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第2部

僕、お兄さんだし

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 「ほっほっほ。さすが愛し子様じゃ。我らの常識とはだいぶかけ離れておるのう。精霊玉には触れずに精霊に触れさせるとは」

 グルンドライストは規格外のアシェルナオに、愛し子とはこういうものだと受け入れることにした。

 「けど、夜の精霊だけはいないようだね」

 オルドジフの言葉に、そういえば精霊たちは5人。黒い精霊はいなかった。

 『いまの夜はお誘いできない』

 『おすすめできない』

 『ナオのことは女神さまが護ってる』

 「そうなんだ? けど、夜って珍しいね。普通は、光があるなら闇じゃないの?」

 アシェルナオが首を傾げると、

 「闇っていうと、『隠蔽』『陰湿』『悪』ってイメージだからね。愛し子様の髪と瞳がそういうイメージを持たれたら申し訳ないから、闇じゃなくて夜。穏やかで安らぎを感じさせる言葉に変えたんだよ」

 シーグフリードが答えた。

 「それって、前の愛し子のこと?」

 「確かにその頃から変わったはずだよ。闇の加護を持つ子供が不当ないじめにあうという風潮は昔からあったのは事実だけどね」

 「そうなんだ」

 言いながらアシェルナオはグルンドライストやオルドジフを見た。

 きっと、前の愛し子を護り切れなかったという精霊神殿の後悔が、せめて愛し子に通じる黒のイメージを善いものに変えていこうとしたのではないかと思った。

 「さて、ナオ。洗礼を受けて加護を授かったから魔法が使えるはずだ。魔法の使い方を学ぶために家庭教師をつけなければいけないのだが、オリヴェル」

 ベルンハルドはオリヴェルを見る。

 「ええ。学園に入学するまでの期間を逆算すると、そろそろアシェルナオにも本格的に先生をつけて学ばせたいところなのですが」

 「愛し子の公表はまだ先のこと。ですからアシェルナオを人目に触れさせるのは・・・」

 アシェルナオがこの国にはない黒髪と黒い瞳をしていることで、オリヴェルとパウラは滅多な者には家庭教師を頼めないでいた。

 「それで、だが。私を信じて、ナオの家庭教師に迎えてほしい者たちがいる」

 愛し子ゆえの悩みを抱えている公爵夫妻にベルンハルドが申し出ると、

 「陛下の推薦であれば安心して迎えましょう」

 ベルンハルドを信用しているオリヴェルは即答し、パウラも頷く。

 「家庭教師の先生が来るの?」

 オリヴェルとパウラを交互に見るアシェルナオ。

 「そうみたいよ。楽しみね、アシェルナオ」

 「はい。そういえば僕、テュコと学園に通うのを楽しみにしてたんだった」

 アシェルナオは、知らないあいだに学園を卒業して大人になっていたテュコに視線を向ける。

 「私も楽しみでしたよ。ナオ様のいない学園はちっとも楽しくありませんでした」

 「そうなんだ。ごめんね、テュコ」

 アシェルナオはテュコに申し訳なくて、しょんぼりと肩を落とした。

 「アシェルナオ。貴族の子供は、学園の友達を学園に通う前に作るのよ。あなたのお友達も決まってるの」

 そんなアシェルナオを元気づけようと、パウラが明かす。

 「僕に? もう僕に友達がいるの?」

 一転してパウラの発言に驚く。

 「ええ。そのうちの一人はケイレブとサリアンの子よ」

 「あ? ああっ? サリーの子供? ええっ?」

 パウラの発言にさらに驚く。

 「私が家を継いだから、アールグレーン子爵家嫡男、スヴェン・アールグレーンていうんだ。この前10歳になってね。スヴェンならナオ様が黒髪のままでも大丈夫だよ」

 「スヴェン? 仲良くしてくれる? でも僕、お兄さんだし」

 可愛くはにかむアシェルナオに、月齢も見かけも、どうみてもかなりスヴェンがお兄さんだよ、と言えないサリアン。

 昨日は、自分が異質なもので、見えない檻に閉じ込められているような気がしていたアシェルナオだったが、たった一日で両親と心から打ち解けて、家庭教師が来ることやサリアンの子供が自分の友達になるという嬉しいニュースを知らされて、テュコの言うとおり思った以上にいろんなものが変わろうとしていた。

 それはアシェルナオが自分は秋葉梛央だということを思い出したからだった。

 そして、何かが足りないと思えていた原因も、わかっていた。

 
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