私のナオ様でいてくれたらよかったのに。この11年近くで何千回と思ったその言葉は胸にしまったまま、
「ナオ様、テュコがついていますよ」
黙って泣くアシェルナオにそっと慰めの言葉をかける。
アシェルナオが涙を流しているあいだも卒業式は進み、ステージ上ではドレイシュの祝辞が始まっていた。
「卒業生諸君、本日は君たちが6年間学んだこの王立ユラーシェク学園を旅立つ日だ。人によっては教壇に立つ者として残る者もいるだろう。人によっては子供の保護者として訪れる者もいるだろう。だが、この学園の生徒として戻ってくる者はいないだろう。君たちがこの学園で学んだ時間は今日を持って終わり、楽しかった日々も辛かった日々もすべてが各々の記憶の中にしまわれてしまう。だが、いつか苦難の時が来たら、助けてくれた仲間や教師の顔を思い出してほしい。必要な時は助けを求めてほしい。君たちはどんな時でも研鑽を忘れずにがんばってきた。卒業してからも、助けの手を差しのべる価値のある人間だ。そして、助けを求める者に手を貸せる人間になってほしい。私たちの愛する生徒たちよ、今までよく頑張った。卒業おめでとう」
そう言ってドレイシュは壇上から降りる。
「続いては在校生代表による卒業生へのはなむけです。在校生代表は5階席からの登場です」
進行役が式次第を読み上げると、再びホールが暗くなった。
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