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第1部
さらに襲撃
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「ボスフェルだ!」
イスコの叫びで、自分の勘が正しかったことをケイレブは知った。
見るとフェルウルフの背後の森の中に一際大きな赤い目が一対、こちらに向けられていた。
「ここらにこんなのが存在するって話、聞いてないぜ!」
ハンメルトが幾分わくわくした声音で叫ぶ。
「俺もだ!」
炎の剣でフェルウルフと対峙しながらヨーランが言った。
「楽しむな、第一!」
ダーヴィドが叫ぶ。
「楽しめ、近衛!」
と、メランデル。
一見いがみあっているようだが、どちらの顔も高揚した笑みが浮かんでいた。
「その調子で乗り切るぞ! ラリ、まだがんばれそうか?」
「もちろんです!」
一人でシールドを担当しているラリが返す。
「クルームは馬車の上からボスに魔法攻撃を。フォルシウスはラリとクルームのサポートを頼む。ファルクとカレヴィも引き続きサポート。ヨーラン、メランデル、ハンメルト、ダーヴィド、イスコは引き続き群れを。俺とクランツ、イクセルでボスをやるぞ」
「はいっ!」「おう!」
クルームは御者台の上に上り、フォルシウスも馬車の上に上がる。
同時に森の中からボスフェルが飛び出してきた。馬車より大きな体躯で、威嚇の姿勢でうなり声をあげる。
「落石!」
クルームの言葉とともに空中に現れた岩石群がボスフェルの目や鼻に降り注ぐ。
ボスフェルがそれを嫌って顔を振るのを、フォルシウスの風魔法で追撃させる。その隙にイクセルがファイアボールを胸元に撃つ。
肉の焼ける焦げた匂いを放ちながら身をよじるボスフェルの首をめがけてケイレブが剣を突き刺す。そのまま剣で切り裂き、イクセルも炎の剣で斬りかかる。
クランツはクルームの乗る御者台に駆け上がると、そこからボスフェルの背中に飛び移り、頚椎めがけて剣を突き刺した。
耳をつんざく断末魔をあげ、ボスフェルはどぉっ、と地面に倒れた。
「やった!」
護衛騎士から歓声があがる。
「フェルウルフの群れが逃げて行きます」
あらかた数を減らしていたが、ボスフェルが倒れたのを見て残っていたフェルウルフが森の奥へ走り去っていき、無事に魔獣を撃退できて安堵した声が漏れた。
「深追いするな。態勢を整えろ。このまま街まで……」
ケイレブの言葉尻に、
『上、何か来ます!』
スオルサの緊迫した声が重なった。
一斉に上空を見上げる護衛騎士たち。
まだ日が暮れるには早い時間だが、厚く暗い雲が日の落ちたあとのような薄闇にさせている。
「飛竜だ!」
上空からこちらに向かってくる物体を見極めた時には、
「伏せろ!」
ケイレブは咄嗟にそう指示するのが精一杯だった。
馬車の上にいた者たちも伏せ、シールドを張るために立っていたラリの体をカレヴィが横抱きにして伏せさせる。
ホルツは咄嗟に馬と馬車を繋ぐ轅を外した。
シールドが消えた中を、飛竜の体が馬車の上の騎士たちすれすれに飛行していった。
「馬車の影や木の影に身を隠せ!弓を持つ者は弓を射れ! 火、風の魔法を持つ者は飛竜に攻撃を!土魔法を持つ者は馬車に防御壁を!」
この風雨では効果が薄いが、この状況では他に打つ手がなかった。
「戻ってくるぞ!」
護衛騎士の声とともに再び低空飛行で飛竜が戻ってきた。
ファイアボールも風の刃も弓矢も、激しい風雨では飛竜に深い傷を与えることができなかった。
「護衛騎士、馬車から降りろ!」
ケイレブが叫ぶ。
馬車の上にいたフォルシウスたちが滑り落ちるように馬車から降りるのと同時に、アースウォールで周囲を岩の防壁で守られた馬車を足で持ち上げる飛竜。
重厚な馬車は簡単に持ち上げることはできなかったが、飛竜は持ち上がった馬車を防御壁に乗り上げさせた。
激しい風雨のもとで生成された岩石は通常よりも堅牢とは言えず、馬車の重量に耐え切れずに崩壊し、馬車は地面に向けて横転した。
『ボスフェルだ!』
通信機からの言葉に、梛央は恐怖にまさる絶望を感じていた。
「大丈夫。ケイレブはそれ以上の魔獣を討伐してきた。ケイレブと護衛騎士を信じて」
そんな梛央の表情を見て、短いが、力強い言葉を向けるサリアン。
言われて、梛央はリングダールを抱きしめながらも顔をあげて、ヴァレリラルド、テュコ、そしてサリアンを見る。
自分たちのために、外で危険を顧みずに命がけで魔獣と戦っている者たちがいる。なのに、護られてるだけでしかない自分が馬車の中で震えて絶望していてはだめだと梛央は思った。
「信じる。僕、何もできないけど、みんなが怪我をしないように祈る」
そう言うと、晃成の田舎のおばあちゃんの家の仏壇でお参りするように、手を合わせて祈った。
神様、仏様、精霊?さん、父さん、母さん、カオル、優人。僕を護ろうとしてくれている人たちが怪我をしないように守って。お願いします。
梛央の祈りが通じたのか、やがて、
『やった!』
護衛騎士たちの歓声が通信機から聞こえてきた。
『フェルウルフの群れが逃げて行きます』
ヨーランの声がそう報告する。
「よかった……」
梛央がほっとした時、
『上、何か来ます!』
ら
スオルサの緊迫した声が聞こえた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
時系列がちょっとずつ前後したりしています。
混乱させてしまうかもですが、セリフを目印にしてくださいね。
イスコの叫びで、自分の勘が正しかったことをケイレブは知った。
見るとフェルウルフの背後の森の中に一際大きな赤い目が一対、こちらに向けられていた。
「ここらにこんなのが存在するって話、聞いてないぜ!」
ハンメルトが幾分わくわくした声音で叫ぶ。
「俺もだ!」
炎の剣でフェルウルフと対峙しながらヨーランが言った。
「楽しむな、第一!」
ダーヴィドが叫ぶ。
「楽しめ、近衛!」
と、メランデル。
一見いがみあっているようだが、どちらの顔も高揚した笑みが浮かんでいた。
「その調子で乗り切るぞ! ラリ、まだがんばれそうか?」
「もちろんです!」
一人でシールドを担当しているラリが返す。
「クルームは馬車の上からボスに魔法攻撃を。フォルシウスはラリとクルームのサポートを頼む。ファルクとカレヴィも引き続きサポート。ヨーラン、メランデル、ハンメルト、ダーヴィド、イスコは引き続き群れを。俺とクランツ、イクセルでボスをやるぞ」
「はいっ!」「おう!」
クルームは御者台の上に上り、フォルシウスも馬車の上に上がる。
同時に森の中からボスフェルが飛び出してきた。馬車より大きな体躯で、威嚇の姿勢でうなり声をあげる。
「落石!」
クルームの言葉とともに空中に現れた岩石群がボスフェルの目や鼻に降り注ぐ。
ボスフェルがそれを嫌って顔を振るのを、フォルシウスの風魔法で追撃させる。その隙にイクセルがファイアボールを胸元に撃つ。
肉の焼ける焦げた匂いを放ちながら身をよじるボスフェルの首をめがけてケイレブが剣を突き刺す。そのまま剣で切り裂き、イクセルも炎の剣で斬りかかる。
クランツはクルームの乗る御者台に駆け上がると、そこからボスフェルの背中に飛び移り、頚椎めがけて剣を突き刺した。
耳をつんざく断末魔をあげ、ボスフェルはどぉっ、と地面に倒れた。
「やった!」
護衛騎士から歓声があがる。
「フェルウルフの群れが逃げて行きます」
あらかた数を減らしていたが、ボスフェルが倒れたのを見て残っていたフェルウルフが森の奥へ走り去っていき、無事に魔獣を撃退できて安堵した声が漏れた。
「深追いするな。態勢を整えろ。このまま街まで……」
ケイレブの言葉尻に、
『上、何か来ます!』
スオルサの緊迫した声が重なった。
一斉に上空を見上げる護衛騎士たち。
まだ日が暮れるには早い時間だが、厚く暗い雲が日の落ちたあとのような薄闇にさせている。
「飛竜だ!」
上空からこちらに向かってくる物体を見極めた時には、
「伏せろ!」
ケイレブは咄嗟にそう指示するのが精一杯だった。
馬車の上にいた者たちも伏せ、シールドを張るために立っていたラリの体をカレヴィが横抱きにして伏せさせる。
ホルツは咄嗟に馬と馬車を繋ぐ轅を外した。
シールドが消えた中を、飛竜の体が馬車の上の騎士たちすれすれに飛行していった。
「馬車の影や木の影に身を隠せ!弓を持つ者は弓を射れ! 火、風の魔法を持つ者は飛竜に攻撃を!土魔法を持つ者は馬車に防御壁を!」
この風雨では効果が薄いが、この状況では他に打つ手がなかった。
「戻ってくるぞ!」
護衛騎士の声とともに再び低空飛行で飛竜が戻ってきた。
ファイアボールも風の刃も弓矢も、激しい風雨では飛竜に深い傷を与えることができなかった。
「護衛騎士、馬車から降りろ!」
ケイレブが叫ぶ。
馬車の上にいたフォルシウスたちが滑り落ちるように馬車から降りるのと同時に、アースウォールで周囲を岩の防壁で守られた馬車を足で持ち上げる飛竜。
重厚な馬車は簡単に持ち上げることはできなかったが、飛竜は持ち上がった馬車を防御壁に乗り上げさせた。
激しい風雨のもとで生成された岩石は通常よりも堅牢とは言えず、馬車の重量に耐え切れずに崩壊し、馬車は地面に向けて横転した。
『ボスフェルだ!』
通信機からの言葉に、梛央は恐怖にまさる絶望を感じていた。
「大丈夫。ケイレブはそれ以上の魔獣を討伐してきた。ケイレブと護衛騎士を信じて」
そんな梛央の表情を見て、短いが、力強い言葉を向けるサリアン。
言われて、梛央はリングダールを抱きしめながらも顔をあげて、ヴァレリラルド、テュコ、そしてサリアンを見る。
自分たちのために、外で危険を顧みずに命がけで魔獣と戦っている者たちがいる。なのに、護られてるだけでしかない自分が馬車の中で震えて絶望していてはだめだと梛央は思った。
「信じる。僕、何もできないけど、みんなが怪我をしないように祈る」
そう言うと、晃成の田舎のおばあちゃんの家の仏壇でお参りするように、手を合わせて祈った。
神様、仏様、精霊?さん、父さん、母さん、カオル、優人。僕を護ろうとしてくれている人たちが怪我をしないように守って。お願いします。
梛央の祈りが通じたのか、やがて、
『やった!』
護衛騎士たちの歓声が通信機から聞こえてきた。
『フェルウルフの群れが逃げて行きます』
ヨーランの声がそう報告する。
「よかった……」
梛央がほっとした時、
『上、何か来ます!』
ら
スオルサの緊迫した声が聞こえた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
時系列がちょっとずつ前後したりしています。
混乱させてしまうかもですが、セリフを目印にしてくださいね。
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