となりは異世界【本編完結】

夕露

文字の大きさ
上 下
34 / 85
トラブルだらけの学園祭

32.白熱する戦いに皆さんクラクラしています

しおりを挟む
 


始まった青空高等学園祭。学園祭って秋のイメージがあったけれど変わったこの高校だ。そんな疑問はあの高校だしねで終われる。この高校は変だ。


「げほっ、ぉえ」
「……お前出場する種目玉入れでよかったな。そんなんじゃ他の種目出てたら死んでるぞ」
「ぐへぇっほ」
「うわ……」


最後のを無視すれば、むせこむ私を波多くんが珍しく心配してくれている。しかも私が玉入れに出場することにあんなにキレていたのにこの台詞だ。
これには訳がある。玉入れが思ってたものと違うかった。
風紀の仕事で時々参加できなかったとはいえ、運動種目の練習をしていたとき思ってたんだ。玉入れ練習する必要性なくね?って。でも練習があったから参加してた。籠に向かってお手玉を投げ入れながら皆気合入ってるなとか、そういや練習だりーみたいな人1人もいないなって思ってた。

「くっそ玉入れは2位だったか……。特攻隊棒引きでも1位だったぜ?!くっそ次で挽回しねえとな……」
「大丈夫!まだ始まったばっかだよ!」
「だな。得点の高いリレーとトライアスロンでもらいだ」

忘れてた。そういやこの学校の生徒みんな頭おかしいんだった。学園祭で頭のタガが外れる人たちばかりだったんだ。
なんで玉入れに連携とか技とか編み出してたのかよく分かんなかったけど、当日の今日よくわかったよ。
まず出場して見えたグラウンドに並ぶ籠の大きさに愕然とした。大玉でも入るんじゃないかってぐらいの籠が5つ等間隔で置いてあった。どれだけお手玉入れるんだって思ってたら放送で流れた玉入れのルールを聞いて棄権したくなった。
風紀で忙しかったから。忙しかったからなんだけど、玉入れのルールを聞かなかった私も悪かったと思う。だけど運動会の玉入れって言ったらただ自分のところの籠にお手玉投げ入れるだけの楽な競技って思うじゃないですか。なんでこの学校特有のルールがあるんですか。


ルールは2つあった。

1.自分のところの籠に自分のチームのお手玉を入れる
2.他のチームのお手玉を自分のチームの籠に入れると得点2倍


この2つめの寝耳に水のルールが問題だった。このせいで私はこの様だ。つまり皆他のチームに遠征に行ってお手玉奪って自分のチームの籠に投げ入れようとするんですよ。私たちのチーム決死隊もそうするんですよ。でも全員そうしたら逆に効率悪いし自分の陣地のお手玉が奪われるから陣地を守る人とお手玉を着実に投げ入れる人お手玉を奪ってくる人に分かれるんですよ……。
ああ、だから同時に複数お手玉を投げ入れる技とか連携プレーが必要だったんだねって納得しました。ちなみに私はお手玉を投げ入れる人がスムーズに投げ入れられるようにお手玉を渡しつつ投げ入れる人でした。死ぬかと思った……。奪いに来る人たちが本当に怖かった……ゲホッ。

一番最初の競技だった棒引きは人だかりで見えなかったけど、叫び声上がる白熱したものだった。私は玉入れでこの様だというのに、一体どんな戦いが繰り広げられたんだろう……あはは。
お茶を飲みながら人込みを観戦する。本当は座りながら今から始まる棒引きを観戦したかったけど、皆立ち上がって前に集まっているもんだから見えやしない。はは、ははは。
するとそんな暗い私を眩しく照らす明るい声が後ろから響いた。


「波多!次の借り物競争頼りにしてるぜっ!あ、近藤さんお疲れ!」
「あ、はは。へへ、ありがとう鈴谷くん」
「鈴谷そっとしといてやれ」
「ええー?」


うまく言葉が話せなくて笑って誤魔化していたら波多くんが言葉の足りないフォローをしてくれた。
あれ?


「そっか。波多くん借り物競争に出るんだったね。もう並ばないと駄目なんじゃない?」
「だるい」
「はい、行けよー」
「そうだそうだーさっさと行ったほうがいいよー」
「なんだようっせーな」


鈴谷くんと一緒に波多くんをせっついたら波多くんは眉を寄せて並びに行った。背中で語る男、波多くん。マジダリーって聞こえてくるわー。
それにしても、だ。
なんだかんだいって私の学園祭、運動部門は終わった。あとは観戦しながら風紀の仕事をするだけ──うっわ、風紀の仕事しなきゃ!桜先輩どこ行った!?
気を抜きすぎていたせいで風紀の仕事をしなきゃしなきゃと思っていたのに忘れてた。早く桜先輩と合流して桜先輩の近辺状況を把握しとかないと。
というか護衛対象が普通に学校生活を送れるようにする風紀って本当変わってるよね……今日で言うと桜先輩が学園祭という行事をこなせるようにサポートか……。
いまいちまだ理解しきれない風紀の仕事だけど、学園祭の玉入れが予想と違いハード過ぎたように警戒するにこしたことはない。頑張ろう。

「近藤さんもしかして今から風紀?」
「うん、そうなんだ。鈴谷くんは二人三脚に出るんだよね?頑張ってね!」
「え!お、おう!ありがとう!頑張る!」

鈴谷くんの健闘を祈ると鈴谷くんは眩しい笑顔を見せた。この人本当輝きすぎてるわ……。爽やかな人ってある意味危ないんだな……。
自分の心が病んでる可能性は蓋をして私もにっこり笑う。そしてお互い頑張ろうと別れて私は桜先輩がいる俺達1番チームに向かった。



「……うわあ」



俺達1番チームに向かってる間に棒倒しが始まった。棒倒しは棒引きとは違って男子だけだ。

「お前ら足踏ん張れえええ」
「くっそがあああ」
「ひきずり落とせえええ!!!」

つまり、壮絶な戦い過ぎる。野太い声や叫び声があちこちから聞こえてきてドン引きする。どこかの地方の祭りのような勢いと熱があった。ああよかった。玉入れと棒引きどっちに出るか悩んでたんだけど、玉入れを選んで本当によかった……っ!棒倒しのこの様子を見る限り女子のみとはいえ棒引きもなかなか壮絶だったに違いない。私玉入れで本当に良かった……っ!

って、あ。


「剣くん?剣くんだ。うっわあ!」


桜先輩に会わなきゃいけないのに棒倒しから目が離せないでいたら、もっと面白いものを見つけてしまった。剣くんが棒倒しに出ていた。自分のチームの棒を守って土台のようになっている。相手チームに踏まれて押されて、うっわ!痛そ。うっわー!
やっぱりこういうのって知り合いが出てるとすっごくテンション上がる。
思わず人込みに混じって観戦してしまった。剣くんは近くにいる仲間と何事か言い合いしながら必死に体制を崩さないようにしている。そして棒を倒そうとよじのぼってくる敵を押しのけ──あ!神谷(かみや)先輩だ!
どこからともなく現れた神谷先輩に剣くんも驚いたような顔をしたけどすぐさま仲間と一緒に防戦に入る。神谷先輩と剣くんは違うチームだ。神谷先輩は神谷先輩で自分の仲間と連携して相手を崩しにかかる。そして一瞬の隙をついて人の上によじ上り、途中何度も引っ張られて体勢を崩しながらもついに棒を力強く握って全体重をかけた。傾く棒を神谷先輩の仲間が見逃すはずなく1人また1人と後に続いて──棒が倒れる。


「さっすが!さっすが神谷先輩っ!!」


思わず飛び上がって叫んでしまう。
幸いなことに紛れ込んでいた人込みは神谷先輩がいるチーム特攻隊だったらしく変に目立たずに済んだ。それどころか近くに居た人と一緒に手を叩き合ったぐらいだ。
神谷先輩が喜びの声を上げながら仲間と腕をぶつけ合ったあと、自分のチームのほうに手を振る。私たちに向けてだ。
あのサービス精神は流石だ。やっぱり神谷先輩ホストに向いてそう。


「かっこいい……」
「神谷くんってやっぱかっこいいよね……」


なにせ神谷先輩の笑顔と爽やかさに近くに居た女性陣がメロメロだ。普段大人びて色気がある人の爽やかすぎる姿っヤバイんだなあ。
特攻隊に混じりながら神谷先輩に手を振り返していると、神谷先輩が一度止まって目を疑うような仕草を向けたあとお腹を押さえて笑い出した。多分そんな感じだ。そして神谷先輩は疲れ切って座り込む剣くんをひきずり上げてこっちを指さし、また手を振った。
神谷先輩元気だなあ……。
そんな無邪気な神谷先輩の姿も女性陣には素敵な姿に映ったらしい。また黄色い悲鳴が上がった。


「借り物競争に出場されるかたは急いでください。繰り返します──」


放送が流れる。
はっとしてグラウンドを見渡せば、もうすぐ棒倒しも終わりそうだった。呑気に観戦している場合じゃない。
慌てて私の後ろにも出来ていた人込みをかき分けて今度こそ桜先輩がいる俺達1番チームまで移動した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...