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第1部
底
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「梛央ちゃん、逃げたらだめだよ」
男に背後から抱きしめられて凍りつく梛央の身体を、男の手がまさぐる。
着ていた服は脱がされ、足元に散らばり、素肌になった梛央の背中に男の素肌が密着する。
肌と肌が触れ合う感覚がおぞましくて、梛央は声も出せないでいた。
男の手が梛央の前に回り、なめらかな肌の感触を楽しむように梛央の身体を撫でまわす。
男の唇は梛央の耳の後ろやうなじを這いまわっていたが、男の手が梛央の顎を掴み、強引に後ろを向かせた。
嫌がる梛央の唇に男の唇が重なる。
男の舌が梛央の口腔に侵入し、上顎といわず口の中を嘗め回し、縮こまる梛央の舌に絡みつく。
押し付けられる激しい口づけに、唾液が溢れて梛央の唇の端から伝い落ちる。
「んんっっ」
テュコがスプーンで唇のあいだから流し込もうとした液体を、梛央は唇をしっかりと閉じて拒む。
首を振り、手足をばたつかせて全身で拒絶する梛央を、オルドジフは抱きしめてあやした。
「テュコ、もういい」
うまく飲ませられなかったスプーンを持ったままのテュコに、ショトラが声をかけた。
「しかし……少しだけでも水分を摂らないと……」
テュコが飲ませようとしたのは、ショトラが処方した、生命を維持するための成分のはいった、液体の薬だった。
保護されてから何も口にしていない梛央を心配して、どうにかして少しでも口の中に入れたかったが、梛央は眠っていてもその刺激に反応して拒絶していた。
「いざとなったら強引な手段を使うかもだが。今は抵抗して体力がさらに消耗するのを避けたい」
ショトラの見立てに、テュコも残念そうに頷いた。
「すみません、私がいるのに……」
癒し手でありながら、梛央の手を握るどころか、身体に触れることもできないために癒せないでいるフォルシウスも申し訳なさそうな声を出す。
「ナオ様がこのままの状況ならば、いやでも出番がくる。そうならないことを願っているがな」
ショトラはオルドジフの腕の中で生気なく眠る梛央を視界に入れながら呟いた。
口づけはいつまでもいつまでも、気が遠くなるくらいに長く続いた。男の舌はまるで大きななめくじのようで、それに口の中を蹂躙されて梛央は嫌悪感でいっぱいだった。
唾液が溢れてきても、飲み込むのがいやで、懸命に舌で男の舌を押し返す。
男は、梛央が慣れない口づけに拙く反応していると思い、至福の思いで口づけを続けていることを梛央は知らない。
激しい口づけで混ざり合った二人の唾液を、愛の証として男は梛央ののどをそらせて飲み込ませようとした。
必死に抗う梛央だが、願いもむなしく唾液が喉をおりていった。
梛央が突然目を開けたかと思うと、口を押えて体を丸めた。
異変に気付いたオルドジフが背中を撫でる。
手で押さえた梛央の口の奥から苦し気な声が出ていた。さらに小さくなった背中が大きく上下している。
「ナオ、大丈夫か? 気持ち悪い? 吐きたい?」
「うっ……」
「大丈夫、ここで吐いてしまいなさい」
背中をさすりながらオルドジフが促すが、梛央はシーツを握りしめて苦し気に大きな呼吸を繰り返すだけだった。
「ショトラ先生!」
何もできないテュコがショトラを呼ぶ。
「吐かせた方がいい。リボル、グリーンベースンはあるか?」
ショトラはオルドジフに促しながら通信機になっている魔道具に話しかける。
「ショトラ先生、必要ありません。ナオ、ドーさんはクリーンが使える。汚してもすぐに綺麗にできるから、気にせずに吐いていい。気持ち悪いものは全部吐き出すんだ」
ショトラの指示を耳にして、オルドジフは梛央の背中を強く摩る。
こらえきれず嘔吐する梛央。
胃が空になっていて胃液しか出なかったが、泣きながら苦し気に嘔吐を続ける梛央は、見ていて辛かった。
どれだけの傷が深いのだろうと思うと、見ている者たちの胸が痛んだ。
「いい子だ。楽になるまで吐いていいんだ」
シーツや梛央の服、自分の服が汚れるたびにクリーンをかけながらオルドジフが話しかける。
嘔吐したことで呼吸が少し楽になってきた梛央だったが、体力を奪われて衰弱が増していて、やがて泣きながら意識を失った。
もう見ていられないとフォルシウスは思った。
誰に判断を仰ぐでもなく寝台にあがると、オルドジフに変わって梛央の背中に手をあてる。
オルドジフの手とは違う感覚のはずだが、悲鳴をあげたり暴れたりする体力がなくなったのか、ぐったりとオルドジフに体を預けたままだった。
それでもしばらく経つと、泣きながら気を失う梛央の顔は、少しだが穏やかになっていた。
「そのまま癒しをかけてくれ。アイナ、ドリーン、ナオ様の顔を拭いてあげてくれ」
「はい」
「はい」
苦し気に嘔吐していたときはどうなるかと思ったが、フォルシウスの癒しを受け入れて幾分穏やかになった梛央の顔に、安堵したのはアイナとドリーンだけではなかった。
男に背後から抱きしめられて凍りつく梛央の身体を、男の手がまさぐる。
着ていた服は脱がされ、足元に散らばり、素肌になった梛央の背中に男の素肌が密着する。
肌と肌が触れ合う感覚がおぞましくて、梛央は声も出せないでいた。
男の手が梛央の前に回り、なめらかな肌の感触を楽しむように梛央の身体を撫でまわす。
男の唇は梛央の耳の後ろやうなじを這いまわっていたが、男の手が梛央の顎を掴み、強引に後ろを向かせた。
嫌がる梛央の唇に男の唇が重なる。
男の舌が梛央の口腔に侵入し、上顎といわず口の中を嘗め回し、縮こまる梛央の舌に絡みつく。
押し付けられる激しい口づけに、唾液が溢れて梛央の唇の端から伝い落ちる。
「んんっっ」
テュコがスプーンで唇のあいだから流し込もうとした液体を、梛央は唇をしっかりと閉じて拒む。
首を振り、手足をばたつかせて全身で拒絶する梛央を、オルドジフは抱きしめてあやした。
「テュコ、もういい」
うまく飲ませられなかったスプーンを持ったままのテュコに、ショトラが声をかけた。
「しかし……少しだけでも水分を摂らないと……」
テュコが飲ませようとしたのは、ショトラが処方した、生命を維持するための成分のはいった、液体の薬だった。
保護されてから何も口にしていない梛央を心配して、どうにかして少しでも口の中に入れたかったが、梛央は眠っていてもその刺激に反応して拒絶していた。
「いざとなったら強引な手段を使うかもだが。今は抵抗して体力がさらに消耗するのを避けたい」
ショトラの見立てに、テュコも残念そうに頷いた。
「すみません、私がいるのに……」
癒し手でありながら、梛央の手を握るどころか、身体に触れることもできないために癒せないでいるフォルシウスも申し訳なさそうな声を出す。
「ナオ様がこのままの状況ならば、いやでも出番がくる。そうならないことを願っているがな」
ショトラはオルドジフの腕の中で生気なく眠る梛央を視界に入れながら呟いた。
口づけはいつまでもいつまでも、気が遠くなるくらいに長く続いた。男の舌はまるで大きななめくじのようで、それに口の中を蹂躙されて梛央は嫌悪感でいっぱいだった。
唾液が溢れてきても、飲み込むのがいやで、懸命に舌で男の舌を押し返す。
男は、梛央が慣れない口づけに拙く反応していると思い、至福の思いで口づけを続けていることを梛央は知らない。
激しい口づけで混ざり合った二人の唾液を、愛の証として男は梛央ののどをそらせて飲み込ませようとした。
必死に抗う梛央だが、願いもむなしく唾液が喉をおりていった。
梛央が突然目を開けたかと思うと、口を押えて体を丸めた。
異変に気付いたオルドジフが背中を撫でる。
手で押さえた梛央の口の奥から苦し気な声が出ていた。さらに小さくなった背中が大きく上下している。
「ナオ、大丈夫か? 気持ち悪い? 吐きたい?」
「うっ……」
「大丈夫、ここで吐いてしまいなさい」
背中をさすりながらオルドジフが促すが、梛央はシーツを握りしめて苦し気に大きな呼吸を繰り返すだけだった。
「ショトラ先生!」
何もできないテュコがショトラを呼ぶ。
「吐かせた方がいい。リボル、グリーンベースンはあるか?」
ショトラはオルドジフに促しながら通信機になっている魔道具に話しかける。
「ショトラ先生、必要ありません。ナオ、ドーさんはクリーンが使える。汚してもすぐに綺麗にできるから、気にせずに吐いていい。気持ち悪いものは全部吐き出すんだ」
ショトラの指示を耳にして、オルドジフは梛央の背中を強く摩る。
こらえきれず嘔吐する梛央。
胃が空になっていて胃液しか出なかったが、泣きながら苦し気に嘔吐を続ける梛央は、見ていて辛かった。
どれだけの傷が深いのだろうと思うと、見ている者たちの胸が痛んだ。
「いい子だ。楽になるまで吐いていいんだ」
シーツや梛央の服、自分の服が汚れるたびにクリーンをかけながらオルドジフが話しかける。
嘔吐したことで呼吸が少し楽になってきた梛央だったが、体力を奪われて衰弱が増していて、やがて泣きながら意識を失った。
もう見ていられないとフォルシウスは思った。
誰に判断を仰ぐでもなく寝台にあがると、オルドジフに変わって梛央の背中に手をあてる。
オルドジフの手とは違う感覚のはずだが、悲鳴をあげたり暴れたりする体力がなくなったのか、ぐったりとオルドジフに体を預けたままだった。
それでもしばらく経つと、泣きながら気を失う梛央の顔は、少しだが穏やかになっていた。
「そのまま癒しをかけてくれ。アイナ、ドリーン、ナオ様の顔を拭いてあげてくれ」
「はい」
「はい」
苦し気に嘔吐していたときはどうなるかと思ったが、フォルシウスの癒しを受け入れて幾分穏やかになった梛央の顔に、安堵したのはアイナとドリーンだけではなかった。
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