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第1部
愛らしく生きています
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「ナオ様のお心がこの国をまだ受け入れられないとしても、この国はナオ様を受け入れていますよ。何より精霊たちがナオ様を受け入れたのですから。ナオ様はゆっくりこの国になじめばよいのです」
兄が精霊神殿の副神殿長だけあって、フォルシウスも穏やかに梛央の心を諭した。
「僕にも加護がある? 魔法使える?」
「精霊の愛し子様ですから大いなる加護を持たれることと思います。私にはナオ様の周りに精霊たちがいるのがキラキラした光として見えます。精霊たちがナオ様との強い結びつきを求めていることの現れです」
「僕にはキラキラは見えないよ?」
梛央はきょろきょろと自分の体を見回す。
「この王国では精霊教会で洗礼を受けることで精霊から魂が与えられると言われています。そのときに精霊と結びつくことができれば加護を授かったということになり、魔法が使えるようになります。結びつきが強ければ強い加護を授かったということで、精霊を感じることもできるでしょう」
「魂を与えられる? 僕、いま魂がないの? 僕死んでるの?」
この国に来るきっかけを思えば、おそらく梛央は車にはねられて死んだのだろうが、改めて魂がない状況だと知らされると怖くなった。
優人、僕今ゾンビになってるみたい。
泣きそうになりながら心の中で優人に報告する梛央。
「この国では6歳になると精霊神殿に行き、洗礼を受けることになっています」
微笑ましそうに梛央を見るフォルシウス。
「それまで本当に魂がなければ6歳未満の子供はみなアンデッドですよ」
笑いながらサリアンが言った。
「じゃあ僕、生きてる?」
「ナオ様はとても愛らしく生きています」
ドリーンが太鼓判を押した。
「ナオ様も王都の精霊神殿で洗礼と祝福を受けましょうね」
テュコがにっこり笑うと梛央もこくりと頷く。
「先ほど平民は魔法を使えないと言いましたが、平民も体の中に元素を持っていますので、加護がなくとも魔道具を使って日常生活を送るのに支障はありませんよ」
「魔道具?」
「ええ。水をくみ上げたり、水をお湯にしたり、氷を作ったり。料理をするときの火力とか洗濯とか。安いものではありませんので平民がみな持っているかというとそうではありませんが」
魔道具って電化製品みたいなものなんだと、梛央は思った。
「サミュエル様」
家令の執務室。
執務を行っていたサミュエルはドアのところから自分を呼ぶアイナの声に顔をあげる。
アイナが机まで歩いて来るのを緊張した面持ちで待つサミュエル。
「で、どうだった」
ドアの外にいる警護の者に聞こえないようにサミュエルは小さな声で尋ねる。
アイナは頷くと無言でエプロンのポケットから白いマーガレットを取り出した。
それを見てサミュエルの顔がぱぁっと輝く。
「そうか、そうか……。いや、よかった。花は散ってなかったんだな」
言ってるうちにサミュエルは涙声になっていた。
不埒な者に梛央が蹂躙されたわけではなかったことに、サミュエルは心からほっとしていた。
「私もナオ様が純潔の花を咲かせていて安心しました。花を散らせていたのならどんな手立てを使ってでも天誅を与えに行く所存でした」
「私もだ。ナオ様に怖い思いをさせた輩は絶対に許せないが、安心した。アイナ、これからも身近でナオ様を悪い虫から守り、ナオ様の純潔を守るんだぞ」
「はい、お父様」
サミュエルとアイナは目を見合わせ、固い決意で頷きあった。
※※※※※※※※※※※※
梛央の体を念入りに洗ったアイナさんの目的は未遂か完遂かを確かめることだった、という裏話でした。って、お父様?
兄が精霊神殿の副神殿長だけあって、フォルシウスも穏やかに梛央の心を諭した。
「僕にも加護がある? 魔法使える?」
「精霊の愛し子様ですから大いなる加護を持たれることと思います。私にはナオ様の周りに精霊たちがいるのがキラキラした光として見えます。精霊たちがナオ様との強い結びつきを求めていることの現れです」
「僕にはキラキラは見えないよ?」
梛央はきょろきょろと自分の体を見回す。
「この王国では精霊教会で洗礼を受けることで精霊から魂が与えられると言われています。そのときに精霊と結びつくことができれば加護を授かったということになり、魔法が使えるようになります。結びつきが強ければ強い加護を授かったということで、精霊を感じることもできるでしょう」
「魂を与えられる? 僕、いま魂がないの? 僕死んでるの?」
この国に来るきっかけを思えば、おそらく梛央は車にはねられて死んだのだろうが、改めて魂がない状況だと知らされると怖くなった。
優人、僕今ゾンビになってるみたい。
泣きそうになりながら心の中で優人に報告する梛央。
「この国では6歳になると精霊神殿に行き、洗礼を受けることになっています」
微笑ましそうに梛央を見るフォルシウス。
「それまで本当に魂がなければ6歳未満の子供はみなアンデッドですよ」
笑いながらサリアンが言った。
「じゃあ僕、生きてる?」
「ナオ様はとても愛らしく生きています」
ドリーンが太鼓判を押した。
「ナオ様も王都の精霊神殿で洗礼と祝福を受けましょうね」
テュコがにっこり笑うと梛央もこくりと頷く。
「先ほど平民は魔法を使えないと言いましたが、平民も体の中に元素を持っていますので、加護がなくとも魔道具を使って日常生活を送るのに支障はありませんよ」
「魔道具?」
「ええ。水をくみ上げたり、水をお湯にしたり、氷を作ったり。料理をするときの火力とか洗濯とか。安いものではありませんので平民がみな持っているかというとそうではありませんが」
魔道具って電化製品みたいなものなんだと、梛央は思った。
「サミュエル様」
家令の執務室。
執務を行っていたサミュエルはドアのところから自分を呼ぶアイナの声に顔をあげる。
アイナが机まで歩いて来るのを緊張した面持ちで待つサミュエル。
「で、どうだった」
ドアの外にいる警護の者に聞こえないようにサミュエルは小さな声で尋ねる。
アイナは頷くと無言でエプロンのポケットから白いマーガレットを取り出した。
それを見てサミュエルの顔がぱぁっと輝く。
「そうか、そうか……。いや、よかった。花は散ってなかったんだな」
言ってるうちにサミュエルは涙声になっていた。
不埒な者に梛央が蹂躙されたわけではなかったことに、サミュエルは心からほっとしていた。
「私もナオ様が純潔の花を咲かせていて安心しました。花を散らせていたのならどんな手立てを使ってでも天誅を与えに行く所存でした」
「私もだ。ナオ様に怖い思いをさせた輩は絶対に許せないが、安心した。アイナ、これからも身近でナオ様を悪い虫から守り、ナオ様の純潔を守るんだぞ」
「はい、お父様」
サミュエルとアイナは目を見合わせ、固い決意で頷きあった。
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梛央の体を念入りに洗ったアイナさんの目的は未遂か完遂かを確かめることだった、という裏話でした。って、お父様?
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