上 下
30 / 416
第1部

サミュエルも大好きだよね?

しおりを挟む
 「ナオ様。昨夜はお話ができませんでしたが、昨日のエンゲルブレクト殿下の提案の1つである夜会に着るための服を仕立てたいと思います」

 うん、とウインナーをナイフで切りながら頷く梛央。

 「そのためには採寸をしなくてはいけません。王都から仕立て師が来ますが、よろしいですか?」

 うん、とウインナーを口にいれながら梛央は頷く。

 夕食を抜いてお腹がすいていたせいもあって梛央は順調に食事を進めていた。おかげで『あーん』の危機は訪れそうになかった。

 「この国の慣習に則った服を作りますが、ナオ様の希望もおっしゃってくださいね」

 テュコが言った時、

 「テュコ様!」

 扉の前で警護していたファルクが報告する前に、体格のよい男を先頭に3人のお仕着せの紺色のロングワンピースに水色のエプロンをつけた女性たちが部屋に入って来た。

 「アルテアン。呼ぶまで別室で待機するように言っていたはずですが」

 テュコは怒りを含んだ声で言った。

 突然知らない男に襲われたという梛央に、男が乱入してくるというシチュエーションは絶対に避けなければならないことだった。

 案の定梛央はウインナーをフォークに刺したまま固まっている。

 「はぁぁぁぁぁぁぁん」

 先頭の、アルテアンと呼ばれたくるくる巻き毛の褐色の髪と紺色の瞳をした男性。それに追随してきた3人の女性が両手を組み合わせ、体をねじって甲高い声を発した。
 
 びくっ、と体を震わせる梛央。

 「なぁんてお可愛らしい。いえいえ、とてもお美しくあられるんですけどぉ、その雰囲気やリングダールとの並びがもう、この世のすべて飲み込むくらいにお可愛らしいわぁ。もう、もう、すっごくお可愛らしいぃ」

 身をよじる、ナチュラルに女性口調のアルテアン。

 「黙れ。お前たち、さっさとこの無礼者を外につまみ出せ」

 いつの間にか部屋に来ていたサミュエルが、引き連れてきたシアンハウス騎士団の騎士たちに命令する。

 「いやぁぁん」

 騎士たちに取り押さえられて絶叫するアルテアンに、梛央はナイフとフォークを置いて立ち上がると、サミュエルに歩み寄る。

 アルテアンは梛央がお気に召したリングダールを可愛いと言ってくれた。それが梛央を動かしていた。

 確かにアルテアンはリングダールのことも可愛いとは言った。だが、それはリングダールが梛央と並んでいるからこそのオプション的な可愛さで、メインは梛央なのだが、その部分は梛央には通じていない。

 「この人がいきなり部屋に来てびっくりしたけど、きっと悪い人じゃないよ。この人も可愛いものが大好きなんだよ。サミュエルも大好きだよね?」

 梛央はサミュエルの手を握り、にっこりと笑った。

 サミュエルは可愛いもの好き、ぬいぐるみ好きの同士だと思っている梛央。

 「えぇ。えぇ。私も可愛いものと綺麗なものと、子供と動物が大好きなんです。ナオ様、サミュエル様、お許しください」

 必死で助けを求めるアルテアンの訴えは、サミュエルの耳に半分も入ってきていなかった。

 自分の手を握って、綺麗な顔に満面の笑みを浮かべて見上げてくる梛央。その破壊力に元第一騎士団団長はめろめろだった。

 「はい、私も大好きですよ」

 勿論です、と、サミュエルが言うと、梛央は嬉しそうに頷く。

 夜会の準備と、王族と愛し子の旅の準備。梛央が笑っているならそんなものどうでもいいと思ってしまうくらいにサミュエルは幸せに満たされていた。

 「じゃあ、今回は大目に見てあげて?」

 「・・・仕方ありません。アルテアン、今回だけだ。次回も非礼があれば王都追放だからな」

 「ありがとうございます」

 深々と頭を下げるアルテアン。

 「ではナオ様。また会いに参ります」

 サミュエルは機嫌よく騎士たちを連れて出て行った。

 それを見送ると、アルテアンたちは梛央の前に歩み出て礼を執る。

 「お食事中乱入してしまいまして大変申し訳ございません。陛下よりシアンハウスに滞在中の大変お可愛らしい方の服を仕立てるように仰せつかりました仕立て師のアルテアンと申します。光栄の極みで昨晩は一睡もできず、今朝も待ちきれずにこうしてはせ参じてしまいました」

 反省したように口上を述べるアルテアン。

 「謝るくらいなら別室で待ってろって話です」

 ドリーンが、チッ、と舌打ちしながら言ったが、テュコも同意なので注意しなかった。

 「ナオ様はまだ食事の途中です」

 テュコはアルテアンの顔を見ながら梛央に聞こえないように、「ナオ様の食事が終わるまでナオ様から見えないところで立って待ってなさいお前らに座らせる椅子はない」と一息で言った。

 「はい、待たせてもらいます。ナオ様、我々のことは気になさらず、ごゆっくりお召し上がりください」

 アルテアンたちはテュコの言う通り梛央からは見えない位置に下がると直立不動の姿勢になった。

 「はーい」

 アイナにテーブルに戻されて食事を再開する梛央。

 直立不動の姿勢ではあるが、梛央とリングダールが並んでいる姿を思い出してはぁはぁするアルテアンの息遣いは梛央には聞こえなかった。
 
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...