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第1部

リンちゃんはお留守番

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 アルテアンができあがった洗礼式の衣装を持ってきたのは二日後のことだった。

 「着てみてもいい?」

 サロンで、箱に入れられた衣装を見て、梛央は周囲の者を見回す。

 「最終チェックのためにも、ぜひ」

 ダリミルの言葉に、

 「お手伝いします」

 「ナオ様、こちらへ」

 ヴァレリラルドに見せるためだと知っているテュコは複雑な顔をし、アイナとドリーンは衣装箱を持って梛央を衝立の後ろに案内した。

 「そうだわ、ナオ様」

 衝立の向こうにいる梛央にアルテアンが声をかける。

 「なに?」

 「スウェットは素材選びからやってますよ。ある程度素材が決まったら、織りを考えていくつもり。すぐに、というわけじゃないですけど、ちゃんと頑張ってるから安心してくださいね」

 「ありがとう。時間かかっても大丈夫だから、楽しみに待ってるね」

 衝立の向こう側ではずんだ声をあげる梛央。

 「私も新しい布地との出会いが楽しみです。ナオ様にはとてもよい刺激をもらっていますわ」

 「アルテアンの方が刺激的だよ」

 衝立を挟んだやり取りをしているうちに、梛央はアイナとドリーンによって洗礼式用の衣装に着替えさせられていた。

 実際に着てみると、ウエディングドレスというよりはオルドジフが着ているような聖職者の服が下地になっていることがわかる、清楚な儀式用の礼服といった感じだった。

 「どう?」

 梛央はアイナとドリーンにターンしてみせる。

 「とてもお似合いです」

 「お綺麗です」

 アイナとドリーンは、うっとりした顔で梛央の姿を見つめた。

 「ありがとう」

 はにかんだ笑みを見せてから、梛央は衝立から出た。

 「どうかな?」

 アイナとドリーンにして見せたようにみんなの前でターンして見せる。

 「私が指摘したところが完璧に手直しされていますね。素晴らしいです。素晴らしくお綺麗です。この衣装で洗礼の儀式を受けるナオ様は精霊よりも精霊らしい存在となるでしょう」

 頭の中ではすでにその光景が繰り広げられているらしく、ダリミルは感涙にむせんでいる。

 「よく似合っているよ。いい衣装だ」

 うんうん、と我が子を見るような目をするオルドジフ。

 「とてもお美しいです」

 テュコも頬を染めて梛央に見とれていた。

 「アルテアン、みんなが褒めてくれたよ。いい衣装をありがとう」

 「着ている人を引き立てる服を作ることを心掛けていますが、ナオ様ほど私の服を着こなしてくださる方はいません。ナオ様、これからもずっと服を作らせてくださいね」

 「うん、これからもお願いね」

 「心配なされずとも、ナオ様がより可愛く、より美しくなる服を私が発注してまいります」

 キリッとした表情のダリミルに、アイナとドリーンだけはそのセンスに同調しているので頼もしいと思った。

 「ダリミル、ヴァルにこの服を見せるって約束したんだ。ヴァルに会いに行ける?」

 「確認してまいります。少々お待ちくださいませ」

 キッチリと腰を折ってサロンを辞すダリミル。

 「ね、ドーさん?」

 梛央はオルドジフの顔を覗き込む。

 「なんだい、ナオ」

 「精霊神殿は怖くない?」

 「怖くないよ。精霊神殿は人々が癒しと救いを求めて訪れるところだよ」

 「じゃあ、僕洗礼を受ける。怖いけど、みんなが僕のためにいろいろ頑張ってくれてるから、僕もがんばらないとね」

 「そうか。えらいぞ、ナオ」

 オルドジフが頭を撫でて褒めると、梛央も嬉しそうに笑顔を見せた。

 「あとで儀式でどんなことするのか、教えてね」

 「ああ。ナオなら立派に儀式を務めるはずだよ。私も付き添うからね」

 「うん」

 梛央が頷いた時、

 「ナオ様、いまシアンハウスからサミュエル殿がお見えになっており、陛下と謁見中です。それが済み次第、陛下、サミュエル殿もご一緒に庭園の東屋で一緒にお茶にしましょう、とのことです」

 「サミュエルも? 会えるのは嬉しいけど、リンちゃんは絶対お留守番だね」

 「ナオ様、サミュエル殿はリンちゃんをとったりしませんよ?」

 サリアンが言うが、取らないにしろ触ったり匂いを嗅いだりはするはずだった。ヴァレリラルドも。

 「リンちゃんはお留守番。絶対」

 そこはがんとして譲らない梛央だった。
 
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