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49、泡立て器が出来ました
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「ユキ、泡立て器が出来たぞ!さあ、早く使って見せてくれ!!」
仕事の忙しい最中、陽だまりの猫亭のドアベルが勢いよく鳴ったと思ったと同時に、右手に泡立て器、左手に蒸し器の試作品を持った鍛冶屋のライデンが入ってくる。
皆を吃驚させただけでは飽きたらず、立派な髭を蓄えたドワーフの彼は、少年のような眼差しで厨房の中にまで侵入してきた。
「おや、ライゼンさんじゃないか。思ったよりも早かったね」
「そりゃ新しい道具とあっちゃ、こっちも気合いが入るってもんだ」
だから早く作ってみてくれとライゼンは続ける。
さて、何を作るかだが。泡立て器が活躍するのはお菓子作りが多いのではないだろうか。
しかし、砂糖が高級品な中で菓子を作っても仕方がない。まあ、甘くないお菓子を作るという手もあるが。
陽だまりの猫亭で出すことを考えると、お菓子は無しにしておいたほうが無難だろう。
「本当は作りたくないんだけど、マヨネーズでも作ろうかね」
本当ならサルモネラ菌が付着しているからそのままは食べられず、光魔法で浄化しなければならないという手間があるため作りたくはないんだが。
注意事項をよく言い聞かせておいたら、大丈夫だろう。
「「マヨネーズ?」」
頭に疑問符を浮かべるトムとライゼンに、ユキはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「野菜嫌いのお子さまでも思わず食べちまう、魔法のソースさ」
ライデンさんは手を洗っておいでと言い残して、ユキは材料を取りに行く。
「それじゃあ、始めようかね」
ボールと卵黄、塩と酢とサラダ油を二組ずつ用意する。トムにはフォークを手渡し、ユキは当然泡立て器を握る。
「ひとつ、ボウルの中にサラダ油以外を入れてよくかき混ぜる。ふたつ、綺麗に混ぜ終わったらサラダ油を少しずつボウルの中に足していき、クリーム状になるまで混ぜ続ける」
「「それだけなのか?」」
「ああ、それだけで魔法のソースが出来上がるからね」
そう言って、ユキは手早く泡立て器でマヨネーズを作り始める。
「ほー、差は一目瞭然ってやつだな」
二人のマヨネーズ作りを横で見ていたライゼンは、感嘆の声をあげる。
トムがかき混ぜるのに四苦八苦している間に、ユキはもうマヨネーズを作り上げてしまったからだ。
「ほい、終わり」
「なに!?もうか?」
「ほら、使ってみな」
トムに泡立て器を手渡したあと、人参を取りに向かう。後ろからは「凄いぞ!!」とトムの叫び声が聞こえていた。
「ほい、人参。マヨネーズをつけて食べてごらん」
「ああ」
スティック状に切られた人参を手渡されたトムとライゼンは、恐る恐るマヨネーズをつけた人参を口に運ぶ。
「「…………」」
シャクシャクと良い音をさせて咀嚼していた二人は、飲み込み終えても喋らずにいる。
「なんだい、早く感想をお言いよ」
「「う、うまーーーーーーーーーいぃ!!!」」
食事を食べている人間が皆振り向くほどの大声でトムとライゼンが叫ぶ。
当然の事ながら、“うまい”と言う単語に敏感に反応したライラは、食堂の仕事そっちのけで厨房の中まで入ってきてしまった。
「なに!?なにが美味しいの?」
「あーもう、二人が叫ぶからライラまで来ちゃったじゃないか。後であげるからちゃんと仕事おし」
出来上がった新作料理は逃すまいとするライラは、くるりと肩を持って方向転換させられたユキに抗議の声をあげてくる。
「なによー、二人は良くって私は何でダメなのよぉ」
「あーもう。うるさい子だよ、この子は」
マヨネーズをつけた人参を口に詰め込んだ隙に、ライラを厨房から押し出す。さっさと働け。
「お、お、お、おおおおおぉぉぉぉお!!!」
厨房の扉を背に真剣な顔で咀嚼した後、ライラまで右に習えで大声を出している。
この調子じゃ、誰も注意事項など聞いてくれないだろう。興奮が冷めたから話すことにしようと、ユキは深いため息をついた。
仕事の忙しい最中、陽だまりの猫亭のドアベルが勢いよく鳴ったと思ったと同時に、右手に泡立て器、左手に蒸し器の試作品を持った鍛冶屋のライデンが入ってくる。
皆を吃驚させただけでは飽きたらず、立派な髭を蓄えたドワーフの彼は、少年のような眼差しで厨房の中にまで侵入してきた。
「おや、ライゼンさんじゃないか。思ったよりも早かったね」
「そりゃ新しい道具とあっちゃ、こっちも気合いが入るってもんだ」
だから早く作ってみてくれとライゼンは続ける。
さて、何を作るかだが。泡立て器が活躍するのはお菓子作りが多いのではないだろうか。
しかし、砂糖が高級品な中で菓子を作っても仕方がない。まあ、甘くないお菓子を作るという手もあるが。
陽だまりの猫亭で出すことを考えると、お菓子は無しにしておいたほうが無難だろう。
「本当は作りたくないんだけど、マヨネーズでも作ろうかね」
本当ならサルモネラ菌が付着しているからそのままは食べられず、光魔法で浄化しなければならないという手間があるため作りたくはないんだが。
注意事項をよく言い聞かせておいたら、大丈夫だろう。
「「マヨネーズ?」」
頭に疑問符を浮かべるトムとライゼンに、ユキはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「野菜嫌いのお子さまでも思わず食べちまう、魔法のソースさ」
ライデンさんは手を洗っておいでと言い残して、ユキは材料を取りに行く。
「それじゃあ、始めようかね」
ボールと卵黄、塩と酢とサラダ油を二組ずつ用意する。トムにはフォークを手渡し、ユキは当然泡立て器を握る。
「ひとつ、ボウルの中にサラダ油以外を入れてよくかき混ぜる。ふたつ、綺麗に混ぜ終わったらサラダ油を少しずつボウルの中に足していき、クリーム状になるまで混ぜ続ける」
「「それだけなのか?」」
「ああ、それだけで魔法のソースが出来上がるからね」
そう言って、ユキは手早く泡立て器でマヨネーズを作り始める。
「ほー、差は一目瞭然ってやつだな」
二人のマヨネーズ作りを横で見ていたライゼンは、感嘆の声をあげる。
トムがかき混ぜるのに四苦八苦している間に、ユキはもうマヨネーズを作り上げてしまったからだ。
「ほい、終わり」
「なに!?もうか?」
「ほら、使ってみな」
トムに泡立て器を手渡したあと、人参を取りに向かう。後ろからは「凄いぞ!!」とトムの叫び声が聞こえていた。
「ほい、人参。マヨネーズをつけて食べてごらん」
「ああ」
スティック状に切られた人参を手渡されたトムとライゼンは、恐る恐るマヨネーズをつけた人参を口に運ぶ。
「「…………」」
シャクシャクと良い音をさせて咀嚼していた二人は、飲み込み終えても喋らずにいる。
「なんだい、早く感想をお言いよ」
「「う、うまーーーーーーーーーいぃ!!!」」
食事を食べている人間が皆振り向くほどの大声でトムとライゼンが叫ぶ。
当然の事ながら、“うまい”と言う単語に敏感に反応したライラは、食堂の仕事そっちのけで厨房の中まで入ってきてしまった。
「なに!?なにが美味しいの?」
「あーもう、二人が叫ぶからライラまで来ちゃったじゃないか。後であげるからちゃんと仕事おし」
出来上がった新作料理は逃すまいとするライラは、くるりと肩を持って方向転換させられたユキに抗議の声をあげてくる。
「なによー、二人は良くって私は何でダメなのよぉ」
「あーもう。うるさい子だよ、この子は」
マヨネーズをつけた人参を口に詰め込んだ隙に、ライラを厨房から押し出す。さっさと働け。
「お、お、お、おおおおおぉぉぉぉお!!!」
厨房の扉を背に真剣な顔で咀嚼した後、ライラまで右に習えで大声を出している。
この調子じゃ、誰も注意事項など聞いてくれないだろう。興奮が冷めたから話すことにしようと、ユキは深いため息をついた。
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