となりは異世界【本編完結】

夕露

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トラブルだらけの学園祭

40.混乱再び

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「佐奈ちゃん見て見てー!僕1位になったよー!凄い?」


トライアスロンが終わったあとわざわざE組に来てドヤ顔してきた刀くんに拍手する。いつもなら適当にあしらうけど今回ばかりは凄いと言わざるを得ない。

「うん凄い、確かに凄かった!」
「カッコよかったでしょ!」
「すっごくカッコよかった!!いや~皆凄い本当に凄いよくあんなこと出来る……」

感心しながら唸れば横からドンッと軽い衝撃。見れば駿河先輩がニヤニヤ笑っていて、目が合うと顎をくいっと刀くんのほうに向けた──刀くん顔真っ赤だ。

「え、普通に大丈夫?ちょっと危ないぐらい顔赤いけど」
「え?!う、うん、ちょっと頑張りすぎたみたいー?僕自分の組に戻るよ」
「え?刀くんってちゃんとボディガードしてる?」

人のこと言えないけど心配になって聞いたときには小さくなった背中しか見えなかった。そういや刀くんの風紀対象って誰だろ。

「近藤さんって罪な女ね」
「ええ?初めて言われました。それにしても刀くんって率直な誉め言葉に弱いんですね。これからこれで撃退しよう」
「え、気づいてたの」
「近藤さんだからそういうところよ」

今日何度駿河先輩と城谷先輩に呆れた顔をされたことだろう。いやいや、私が生まれてからどれだけ人を観察してきたと思ってるんですか。人の表情の変化には敏感ですよー。ふふふ。
先輩方に私の特技を自慢は出来ないからドヤ顔に留めておけば可哀想なものを見るような目で見られた。納得いかない……。

「続きまして騎馬戦、騎馬戦が行われます。観戦のさいには皆さま場内に物を投げ入れないようお願い致します」
「え、物騒」

運動場に響き渡ったアナウンスに不安にかられた私と違って、皆ハッとしたように顔を上げ、それからお互いの顔をみてコクリと頷き合う。なんだなんだ?信者たちが桜先輩のお身体を支えながら移動なされる。傍目には介護にも見えるけど桜先輩を見る表情は憧れや期待、もっといえば神でもみるみたいだ。アイドルって大変。


「近藤さんなにぼおっとしてるの。紫苑はリレーと混合リレーに出るのよ。騎馬戦の次」
「あ!お、桜先輩!移動しましょっかー!」


城谷先輩に言われて思い出した自分の仕事に慌てて駆け寄れば緊張を僅かに浮かべながらも桜先輩は微笑んで出迎えてくれた。信者の皆様との対比もあって輝いてみえる。

「皆さんついにリレーですね!皆さんのお陰で桜先輩も1位をとるって決心されましたしこれは応援しなきゃですねっ」
「勿論よ!」
「当たり前だ。紫苑なら優勝間違いない」
「紫苑先輩、私がついていますからね!」
「私たちがっ!ついていますから!」

優位を競う信者たちの戦いを遠巻きに見ながら移動する。なんだか私が先導してその後に信者率いる桜先輩が続く形になってしまってるから妙な行列だ。本当に、妙な行列……お陰で視線があちらこちらから飛んでくる……あはは。現実逃避にパンッと軽快になった音のほうを見れば騎馬戦がスタートしたらしく雄叫びと激しい人のぶつかり合いを見た。おおおお……こわ、すご……。
この体育祭が始まってから時間が経つにつれてどんどん語彙力が低下してるような気がする。それぐらい目が奪われるほどの熱量と驚きに満ちてるってことなんだけど、え?東先輩?
なんだかんだもうすぐ終わる体育祭を振り返りつつ騎馬戦を見ていたら雄叫びの中心地に立つ東先輩を見つけた。あまりにも似合わないミスマッチな光景に思わず立ち止まりながら戦場を凝視したけど、見間違いじゃなかった。しかも騎馬戦に出てるだけでも驚きなのに馬じゃなくて騎士役だ。

「え、こわ……相手の人大丈夫??」
「どうかされたんですか?」
「東先輩が騎馬戦に出てるんです。わ、取った!……なにやったんでしょう」
「徹は毎年騎馬戦に出てますよ。力も強いし指示も的確なので皆さんから頼りにされて……いいなあ」
「怖いですね……」

なんだか東先輩を羨む桜先輩の声が聞こえた気がするけど、そんなことより無双する東先輩の微笑みが怖くてしょうがない。審判に見られないよう相手の鳩尾を殴ったり変な薬飲ませたり心理戦したりなにか手を回してるんじゃないだろうか。

「あ、すみません止まってましたね。行きましょう」

神谷先輩だったら素直にカッコいいってなるのに東先輩だと恐怖でしかないのは魔王だからだろう。ああ、怖い怖い──

そんなことを思っていたのが15分前。
私は呑気だった。




「うおっしゃああああああああ゛あ゛!!リレーだあああああ!!」
「し・お・ん!!し・お・ん!!!!」




白熱した騎馬戦が終わってついにリレーのアナウンスが流れた瞬間、桜先輩の信者が場所もはばからず各地で声を上げた。雄たけびや歓声混ざるなか、打ち合わせでもしたのか独特な手拍子をしながら桜先輩コールを始めたのだ。

「へ、へえ?」

とりあえず手拍子を真似てみるけどペチと虚しく鳴った私の手は騒音となった歓声に消えてしまう。
体育祭が終わったあとの私の身の安全を東先輩は保証してくれるんだろうか。それよりも私は転校したほうがいいのかもしれない。

そんなことを真剣に考えるぐらい信者たちは顔を赤くし唾を吐き散らかしながら桜先輩の愛を空に叫んでいた。
真っ青な空の中ギラギラ太陽が光る、体育祭での出来事でした。まる。




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