11 / 85
散らばる不穏な種
11.マオウガアラワレタ。戦う?逃げる?──逃げたい
しおりを挟む「すっごくカッコいいよねー!」
「メッチャ美人」
「人間じゃない」
「自分の存在が悲しくなる」
「光ってる」
「閉じ込めたい」
……以上がよくあがる桜(おう)先輩についての評価だった。最後の言葉に関してはつっこんだら絶望しそうなのでなにも考えない。
美加が『美女がいる』って言ったのを聞いて先入観が出来てしまったからか、美女にしか見えなかった桜先輩。美女が男で美女はこれまで数々の逸話をつくってきた桜先輩。私のちっちゃな脳みそは簡単にオーバーヒート。
冷静になったあと情報収集してみたんだけど、色んな見方があるとはいえ人気なのは間違いないことだけ分かった。
「人気者って大変だなあ……」
「そんな人気者のボディガードになるあんたに私は心の底から同情するわ」
「あれ?おかしいな。視界が霞むや」
「佐奈ちゃん羨ましいぃ。変わってー!」
「いいなあ」
「しかもみーちゃんはみーちゃんで生徒会入るんでしょ?2人とも凄い」
「え」
前半、里香ちゃんと亜美ちゃんの会話に心の距離を感じて微笑みながら話を聞いていた。でも後半聞こえた驚きの言葉に頭の中が真っ白になる。
美加が生徒会に入る?
美加を見れば眉を寄せていた。
「入らないわよ」
「でも勧誘受けてるんでしょー?」
「面倒だから逃げてるのよ。お陰でろくに部活も見れてないんだから迷惑極まりないわ」
「すっご」
ああ、もしかして今日ずっとバタバタしてたのはそのせいだったんだろうか。納得して、なんだか変に寂しい気持ちになった。
私だけ知らなかったんだ……。
「なに不細工な顔してんのよ。すれ違って言えてなかっただけでアンタには話すわよ。……まあどうでもよすぎる話だから話さなかったかもしれないけど」
拗ねていたことに気がついた美加が私の頭を撫でながら呆れたように言う。わしゃわしゃヘアスタイルを乱されたけど気にならなかった。頬が緩んでしまう。
「うへへ」
「気持ち悪い」
親離れもとい美加離れはいつまでたってもできないなあ。美加の腕にしがみつきながらニヤニヤ笑ってしまう。
「二人ともほんと仲がいいよね」
「そうね。私が保護者で佐奈が幼稚園児ってところかしら」
「うへへ。え。せめて小学生ぐらいはいける気がするんだけど」
「そこ?」
ほわほわした気持ちのお陰で授業が始まっても──たとえ数学だったとしても──苦じゃなかった。でもニヤニヤ笑っていたら海棠先生に「授業聞いてたか?ここ答えは」と不意打ちであてられた。くそう。まったく聞いてなかったよ!オマケに問題を見ても答えが分からない。なにこれ暗号?
ちらり、とちょっと期待を込めて波多くんを見た。答えを教えて欲しい。切実な気持ちを瞳に込めて訴えてみたら、通じたのか波多くんは常時ぶっちょう面顔を緩ませ微笑んでくれた。
「分からん」
しっかりとそう動いた唇を見て私の頬も緩む。うん、私もだよ。
「分かりません」
「ちゃんと授業を聞いておくように。これは──」
ああ、これで眼をつけられることになりませんように。嫌味ったらしい海棠先生の言葉を聴きながら溜息を吐く。
だけどすぐさま感じた海棠先生の視線に息を止める。
「──になる。それで近藤ここの答えはどうなる」
数学なんて、嫌いだ。
*****
「ずいぶん海棠先生に気に入られたようね」
「まったく嬉しくない」
「気の毒に」
放課後、美加と廊下を歩いていた。廊下には他にも人がいて、それぞれ行きたい場所へ足早に向かっている。よほど大切な用事でもあるのか駆け足だ。タッタッタから、ダダダッと音が変わる勢い。ん?ダダダッ?凄い迫ってくる──わ。
「おい!園田!」
「……?美加、呼んでるよ」
「ああ、無視していいのよこんな存在」
「う、うっす」
険しい表情で走り寄ってきた男子が腕一つ分の距離で美加を呼んだのに、美加は振り向きもしない。突然のことに戸惑ったけど、とりあえず男子が呼んでるのは美加で間違いなさそう?
だから私からも声をかけてみれば、美加はびっくりするぐらい満面の笑顔で男子をこんな存在呼ばわりした。思わず体育会系になってしまった。
「てめえ無視してんじゃねえよっ。今日は集会あるっつっただろーが!」
「生徒会入るつもりないって言ったじゃないですか。頭わいてるんですか?」
「問答無用だ。めんどくせー女だな」
「めんどくせーのはあんたの思考回路でしょ」
ドッゴーン!バリバリバリー……なんて効果音が二人から聞こえてくる。バックには雷も見えた。うわあ……関わりたくないや。
幸いなことに二人は周りが見えていないようだ。よしっ!私は先に帰ろう。
美加は冷めた物言いだけど男子が大声で怒鳴ってるせいで注目を集めてる。野次馬まで出来始めた。
これは噂になるんじゃないだろうか。
生徒会も生徒会で風紀委員と同じぐらい注目を集めてる場所だ。スカウト制で入りたいと思ってもそう入れる場所じゃないんだよね、確か。
ふふふ、私も少しは情報収集してるんだからね!
「ん?電話?」
鞄の中から聞こえた着信音に携帯を出せばキラキラ光っていて、着信があることを伝えていた。そしてディスプレイには東(ひがし)先輩という文字。さあっと嫌な予感がした。東先輩。そういえば風紀委員で自己紹介を受けたあとメアド交換をした。連絡がとれるようにということで納得したんだけど、今更ながら止めておけばよかったかもしれない。
「もしもし?近藤です」
「あ、近藤さん?ごめん言い忘れてたことがあって。いまから集会あるから風紀室来てね」
「え。あー。じ、実はもう家でして」
うわあ、行きたくない。
素直な心はするりと簡単に嘘を吐いた。え?嘘ついちゃ駄目だって?いやだって参加したら風紀委員ですって認めることになるじゃないですか。もう風紀委員ってことになってるみたいだけど、やっぱりなんというか──
「へえ?おかしいな。目の前に近藤さんがいるんだけど」
──悶々と自問自答していたら、静寂を保っていた受話器から恐ろしい言葉が耳に飛び込んできた。
俯いていた視線を起こす勇気がない。とりあえず視界にちらほら映る野次馬の足元をチェックする。そして残念なことに目の前に立っているのは男子だということが判明した。これがスカートだったらまだ救いはあったのに。
もう怖いもの見たさで顔をゆっくり起こす──やっぱり東先輩でした。
「ずいぶん広い家をお持ちのようで」
「へ。あは、は。しかもグランドつきですよ」
「風紀室もある」
にっこり柔らかく笑う東先輩を見て悟る。この人を怒らせてはいけない。それでも「さあ行こうか」と差し出された手──というより拘束しようと伸びてきた手──を避けて後ろに逃げてしまう。
「わ」
「っ。なんだよ」
「ははは。ひどいな、近藤さん」
あいもかわらずにこやかな東先輩と、後ろにさがった拍子にぶつかってしまった美加に怒鳴っている男子が視界に映る。今日は厄日だろうか。
「ああ、そうだ。佐奈が生徒会に入るなら私も生徒会に入るわ」
「へ」
そこに美加まで加わって、さあっと血の気がひく。
「さなあ?この女か」
険しい顔が私を見下ろしてきてふっと気が遠くなった。おうちに帰りたい。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる