となりは異世界【本編完結】

夕露

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イーセカ人はだーれだ

73.安心とは

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美奈先輩がかけたという両想い魔法の効果で風紀関係者と会わなくなってたってのは分かったけど、ここまで会わないんだったら、そういうことなのでは……?
疑問が解決したと思ったらちょっとネガティブになってしまって、我ながら忙しい。でもよくよく考えれば私も拗ねて会いたくない……というより会わなくても別にいいやって思ってたしなあ。でも今そんなふうに思ってないし、それならやっぱり、そういうことなのでは……?
モヤモヤする気持ちに拗ねたくなるときもあるけど、だんだんちっちゃな問題になりつつある。というのも美奈先輩と剣くんに顔合わせした日から、放課後に集まって勉強会するのが恒例になったからだ。


「うわー近藤さんが思ったより勉強できて腹立つー」
「そこで腹が立つところが剣くんの性格を表してるよねー剣くんは思ったより勉強できなくてウケるー」
「ねえねえ辰このネイルどう?すっごくいいでしょう?」
「……」


といっても問題集を広げてるのは私と剣くんだけで、美奈先輩と斎藤先輩は雑談してるだけだ。そのせいで勉強する組である私と剣くんは隣同士に座ってお互いの苦手科目を教えあうようになった。足が蹴りにくくて残念だ。


「そこ、答えが違う」
「え?……あ、ほんとだ。ありがとうございます」


顔面に伸ばされる美奈先輩の手から逃れようとしていた斎藤先輩は私が解いていた問題を見て間違いを指摘する。どうやら斎藤先輩はテストを諦めていたんじゃなくて、勉強する必要性がないほど頭が良いらしい。


「イケメンで勉強もできるなんて漫画みたいですね」
「……」
「え!あらやだ佐奈、辰みたいなのが好みだったの!それとも「黙れ」


興奮する美奈先輩の口を塞いだ斎藤先輩は今日も無表情だけど難しい顔をしていて怒っているようだ。これは気安くイケメンなんて言わないほうがいいかもしれない。


「まーでも?確かに斎藤先輩凄いですよねー。俺的には美奈先輩のほうが気になりますけどねーテスト勉強しなくて大丈夫なんですか?」
「私はいいのよ!進学しないで働くつもりだから!」
「「え」」
「美奈はこの世界に残ってモデル活動をするらしい」
「「え!」」


そりゃあいつかは高校を卒業するし、現に美奈先輩たちは来年卒業だ。でもこの世界での続きがあるんだと思ったら、当たり前の選択肢かもしれないのに驚いてしまった。うん?ということは。


「美奈は、ってことは斎藤先輩はイーセカに戻るんですか?」
「そのつもりだ。俺はこの世界で……まあ、できることはないからな」
「はあ~そうなんですか」
「佐奈、もうちょっと興味持ってあげなさいよ」
「聞いといてそれって酷すぎだと思いまーす」
「いやいや、そうなんですかーしか言いようがないじゃないですか!それにまだイーセカのこと詳しく知りませんから良い悪いとか言えませんし、進路は自分で考えたことなんですから外野が口出すことじゃなくないですか?」
「意外とシビアね……」


剣くんと美奈先輩は急にタッグを組んでくるから性質が悪い。ケラケラ笑う剣くんの目には視線を落とす斎藤先輩が見えないんだろうか。人の振り見て我が振り直せとはこのことか……気を付けよう。


「でも美奈先輩がモデルかあ。すっごく綺麗だからすぐ注目浴びそうですね」
「もう活動してるのよ?颯太と同じ事務所に所属してるわ」
「え!うわ、今度雑誌見てみます!」


まさかの発言に日頃から雑誌を見ていないことを初めて後悔した。くそう、こんな面白いことがあるんならもっとちゃんと見ておくんだった!
とりあえず美奈先輩に教えてもらった雑誌をメモしておく。


「あ、そういえば颯太が勉強会に来たがってるんですけど連れてきて大丈夫ですかねー?」


颯太くん?
ああ、そういえば剣くんは颯太くんと勉強会をしてたって言ってたっけ?こっちの勉強会に来るようになったんなら、颯太くんも参加したいと言いそうだ。でもなあ、こんなこと言うのもなんだけど五月蠅そうだなあ。
美奈先輩は剣くんと私を見たあと、首を振る。


「うーん、まだ駄目だと思うわ」
「まだ?それって監視と関係ある感じですかね?」
「そうともいえるし、そうじゃないともいえるわ」
「メンドクセー」
「ちょっとあなたその口の利き方どうにかしなさい!」


また始まった喧嘩に休憩時間と諦めてお茶を飲むことにする。こんなときは暇つぶしもかねて斎藤先輩を鑑賞するんだけど、斎藤先輩と目が合った。どうやら斎藤先輩も暇つぶしを探していたらしい。せっかくだから気になったことを聞いてみる。


「そういえば監視って私たちがイーセカのことを他の人に話さないか見るためですよね。美奈先輩がかけた両想い魔法の話を聞いて思ったんですけど、監視魔法?みたいなのを作ったほうが手間がなくてよかったんじゃないですか?」
「……魔法は万能じゃないからな。それにこの世界では魔法が効きづらいんだ。風紀室と生徒会室の近くではまともな魔法が使えるが、離れれば離れるほど不安定になる。だから直接監視したほうが都合がいい」
「風紀室と……生徒会室」


もしかして風紀室と生徒会室が人の来にくい場所にあることも関係しているんだろうか。え?なにそれ怖い。


「あら?それ言っちゃっていいの?」
「……大丈夫だろう」
「ふうん?そうそう、ちなみに今回は私と辰だったけど、他の人が監視をする可能性もあったのよ?監視対象者と最初に話した人が監視するって話だったから」
「へえーちなみにそれって誰と誰だったんですかねー?」
「実はねえ「話し過ぎだ」


意図がたっぷり隠された剣くんの質問に答えようとした美奈先輩の口を斎藤先輩が塞ぐ。美奈先輩は喋っていい範囲が分からないと怒っているけど、ちょっと斎藤先輩に同情してしまう。秘密の仕事をしているパートナーが簡単に秘密を喋ってしまいがちなのが分かっていたら不安でしょうがないだろう。
それにしても監視が斎藤先輩意外だった可能性もあったのか……あんまり想像できない。


「でも風紀関係者ぜんいんに両想い魔法をかけてあったんなら会うこと自体難しくないですか?」
「そこが面白いところなのよ!会いたくないと思った人には会わないのは絶対なんだけど、興味があったり、逆に会いたいとか会いたくないとか思わないほど興味がなかったりすると会えるのよ!」
「あーそれで俺は美奈先輩に会ったってワケですか」
「私に興味を持つのは当然よ!」
「あんたマジでポジティブすぎません??」
「キーッ!」


またもや両肩掴まれて揺さぶられる剣くんの悲鳴を聞きながら、私もひとり納得する。でも私は剣くんと違って口にはださず、目が合った斎藤先輩ににこりと微笑むことにする。


「俺に魅力がないことは分かっている」


そして斎藤先輩の爆弾発言に冷や汗をどっとかいてしまった。


「……近藤さん酷すぎじゃないですかー」
「辰もそんなに落ち込まなくていいわよ。佐奈が興味を持たなくたってそんな、ねえ?」
「いやいやいや待ってください!斎藤先輩は魅力的ですよ!?それにほら、なにせミスミスターに出れるぐらい確実な人気もあるじゃないですか!」
「慰める必要はない」
「なぐっ!?え、ちょっと待って斎藤先輩ネガティブすぎません??だから私、前にも言ったように斎藤先輩は面白くて好きですよ!?」
「うわー堂々とした浮気発言サスガでーす」
「剣くんは黙ってて!?それに浮気ってなに!」


剣くんたちに非難されて慌てて弁解するけど斎藤先輩は諦めたような笑みを浮かべるだけだ。え、笑顔ポイント稼いだけど嬉しくない……!
どうやったら信じてもらえるか分からなくて、焦ってしまう。それが余計に信憑性をなくしてるのかもしれないけど、無表情なりに落ち込んでるのが分かってしまって、申し訳なさ過ぎていたたまれない。


「私にこんなこと言われてもって感じでしょうが、ミスミスターでは普通に斎藤先輩が優勝だと思ってましたよ!?」
「……明人じゃなく?」
「明人??ああ!藤宮くんですね!違います違います!


すぐには誰のことか分からなかったけど、勘違いだとはっきり言ったのがよかったのか、斎藤先輩は目をぱちくりさせて私を見た。ようやく話を聞いてくれる気になったらしい。
なんだろう。もしかして藤宮くんが関係してるんだろうか。


「確かに藤宮くんを初めて見たとき、これは何度も告白される顔だなーって思ったし、外人っぽいなーとか風が似合う絵になる人だなーって思いましたけどそれだけですし、話すようになってからは残念イケメンぐらいにしか思ってませんし」
「近藤さん、酷いこと言ってるの気がついてます?」
「残念、イケメン……っ」
「それに外見の好みなら斎藤先輩ですし安心してください!」
「安心……?そう、か……」


自分で言っててもなにが安心なのか分からないけど言っておけば、斎藤先輩は前みたいに笑みを浮かべた。ああよかった。後ろめたくない笑顔ポイントを稼げて私まで安心する。
いつもは仲が悪いのにキャアキャア野次入れてる美奈先輩たちは無視だ。


「ならお前も……安心するといい。お前が風紀に戻るのなら、戻れる」
「んん?」


まるで謎かけみたいな発言に首を傾げる。
そんな私と違って美奈先輩が「やったわ!」と嬉しそうに万歳した。何事?








 
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