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第2部
愛し子をさがせ
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ヘルクヴィスト領の領城。
窓を背に、執務机に向かっていたエンゲルブレクトは、何かを感じて振り返った。
先ほどまで晴天だった空は、いつの間にか厚い雲に覆われていた。
「ハハト」
エンゲルブレクトは扉近くの机で報告書を精査していたハハトに声をかける。
「はい、エンゲルブレクト様」
「目が疲れてしまった。少し休憩しよう。熱いお茶を頼めるか?」
それは人払いの意味も込められていて、長年の付き合いでそれを察したハハトは軽く頭を下げて執務室から辞した。
それを見届けて、エンゲルブレクトは椅子から立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
「随分のご無沙汰でしたね。10年以上ぶりですよ。てっきり愛し子様と一緒に消えてしまったと思っていました」
窓を開けてそう語るエンゲルブレクトに、
「愛し子が加護を受けた」
その背後から小さく呟く声がして、窓を閉めながらエンゲルブレクトは振り向く。
そこには黒いフードを目深にかぶった黒いローブ姿の人物がいた。
「愛し子? ナオ様は消えましたが、新たな愛し子が誕生したのですか?」
「誕生していた。今日加護を受けた。だから封印が解けた」
ボソボソとか細い声が呪文のように聞こえる。
「加護を受けたということは6歳の子供……そうですか。それは興味深い」
エンゲルブレクトは10年前に消えた梛央を思い浮かべる。
どうしても自分のものにしたいと思った黒目黒髪の美しい梛央。あと少しで手に入るところだったが精霊に阻まれて実現はしなかった、しなやかで魅力的なその肢体。
未成熟な淡い色の性器のそばに五弁の花の痣を持つ少年。
梛央の噂が広がったのは意図したことではなかったが、そのおかげで梛央が消失したことに対して王太子への責任が問えるはずだった。
事によっては王太子の座を剥奪する事もできたかもしれなかった。
だが、愛し子の残した手紙により、剥奪どころか王太子の輝ける未来が約束されたことになってしまった。
それが何とも口惜しいまま、10年以上の歳月が流れていた。
「愛し子を王族には渡さない。渡してはいけない」
「私も王族なのですよ、一応」
エンゲルブレクトは冷ややかに笑う。
「お前は王座には興味ない」
「……さあ、どうでしょうね」
今度は曖昧に笑うエンゲルブレクト。
「この国に愛し子はいらない。王族の手に渡る前に見つけ出せ」
「見つけ出してどうするつもりです?」
「……」
黒いローブの人物から負の、憎しみの感情が沸き起こる。
「いいでしょう。愛し子には興味があります。愛し子を見つけ出すかわり、私の望み通りに動いていただきますよ」
黒いローブの人物は何も言わず、靄となって消えた。
「楽しくなってきた。さて、加護を受けたのなら6歳の貴族の子供か……」
梛央以上の愛し子などいないだろうと思いながら考えを巡らせるエンゲルブレクトだった。
窓を背に、執務机に向かっていたエンゲルブレクトは、何かを感じて振り返った。
先ほどまで晴天だった空は、いつの間にか厚い雲に覆われていた。
「ハハト」
エンゲルブレクトは扉近くの机で報告書を精査していたハハトに声をかける。
「はい、エンゲルブレクト様」
「目が疲れてしまった。少し休憩しよう。熱いお茶を頼めるか?」
それは人払いの意味も込められていて、長年の付き合いでそれを察したハハトは軽く頭を下げて執務室から辞した。
それを見届けて、エンゲルブレクトは椅子から立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
「随分のご無沙汰でしたね。10年以上ぶりですよ。てっきり愛し子様と一緒に消えてしまったと思っていました」
窓を開けてそう語るエンゲルブレクトに、
「愛し子が加護を受けた」
その背後から小さく呟く声がして、窓を閉めながらエンゲルブレクトは振り向く。
そこには黒いフードを目深にかぶった黒いローブ姿の人物がいた。
「愛し子? ナオ様は消えましたが、新たな愛し子が誕生したのですか?」
「誕生していた。今日加護を受けた。だから封印が解けた」
ボソボソとか細い声が呪文のように聞こえる。
「加護を受けたということは6歳の子供……そうですか。それは興味深い」
エンゲルブレクトは10年前に消えた梛央を思い浮かべる。
どうしても自分のものにしたいと思った黒目黒髪の美しい梛央。あと少しで手に入るところだったが精霊に阻まれて実現はしなかった、しなやかで魅力的なその肢体。
未成熟な淡い色の性器のそばに五弁の花の痣を持つ少年。
梛央の噂が広がったのは意図したことではなかったが、そのおかげで梛央が消失したことに対して王太子への責任が問えるはずだった。
事によっては王太子の座を剥奪する事もできたかもしれなかった。
だが、愛し子の残した手紙により、剥奪どころか王太子の輝ける未来が約束されたことになってしまった。
それが何とも口惜しいまま、10年以上の歳月が流れていた。
「愛し子を王族には渡さない。渡してはいけない」
「私も王族なのですよ、一応」
エンゲルブレクトは冷ややかに笑う。
「お前は王座には興味ない」
「……さあ、どうでしょうね」
今度は曖昧に笑うエンゲルブレクト。
「この国に愛し子はいらない。王族の手に渡る前に見つけ出せ」
「見つけ出してどうするつもりです?」
「……」
黒いローブの人物から負の、憎しみの感情が沸き起こる。
「いいでしょう。愛し子には興味があります。愛し子を見つけ出すかわり、私の望み通りに動いていただきますよ」
黒いローブの人物は何も言わず、靄となって消えた。
「楽しくなってきた。さて、加護を受けたのなら6歳の貴族の子供か……」
梛央以上の愛し子などいないだろうと思いながら考えを巡らせるエンゲルブレクトだった。
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