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イーセカ人はだーれだ
82.確信犯
しおりを挟む謎を残しつつも楽しかった勉強会が終わって、ついに今日はテスト4日目だ。
明日はテスト最終日で、そのあと風紀室に行くことになっている。東先輩からのメールではそこで今後どうするか聞くとのことだ。
メールをもう一度確認していたら、紫苑先輩の悲しそうな顔を思い出す。
私と東先輩が喧嘩してる……?
紫苑先輩がそう言ったとき寝耳に水だったけど、それって、そう思うぐらいの反応を東先輩がしたってことになるんじゃ……私は勉強会まで紫苑先輩と会わなかったけど紫苑先輩は東先輩とよく話すみたいだし……。
なんて考えてたら変に落ち込んでしまった。
もしかしたら私だけじゃなくて東先輩も怒ってたのかもしれない。イーセカの話ごときで狼狽える軟弱者だったか……みたいな感じで。
うん、ちょっと面白い。まあ明日には本人に会うことになるんだし、直接聞いてみよっと。考えてもしょうがないことは考えるのを止めるのが1番。
つまり、私がいま考えなきゃいけないことは、なんで私はいま生徒会室にいるんだろうなってことだ。
ことの始まりを思い出せばこうだ。
今日のテストがぜんぶ終わったうえいい出来栄えだったことにひとり満足してたら、いつも「生徒会に行くわ」と去っていく美加が「佐奈も一緒にくる?」と言ったのだ!
美加が私の監視だって辰先輩の話を思い出したけど、面白そうだし行くことにした。それでお邪魔してみたら思いのほか仕事があって忙しそうだったから、端っこにある椅子に座らせてもらって、現在に至る。先に来ていた千代先輩がお茶までだしてくれたから、なんだかお客様みたいだ。
突然現れたうえ忙しい皆様を眺めながらお茶を飲んでるの私……なんて自己分析したら申し訳なさが凄い。
現実逃避に冷静になれる東先輩のメールを見返してたわけだけど、カリカリと響くシャーペンの音に居心地は悪くなるばかりだ。
生徒会室には千代先輩と蓮先輩と美加がいて、他の人はまだ来ていないらしい。林先輩と金本くんだ。
まだあんまり話したことがない人だし、生徒会ぜんいん揃ったなか部外者の私がいるっていうのはなんだか落ち着かなさそうって美加に言ったら、林先輩たちが来る前には帰れるようにするって言ってくれた。
『実は生徒会室に呼んだのは千代先輩が佐奈に用事があったからなのよ』
生徒会室に向かう途中そう言って美加は微笑んだ。
そのときはそうなんだ~千代先輩に会えるの久しぶりで嬉しいな~ぐらいにしか思ってなかったけど、なんの話なんだろう。謝罪が連発した昨日のことを思い出すとちょっと身構えてしまう。でも千代先輩が私に謝ることなんかないしなあ──
「佐奈ちゃんごめんね、ちょっと立ち入ったことを聞いてもいいかな……?」
──と思ったのに、謝罪からの不穏な滑り出しだ。
仕事が終わった千代先輩はお茶を持ってニコニコしながら目の前に座ったはずなのに、気がつけばこんな空気だ。なんということだろう。
そのうえ身構える私に千代先輩はダメだと思ったのか、視線を落として黙ってしまった。ひえええええ!
「そ、そんな顔しないでください。大丈夫です、近藤はぜんぜん気にしてません」
「なんの宣言よ」
「宣言は大事なんだよ……っ!」
仕事をしていた美加が呆れた顔をして私を見て、気のせいか蓮先輩が咳き込むフリをしながら笑ってるけど、千代先輩が悲しそうな顔をしてることのほうが大問題だ。
「ほんとに大丈夫ですよ~近藤のメンタル舐めないでください。どーんとこいですよ」
胸を張って笑ったら、千代先輩はパチパチと目を瞬かせたあと花が咲くように笑った。うわあああ癒される……。
「ありがとう……それじゃあ甘えさせてもらうね。あのね……佐奈ちゃんは、風紀委員辞めちゃうの?」
「ええ??いえ、辞めません」
「え、あ!そ、そうなんだ」
本気で驚いて即答したことが信憑性をあげたのか、千代先輩はすぐに信じてくれたみたいだった。でも私が辞めると思っていたからか、動揺がすごい。
そんな姿を見ていたら、私まで落ち着かなくなってしまう。
「ち、ちなみになんでそんなふうに思ってたんですか?」
「え、あ、えっと……その、東先輩に佐奈ちゃんは辞めてしまうんですかって聞いたら、いつもと違う答え方をしてて、それで、そうかなって」
「なる、ほど……?」
おかしい、というか、そうだった。
辰先輩は現生徒会役員ならイーセカのことを知ってるって言ってた。美加だけじゃなくて千代先輩もイーセカのことを知ってるはずだ。それどころか風紀委員の仕事を継続できるかの監視まで担ってる。だから今のはおかしくはない。
でもこれってセーフなのかな……?
もしかしてこれもイーセカのことを安易に人に話すかどうかのチェックをされてる……?それなら千代先輩ちょっとギリギリのラインを攻めてるようにも思えるし……?
気になってチラッと美加たちを見たら、2人とも書類を見ながら会話をしていた。さっきまでこっちを見ていたのに酷い差だ。
「とりあえず、私は辞めるつもりありませんよー。なんだかんだ楽しいですし……このテスト期間中、風紀室に行けなくてちょっと拗ねましたし寂しかったぐらいです」
始まったら始まったでめんどくさいなーって思うことは絶対にあるし、そんなときは辞めたいって口走ることもあるだろうけど、辞めることはないだろうなあ。そうだ、明日は生徒会室にあるお菓子だけじゃ足りないだろうから、私の秘蔵のお菓子も持って行こう。でも何人分持っていこうかなあ?紫苑先輩も来そうだけど、イーセカの話もあるだろうから、東先輩から出入り禁止を食らってるかもしれない。逆に颯太くんはだからこそ行こうって感じで乗り込んでくるかもしれない。ふふふ、楽しみ。
「……それじゃあ、私たちのことは怖くないの?」
明日のことを考えて緩んでいた口が、そのまま止まる。
千代先輩は不安そうな顔だった。思わず美加と蓮先輩を見れば、蓮先輩はコイツ何言ってんだ?的な顔して、でも口出しできないっていう凄い顔をしてたし、美加はそんな蓮先輩を見向きもせず仕事のことで注意していた。
もしかしなくても美加、これ確信犯なんじゃ……。
美加なら千代先輩のこういうところを把握してるだろうし、本当に隠そうと思ってるのなら私と千代先輩を会わすことはしなかったはずだ。これは私への気遣いなのか千代先輩への気遣いなのか分からないけど、私としてはこれも監視対象の会話なのか分からないから、すっごく困る。
記憶消されちゃう?というか千代先輩は大丈夫?だっていま完全に私たちって言った。美奈先輩もイーセカ人が怖くないかって心配してたし、いま風紀の話をしてたし、流れ的にそういうことですよね……っ!
突っ込みたいことが沢山あったけど、ものすごく頑張ってぜんぶ飲み込む。そして未だ心配そうな千代先輩に「大丈夫です」と断言した。
「色々な事情はおいといて、怖くないですよ。どちらかというと明日テスト終わりに風紀室に行くのが楽しみなぐらいです。いろいろ話が聞けるかもーって、いろいろ教えてほしいなー、って」
イーセカとは口にしないように話すのは結構難しい。でも千代先輩はイーセカのことを話してると分かってくれたようだ。
不安になりつつあった瞳を潤ませて、安心したように微笑んだ。
「よかった……あの方がいつもと違うようだったから凄く心配だったの……」
「アノカタ」
今度こそ突っ込んでしまって、すぐ後悔する。
「あっ」と零した千代先輩は「アノカタって人がいてね」なんて言い訳にもならない誤魔化し方をして、蓮先輩は頭を抱えていた。美加は相変わらず蓮先輩に冷たく指摘しながら書類仕事を続けていて──うん。
会話の前後から考えるに、あの方が東先輩に聞こえるんですが気のせいですかね?
気のせいですね?
こういうときは笑って誤魔化すに限る。
お茶を飲んでしまえばもう完璧だ。
あの方ってどういうこと??
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