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第1部
ここがこの世界での僕の家
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「というか、サリアンとケイレブは伴侶? 結婚してるってこと? この世界は男性同士で結婚することはよくあることなの? エレクは王様の弟で、そんなに偉い人でも男性と結婚して大丈夫なの?」
この王国の慣習がわからない梛央は、すでに入室して待機していた、妙に肌つやのいいサリアンに尋ねる。
「大切なことは人を愛することだよ。その人がどの性なのかは二の次」
サリアンの言葉に、
「異性間でも同性間でも、結婚に壁はありません。たとえ国王でも、王弟でも、王太子でも、です」
サミュエルも続く。
「でも、国王とか王太子とかなら、世継ぎが必要じゃないの?」
首を傾げる梛央に、サミュエル、テュコ、サリアンは目線を交わす。
その目線は、
『お前が話せ』
『私は無理です』
『私は嫌だ』
と、説明をなすりつけあっていたが、
『現実問題を抱えてるのはお前だろう』
サミュエルの強い目線を受けて、しぶしぶサリアンが口を開く。
「ナオ様、驚かないでほしいんだけど」
「なに?」
サリアンの心を折るような純粋無垢な瞳で見つめる梛央。
「あー、ナオ様の世界じゃありえないことかもしれないんだけど、この世界じゃ同性間でも子供ができます」
「え」
一言だけ声を発すると、梛央は動きを止めた。
しばらくそのまま動かなかった。
動かない梛央は精巧にできた人形のようで、心配になったテュコがそっと、
「ナオ様」
と、耳元で囁く。
「ん? えーと、何の話だっけ?」
可愛く尋ねる梛央。
理解の範疇を越えた話に、理解できないから聞かなかったことにしよう、という心の防衛本能が働いていた。
「何の話だっけ、サミュエル殿」
サリアンもこれ以上この話はやめよう、とサミュエルに話を振る。
「ナオ様、本日は何かご予定はございますか?」
「ううん?」
梛央はテュコを見る。
「特に予定はございませんよ」
「明日は最初の予定地、カルムに向けて早朝に出立することになっています。それに合わせて朝食をとっていただくので、本日は早めにご就寝ください」
「サミュエルは行かないんだよね」
わかっていたことだったが、明日、と期限を突き付けられると、途端に寂しい気持ちになった。
「ええ、私は見送らせていただきます」
「そか……。ここに来て初めて会ったのはサミュエルだったよね。僕、わがまま言って、ご飯も食べなくてサミュエルを心配させて……」
「知らない世界に一人で放り込まれたら、誰でも不安でたまらなくなります。私たちはその気持ちに対しての配慮が足りなかったのです」
「みんなよくしてくれたよ。ここは、僕がこの世界で生きていく決意をした場所で、みんなが家族になってくれるって言った場所。僕にとって、ここがこの世界での僕の家だったから、ここを離れるのは、寂しいな……」
感傷的になる梛央に、
「ここと王城は転移陣でつながっています。王城に着かれましたら挨拶に伺いますよ。ナオ様も気軽に帰ってきてください。ここはナオ様の家も同然ですから」
「うん。サミュエル、今日は一緒にご飯食べよう? あーん、じゃなく、一緒にテーブルをはさんで。だめ?」
「では、今日はナオ様の家族としてご一緒させてもらいます」
「ありがとう」
サミュエルが了承してくれれて、梛央は上機嫌だった。
シアンハウスでの最後の晩餐は、サミュエルと、話を聞きつけて参加したヴァレリラルドが同席していた。
「ナオ、昨日のナオの演奏とダンス、素晴らしかった。みんな息を飲んで見ていたよ。ナオは本物の精霊じゃないかと思った」
ヴァレリラルドの言葉に、梛央は首を振る。
「僕、エレクと踊ってからの記憶がないから、その話はもうやめて」
ジュースを飲んで酔って、記憶がない時の客観的な話を聞かされるのは、地獄のような羞恥だった。
「わかった。ナオは知らないうちに人の心を掴んでいくから、ナオも気を付けて」
速攻で梛央が断ったから良かったものの、エンゲルブレクトのプロポーズはヴァレリラルドに動揺を与えていた。
梛央が誰かと婚約をするくらいなら、王太子権限を使ってでも自分が婚約者の名乗りをあげたいと思っていた。
「うん」
知らない飲み物に気を付ければいいのか、酔ったあとの行動に気を付ければいいのかわからないが、ヴァレリラルドが心配して言ってくれてることだと思うので、梛央は素直に頷く。
「明日からの道中は慣れないことが多いかと思いますが、テュコやアイナたちに任せて、ナオ様は体調にだけ気を付けてください」
「うん、わかってる。ここを離れるのは寂しいけど、この国の景色を見ることと、知らない街に行くことはすごく楽しみなんだ。修学旅行みたいで」
「修学旅行って?」
「7歳から12歳までが通うのが小学校、13歳から15歳までは中学校、16歳から18歳までは高校って言うんだけど、各学校に通っているあいだに一度ずつ、学年全体で旅行に行くんだ。それを修学旅行って言って、中学校の時は3泊4日で関西と九州に行ったよ。夜は4人で1つの部屋に泊まって、就寝時間になって照明を落としたあとも遅くまでみんなで話をして、それで先生がいきなりドアを開けて『お前たち、早く寝ろ!』って叱るのが定番なんだ」
楽しそうに話すナオ。
「楽しそうだね」
「うん。高校の修学旅行も楽しみにしてたんだ。高校は2人部屋らしいから、きっと優人と同じ部屋になっていたんだろうなぁ。ねぇ、テュコ?」
「なんでしょう?」
「道中では昨日の夜会の服を着てもいい?」
「お望みであれば?」
「やった。修学旅行は制服で行くって決まってるんだ」
夢がかなって嬉しそうな梛央に、
「高校の修学旅行が2人部屋なら、夜は私と一緒に寝よう?」
婚約者の名乗りをあげるためにヴァレリラルドは積極的だった。
「じゃあ、一緒にお風呂「「だめです!」」」
流れでお風呂に誘う梛央を絶対に阻止するサミュエルとテュコたちだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
シアンハウス編はこれでおしまいです。
次は王城までの道中編になります。
この王国の慣習がわからない梛央は、すでに入室して待機していた、妙に肌つやのいいサリアンに尋ねる。
「大切なことは人を愛することだよ。その人がどの性なのかは二の次」
サリアンの言葉に、
「異性間でも同性間でも、結婚に壁はありません。たとえ国王でも、王弟でも、王太子でも、です」
サミュエルも続く。
「でも、国王とか王太子とかなら、世継ぎが必要じゃないの?」
首を傾げる梛央に、サミュエル、テュコ、サリアンは目線を交わす。
その目線は、
『お前が話せ』
『私は無理です』
『私は嫌だ』
と、説明をなすりつけあっていたが、
『現実問題を抱えてるのはお前だろう』
サミュエルの強い目線を受けて、しぶしぶサリアンが口を開く。
「ナオ様、驚かないでほしいんだけど」
「なに?」
サリアンの心を折るような純粋無垢な瞳で見つめる梛央。
「あー、ナオ様の世界じゃありえないことかもしれないんだけど、この世界じゃ同性間でも子供ができます」
「え」
一言だけ声を発すると、梛央は動きを止めた。
しばらくそのまま動かなかった。
動かない梛央は精巧にできた人形のようで、心配になったテュコがそっと、
「ナオ様」
と、耳元で囁く。
「ん? えーと、何の話だっけ?」
可愛く尋ねる梛央。
理解の範疇を越えた話に、理解できないから聞かなかったことにしよう、という心の防衛本能が働いていた。
「何の話だっけ、サミュエル殿」
サリアンもこれ以上この話はやめよう、とサミュエルに話を振る。
「ナオ様、本日は何かご予定はございますか?」
「ううん?」
梛央はテュコを見る。
「特に予定はございませんよ」
「明日は最初の予定地、カルムに向けて早朝に出立することになっています。それに合わせて朝食をとっていただくので、本日は早めにご就寝ください」
「サミュエルは行かないんだよね」
わかっていたことだったが、明日、と期限を突き付けられると、途端に寂しい気持ちになった。
「ええ、私は見送らせていただきます」
「そか……。ここに来て初めて会ったのはサミュエルだったよね。僕、わがまま言って、ご飯も食べなくてサミュエルを心配させて……」
「知らない世界に一人で放り込まれたら、誰でも不安でたまらなくなります。私たちはその気持ちに対しての配慮が足りなかったのです」
「みんなよくしてくれたよ。ここは、僕がこの世界で生きていく決意をした場所で、みんなが家族になってくれるって言った場所。僕にとって、ここがこの世界での僕の家だったから、ここを離れるのは、寂しいな……」
感傷的になる梛央に、
「ここと王城は転移陣でつながっています。王城に着かれましたら挨拶に伺いますよ。ナオ様も気軽に帰ってきてください。ここはナオ様の家も同然ですから」
「うん。サミュエル、今日は一緒にご飯食べよう? あーん、じゃなく、一緒にテーブルをはさんで。だめ?」
「では、今日はナオ様の家族としてご一緒させてもらいます」
「ありがとう」
サミュエルが了承してくれれて、梛央は上機嫌だった。
シアンハウスでの最後の晩餐は、サミュエルと、話を聞きつけて参加したヴァレリラルドが同席していた。
「ナオ、昨日のナオの演奏とダンス、素晴らしかった。みんな息を飲んで見ていたよ。ナオは本物の精霊じゃないかと思った」
ヴァレリラルドの言葉に、梛央は首を振る。
「僕、エレクと踊ってからの記憶がないから、その話はもうやめて」
ジュースを飲んで酔って、記憶がない時の客観的な話を聞かされるのは、地獄のような羞恥だった。
「わかった。ナオは知らないうちに人の心を掴んでいくから、ナオも気を付けて」
速攻で梛央が断ったから良かったものの、エンゲルブレクトのプロポーズはヴァレリラルドに動揺を与えていた。
梛央が誰かと婚約をするくらいなら、王太子権限を使ってでも自分が婚約者の名乗りをあげたいと思っていた。
「うん」
知らない飲み物に気を付ければいいのか、酔ったあとの行動に気を付ければいいのかわからないが、ヴァレリラルドが心配して言ってくれてることだと思うので、梛央は素直に頷く。
「明日からの道中は慣れないことが多いかと思いますが、テュコやアイナたちに任せて、ナオ様は体調にだけ気を付けてください」
「うん、わかってる。ここを離れるのは寂しいけど、この国の景色を見ることと、知らない街に行くことはすごく楽しみなんだ。修学旅行みたいで」
「修学旅行って?」
「7歳から12歳までが通うのが小学校、13歳から15歳までは中学校、16歳から18歳までは高校って言うんだけど、各学校に通っているあいだに一度ずつ、学年全体で旅行に行くんだ。それを修学旅行って言って、中学校の時は3泊4日で関西と九州に行ったよ。夜は4人で1つの部屋に泊まって、就寝時間になって照明を落としたあとも遅くまでみんなで話をして、それで先生がいきなりドアを開けて『お前たち、早く寝ろ!』って叱るのが定番なんだ」
楽しそうに話すナオ。
「楽しそうだね」
「うん。高校の修学旅行も楽しみにしてたんだ。高校は2人部屋らしいから、きっと優人と同じ部屋になっていたんだろうなぁ。ねぇ、テュコ?」
「なんでしょう?」
「道中では昨日の夜会の服を着てもいい?」
「お望みであれば?」
「やった。修学旅行は制服で行くって決まってるんだ」
夢がかなって嬉しそうな梛央に、
「高校の修学旅行が2人部屋なら、夜は私と一緒に寝よう?」
婚約者の名乗りをあげるためにヴァレリラルドは積極的だった。
「じゃあ、一緒にお風呂「「だめです!」」」
流れでお風呂に誘う梛央を絶対に阻止するサミュエルとテュコたちだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
シアンハウス編はこれでおしまいです。
次は王城までの道中編になります。
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