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第1部

ナオちゃんがピンチかもー

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 白いシーツの上に寝かされた梛央はアッパーシーツだけを掛けられていたが、そこから出ている肩口から上、膝から下の手足は素肌だった。

 馬車から投げ出され、水のたまった地面に転がり落ち、激しい雨の中を飛竜に連れ去られてと聞いていたが、見る限りどこも濡れたり汚れたりしていないようだった。

 「濡れたままではお可哀そうだと思っていましたが、綺麗にしていただいたんですね。ありがとうございます」

 艶やかな梛央の黒髪がさらりとシーツに広がっている様子を見てエンゲルブレクトが目を細める。

 だがその目が梛央の左の手首にとめられる。

 そこには金細工の、幅が広めの腕輪があった。

 「これは?……シモンに与えたものと同じですか?」

 昼食の時までは梛央の手首になかったものに、エンゲルブレクトはローブ姿の人物に視線を向ける。

 「違う……あれは人の気配を断つもの。それは精霊の加護を断つもの」

 「ナオ様はまだ加護を受けておられないのでは?」

 「加護を使えないだけ。精霊は使える。それをつけていると精霊も使えない。精霊からも見えない」

 「シモンのように副作用として心に闇を生じたりしないでしょうね」

 心に闇を生じさせ、心の闇に飲まれて投獄されているシモンの末路を思い出し、エンゲルブレクトは強い語調で尋ねる。

 「心に作用はある……心はこの世界にない。前の世界の、怖い思いをした時間に閉じ込めている」

 シアンハウスのサロンで話した時の、梛央の恐怖に怯える姿もまた強く心に残っており、エンゲルブレクトは眠っている美しい少年を痛ましげに見つめた。

 「……どうしたら腕輪の作用が切れるんです?」

 「……腕輪をはずせばいい」

 「どうしたらはずせますか?」

 「はずしたいと強く思えばいい」

 「ナオ様自身が? 心を捕らわれている状況で?」
 
 具体的なようで抽象的な答えに戸惑い、苛立つエンゲルブレクト。 

 ローブ姿の人物は袂からナイフの形をした金細工を取り出す。

 「それは?」

 「さっきの場所に空間をつなぐ鍵」

 差し出されたナイフをエンゲルブレクトが受け取ると同時に、ローブ姿の人物はゆっくりと消えていった。

 その様子を眺めていたエンゲルブレクトは、完全に姿が消えてしまうと寝台に腰を下ろした。

 眠る梛央の顔を一頻り眺めたあと、エンゲルブレクトはシーツから伸びる白い足にそっと手を這わせる。

 細いが、しっとりした弾力のある肌は触り心地がよく、感触を楽しむようにその手がシーツの中に潜り込む。

 眠っている梛央が恐怖だった出来事のさなかに閉じ込められていると聞いて、痛ましく思いこそすれ、そんな状況の梛央に欲情しないだろうと思っていたが、素肌の感触のよさはあっさりとそれを覆した。

 エンゲルブレクトは寝台にのり上げて梛央の足の間に身を置くと、梛央の素肌を隠しているシーツをゆっくりとめくる。

 小柄な体と愛らしい言動のせいで16歳とは思えない梛央だが、シーツの下から現れた裸体は不思議な色気を放っていて、エンゲルブレクトの目をくぎ付けにした。

 思わず息をのんで胸の2つの突起や腰の括れ、淡い叢さえもない薄い色の陰茎を凝視する。

 梛央の裸体を嘗め回すように目でなぞるエンゲルブレクトの視線が、まだ未熟な陰茎の近く、足の付け根にある五弁の花の痣に留まる。

 「美しい人は痣も美しい」

 思わず呟いて、そこに唇を寄せ、痣に恭しく口づけをする。

 敏感な場所に口づけられて、梛央の体がぴくりと動く。

 「やっ……」

 梛央の唇から弱弱しい声が漏れる。

 その声さえ甘く聞こえ、エンゲルブレクトはちゅっ、と音を立てて痣を吸う。五弁の桜にもう一枚花弁が増えたような赤い痣が増えた。

 「やだ……たすけ……ヴァル……」

 梛央の唇がヴァレリラルドの名前を呼ぶ。

 エンゲルブレクトは梛央の顔の横に左手をつくと、右手を振りかざしてその頬を叩いた。叩かれた衝撃とともに梛央の体が硬直する。

 「あなたの伴侶はヴァレリラルドではない。私ですよ」

 両手で梛央の頭を愛しく撫でまわすと、梛央の上体を起こし、抱きしめながらその唇に唇を寄せる。

 噛みつくように口づけをし、固く閉ざした梛央の口をこじ開けて自分の舌をねじ込む。エンゲルブレクトは口腔内で縮こまる梛央の舌を舌で引きずり出すと、そのままねっとりと絡みあわせる。怯えるように震える梛央の舌を吸い、口腔内を舌でなぞり、また舌を搦めとる。

 やがて梛央の口腔に2人の唾液があふれてくると、エンゲルブレクトは梛央の顎を持ち上げて、それを嚥下させるように仕向けた。

 小さな音をたてて梛央はそれを嚥下するが、呑み込めなかった唾液が梛央の首を伝い、胸元に滑り落ちる。

 抱き起こしていた梛央の体をゆっくりとおろすと、伝い落ちた唾液を辿るようにエンゲルブレクトは梛央の肌に舌を這わせた。


 
 やっぱーい。

 この蓋あかないー。助けて女神さまー。ナオちゃんの気配が消えたのー。ナオちゃんがピンチかもー。

 言葉は危機的だが、どこか間の抜けたような声がした。

 どこかでため息が聞こえた。


 
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