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第2部
ヴァルとラル
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「ねぇ、ベルっち。どうしてここにヴァルはいないの? ヴァルは僕を嫌いになったの?」
急に不安な顔になるアシェルナオに、周囲の者は息を呑む。
「アシェルナオ」
急に静かになった雰囲気の中で、アシェルナオに答えたのはシーグフリードだった。
「兄さま?」
「ラルは私の学友なんだ」
「ラル?」
知らない名前にアシェルナオは戸惑う。
「ヴァレリラルド王太子殿下のことだよ。ラルは、たった一人以外には『ヴァル』と呼んでほしくないと言ってね、私たち学友は『ラル』と呼んでいるんだ」
「たった一人……僕?」
ヴァレリラルドにたった一人の人として思われていることに、アシェルナオの胸がときめく。
「ナオ」
ベルンハルドが、ヴァレリラルドの父として、重い口を開いた。
「ん?」
「ヴァレリラルドがナオにプロポーズをしたのを覚えているかい?」
「うん。10年経っているみたいだけど、僕にとっては数日前のことだから。正式には、大きくなったら結婚を申し込みたいって、ヴァルが言ったんだ」
アシェルナオの言葉に、オリヴェルとパウラは驚いた顔をし、シーグフリードは眉を顰める。
「そのヴァレリラルドは18歳。もうすぐ学園を卒業をするが、その後は私の補佐役とケイレブの補佐役を兼任することになっている。年があければ19歳になる」
「そうなんだ」
そう言ったもののアシェルナオは、当時は8歳だったヴァレリラルドがもうすぐ19歳だという事実がまだ実感できなかった。
「つまり、ヴァレリラルドはもう十分に大きいんだ。ナオに会ったらすぐにでも結婚を申し込むと思う。その時ナオはどう返事する?」
真摯な顔で尋ねるベルンハルド。
8歳のヴァレリラルドと今のアシェルナオならば、18歳のヴァレリラルドと16歳だった梛央ならば、つり合いはとれるかもしれない。
けれどもうすぐ19歳になろうとするヴァレリラルドと、やっと今日10歳になったアシェルナオとではつり合いが取れるはずがなかった。
「でも、僕、小さくなってるし……」
「小さくなったのはヴァレリラルドを庇ってナオが死んだからだ。ヴァレリラルドも自分のせいだと感じている。今度こそナオを危ない目に会わせないように手元に置きたいと執着するはずだ。結婚はまだでもすぐにでも婚約すると言い出しかねない。だがそうなると愛し子の公表をしなければならない。公表すればナオは愛し子として周囲からみられるだろう。けれど私も、オリヴェルもパウラも、ナオにはもう少し普通の生活をさせたいと思っている」
ベルンハルドの言葉に、
「愛し子であろうが、うちの子に変わりはない。私たちはアシェルナオに普通の学園生活を送らせたいんだ。殿下にはもう少し辛い思いを続けさせることになるが、アシェルナオが健やかに成長するために待っていただきたいと思っている」
オリヴェルもアシェルナオに言い聞かせる。
「僕も、普通に学園に通いたい。ヴァルは小さくなった僕はもう好きじゃないかもしれない。でも、ヴァルにも会いたい。きっと、ヴァルはこの10年間、自分を責めてきたと思うから、心配させてごめんねって言いたい」
ヴァレリラルドがどんな思いでこの10年を過ごしたかと思うと、早く会って、僕はここにいると知らせたいと、アシェルナオは強く思った。
その思いは痛いほどわかるベルンハルドは、ローセボームと顔を見合わせる。
「俺からもお願いしたいです。殿下の心をナオ様に救ってほしい」
ケイレブも訴える。が、
「うちの可愛い弟を、まだ嫁がせるわけにはいきません」
反対したのはシーグフリードだった。
「兄さま、ヴァルが可哀そうです。それに僕は嫁ぐって決まったわけじゃないよ」
泣きそうな顔で兄を見上げるアシェルナオ。
「アシェルナオ。兄さまはラルと学友。ということは兄さまも学園を卒業するんだ」
「はい」
アシェルナオはコクンと頷く。
「卒業式には家族も参加できる。ラルに顔を見せない、自分がナオだと教えないと約束できるなら、近くでラルを見せてあげるよ。どうする?」
「行きます! いい? いいですか? 父さま、母さま」
兄の提案に、会うことはできなくても今のヴァルを見たいと、アシェルナオの胸がはずむ。
オリヴェルとパウラは顔を見合わせると、
「家族ですもの、シーグフリードの卒業式には一緒に参加しましょうね」
パウラが頷き、
「うゎぁい」
アシェルナオは歓声をあげる。
『ナオ、うれしそう』
『ナオがうれしいとぼくたちもうれしい』
「ありがとう」
アシェルナオは精霊たちと喜びをかわしあった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
前話でスヴェンが6歳と書いていましたが、10歳です。
アシェルナオと同じ年です。すみません(>人<;)
急に不安な顔になるアシェルナオに、周囲の者は息を呑む。
「アシェルナオ」
急に静かになった雰囲気の中で、アシェルナオに答えたのはシーグフリードだった。
「兄さま?」
「ラルは私の学友なんだ」
「ラル?」
知らない名前にアシェルナオは戸惑う。
「ヴァレリラルド王太子殿下のことだよ。ラルは、たった一人以外には『ヴァル』と呼んでほしくないと言ってね、私たち学友は『ラル』と呼んでいるんだ」
「たった一人……僕?」
ヴァレリラルドにたった一人の人として思われていることに、アシェルナオの胸がときめく。
「ナオ」
ベルンハルドが、ヴァレリラルドの父として、重い口を開いた。
「ん?」
「ヴァレリラルドがナオにプロポーズをしたのを覚えているかい?」
「うん。10年経っているみたいだけど、僕にとっては数日前のことだから。正式には、大きくなったら結婚を申し込みたいって、ヴァルが言ったんだ」
アシェルナオの言葉に、オリヴェルとパウラは驚いた顔をし、シーグフリードは眉を顰める。
「そのヴァレリラルドは18歳。もうすぐ学園を卒業をするが、その後は私の補佐役とケイレブの補佐役を兼任することになっている。年があければ19歳になる」
「そうなんだ」
そう言ったもののアシェルナオは、当時は8歳だったヴァレリラルドがもうすぐ19歳だという事実がまだ実感できなかった。
「つまり、ヴァレリラルドはもう十分に大きいんだ。ナオに会ったらすぐにでも結婚を申し込むと思う。その時ナオはどう返事する?」
真摯な顔で尋ねるベルンハルド。
8歳のヴァレリラルドと今のアシェルナオならば、18歳のヴァレリラルドと16歳だった梛央ならば、つり合いはとれるかもしれない。
けれどもうすぐ19歳になろうとするヴァレリラルドと、やっと今日10歳になったアシェルナオとではつり合いが取れるはずがなかった。
「でも、僕、小さくなってるし……」
「小さくなったのはヴァレリラルドを庇ってナオが死んだからだ。ヴァレリラルドも自分のせいだと感じている。今度こそナオを危ない目に会わせないように手元に置きたいと執着するはずだ。結婚はまだでもすぐにでも婚約すると言い出しかねない。だがそうなると愛し子の公表をしなければならない。公表すればナオは愛し子として周囲からみられるだろう。けれど私も、オリヴェルもパウラも、ナオにはもう少し普通の生活をさせたいと思っている」
ベルンハルドの言葉に、
「愛し子であろうが、うちの子に変わりはない。私たちはアシェルナオに普通の学園生活を送らせたいんだ。殿下にはもう少し辛い思いを続けさせることになるが、アシェルナオが健やかに成長するために待っていただきたいと思っている」
オリヴェルもアシェルナオに言い聞かせる。
「僕も、普通に学園に通いたい。ヴァルは小さくなった僕はもう好きじゃないかもしれない。でも、ヴァルにも会いたい。きっと、ヴァルはこの10年間、自分を責めてきたと思うから、心配させてごめんねって言いたい」
ヴァレリラルドがどんな思いでこの10年を過ごしたかと思うと、早く会って、僕はここにいると知らせたいと、アシェルナオは強く思った。
その思いは痛いほどわかるベルンハルドは、ローセボームと顔を見合わせる。
「俺からもお願いしたいです。殿下の心をナオ様に救ってほしい」
ケイレブも訴える。が、
「うちの可愛い弟を、まだ嫁がせるわけにはいきません」
反対したのはシーグフリードだった。
「兄さま、ヴァルが可哀そうです。それに僕は嫁ぐって決まったわけじゃないよ」
泣きそうな顔で兄を見上げるアシェルナオ。
「アシェルナオ。兄さまはラルと学友。ということは兄さまも学園を卒業するんだ」
「はい」
アシェルナオはコクンと頷く。
「卒業式には家族も参加できる。ラルに顔を見せない、自分がナオだと教えないと約束できるなら、近くでラルを見せてあげるよ。どうする?」
「行きます! いい? いいですか? 父さま、母さま」
兄の提案に、会うことはできなくても今のヴァルを見たいと、アシェルナオの胸がはずむ。
オリヴェルとパウラは顔を見合わせると、
「家族ですもの、シーグフリードの卒業式には一緒に参加しましょうね」
パウラが頷き、
「うゎぁい」
アシェルナオは歓声をあげる。
『ナオ、うれしそう』
『ナオがうれしいとぼくたちもうれしい』
「ありがとう」
アシェルナオは精霊たちと喜びをかわしあった。
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前話でスヴェンが6歳と書いていましたが、10歳です。
アシェルナオと同じ年です。すみません(>人<;)
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