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13彼が愛する国が知りたかっただけ
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毎晩リンとオスカーは話をしていた。その中で話してくれる彼の国や彼の姿が気になって、リンはある日王都へと足を踏み入れる事にした。
「いらっしゃい!」
「もっと安くならないの?」
「いってえな!」
飛び交う賑やかな声と沢山いる人間にしり込みしながら、リンはゆっくりとした足取りで歩みを進める。
道行く人はみな楽しそうにしていた、笑顔が多いという事はこの国が良い国という事なのだろう。
「お嬢ちゃん、どうしたの?大丈夫?」
立ち止まりながら辺りを見渡していると、後ろから声を掛けられる。田舎者の娘が都会に来て困っているとでも思われたのだろう。
リンに声をかけて来た中年の女性は、心配そうな顔をしている。別段困っていることなど無いが、ちょうど良いからこの国についてでも訊いてみようか。
「別に困っているわけじゃないけれど、この国について聞きたいわ。貴方はこの国に住んでいて幸せ?王様や王子様に不満は無いの?」
「ああ、あんた別の国から来た人なんだね?このフランシア王国は、海の近くに建国していて漁業や海軍なんかに力を入れているんだよ。特に王子のオスカー様はこの国を良くしようと政策に力を入れてくださっているんだよ」
力説する当たり、彼女にとってやはりこの国は良い国なのだろう。他国からの旅人にもこの国を好きになってもらおうとしているのが良く分かる。
「……そうなの、幸せなのね。でも海を大事にしようとしてくれているなら、どうして毎日のように海にゴミを捨てたり魚を乱獲したりするの?」
「一昔前はそんなことも多かったようだけどね、最近はオスカー様が王様にゴミを不法投棄しないようにって進言してくださったんだよ」
そういう法も制定されたから、これからはどんどん良くなっていくと思うと女性は言う。
この国を楽しんでいってほしいと告げて、女性は去って行った。その後も他の人間にも訊ねてみたが、皆一様に同じような事を言っていた。
(分からないわ。この国は良い国で、そこに住む人間も良い人なのかしら)
自分が感じていた人間の印象が覆られそうになり、今まで自分が感じていたものは間違っていたのか。どれが正しいものかと考えながら、ぼんやりと歩いていると大きな声がする。
「危ない!!」
「え?」
躓いたらしい男性の手から離れた水桶が、リンに向かって飛んでくる。桶から放たれた水が降りかかり、ぐっしょりと体を濡らした。
体が濡れたことにより、じわじわと足に違和感を感じてくる。
「人魚!?」
いつの間にか変わってしまった尾ひれが、リンが人魚であることを示していた。
周りにいる数十人の人間の視線が、全てリンに向く。もはや夢幻のおとぎ話のようになっていた人魚がいきなり現れたのだ、驚愕が辺りを包むのが分かった。
それと同時に人間の中に不老不死が頭によぎったのだろう、じりじりと距離を詰めてくる。
(嘘でしょう!?と、取り敢えず水魔法で体を乾かさないと)
魔法を使おうと焦るリンを呼ぶ声がする。
「リン!?何故君がここに」
庶民の服に身を包み、赤い髪をしたオスカーが吃驚した様子で走って来る。どうやら一緒にかけてくる男がいることから、その男もオスカーの知り合いらしい。
リンの所に到達したと同時にオスカーは彼女を抱えあげ、闇魔法で発動した影の中に入り込んだ。
◇
海までやって来たオスカーは、リンを水につける。
「ごめんなさい」
怒りにも似た感情を感じ取って、リンは素直に謝罪を口にした。
「リン、もうここには来ちゃだめだ」
真剣な声で告げられたオスカーの言葉に、リンは頷いた。
「え?分かってる、もう陸にあがったりしないわ」
「そうじゃないよ。リンはもう陸には上がってはいけないし、海面にも近づいてはいけない。他の人魚にもそう伝えるんだ」
悲哀の色を滲ませた瞳がリンを見つめる。
「分からないわ、どうしてそうなるの?」
「とにかく、リンはもうここに来てはいけないし、俺ももうここには来ない」
ずっと首にかけたままにしていたペンダントを外し、リンの手に握らせる。
リンは何か言い募ろうと言葉を探し思いあぐね、結局何も言葉を紡げないままオスカーが背を向けて歩き出すのを見送るしかなかった。
「いらっしゃい!」
「もっと安くならないの?」
「いってえな!」
飛び交う賑やかな声と沢山いる人間にしり込みしながら、リンはゆっくりとした足取りで歩みを進める。
道行く人はみな楽しそうにしていた、笑顔が多いという事はこの国が良い国という事なのだろう。
「お嬢ちゃん、どうしたの?大丈夫?」
立ち止まりながら辺りを見渡していると、後ろから声を掛けられる。田舎者の娘が都会に来て困っているとでも思われたのだろう。
リンに声をかけて来た中年の女性は、心配そうな顔をしている。別段困っていることなど無いが、ちょうど良いからこの国についてでも訊いてみようか。
「別に困っているわけじゃないけれど、この国について聞きたいわ。貴方はこの国に住んでいて幸せ?王様や王子様に不満は無いの?」
「ああ、あんた別の国から来た人なんだね?このフランシア王国は、海の近くに建国していて漁業や海軍なんかに力を入れているんだよ。特に王子のオスカー様はこの国を良くしようと政策に力を入れてくださっているんだよ」
力説する当たり、彼女にとってやはりこの国は良い国なのだろう。他国からの旅人にもこの国を好きになってもらおうとしているのが良く分かる。
「……そうなの、幸せなのね。でも海を大事にしようとしてくれているなら、どうして毎日のように海にゴミを捨てたり魚を乱獲したりするの?」
「一昔前はそんなことも多かったようだけどね、最近はオスカー様が王様にゴミを不法投棄しないようにって進言してくださったんだよ」
そういう法も制定されたから、これからはどんどん良くなっていくと思うと女性は言う。
この国を楽しんでいってほしいと告げて、女性は去って行った。その後も他の人間にも訊ねてみたが、皆一様に同じような事を言っていた。
(分からないわ。この国は良い国で、そこに住む人間も良い人なのかしら)
自分が感じていた人間の印象が覆られそうになり、今まで自分が感じていたものは間違っていたのか。どれが正しいものかと考えながら、ぼんやりと歩いていると大きな声がする。
「危ない!!」
「え?」
躓いたらしい男性の手から離れた水桶が、リンに向かって飛んでくる。桶から放たれた水が降りかかり、ぐっしょりと体を濡らした。
体が濡れたことにより、じわじわと足に違和感を感じてくる。
「人魚!?」
いつの間にか変わってしまった尾ひれが、リンが人魚であることを示していた。
周りにいる数十人の人間の視線が、全てリンに向く。もはや夢幻のおとぎ話のようになっていた人魚がいきなり現れたのだ、驚愕が辺りを包むのが分かった。
それと同時に人間の中に不老不死が頭によぎったのだろう、じりじりと距離を詰めてくる。
(嘘でしょう!?と、取り敢えず水魔法で体を乾かさないと)
魔法を使おうと焦るリンを呼ぶ声がする。
「リン!?何故君がここに」
庶民の服に身を包み、赤い髪をしたオスカーが吃驚した様子で走って来る。どうやら一緒にかけてくる男がいることから、その男もオスカーの知り合いらしい。
リンの所に到達したと同時にオスカーは彼女を抱えあげ、闇魔法で発動した影の中に入り込んだ。
◇
海までやって来たオスカーは、リンを水につける。
「ごめんなさい」
怒りにも似た感情を感じ取って、リンは素直に謝罪を口にした。
「リン、もうここには来ちゃだめだ」
真剣な声で告げられたオスカーの言葉に、リンは頷いた。
「え?分かってる、もう陸にあがったりしないわ」
「そうじゃないよ。リンはもう陸には上がってはいけないし、海面にも近づいてはいけない。他の人魚にもそう伝えるんだ」
悲哀の色を滲ませた瞳がリンを見つめる。
「分からないわ、どうしてそうなるの?」
「とにかく、リンはもうここに来てはいけないし、俺ももうここには来ない」
ずっと首にかけたままにしていたペンダントを外し、リンの手に握らせる。
リンは何か言い募ろうと言葉を探し思いあぐね、結局何も言葉を紡げないままオスカーが背を向けて歩き出すのを見送るしかなかった。
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