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第1部

甘えません!

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 転移陣の間を出て渡り廊下を渡る。そこから繋がる回廊を通って王城の内部へ進むのだが、回廊から見える王城を興味深そうに見渡し、

 「ヴァル、お城だよ。王様とお后様とお姫様がいるようなお城だよ」

 梛央のイメージにあるお城そのものの、白亜の外壁や円塔のあるお城を見て感激する梛央。

 「王子もいるよ。王太子だけど」

 苦笑するヴァレリラルド。

 「あ、そうか。王城って王様がいるお城ってことだよね。それにヴァルは身近にいて優しいから王太子ってことをつい忘れちゃってた」

 てへっ、な感じで笑う梛央が可愛くて、ヴァレリラルドももらい笑いする。

 「国王陛下に謁見するっていうのに緊張感がないところがナオ様らしいですね」

 後ろから歩くサリアンは意外に緊張した面持ちで、

 「貴族の方が緊張するよなぁ。俺は平民出身だから逆に友達感覚だなぁ」

 ケイレブは余裕のある笑みを浮かべている。

 「陛下には友達は選ぶように伝えておきましょう」

 はっはっはっは。

 ローセボームが先頭でほがらかな笑い声をあげた。

 「宰相さん?」

 梛央がローセボームの後ろから声をかける。

 「ローセボームとお呼びください、ナオ様」

 「ローセボームは宰相だから偉いんでしょう? その息子が僕の侍従をしててもいいの?」

 梛央の問いかけに、ローセボームが振り向く。

 「ナオ様はうちのテュコではご不満ですか?」

 「ううん、そんなことない。テュコはヒーローみたいに現れてからずっと、僕のためによくしてくれているよ。テュコがいないと困るし、心細くなる。でも、もしテュコのお父さんがテュコに侍従はさせられないって言うなら、友達としてでもそばにいてほしいな、って思って」

 懇願するようにローセボームを見上げる梛央。

 「ナオ様、私はずっとナオ様の侍従としておそばにいますよ。約束したでしょう? ナオ様が私をいやだと言っても、ずっとそばにいますからね」

 ナオの横にきて宣言するテュコ。

 「おお。可愛いお子とうちの可愛い子が可愛いことを言っている」

 ローセボームは感動して言った。

 「父上、何のんきなことを言っているんですか。ちゃんとナオ様にお答えください」

 「そうだった。ナオ様、貴族の爵位は嫡子が継ぎます。次男はその補佐、もしくは嫡子に何かあった時の跡取りとなります。三男以下は自分で身を立てていかなければなりません。ナオ様が精霊の泉にご出現されたと報告を受けた時、誰を侍従としてつけようかと陛下と話し合いました。サミュエルからの報告ではナオ様はお綺麗だがまだ幼い方とありましたので」

 「ローセボーム、僕は幼くないよ。16歳だよ」

 リングダールを抱きしめて、ヴァレリラルドと手をつないで歩く梛央が訂正するが、客観的に見て梛央と8歳のヴァレリラルドとはあまり年が変わらないように見えた。

 ヴァレリラルドが同い年の子供より発達がよいとしても、テュコより年上には見えなかった。どこからどう見ても立派な可愛いお子様にしかローセボームには見えかなった。が、

 「ええ、ナオ様は立派な16歳でいらっしゃいます。ですが、サミュエルの報告には幼い方とありましたので、同じくらいの年の者であればナオ様が警戒せずに打ち解けてくださるのではと、ということになり、テュコに話を持ち掛けたのです」

 ニッコリと笑いながら忖度した。

 「話をいただいた時に私は愛し子様のお世話がしたいと強く思いました。だから父上にすぐに、私に愛し子様の侍従をさせてくださいとお願いしたんです。ナオ様のお側にいて、あの時に決断してよかったと本当に思います。もし父上が侍従をやめろと言ったとしても、私は絶対ナオ様から離れません」

 「うん。最初に言ってくれたよね。すごく心強くて嬉しかった。あの時から、僕はこの国で生きていく決意ができたと思うんだ。テュコとアイナとドリーン。ずっと一緒だよね」

 ね、と首を傾げる梛央。

 「はい、ナオ様」

 しっかり頷くテュコ。

 2人の様子を微笑ましく見守りながらも梛央の手をしっかり握って離さないヴァレリラルド。

 「うちの可愛いテュコが可愛らしい愛し子様と絆を深めている……」

 再び感動するローセボーム。

 「すみません、ナオ様。父上はあれでも有能な宰相と言われているんですが……」

 「親は自分の子供が可愛いに決まってるよ。それにテュコと久しぶりに会ったから嬉しいんだよ。テュコも僕に遠慮せずに甘えていいんだよ?」

 「甘えません!」

 顔を赤くして首を振るテュコは、しっかりしていても12歳なんだなと梛央は思った。
 
 
 
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