となりは異世界【本編完結】

夕露

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散らばる不穏な種

09.オトナな告白現場、癒しのナンパ

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──私はいま非常に後悔しています。

高校生になるまではあんなに周囲を警戒して目撃してしまうのを防いでいたのにさ。あ、間違えた。防ごうとしていたのにだ。……訂正して悲しくなってきた。でもでもそうやって気をつけてたから目撃回数が少なかったっていうのも事実だよ。きっと。

うん!話を戻すねっ。

私ほんとに後悔してるんだ。主に城谷先輩に話しかけてしまったことかな。それで風紀委員に入ることになって、しかも私が女の子たち相手に諜報部員?みたいなことをしなきゃいけなくなったしね。後悔しかないよね。
恋する女の子は強いんだよ。それなのにそんな女の子たち相手に一人で立ち向かえと?同じ風紀委員の人も言っちゃなんだけど頼りがいなさそうだし女の子いないし。……女の子いないし!これが一番辛いかもしれない。
やっぱりもう一人ぐらい苦楽を共にできる女の子が欲しいよ……。
なーんて一人膝を抱えながら人気のない場所で居たのを、いま、私は全力で後悔しています。


「藤宮くんってさ、いま付き合ってる子いないのー?」
「あなたに関係ないですよね」
「いないんだー!ね、ね?試しに私と付き合おうよ」


積極的にアピールする女の子と聞き覚えのある藤宮くんとの会話に頭を抱える。
また私は告白現場に居合わせてしまっているらしい。藤宮くん、人気なんだね。お願いだから私が絶対にいないだろう場所で告白を受けてほしいんだけどな。……結果的に覗き見してる私が言うのもなんですが。
せめてものの救いがこの前みたいに必死に想いを伝えようとする告白じゃなくて、うまくいけばラッキーみたいなノリの告白なこと。藤宮くんの愛想のなさに怒る様子もないし、まだ、心臓に悪すぎる感じじゃない。いまのうちにここを離れ──できないけど!砂利がありすぎます!お願いですから二人とも早く会話を終わらせてどこかへ行ってください!


「嫌ですよ。まさか大事な用事ってこれだけなんですか?はあ……」


うん。
別に女の子の敵だとか言うつもりないよ。本当に恋愛に興味ないんだったらそういう話でつつかれるのは迷惑かもしれないなって思うもん。
でもね、これだけは言いたい。前も用事があるーみたいな感じで誘い出されて2人きりになってたよね。きっと私が見てないだけで今までも告白されることあったよね?……なんで誘い出されることに関しては素直にほいほいついていくんですか。経験があるぶん、あーこれ告白の呼び出しだわー困るー、って予想がつくんじゃないのかな?告白されて嫌そうに対応するなら二人きりにならなかったらいいじゃん。
んんーよく分からないや。
分かるのはとりあえず私がここにいることを二人に知られたらヤバそうだなーってことぐらいだ。


「ちょっと藤宮くん待ってって!固く考えないでさー試しに付き合ってみよーよ」


お、お試し?!
信じられない言葉が聞こえて動揺する。最近じゃあ好きな人と付き合う前にお試し期間があるんだろうか。そ、そんなこと初めて知った。付き合ってください、よりもまずお試しに付き合ってみませんか?っていう事前予約が必要なのかな。

「はは」

流行に乗り遅れてる自覚はあったけど、まさかこんなに予想外なところまで進んでるなんて……。そ、そりゃ高校生になったしちょっとは思うところあるよ?好きな人と付き合ってみたいなーとかさ。まあ好きな人いなし、それよりも好きな人っていう存在が想像つかないけどさ。


「お試しってアッチのほうも先にしちゃっていいってこと?」


でも告白より前に付き合うこともあるなんて。
そ、その場合お試し期間ってどれぐらい?やっぱり本人の気持ち次第かなあ。それでそのあとに告白?……美加に聞いてみよう。


「やだー!藤宮くんってエッチー!……でも、いーよ」


……お願いだから、やめて、ください。

折角人が考えを紛らわせてるのに、話が終わるまで待ってるのに進めないでください。その場に止まらないでくださいっ。
なに高校ってこんな感じなの?進みすぎだよ!ああ、どんどん心がすれていく……。


「冗談を真に受けるなんて滑稽ですね。他の奴に相手してもらったらいいんじゃないですか?」
「なっ!さ、サイテー!」


…………うん。
もうなにも考えないでおこう。人は人だよね。うん。しかし藤宮くん性格捻じ曲がってやしないですかね?
砂利を踏む荒い足音とゆっくりとした足音が遠ざかっていく。ああ、長かったなあ……。ようやく訪れた静かな時間につい大きな溜め息一つ。なんだか凄く肩が凝ったような気がする。身体が緊張してたんだろう。今日は猫ちゃんっていう癒しもないし残念すぎるわ。


「あ、猫いた」
「チチチッチチチチチッチチ」
「──っ!」

は、は、波多くんっ!

思い切り叩きつける勢いで口を手で押さえて噴出しかけた笑い声をとどめる。
見れば遠くから少しだけ背を曲げて、相手を伺うように進んでる波多くんがいた。猫は私の目の前の塀の上に立っていて、じっと波多くんを凝視している。もう「チチチッ」って聞こえただけですぐに波多くんを連想しちゃうし、猫を見ただけで波多くんが出てくる。

ああ、あなた達は私の癒しだよ……。

波多くんは猫にしか眼がむいてなかったのか、進行方向近くにいる私に気がついていないらしい。それをいいことに死角に移動するんだけど、その間もずっと「チチチ」って聞こえてくる。
お腹がちっぎっれっる……っ!!
もうおかしくておかしくて何度も壁を叩いて必死に笑いを堪える。

どうなるんだろう?猫はまた前みたいに逃げちゃうんだろうか。

この前聞こえた切ない波多くんの声を思い出してまた壁を叩いてしま。駄目だ。完全に笑いのツボにはまった。
だけど。


「お、おお……も、もう怖くないのか?」


聞こえた声にそっと様子を伺ってみれば、少し背中を曲げた状態のまま硬直する波多くんの脚に体をこすりつける猫の姿が見えた。

や、やったね波多くん!ナンパ成功してる!

思わずガッツポーズをしてしまう。なんだろう。凄く感動した。
でも猫は気まぐれで、硬直が解けた波多くんが恐る恐る猫の背中を撫でようとした途端どこかに行ってしまった。たった一瞬。なぜかそれがスローモーションとなって目に映る。ゆっくり開く波多くんの口──可愛いおしりを見せる猫──揺れるしっぽ──からぶる手──悲しそうに下がる眉──がくっと力をなくしていく波多くんの足──そして響く切ない声。

「ああっ!」
「ブハッハッハッ!……あ」

去っていく猫に手を伸ばす波多くん。恋人に裏切られたかのように悲しそうな顔をしている波多くん。あんまりにもおかしくって、おかしくって、


堪えきれず笑ってしまった。


付け加えるなら、右手をお腹にあてて反り返りながら笑って、左手の人差し指を波多くんに向けて笑った。

「あ、あー。えっと」

波多くんは手を伸ばした状態で、でも顔だけ私のほうを向いて目を見開いていた。
あ、やばい。


「み」


尋常じゃないほどの緊張感に満ちた空間のなか、奇妙な格好で微動だにしない波多くんは低い声で「み」と言う。なにか喋ろうにも言葉が続かないんだろう。分かる。分かるけども!




「見て「あはははははははっ!ゲホッ!は、はははっははははは!!!」




あんまりにもおかしくてまた大爆笑してしまう。涙腺緩んで涙まで出てきた。いやだって「み」ってなにっ?泣き声!?あ、駄目駄目駄目。さっきの切ない声が頭に何度もリピートする──プッ!











「……ちょっと、話したいことがあるんだが」
「…………はい」


存分に笑い終わったあと、なんの感情も見えない無表情の波多くんを見て一気に血の気がひく。
もしかしなくとも私はまたやってしまったらしい。





 
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