149 / 416
第2部
僕、お兄さんだし
しおりを挟む
「ほっほっほ。さすが愛し子様じゃ。我らの常識とはだいぶかけ離れておるのう。精霊玉には触れずに精霊に触れさせるとは」
グルンドライストは規格外のアシェルナオに、愛し子とはこういうものだと受け入れることにした。
「けど、夜の精霊だけはいないようだね」
オルドジフの言葉に、そういえば精霊たちは5人。黒い精霊はいなかった。
『いまの夜はお誘いできない』
『おすすめできない』
『ナオのことは女神さまが護ってる』
「そうなんだ? けど、夜って珍しいね。普通は、光があるなら闇じゃないの?」
アシェルナオが首を傾げると、
「闇っていうと、『隠蔽』『陰湿』『悪』ってイメージだからね。愛し子様の髪と瞳がそういうイメージを持たれたら申し訳ないから、闇じゃなくて夜。穏やかで安らぎを感じさせる言葉に変えたんだよ」
シーグフリードが答えた。
「それって、前の愛し子のこと?」
「確かにその頃から変わったはずだよ。闇の加護を持つ子供が不当ないじめにあうという風潮は昔からあったのは事実だけどね」
「そうなんだ」
言いながらアシェルナオはグルンドライストやオルドジフを見た。
きっと、前の愛し子を護り切れなかったという精霊神殿の後悔が、せめて愛し子に通じる黒のイメージを善いものに変えていこうとしたのではないかと思った。
「さて、ナオ。洗礼を受けて加護を授かったから魔法が使えるはずだ。魔法の使い方を学ぶために家庭教師をつけなければいけないのだが、オリヴェル」
ベルンハルドはオリヴェルを見る。
「ええ。学園に入学するまでの期間を逆算すると、そろそろアシェルナオにも本格的に先生をつけて学ばせたいところなのですが」
「愛し子の公表はまだ先のこと。ですからアシェルナオを人目に触れさせるのは・・・」
アシェルナオがこの国にはない黒髪と黒い瞳をしていることで、オリヴェルとパウラは滅多な者には家庭教師を頼めないでいた。
「それで、だが。私を信じて、ナオの家庭教師に迎えてほしい者たちがいる」
愛し子ゆえの悩みを抱えている公爵夫妻にベルンハルドが申し出ると、
「陛下の推薦であれば安心して迎えましょう」
ベルンハルドを信用しているオリヴェルは即答し、パウラも頷く。
「家庭教師の先生が来るの?」
オリヴェルとパウラを交互に見るアシェルナオ。
「そうみたいよ。楽しみね、アシェルナオ」
「はい。そういえば僕、テュコと学園に通うのを楽しみにしてたんだった」
アシェルナオは、知らないあいだに学園を卒業して大人になっていたテュコに視線を向ける。
「私も楽しみでしたよ。ナオ様のいない学園はちっとも楽しくありませんでした」
「そうなんだ。ごめんね、テュコ」
アシェルナオはテュコに申し訳なくて、しょんぼりと肩を落とした。
「アシェルナオ。貴族の子供は、学園の友達を学園に通う前に作るのよ。あなたのお友達も決まってるの」
そんなアシェルナオを元気づけようと、パウラが明かす。
「僕に? もう僕に友達がいるの?」
一転してパウラの発言に驚く。
「ええ。そのうちの一人はケイレブとサリアンの子よ」
「あ? ああっ? サリーの子供? ええっ?」
パウラの発言にさらに驚く。
「私が家を継いだから、アールグレーン子爵家嫡男、スヴェン・アールグレーンていうんだ。この前10歳になってね。スヴェンならナオ様が黒髪のままでも大丈夫だよ」
「スヴェン? 仲良くしてくれる? でも僕、お兄さんだし」
可愛くはにかむアシェルナオに、月齢も見かけも、どうみてもかなりスヴェンがお兄さんだよ、と言えないサリアン。
昨日は、自分が異質なもので、見えない檻に閉じ込められているような気がしていたアシェルナオだったが、たった一日で両親と心から打ち解けて、家庭教師が来ることやサリアンの子供が自分の友達になるという嬉しいニュースを知らされて、テュコの言うとおり思った以上にいろんなものが変わろうとしていた。
それはアシェルナオが自分は秋葉梛央だということを思い出したからだった。
そして、何かが足りないと思えていた原因も、わかっていた。
グルンドライストは規格外のアシェルナオに、愛し子とはこういうものだと受け入れることにした。
「けど、夜の精霊だけはいないようだね」
オルドジフの言葉に、そういえば精霊たちは5人。黒い精霊はいなかった。
『いまの夜はお誘いできない』
『おすすめできない』
『ナオのことは女神さまが護ってる』
「そうなんだ? けど、夜って珍しいね。普通は、光があるなら闇じゃないの?」
アシェルナオが首を傾げると、
「闇っていうと、『隠蔽』『陰湿』『悪』ってイメージだからね。愛し子様の髪と瞳がそういうイメージを持たれたら申し訳ないから、闇じゃなくて夜。穏やかで安らぎを感じさせる言葉に変えたんだよ」
シーグフリードが答えた。
「それって、前の愛し子のこと?」
「確かにその頃から変わったはずだよ。闇の加護を持つ子供が不当ないじめにあうという風潮は昔からあったのは事実だけどね」
「そうなんだ」
言いながらアシェルナオはグルンドライストやオルドジフを見た。
きっと、前の愛し子を護り切れなかったという精霊神殿の後悔が、せめて愛し子に通じる黒のイメージを善いものに変えていこうとしたのではないかと思った。
「さて、ナオ。洗礼を受けて加護を授かったから魔法が使えるはずだ。魔法の使い方を学ぶために家庭教師をつけなければいけないのだが、オリヴェル」
ベルンハルドはオリヴェルを見る。
「ええ。学園に入学するまでの期間を逆算すると、そろそろアシェルナオにも本格的に先生をつけて学ばせたいところなのですが」
「愛し子の公表はまだ先のこと。ですからアシェルナオを人目に触れさせるのは・・・」
アシェルナオがこの国にはない黒髪と黒い瞳をしていることで、オリヴェルとパウラは滅多な者には家庭教師を頼めないでいた。
「それで、だが。私を信じて、ナオの家庭教師に迎えてほしい者たちがいる」
愛し子ゆえの悩みを抱えている公爵夫妻にベルンハルドが申し出ると、
「陛下の推薦であれば安心して迎えましょう」
ベルンハルドを信用しているオリヴェルは即答し、パウラも頷く。
「家庭教師の先生が来るの?」
オリヴェルとパウラを交互に見るアシェルナオ。
「そうみたいよ。楽しみね、アシェルナオ」
「はい。そういえば僕、テュコと学園に通うのを楽しみにしてたんだった」
アシェルナオは、知らないあいだに学園を卒業して大人になっていたテュコに視線を向ける。
「私も楽しみでしたよ。ナオ様のいない学園はちっとも楽しくありませんでした」
「そうなんだ。ごめんね、テュコ」
アシェルナオはテュコに申し訳なくて、しょんぼりと肩を落とした。
「アシェルナオ。貴族の子供は、学園の友達を学園に通う前に作るのよ。あなたのお友達も決まってるの」
そんなアシェルナオを元気づけようと、パウラが明かす。
「僕に? もう僕に友達がいるの?」
一転してパウラの発言に驚く。
「ええ。そのうちの一人はケイレブとサリアンの子よ」
「あ? ああっ? サリーの子供? ええっ?」
パウラの発言にさらに驚く。
「私が家を継いだから、アールグレーン子爵家嫡男、スヴェン・アールグレーンていうんだ。この前10歳になってね。スヴェンならナオ様が黒髪のままでも大丈夫だよ」
「スヴェン? 仲良くしてくれる? でも僕、お兄さんだし」
可愛くはにかむアシェルナオに、月齢も見かけも、どうみてもかなりスヴェンがお兄さんだよ、と言えないサリアン。
昨日は、自分が異質なもので、見えない檻に閉じ込められているような気がしていたアシェルナオだったが、たった一日で両親と心から打ち解けて、家庭教師が来ることやサリアンの子供が自分の友達になるという嬉しいニュースを知らされて、テュコの言うとおり思った以上にいろんなものが変わろうとしていた。
それはアシェルナオが自分は秋葉梛央だということを思い出したからだった。
そして、何かが足りないと思えていた原因も、わかっていた。
73
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる