となりは異世界【本編完結】

夕露

文字の大きさ
上 下
65 / 85
トラブルだらけの学園祭

63.学園祭終了!

しおりを挟む
  



紫苑先輩の周りにはたくさん人がいたけど、運動会のときと同じようにみんな牽制し合っているのか告白されているようではないらしい。とびかってる話題は突然のイメチェンや来年のミスミスターの話が多くて、その話の中心にいる紫苑先輩は困ったような微笑みながらも、ときどき照れくさそうな顔もしていた。ぜんぶがぜんぶ嫌ってわけじゃないらしい。
人混みをわけながら進んでいたら、ふと目が合う。パアッと変わる表情を見て、困りつつも微笑んでしまった口はきっと紫苑先輩と同じ顔をしてしまってる。

「近藤さん!後夜祭、始まりましたね」

手招く紫苑先輩に周囲が気を利かせて道を開けてくれる。その目の中に好意的なものじゃないものが混じってるけど、気にしたらやってられないことを私はこの学園祭で学んだ。にこーっと笑っておく。

「お邪魔しまーす。後夜祭始まりましたねー。さっきのクラッカーびっくりしました。これもう学園祭の続きですよね」
「ふふ、俺も1年のとき驚きました。でもさすがに完全下校時刻になるまえに火は消しますし、終わりますよ」
「それはそれで寂しいですねー」

同意する紫苑先輩に周囲のみんなもにっこり。そして来年も楽しみだねと紫苑先輩を慰めるのは一連の流れらしい。さすがに完全下校時刻までそのやりとりを眺める気にはならないから早々に用を済ませることにする。

「あ、私このまま自分のチームの片づけに行ってきますね。一応、それだけ言っておこうと思って」
「えっ」
「……あー、そういえば紫苑先輩、風紀室に用があるんでしたっけ?」
「……っ!はい!」

声を詰まらせた紫苑先輩の目がちらりと周りを窺って、胸元にある手をぎゅっと握り締めながら口を閉じる。そんな何度も見た姿に察して助け船をだせば分かりやすい返事で、今回は本気で困ってしまった。

「私も用事があるのでそこまでお供しますが、もし告白されそうになったら席を外しますからねー」
「え!?近藤さん告白されそうなんですか!?」
「え!?いやいやいや違います違います、違いますって!紫苑先輩が告白されそうになったらずらかりますからねって話ですよ!?」
「そっ、そうなんですか」

周囲を宥める餌を出そうと思ったら身を切られることになるなんて……顔を赤らめる紫苑先輩に私はちゃんと微笑むことができてるだろうか……。
でも、そんなことよりテンパる私たちと違って周囲の目は怖いほど冷静に続きを待っている。早く答えをあげたほうがいいに違いない。

「後夜祭のキャンプファイヤーで告白すると結ばれるってジンクスがあるのはご存じですか?」
「え、あ……はい」
「紫苑先輩、リレーでもミスミスターでも目立ってましたしそういうこともあるかもしれないじゃないですか」
「そんなこと……ないですよ」
「じゃ、なおさら試してみましょう。人に囲まれてるから告白できなかったって人もいるかもしれないじゃないですか。チャンスはみんな平等に?じゃないですけど、はい。いちおうボディーガード?として私は隣にいますけどそれだけですし、さっきも言ったように告白だったら空気読んで消えますんで」
「そんな」
「ということで、もう少しの勇気が必要な人のためにもちょっと風紀室までゆっくり歩きましょっか。それじゃ皆さん、ちょっと風紀室まで行ってきます。それで……改めてこういうと変な感じですが、学園祭お疲れ様でしたー。いろいろと助けてくれてありがとうございます。よければこれからもよろしくお願いします」

へへへと笑いながら頭をさげれば「こっちこそありがとー」とか「おつかれー」とか優しい言葉が聞こえてきた。過激派だけじゃないのが知れたのは収穫だ。それに、なんだかんだいって学園祭では本当にお世話になった。紫苑先輩のボディーガード?してたのほぼほぼ信者たちだもんね。ありがたやありがたや。無言になっている人たちはきっと告白するかどうかを脳内で真剣に悩んでるんだろう。歩き出した紫苑先輩の後姿を見る顔は揺れに揺れていた。

そんな彼らの視線に気がつかない罪な人は人混みから逃げれた喜びをかみしめている。
キャンプファイヤーを囲む人たちの楽しそうな姿に口元を緩めて、詰めていた息を吐きだす横顔はまだ見慣れない。すっかり耳が見えるようになった刈り上げツーブロック。改めてみると、ずいぶん思い切ったことしたよなあ。
じろじろと見ていたら流石に気がついたらしい。紫苑先輩が首を傾げる。うーん、この仕草は相変わらず可愛い。

「キャンプファイヤー、夜だったらもっと綺麗でしょうねー」
「綺麗ですよ……ああ、えっと、去年も俺がいたチームが優勝したんですけど、その賞金が学校宿泊券だったんです。そのとき夜にキャンプファイヤーしたんですよ」
「わ、それは普通に羨ましい。あーやっぱり勝ちたかったかも……楽しそー」
「もしかしたら近藤さんも参加できるかもしれませんよ?」
「え?」
「去年、徹も俺の風紀委員として参加しましたし」
「紫苑先輩の風紀委員として参加……???」

なにやらよく分からない話になってきた。優勝したチームの特権なはずが風紀だから参加できるってなると風紀委員ずるくねー?って話になりそうだし、紫苑先輩の風紀委員として参加って、え?ボディガードだっけ?なにを警護するの???介護????

「なるほどそうですかー」
「ええ。そうなったら楽しみですね」
「そうですねー」

今を楽しんで、よく分からないことはあまり首を突っ込まない。これも学んだことだ。
さっそく実行して話を適当に流せば、紫苑先輩がふふふと微笑んでなんだか風紀室で過ごしているような時間が流れた。わいわいがやがや。賑やかな光景が広がるから不思議な感じ。


「ありがとうございます。また助けてくれましたね」


踊ってる人たちから目を離して紫苑先輩を見れば、悲しそうにも嬉しそうにも見える器用な表情をしていた。ううん、さまになる。

「助けるってさっきのことですか?まあ、流石に見て見ぬふりもできませんしねー。あ、でも本当に風紀室に行きますか?」
「あ、はい。徹にも会っておきたいですし」
「え?東先輩って後夜祭でも風紀室にいるんですか?」
「去年はそうでしたね。たぶん、今日もいると思いますが」
「あれ……?特に集まりはないはずだけど……私も一応、顔出しとこっかなあ」

後夜祭の時間に集まるのは流石に可哀想だからって、学園祭における反省会的な集まりは後日ってことになってたはずだけど、もしかして仕事があったのかな?風紀の仕事……あれ?ぜんぜん想像つかない。最近は学園祭の打ち合わせとかで忙しかったけど、大イベントが終わったあとは普段の仕事に戻るだけ……うん?風紀の仕事ってなんだっけ?お菓子食べて雑談してた記憶しかないや。


「あの、近藤さん」


なんだかんだ風紀委員として色々やってきたはずなのに、いまだによく分からなくて悩んでいたら後ろから呼ばれた。振り返れば、走ってきたのか息を荒げた鈴谷くん。
決死隊1年の代表ということもあって先輩方に連れまわされて、同学年からされる質問やらトラブルの対応に追われて、リレーでは走ってと、この学園祭とにかく忙しかっただろう鈴谷くんはきっと後夜祭でもいろんな人のため走り回ってるんだろう。凄すぎる……こわい……。

「あ、鈴谷くん学園祭もついに終わりだねー。代表おつかれさまでした」
「ありがとう、近藤さんもおつかれ!なんだかんだあっというまだったよなー」
「だねー。でも、もしかしてまだ代表の仕事してる最中?」
「え?あー」
「急いでるみたいだし……あっ。私いまからチームの片づけがないか見に行くんだけど、なにか伝言とかあったら代わりに伝えるし、手伝えることある?」

言い淀むところをみるに押し付けられたのかと思って提案すれば、首を振られる。なんだなんだ?そのうえ俯いてしまって──

──あ、と気がつく。

まだ明るい時間だからよく分かってしまった。額に浮かぶ汗、赤くなっていく顔、言い淀んで閉じる口。
わわ、わわわわわ。
うつむいていた顔がゆっくり起きて、私を見始める。目が合った鈴谷くんは一瞬目を見開いて、そらして、それで。


「手伝いというか、今、ちょっといい?」


震えた声はきっと気のせいじゃなくて、かあっと顔が熱くなる。周りにも察した人がいるのかときどき視線が突き刺さった。
た、確かに移動するわけだ。これは恥ずかしすぎる……っ!

「へあ、い。あ、えっと紫苑先輩それじゃあの、また」
「……えっ、あ……はい」

紫苑先輩にぺこぺこ頭をさげて、歩き出した鈴谷くんの後ろについていく。ぅああああこれは恥ずかしい。というかこれってそうだよね?!告白だよね!?あ!み、美加かな?!いつもみたいに美加を呼んでってことかな!?



「──好きです。俺と、付き合ってくれませんか」



私だった……っ!
まっすぐに告げられた言葉に頭を殴られたような衝撃が走る。
昔からいつも美加に中継する役割だったのにまさか私が告白されるとは……え?鈴谷くんどうして私?いやいや、確かに学園祭始まってからちょくちょく話すようになったけど、え?
どこかの誰かの定番の場所に来たときはおかしさがこみあげて一瞬冷静になったけど、まっすぐに告白されると一気にパニック状態だ。ミスミスターに出場したあとのこととか、真奈たちのこととか色々思い出すと頭がぐるぐるして。

「──ご、ごめんなさい」
「……ほかに好きな奴いる?」
「そ、それはないけど」

付き合うとか荷が重すぎる。
ただでさえ変にトラブルに巻き込まれるのに、風紀委員に入ってイベント目白押しで恋人って。楽しそうよりも大変そうなイメージしか浮かばない。

「それはないって、ははっ!俺、近藤さんのそういうとこ好き」
「ひえっ」
「好きな人いないとかなら分かるけど、それはないだもんな。あはは!」
「うう」
「近藤さんと一緒だったら毎日楽しそうだなって思ったんだ」
「きょ、恐縮です……」

私は鈴谷くんとずっと一緒にいたら浄化されそうだなって思うぐらい眩しく感じてました……。
フラれた形になっても私に気を負わせないように明るくいてくれる鈴谷くんは目を細めて唇をつりあげる。

「……これからも普通に話しかけてもいい?」
「え!?あっ勿論!」
「そっか!よかったー……んじゃときどき別人になる近藤さんを楽しみにしてる。それじゃ」

また今度と手を振った鈴谷くんは最後まで笑顔だった。
私は告白されたことに舞い上がったり恥ずかしくなったり嬉しくなったりしてたけど、ちょっとだけ、悲しいような変な気持ちになってしまった。
聞こえなくなった足音と、遠くから聞こえてくる賑やかな音楽に楽しそうな声を聞きながら1人ぽつんと立ち尽くす。


「……風紀室、行こっかな」


いつまでもここにいたらお馴染みの人が困るはずだ。それに、なんだか無性に風紀室でいつもみたいなのんびりとした時間を過ごしたくなった。
フラフラする足を動かして風紀室に向かっていたらメールがくる。大樹だ。帰りが遅くなることをお母さんから聞いたらしく、どうやら迎えに来てくれるらしい。部活で疲れてるのに申し訳ない。時間にはまだ余裕があるけど、風紀室で雑談してたらあっという間のはずだ。
もしかしたら誰もいない可能性もあったけど、話し声が聞こえてきた。どうやら東先輩だけじゃなくて全員集まっているらしい。

「失礼しまーす」
「おお?佐奈じゃん。お前まで来たの」
「お前までって、え?」
「俺は別にー?刀がちょくちょく姿を消すから後を追ってみただけですしー?」
「だから剣は大袈裟だよー。僕だって明人の警護とかいろいろあるし」
「警護っていうほどのことある?俺は別に颯太のことほぼ放っておいてるけど?」
「それはそれでどうかと思うけどなー」
「え?なになに修羅場ですか?」

どうやら双子は喧嘩らしきことをしているらしい。話を聞く限り剣くんが拗ねてるだけみたいだけど。

「そうだなー。近藤さんはどうしてここに?」

東先輩はにこにこ微笑みながらお茶を飲む。
その隣に紫苑先輩はいない。

「紫苑先輩に東先輩が風紀室にいるかもって話を聞いて、もしかして風紀の仕事とかあるのかなって思ってのぞきにきました」
「へーそれで紫苑は?」
「あれ?紫苑先輩1度も来てないんですか?」
「来てないぞ?なんだ、どっかではぐれ……ああ。あいつまた告白ラッシュになったんだろ」

告白。
楽しそうな笑い声にさっきのことを思い出してぶわっと変な汗がでる。

「そ、そーですねー。あ、でもそっかーまたあとで来るんですかね。いやー、でも焦りました。いざ来てみたら皆ここにいるんですもん。私だけはみごなのかと思いました」
「そう、それ!」

声を裏返す私をフォローしたのは仏頂面の剣くんだ。急に私のほうにぐるんと顔を向けた剣くんは相当不満が募っているらしく、眼鏡が鼻にかかって斜めになっているのに直そうともしない。

「俺だけのけもんにするのはなんなんだよ。刀も先輩たちもずっと隠し事してんじゃん」
「え?そうなの?」
「こいつに至ってはマジでなんも気づいてないしどーでもいいけど、いい加減、こそこそ何してんのか教えてくれてもよくないですかね」
「え?急にディスられたし、そんなに怒ること??」

仮に先輩たちがこそこそ何かしてても別によくないか?あ、でも何かしてるんだったら気になるなあ。
『ん~ボディーガードというか、ちょっとねー』
そういえば刀くんたちと待ち合わせしたとき変なこと言ってたっけ。思えばあのとき藤宮くんは待ち合わせはすぐにできなくて1時間後って言ってたけど、なにしてたんだろう。店番かなにかだと思ってたけど違うんだろうか。

首を傾げる私と剣くんを見て神谷先輩が言葉を濁して笑う。刀くんは困ったように微笑んで東先輩を見ていた。
──カチャリ。
東先輩がカップを机に置いて、魔王というワードを彷彿とさせる笑みを浮かべる。

「そうだね、話そうか」
「え?2人とも合格?」
「うん。2人とも信用できる」
「やったあ!」

なんだか今日はよく分からないことがたくさん起きてる気がする。いや、そもそもこの学園祭が始まってからで、もっといえばこの学校に入学してから変なことばかり起きている。

「きゅ、急に怖い感じになってきた」
「……いや、なんで隣に座ってきてんの」
「え、だってのけもの仲間な感じだし」
「……」

刀くん筆頭に賑やか組と比べると私と剣くんは負のオーラでいっぱいだ。
そんな私たちに東先輩はにっこりと笑みを深める。


「異世界って聞いてどう思う?」


唐突の、告白よりも非現実なことを言う東先輩は笑みを崩さない。思わず剣くんと顔を見合わせれば、なんかヤバイこと言い始めたという顔を見つけた。同じ気持ちです。
そんな気持ちを読み取っただろうに、東先輩は気にした様子もなくつらつらと話を続ける。

「こことは違う世界。ここが地球という名前の世界なら、その世界の名前はイーセカ。この2つの世界がなにを間違ったか一部だけ繋がっちゃってね?とりあえず、お互い様子見をしようということで話がまとまったんだ。まあ、様子見以外にとれる手段もなかったし、蓋をするにはあまりにも違う文明を活かさないのはもったいなさ過ぎた。でも急にそんなこと公にしたらパニックだからね。お互いを理解しあうためにある試みがとられたんだ」
「え、な、なんだか話が進んでいってるんですけど、え?」
「ドッキリ混ぜた歓迎会的なかんじですかね?いや、俺そんなつもりじゃなかったんですけど」

すらすらと続く話の腰を折ろうとあがくのに、東先輩はずっと微笑んだままで怖すぎる。え、これほんとの話?この流れからいくと結論ちょっと聞きたくない。
動揺のあまり剣くんの服を握り締めるけど、剣くんも剣くんでプチパニック状態らしい。怒られなかった。

「風紀はね、御曹司や警護が必要とされると判断された生徒の近辺を守るんだ。人気者の彼らはイーセカからの留学生を隠すのにちょうどよくってね?」
「ちょ、ちょうどいい……」
「そう。だからボディガードっていうのは本当なんだ。イーセカからの留学生になにかあったら国際問題みたいなものだからね」
「いやいやいや」

話が大きくなっていくごとに非現実さが増して、剣くんがいうように「ドッキリでしたー!」なんて言われたほうが納得するレベルだ。

「ほ、ほんとの本当に嘘じゃなくって、え?冗談じゃなくてですか?ん?じゃあ、本当に警護ってことですよね」
「この学校のセキュリティ売りにして集めた人気者を隠れ蓑にして、その異世界人たちがこの世界でただの留学生として過ごせるようにして……って、ミスミスターでも思ったんですけど、風紀委員ってすっげ都合よくってか、槍玉にあげるのにちょうどよくつかわれてる感じが」
「察しのいい子が多くて助かるよ」

どこかで聞いたことがある台詞をどこかで見たことがある顔で言った東先輩に、風紀委員に入るにあたって書いたぺらぺらの紙を思い出してしまう。いまからでも職員室に忍び込んで破り捨てたほうがいいかもしれない。そんなことを思うぐらい私の頭はキャパオーバーだ。東先輩が言ってることがほんとうなら警護対象の誰かは異世界人ってことだ。え?誰?話の流れからすると藤宮くんはそうみたいだけど紫苑先輩も?だったらあの信者たちができる妙な吸引力も納得だ。

「うん、はいっ!それでは今日は一度……はい!帰ります!」
「はあ!?いやいやアンタそれ完全に現実逃避ってか、これガチだったらいろいろ確認しとかないとヤバイやつだから!」

剣くんが後ろでなにか言ってたけど現実逃避、実に結構だ。風紀室を出て時間を確認すればいい時間になっていた。
人気のない長い廊下を走りながら風紀室がなんでこんな隅に追いやられているかの答えがうっすら見えてきて、まだまだ嘘の可能性が高いのに寒気がしてしまう。これはさっさと家に帰って寝たほうがよさそうだ。
異世界という非現実な言葉にちょっとワクワクするような気持ちとかいろいろと思うことはあるけど、あんな前置きがあったあとで聞かされたら面倒ごとの予感しかしない。
きっと休み明けに「ドッキリでしたー!」って東先輩がお茶目に言ってくれるはずだ。うん。想像できない。


「あ」
「大樹!」


靴に履き替えてすぐ校門を見れば大樹の姿が見えて心底ホッとした。というか嬉しすぎて思い切り抱き着いてしまう。残念なのはお相撲さんのぶつかり稽古みたいな勢いでいったのに、ほとんどフラつきもしなかったことだ。流石、部活で鍛えてるだけはある……。

「どんな挨拶だよ」
「ふふふふふ逃げられないでしょー」

高校生にもなってブラコンだっていわれるし大樹は嫌がるけど構うもんか。私はいますごく癒しがほしい。

「あつい……なに、なんかあった?」
「んー」
「さっさと帰んぞ」
「んー」
「……学園祭、楽しくなかったのかよ」
「楽しかった!」

ばっと顔をあげると呆れて笑った大樹が溜め息を吐く。ほんとうに、これじゃどっちが年上か分かったもんじゃない。お姉ちゃんらしく冷静になろう。大樹から離れて胸を張る。

「すっごく楽しかった!」
「へー、写真見たい」
「ふふふ、選り好みを見せてあげよう。美加のかっこいい姿とか一押し。男装したんだよー」
「あー見たい。面白そう。佐奈のは」
「私のはないよー!でもミスコンに出たやつでいい角度から撮られたやつ貰ったから見てー」
「送って」
「あはは!……あ、そうだ。迎えにきてくれてありがとう」
「別に」

遅ればせながらお礼を言えば大樹は顔をそらしてしまった。思春期ってかわいいなあ。照れてる顔をのぞきこもうとしたら更に顔をそらしてしまって楽しい限りだ。
周りにいる人も楽しそうになにか話している。キャンプファイヤーは消されてしまったのか音楽はもう聞こえてこないけど、完全下校時刻にはまだなっていない。きっとギリギリまで楽しんでる人はいるだろう。
今度、生徒会として最後まで残ってるだろう美加に話を聞いてみよっと。

うっすらと暗くなった空のした、学園祭の締めくくりにふさわしい楽しい気持ちで家路につく。
そして後日、美加にこの話をしたとき「それはフラグがたった、というやつでしょうね」と呆れた顔で言われてしまった。まる。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...