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トラブルだらけの学園祭
36.不穏な芽は早く摘みましょう
しおりを挟むチーム決死隊に戻った瞬間の出来事だった。
クラスメイトはまだしもよく知らない人たちが私を見つけるなり「やっと帰ってきたー!」と明るい声を出して私の手を問答無用で引っ張っていく。その先には席に着いた波多くんがいて、私がいない間すでに色々と言われたのか顔面で人を殺せそうな状態になっていた。この状態になってからは流石に周りの人も色々からかうことができなかったんだろう。そんな物足りないときに私が登場したもんだから楽しさ満点といったところだ。
ねえねえ波多くん。面倒くせーことになったみたいな顔してますけど完全に波多くんが原因だからね??
「お前らよくチームに貢献してくれた!お陰で優勝が狙えるぜ!」
「いつの間に付き合ってたんだよー」
「そーいえばー?仲良かったもんねー……実際どうなの?」
次から次にかけられる言葉にへへへと笑いながら「いえいえそんなー」「あれは波多くんの嫌がらせですよー」「席が隣だから声かけやすかったんですかねー?」と答えてるんだけど誰もまともに聞いちゃくれない。
ヤバイ、地獄だ。
波多くんお前そんな顔してないでちゃんと言葉にして言ったか?女友達コイツしかいなかったんですってちゃんと言った??言ったよね?
「近藤さんって凄いよねー風紀だし?大活躍―」
賑やかな雰囲気に混じって聞こえてきた不穏な物言いにヒヤリとする。顔をあげれば目が合った女の子がにっこりと笑った。私の両手はとても自然な流れでごまでもするようにセットされる。
「いやそれはですね「今の話に風紀関係あんの?」
不穏な芽は早めに摘んでおこうとしたら後ろに座っていた波多くんが不機嫌そうな声を出した。今まで黙ってたくせに急にこんなタイミングで喋りやがった。私には分かる。それは悪手だし完全に目の前にいる女の子を敵に回した。冷たさまで感じそうな目が向けられる──私にな!
純粋に借りもの競争で勝利をあげた私たちを喜んでくれた人とそうじゃない人が一気に色をつけて分かれた瞬間だ。私眩しいほうへ行きたいんですけど駄目ですかね?
「次は2人3脚だよな!これも勝つんじゃね!?」
「へー!やっぱ熱々なんじゃーん!」
「は?風紀が関係すんのって聞いただけだろ」
「近藤さんのために怒ってんのー?」
「……お前何言ってんだ?俺は風紀と1位がとれたことは関係ねえだろって言ってんだよ」
「っていうか俺達優勝狙えるって!」
「そーだよねえ。近藤さんは凄いから風紀になれたわけだし1位も……ね」
目の前の女の子は波多くんを見てから私を見てフッと鼻で嗤う。
分かる、分かるよ……。波多くんの走りがあったから鈍足の私でも2位に行けたしネタお題のお陰で繰り上がり1位になったんだよって言いたいんだね……分かる、凄く分かる……!ただ分かってほしいのは承知の上だしこの状況は不本意だってことで……!
「おおお!いっけええええ!」
あとさっきから熱量凄い人の声がやたら聞こえてきて集中出来ない。
「……風紀に入ったらなにかあるのか……?」
女の子たちと意思疎通ができない波多くんは波多くんで何か意味の分からないことを言い出したし勘弁してほしい。あのね波多くん、風紀にそんな力もないし特に良いこともないよ。
しかしこの女の子たちはなんでこんな波多くんを好きに……???いや、知らないけど。カッコいいと思って……?いや、まあ、顔はいいよね。とにかくなんでこんな波多くんに注目してるんだろう。コイツはただの猫キチなのに。
とりあえずここで何か手を打っておかないと後が怖いのは確かだ。敵意を向けてくる女の子全員に聞こえるようちょっと声を大きめに話す。
「いやー波多くんがお題をとったときたまたま近くいただけなんですけどチームの勝利に貢献出来て嬉しいです。波多くん足早いから助かりました。私、本当に走るの苦手でー」
別に自分のこと過信してないし私がとった1位じゃないですし波多くんは私に気が合ったとかじゃないですよーと感情を込めて話す。問題は波多くんだ。
へへへと笑いながらコイツ何言ってんだ的な顔して眉を寄せ続ける波多くんに何も喋るなと念じる。
「お前なにキモ「そういや波多くんってば折角だし皆と話そーよー」
「くそおおお!4位かよーー!」
即座にテレパシーというものがないんだと証明した波多くんの声を遮ったあと、近くの女の子たちを手招きして内緒話をする。幸い大声があちこちから聞こえてくるもんだから波多くんが近くに居るけど問題ない。
「もしかしたらなんだけど……波多くんが風紀の対象になるかもしれなくって、だから私見ておくように言われてたんだ」
「うっそマジで!やっっば」
「今のうちに仲良くならないと」
「見ておくってなにを……?」
なんでしょうね。
数人冷静な人がいたからすぐにたたみかけておく。
「だからちょっと波多くんといることが多かったんだけど……それで知ったんだけどさ、波多くんってシャイなんだ」
「シャイ……」
「それで大のチョコ好きで」
「チョコ好き……」
「今日の打ち上げを内心凄く楽しみにしてる」
「打ち上げ……」
反芻する女の子たちの顔を見て、頷く。
「人相悪いのはデフォルトだから安心して波多くんに声かけてあげてほしいんだ。シャイだからきっと止めろとかうぜえとか言うかもしんないけど波多くんはそういうキャラなの。私もそりゃ時々話すことあるけどしんどいし皆が波多くんに声かけてくれたら波多くんも喜ぶと思うんだ。シャイだから。何かあったらチョコあげたら大丈夫だから本当お願い」
上手いこと私への敵意を消して波多くんのことだけを考えるように誘導したかったのに、愚痴とか願望が混じってしまった。危ない危ない。
でも波多くんに憧れを持つ女の子には良い言葉だけ頭に残ったようだ。瞳を輝かせながら波多くんをチラチラ見ている。波多くんはといえば何話してんだって私にメンチをきってくる。
しょうがないなあ。
「波多くんまたそんな寂しそうにしてえー話に混ざりたいならそう言いなよー」
「は「ねえねえ波多くん今日トライアスロン出るよね!私応援してる!」
「私も私も!」
「ちょっと待って何聞いたの?」
「実は波多くんって──」
自分にヘイトが集まるぐらいならどんな嫌な役も演じるし生贄も差し出す覚悟だ。一気に色んな女の子から話しかけられて目を白黒する波多くんが原因だろう私に殺意を向けてくる。
にっこり笑ってみたけど返ってくる反応が怖いから試合観戦でもすることにする。おお?あれは爽やかすぎて眩しい鈴谷くんじゃない?
「鈴谷いいいいいいいっけええええええ!」
「がんばれー」
熱量高く叫ぶ人たちに混じって私も応援する。人が出来た鈴谷くんはチームの観戦席前にくるとニカッと笑ってみせた。波多くんよりよっぽどモテそうな人だけど……。
後ろで負のオーラを出し続ける波多くんは見なかったことにして見事1位になった鈴谷くんを皆で祝う。
ああ、なんか凄い青春っぽい。
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